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湧いてきた神

川べりの壊れた馬車の周りに、板切れやボロ布で囲って、昼から酒を呑んでいる男達。

少し離れてポツンと座っている薄汚れた老人は全く動こうともしない。

「あれはね、貧乏神だよ」クニオの声だ。

「神なんですか?」振り向いたルークに、クニオが頷いた。

「でもねー、僕たちとはちょっと違うんだよなー。なんていうか......湧いてきちゃう?こういう澱んだところに」

「湧くんですか?」

「そうなんだ。で、憑く。ああ言うタイプの人間に。もうあそこにいる人は多分、あのまんま」

「何処かに行ってもらえないかな」

「澱みが無くなれば消えるだろうけど、こういうとこって簡単になくならないよね」

「そうなんです。色々やってはいるんですが」

「ルークが頑張ってるから、この程度で済んでるんだよ。みんなそう言ってる」

「みんな?」

「僕たちはいつも見ているよ」

「ありがとうございます」

「貧乏神自体は悪さはしない。でもこの状態が広がると増える。根気よく抑えて行くしかないかな」

「そうですか。うん。分かりました。広げないように、やってみます」

結局止めるだけかぁ......

「タケシによろしくね。最近会ってないんだー」

「あ、トーフ。出来てましたよ」

「そっか。じゃあ突撃しよ」

「多分金曜日」

「オッケー」


そして次の金曜日。

「なんでばれるねん」

「だってー。神だもん」

「はぁ?」

「ねえー。冷や奴がいいー」

コンドウ家の晩ごはんに、ちゃっかり座っているクニオ。

「なんで教えてくんないの?」

「いや.....めっちゃ手間かかるんや、これ」

「でもお豆腐くらいさー」

「いや、豆腐よりニガリな」

「は?」

「それに海塩が輸入品やからめっちゃ高い。手間とコスト。どう考えても市販できるレベルにはならへんねん」

「でー、自分達だけで楽しんでたわけ」

「悪いか!」


そこへーー

「じいじー。トーフー」

セリーヌの後ろから小鍋を持ったルークとナターシャ。

「なんでやねん.....」

「あ、クニオさん、やっぱ来てたの」

「やっぱって。.....お前かー」

「こないださー。あ、セリたん、ばあばにおトーフ貰ったら、ママと先に帰っててね」

「はーい。ばあば、おトーフー」

「でね、こないだいたんだよね」と、ルークが乗り出す。

「何が?」

「カツミさーん、冷や奴まだー?」

「貧乏神」と言うと、ルークがうずくまってその老人の真似をした。

「はぁ?」

「ねぇ、クニオさん」

「うん。いたねー。湧いて出た。やっほー。いただきまーす」

「じゃあ先に帰るね」ナターシャが小鍋を持って、セリーヌの手を引いて帰って行った。

「川べりのさ、あそこに座ってさ、じーっと動かないんだよぉー」

「うっそ。大丈夫なんか?」

タケシが顔をしかめる。

「貧乏神はなにもしないよ、じーっとしてるだけ。普通は害はない。美味しー。塩かけるのいいねー」

「普通ってなんやねん」

「ルークが見えた。たぶんタケシにも見える。でもあそこにいるヤツらにはもう見えてない。貧乏が平気になっちゃうと、見えない」

「で、どうなる?」

「どうにもなんないよ。そういう所に貧乏神が来るんだ、居心地いいから」

「アイツら働く気なんてないもんねー」

「そう、見えなくしたのは自分なんだよ。誰だって見えたら避けるでしょ。だからああなるとさ、もう抜け出せない」

「消えてくんないかな」

「んー。澱みが薄まったらなぁ。でも濃くなったらまた来ると思う。

あー。美味しかったぁ。ごちそうさまー。じゃぁねー」

クニオは帰って行った。


「あそこさ、いたちごっこなんだよ。街で何かやらかしてとっ捕まえても、また別のやつが来るんだ」

「んー。まあ、あないなったらもう普通の仕事には就けんな」

「うん。色々やってみた。職員も巡回して声掛けもしてる。日雇い仕事も作ったけど、ダメだった」

「いっそ焼いてまえ」

ルークの目が点になる。

「タケシ、それじゃまた何処かに場所変えるだけじゃん」

「だよなー」

「もうこれ以上増やさないようにするだけなんだけどね」

「そやなぁ」

「でもあの貧乏神はさー。なんか不気味でちょっと怖いよ」

「今あそこ何人ぐらいおるんや」

「はっきりとはわかんないけど、職員の話なら15人位?」

「そないおるんか」

「小屋の中に隠れてるらしい」

「てことは、それくらいになったら貧乏神が湧くんや」

「.......小さな村。だよね」

「あぁ。貧乏神なぁ。限界点かもな」


カツミが台所から顔を出した。

「ねぇ、貧乏神ってさー。確か焼き味噌おにぎりが好きとか。なんか聞いたことあるよ」

「マジか」

「わかんないけど」

「やってみる?」

「味噌、どう?」

「ちょい早いけど」

「いつくらい?」

「ここ暖かいからね。あと一月位寝かせれば行けるかも」

「じゃあ来月」

ルークは、川べりに座って動かない老人を思い、薄いため息をつく。

「おもろなってきた」

タケシがニヤッと笑った。





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