表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/28

領主の見回り

タケシの家の裏山、散歩道を通った奥に、ルークの家がある。

領主の屋敷と言うにはあまりにも小さい家だ。横の迎賓館の方が余程デカいのだが、それでもルークは満足している。

「ねえルーク、あなた子供の頃は魔法使ってたわよね」

「うん。でも、もう使わないと決めたんだ」

ナターシャは親交の厚い隣国の姫。子供の頃からよく行き来し、遊んでいた幼馴染だ。

ルークは10才頃に魔法の片鱗を見せ、13には小さな水魔法や火魔法を扱えるようになっていた。だが喜ぶ貴族の横で、頭を撫でてくれる父国王カイルの顔の笑みは薄かった。

その意味が分かったのは15の成人の儀が済んでから。

貴族の間で、次期国王は、長男より次男ルークに。と言う声が上がり始めたのだ。

1才上の兄ケインとは、仲もよく、剣の稽古も一緒にやった。剣術はケインが1枚上で、勝てたことはなかったが。

そしてルークは16の時、父に全国行脚を願い出て、城を出た。2年旅をして国中を見て回り、城に戻ると父からミナセ行きを命じられた。

「ルーク。ミナセはこの先、重要な拠点になる。お前が行ってここと繋げなさい」

一文官として研究員のサーシャと2人で赴任したミナセは、神の住む街だ。

そしてーータケシたちの技術力と発想は驚きの連続だった。


タケシの家に住み込んで一緒に暮らすうち、色んなことが分かってきた。

彼らが、違う世界から来た転移者であること。ミナセの神も、その世界から来ていること。

そしてその世界は、どうやらとても文明の進んだところであること。

同部屋で寝起きするアキラとは年も近く、仲良くなっていろんな話をした。その中で出た防災都市構想は、ルークたちの世界では考えられないことだった。

魔法も魔石も使わずに、この人達はそんなことまで考えられるーー

そしてルークは、ミナセの拝領を父カイルに願い出て、ナターシャを娶り、ミナセ領主となったのだ。

娘セリーヌも生まれた。

だがルークはタケシたちの近くから離れる気はない。

「だってさ、面白いんだもん」

「ほんと。わたくしも、あのキックボードにはハマってしまいましたわ」

「あ。でもナターシャ。セリーヌをおんぶして乗るのはやめてよね。危ないから」

「あら。見られちゃった?」

「頼むよ。マジで」



「セリーヌ、パパ行ってくるねー」

「ルーク、忘れてるわよ」

ナターシャが短剣を手渡した。

「ちゃんと持って出て下さい。ぱっと見は領主に見えないんですもの」

「そうだね。すまない」

ルークは腰の後ろに刺すと、ふわりと上着を羽織った。

「いってらっちゃー」

ナターシャとセリーヌが手を振っている。


ミナセ領主ルークは、1人馬で家を出た。護衛はつけない。領民とはずっと身近に話してきた。

だが人が増え、領主の顔も知らない者もいる。

ミナセでは魔法は使いたくない。それでナターシャがせめて剣を。と言ったのだ。剣技もそれなりに自信はある。仕方なく短剣を忍ばせておくことにした。


役所に向かう。

やっと領内の大きな道は、舗装が終わった。今は水路の計画を進めている。


タケシのところへ来た時は、これほど急激に街が大きくなるとは思っていなかったが、一緒に仕事をするうちに、ただ事ではないと感じた。

領主となり、それまで神に守られるままだった小さな街に、すぐに役所を作り、住民登録を義務付け、住民の自治も後押しした。

外から来たものには、商業ギルドと連携を取り、仕事を斡旋する仕組みを作って利用を促し、公共工事にもつかせた。冒険者にも街の護衛や見回りの仕事を増やし、あぶれる者の無いように、気を配った。

それでも.......

「いるんだよなー。どうしたもんだろ」

と、独り言。


役所に着くと、流入者カウンターに、今日も数組が並んでいる。定住希望か短期か。出身地や目的、希望職種。係員の聞き取り中だ。


書類仕事を片付けて、街に出ると、賑やかな噴水広場が見える。露天が立ち並ぶ、一番活気のある場所だ。

屋台でカレーを食べている男がヒョイと手を挙げた。クニオ。神様の一人。手を振り返す。ありがたい。いつもさりげなく街に溶け込んでくれている。

お昼は.....今日は串焼きにしようかな。

ゆっくりと人の波を見た。今は、神を知らない住民も増えた。

それでもここは、神の住む街なのだ。




どんな都市にもある。王都にだって。

排除できないことは分かっているが、それでも......

川べりの、壊れた馬車の周りを板切れやボロ布で囲って、昼から酒を呑んでいる。

夜になると女が立ち、男は街で獲物を探す。

栄えた裏に必ずできるそれは、わずかづつだが膨らんでくる。


「ルーク、どうした?」

「ん?ちょっとね」

コンドウ商会の食堂。週に半分はここでランチタイムだ。

「タケシ、知ってるでしょ、あの川べりの奴ら」

「あぁ、どうしようもない奴っているもんだ」

タケシがズルズルラーメンをすする。

「職員も巡回させて、小仕事斡旋してるんだけど」

「無理だろ。ああいう輩は」

ズズッ

「でもなー。犯罪起こすんだよね。あ、今日のカレー魚だー♪」

「そりゃ盗むしかないもんな」

「とっ捕まえて強制労働に回しても、また別のやつ来るし」

「領主がそこまで気にするか、普通」

「だって気になるじゃん」

「まあそれがルークやけど。あんまり近寄るなよ」

「うん。わかってる」





「そう言われてもー。やっぱなー」川べり。少し離れて馬を止めた。

数人の男がたむろしている。

その中に、一人の老人がいた。

いや、少し離れてポツンと座っている。

「ん?あんなのいたっけ?」

ルークが呟いた。

フッと背中に風。振り向くとクニオが立っていた。

「あー。来ちゃったねぇ」

「え?」

「あれさー。貧乏神だわ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ