重なる街
母屋の前に1台の馬車が止まった。青い幌、ポンプ隊の馬車だ。
納屋で馬車を触っていたタケシのところに隊員が駆けてきた。
「タケシさん、大変です.....」
疲れた顔で隊員がつなぐ。
「サラディア領にポンプつけに行ったら、街がめちゃくちゃで........」
後ろからもう1人の隊員。
「もう1組と商会は、向こうで救援してます。僕ら、とにかく急いで知らせよと思って、交代で夜がけして帰ってきたんです」
「どんな状態やったんや」
「城.....崩れてました。街も焼けてて......」
タケシが少し目を伏せる。
そしてすぐに顔を上げた。
「わかった。疲れたやろ。母屋でちょっと休み」
クルリと振り返った。
「レオン。レオン」
「はい、師匠」
「アキラ呼んでこい」
「あ。来ましたよ」
アキラがやって来た。
「青馬車見えたから....あれ?戻ったの?何で?」
隊員がアキラに説明している間にも、タケシは指示を出す。
「レオン、街に行って薬屋と生地屋。傷薬と腹の薬。布は何でもええ安いので。門のとこに置いとくように言うといて。んでルーク呼んでこい」
「分かりました」
「馬で行け」
「はい」ダッシュするレオン。
「タケシさん、どうするんです?」アキラが聞くと
「行く」とタケシが言った。
「アキラ、黒馬車を工房に回して。カツミおるから、ノマド積んで、あとスポンジとかな」
「僕も行きます」
「いや、お前はおって。こっちの事見てくれ。レオン連れて行く」
「でも」
「あんなアキラ、何もなしで行ってもあかん。俺が先に行って様子確認するから。でな、職人集めて、大工の経験あるやつ。研修中のやつでもええ。で、ペータのお父ちゃんのとこに言うて、建材出してもろて。後で来させてくれ」
アキラがふぅっと息をつく。
「わかった。じゃあ黒馬車に積み込んでくる」
「おぉ。頼むな」
ヒューイが心配そうな目でタケシのところに来た。
「ヒューイ、ちょっと俺、留守するけど、ちゃんとみんなの言う事聞くんやで」
「はい」
「あの兄ちゃんら、母屋で休ませたって。何か食うもんあるやろ」隊員を見る。
「はい」
ヒューイは隊員を連れて、母屋に入っていった。
タケシが青馬車を見ると、積み荷が全て降ろしてあった。
「余程急いだか......」
「タケシ、どうしたの」ルークが馬から降りる。
「サラディア領がな.......」
ルークは一瞬だけ眉を寄せて、すぐに顔を上げた。
「父に連絡する」
それだけ言って、家に戻った。
アキラとカツミも黒馬車で帰ってきた。
「タケシ、私も行こか」
「いや、ノマド増産しといて。たぶんいる」
「それはもう段取りしたよ」
「そうや。スサノー様に頼んで、力のある冒険者、回してもらえんか聞いてくれ」
「わかった。じゃあ必要になりそうな物準備しとく」
「うん。こっちの事は頼むな」
「タケシおらんでも大丈夫」
「そーか。レオン、行くぞ」
「はい師匠」
「お前後ろで寝とけ。交代しながら行くぞ」
「分かりました」
タケシは見ていた地図を丸めた。
「カースケ!」
「カー」
「すまん。ナビして」
「カ」
サラディア領までは、普通馬車で4日。急いでも2日はかかるだろう......
手綱を持つ手に力が入る。でも馬が.....これ以上無理させられない.....
「タケシさん、交代しましょう」
「あぁ。ちょっと休むか」
馬に水をやり、飼い葉を食わせて、自分達もパンをかじる。
パンをつつくカースケを、タケシが撫でた。
辺りは暗くなってきた。ランプに小さな火を入れる。
御者台に置くと、タケシはその後に丸い金属板を置いた。
ふんわりとした光が前を照らす。
「まさかこんなとこで使うとはな」
「タケシさん、それは?」
「試作中のライト。ちょっとは前見えるやろ」
「はい」
レオンが空を見上げる。
低い空に半分かけた月が出ていた。
「さぁ行こか」「カ」
タケシは荷台に潜り込む。
「ハッ」レオンが手綱を振った。
「あれ......か」
タケシが馬車を止めるとレオンが荷台から顔を出した。
鮮やかに青い馬車が、小さくみえる。
だが、隔てるものもないその周囲は、黒く沈んでいた。
レオンが御者台に移って、手綱を変わる。
ゆっくりと近づいていった。
少しづつ見えてきた。
焼け焦げた街。石造りの建物だけが、わずかに残って、かえって異様に映る。
「これは......」
タケシの目が遠くを映す。
焼け残った柱。
崩れた壁。
色を失った街。
鼓動が速くなる......
ーーこれは、俺の.......
「長田や」




