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鍬とハリセン

グレイス領。

森に囲まれ、青々とした畑の広がる美しい町が、今、危機に瀕していた。

その小さな城の一室で、若い領主セルディオはゆっくりと顔をあげた。

「私は何から....」

「セルディオ様。何もかも自分で、と思わないことです」ビアントが静かに言った。

「城の役人を、もっとお使いなさい」

「そ、そうですね」

「商会だってね、私一人が全てを決める訳じゃない。作業実務はベルディがみています。まぁ時には喧嘩にもなりますがね。そうやって進めています」

「まとめ役.....ですか」

「そうです。誰かが全体を見る位置にいて、意見を吸い上げて決定する。案外難しいですよ。自分で動くほうが楽です。でも、セルディオ様はもうその段階に来ているんです」

「セルディオ様。明日、私と町に出ましょう」とレオンが言った。

「どこに何が必要か、よく見ましょう」

「そうですね。私、目を背けていました。もう一度よく見て。......新しい村、作ります」

「セルディオ様。タケシが何故この領に出店したか、お分かりですか?」

「ここが....貧しかったから.....」

「いいえ。違います。商売をするなら、もっと栄えたところでやる方が確実なんです。ここを選んだのは、このグレイス領と貴方に、可能性を見たからです。未完成だからこそ、どんなカタチにも生まれ変われるんです。急激な発展は、痛みも伴うものです。それを乗り越えると大きくなれます。ここはまだ、領民達の熱も、消えてはいませんよ」

「はい.......私が逃げてはいけませんね。一緒に畑を耕して来ました。私、鍬を手放すところでした」



翌朝、レオンはベルディの工房に来ていた。

「これを....作ってくれまいか」

「ん?カメスラシートだなー。よっしゃ待っとれ。直ぐできるで」


レオンはセルディオのところへ。

「おはようございます。よろしいですか」

「あぁレオンさん。もう出ますか」

「いえ、その前に、これを」

ベルディの作ったものを渡した。

「これは......」

「コンドウ流イチの剣。カメセンです。こうやります」

腰のハリセンを抜くと手近なテーブルに向って、パーン!

「やってみなさい」

セルディオが鞘から抜くと、ハリセンがはらりと開く。テーブルに向って振り下ろす。

パシュン

「もっと腰を入れて」

パチン

んー。レオンが少し考えた。

「セルディオ様。鍬を下ろす時のように振りなさい」

「フンッ!」パーン!

「もう一度」パーン!

「もう一度!」パーン!

「いいでしょう。さ、畳みましょう」


町に出る。セルディオ、レオン。後ろに役人が一人。

町は今日も賑わっている。露天の呼び声が聞こえる。

大通りを歩いていると、一人の男が露天商と揉めていた。

「おいおい、どうしてくれるんだ?あぁ?」

「そ、そんな。言いがかりです」

「ん?文句あるのか?」チラリと剣を抜いて見せた。

その時、後ろからセルディオがーー

パーーン!思い切りハリセンで、露天台を叩いた。

大きな音に、驚いて固まる男。

音を聞きつけて、向こうからガルード達冒険者が3人走ってきた。

「どうしたどうしたー自衛団だぁー」

「あ、ガルードさん、恐喝です。捕らえて下さい。強制労働させますので」と、セルディオ。

逃げかけた男がレオンの足払いで倒れた。

「はい!」すぐさま取り押さえて縄をかけ連行。

「セルディオ様。ありがとうございます」

「いいんだよ。あ、そのパン、ちょっと貰おうかな。おい、支払い」

役人が金を払うと、セルディオはパンを持って、裏通りに入っていった。


役人が先導する。

「この辺りが.....」

家とも言えないツギハギの小屋が並んでいた。

その前に汚れた子供が座っている。

セルディオは一人でその子供に近づいていく。

見上げた子供の目が怯えに揺れる。その側にしゃがむと、パンを一つ持たせて声を掛けた。

パンをかじりながら、子供が家に入っていく。やがて、親らしい男が出てきた。

セルディオが男に話をしている。そして.......男が数度、頷いた。

セルディオは、パンの袋を男に持たすと戻ってきた。

「やはり元は農民のようです。移住の準備にかかりましょう。直ぐに手配してくれ」

「はい。今朝お話の場所でよろしいですか」

「あそこなら古井戸があったはずだ。先に整備な」

「では直ぐにかかります」


「なぁレオン、あの捕まえた奴。今ギルドで縛ってあるんだが」

「強制労働で1カ月程絞って、あとは領外に放り出せばいい。噂が回れば来なくなるさ」

「そうだな。じゃあボロ馬車でも使って....見張りつけて」

「あぁ。荒れた所の開墾な。場所はセルディオ様が決めてくれるだろう」

「あぁ。後は、まぁ俺らももうちょっと言いたいこと言うわ。ミナセみたいな自衛団も作りたいしな」

「パチンコと胡椒玉は必須だ」

「そのハリセンもいいよなー」

「好きにしろ」


その後3日程グレイス領に留まって、レオンはミナセに戻っていった。

町のハズレには、小さな小屋が建っていた。




「タケシ師匠、只今帰りました」

「あーご苦労さん、どうやった?」

「セルディオ様とビアントさんから、お手紙を預かって来ました」手紙を差し出すレオン。

開いて読み始めるタケシ。

「それで師匠、私」

「ん?」

「申し訳ありません」

「は?」

「師匠に無断で......奥義を伝授してしまいました」

「オウギ?」

「あの.....ハリセンを、セルディオ様に」

大笑いするタケシ。

「まぁよかろう。今回は。ガッハッハー」


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