大きな手
「おはようございます」
今朝はちょっと眠い。昨日、つい遅くまで、オセロをやっちゃった。アキラさんからやっと1勝出来たけど、サーシャさんにはやっぱり勝てない......
「ヒューイおはよう。行っていいわよ」
僕は母屋に走っていく。
僕が行く頃にはもう、母屋の煙突からは煙が上がって、台所は動き出していた。
「カエルさん、おはようございます」
「ん。おはよう。水汲んで」
馬小屋の掃除をしているカエルさんに合流だ。
この人が勇者って、最初びっくりした。変な物を背負って薪割りをしているんだ。ごはんの時も背負ったまま。
いやでも......ここの人、物、全部びっくりだったんだけど。
アキラさんに、ミナセに行こうと言われた時は、ただ嬉しかった。村では、いつもお腹が空いていたから、ついて行けば、ごはんが貰えると思ったんだ。
ここは、村とは全然違った。人がいっぱいいて、みんな忙しそうに働いていた。
僕も一生懸命お手伝いした。
と言っても、薪割りや水汲み位しかわからない。
だから、力いっぱい斧を振って薪割りしていたら、タケシさんが言うんだ。
「ボチボチでええで」
タケシさんはちょっと怖い。よくわかんないけど、いつも帽子を被って黒い服を着て、顔もちょっとね。目が会うとドキッとするんだ。
でもここで一番偉い人だって。その上勇者のカエルさんより強いって。
タケシさんは、一番偉い人なのに、よく馬車の下に潜っている。
僕が見ていると、いつも出てきて、工具の使い方や木の削り方を教えてくれる。そして宿題を出す。こないだはY字の木を削った。
上手くできると、頭をガジガジされる。大きな手で。
タケシさんにガジガジされるとちょっと嬉しくなって、僕はまた頑張る。
するとまた、タケシさんに言われるんだ。
「ボチボチやり」
でも僕は、そのボチボチがよくわかんないだよなー。
カツミさんはケンキューシツで何か作っている。覗くと手招きされて、試作中の味見をさせられるけど、正直僕にはよくわからない。
だってここの食べ物って、どれも美味しくて、ちゃんと味があるんだ。
村では水で煮た野菜ばかり。それだって、食べられればいい方だった。
お肉のいっぱい入ったカレーは、ちょっと辛いけど大好きだ。ここに来てよかったと、心から思った。
母屋の周りには色んなものがあって、僕の興味はあっちこっちに飛んでいく。
道を隔てると畑があって、そこには色んな野菜があって、お手伝いに行くと、おばさんが野菜を持たせてくれる。
持って帰ると、カツミさんが晩ごはんに出してくれる。
カエルさんも一緒に行くと、凄い速さで畑を耕すんだ。やっぱり勇者だ。
僕はカエルさんを、師匠と呼ぶことにした。
カエル師匠は、僕にハリセンと言う武器を持たせてくれた。
薪を相手に振り下ろすと、パーンといい音がした。
タケシさんが、僕用の小さいハリセンを作ってくれたので、僕は毎日素振りすることにした。
カエル師匠が、イアイヌキを伝授してくれたのだ。
腰から横にシュッと振る。風を切る音。
「エイッ」ぶん 「エイッ」 ぶん
「レオン、なんで横振り?」タケシさんの声。
「縦振りは出来てます。鍬と同じですから」
「体が小さいので、頭より下を狙う方が効くと思います」
「エイッ」ぶん 「エイッ」 ぶん
「そっか。ヒューイ、ボチボチやで。バテてるぞ」
「エイッ」ピューン
あ、ハリセン飛んでった。
お昼に工房食堂に連れて行ってもらえた。ここに来たら、僕はいつも迷ってしまう。
いっぱい人がいて、みんなワイワイごはんをたべている。
問題は、カレー、ラーメン、日替わり定食。どれにするか.......
カエル師匠はいつも2つ食べるけど、僕は無理。そんなに食べられないから.....今日はカレーにしよ。
隅では、おじさん達が集まってオセロをしている。早く食べて入れて貰おう。
「ターケシー。僕も入れてー」
あ、ルークさんだ。
ミナセの領主だって言ってたけど、何でここで食べてるの?
タケシさん達と、いつも仲良く喋っているけど、実は国王様の次男だそうだ。
時々母屋にも来る。娘のセリーヌちゃんが、とってもかわいい。ナターシャさんも、隣の国のお姫様だって言うけど、全然そんな感じなくって、時々僕に、セリーヌちゃんの子守をさせて、キックボードでピューンと行っちゃう。
ここにいると、みーんな家族みたいだ。
夜はアキラさんとサーシャさんがベンキョーを教えてくれる。
アキラさんがサンスウ。たし算とひき算ができるようになると、ソロバンの練習が追加になった。
パチパチするのが面白い。パチパチしていると答えが出てくるのが、もっと面白い。
サーシャさんは読み書き。読むのはすぐに覚えられたけど、書くのはちょっと苦手。きれいに書けないんだ。
サーシャさんは、本を読みなさいって。昨日のは、イドポンプニオケルシリンダーノ.....難しすぎて中身はさっぱりわからなかった。
タケシさんに、納屋の奥の鍛冶場に呼ばれた。
バルザさんが、週に一度、鍛冶を教えてくれることになった。
僕が、何で鍛冶?って顔をしたのがバレた。
「ヒューイ。お前はな。何でも色んなこと覚えろ。いっぱい見て、いっぱい聞いてな。
鍛冶だってな、お前も鍬やら斧やら使うやろ。知っといて損はない。壊れたら直せるくらいにはなっとけ。
お前の頭に入ったもんは、みーんなお前の財産になるんや。
ここにあるもん、全部持っていけばええ。俺らが全部教えたる」
「全部?」
「そうや。お前のこの頭の中に、いっぱい詰め込んだるわ。
まぁ、ボチボチでええけどな」
そう言うとタケシさんは、僕の頭をガシガシして笑った。
そうか......僕は、ここで覚えた事を、村に持って帰るんだ。
村は今、別の場所でみんなで、畑を広げてるって、カツミさんが言ってた。
もう、ひもじい人もいないって。
それでもきっと、こんなに何でもあるわけじゃない。
ボチボチなんて出来ないよ。だってここには、面白いことがいっぱいあるんだもの。
だからーー
僕が、村で、教える人になる。
僕が、ガシガシする。




