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勇者の定期便

「ちょいレオン、お前今度のグレイス行き、護衛についていって」

「は?」

「定期便の護衛、ギルドが大物討伐で出られんて。行ってこい」

「わ、私一人ですか」

「商会の馬車。んでグレイスの様子見てきて。こっちみんな増産で忙しいしな。頼むで隊長」

「はっ。承知しました」

「ほな明後日出発な。馬車は2台。資材1台と食品系1台。一応保冷箱に納豆と食料もな」

「……納豆もですか」

「向こうにもあるけど途中で食えるしな。スライムのエサやり忘れんなよ」 タケシが帳簿をめくりながら言う。

レオンは小さく息を吐いた。 討伐依頼でも魔物相手でもない。 商会馬車の護衛。 だがーー

「……隊長、ですか」

「お前なら安心や。前にも行ってるし」

「あと商会員の指示はちゃんと聞けよ」

「それは当然です」

「タケシさん」

「お、アキラ、これグレイス行きのリスト。資材車な」

「はいはい。あれ?カエル。どうしたん」

「今度、定期便護衛です」 「あー。隊長任務っすね」

「隊長任務……」

アキラはニヤニヤしながら肩を叩く。

「いやー。ついにデビューっすか」

「ともかく無事に便届けて。んで俺らの代わりに町の様子見てこい」

「はい」

返事をしたレオンの顔は、少しだけ引き締まっていた。



街道は、何事もなく行き過ぎた。

「いやぁー、レオンさんの必殺奥義見れんで残念やった」

「コンドウ流です」

「それ何ぶら下げてますの?」レオンの首から小さな袋。

「コンドウ流必須アイテム」

「??」



グレイス支店について、荷下ろしを始める。

レオンは周辺に気を巡らせていた。

ーー前の時とは.....ずいぶん違う。嫌な気配が......

開店時。タケシと来た時には、小さな町が明るい活気に溢れていた。あれから半年。確かに活気があるのだが、人が......すごく増えている。前になかった建物も増えて、見通しの良かった町が、ごちゃごちゃしていた。

「あー。レオン君が来てくれたんだね」支店長のビアントだ。

「はい。あの。ビアントさん。ずいぶん変わりましたね」

「あぁ」ビアントの顔が曇った。

「急に人が増えて、セルディオ様が制御できなくなってるんだ。私達も何とかならんかと気にはなっているんだがな」

「そう....ですか」

通りのずっと向こうで、子供が逃げている。追いかける男。

レオンが動こうとすると

「レオン君。いい。あんなことしょっちゅうだ。裏に行くと、ならず者やら難民やら。ギルドも上手く機能出来てない」

「でも」

「私達が手を出すことじゃないんだ。ここはグレイス領。領主のセルディオ様がすべきことなんだよ」

「........」


そうか.......今は隊長なんだ......迂闊に動けない。商会の名が出てしまうのは良くないんだ.....

レオンは町を歩きながら考える。

裏路地。擦り切れた服を着た子がうずくまっている。

建物の奥から男の怒鳴り声。女の泣き声......

酒の瓶が転がり、すえた臭いがした。

自然と、レオンの足は冒険者ギルドに向かっていた。



ギィー。

ギルドのドアを開けると、一斉に視線が向く。

ーー何やあいつ。冒険者か?

何か変なもん持っとるな。

あれ?どっかで見た顔やぞ....

いかにもガラの悪そうな奴が、ジロリと睨んでくる。

レオンは真っすぐカウンターへ。

「あの。ガルードさんは」

「ギルド長は.....あの、面会のお約束は?」と、受付のお姉さん。

「レオンが来たと言ってくれ」

ーーおい、やっぱりそうや、勇者レオンや。

でも剣持ってないぞ。

ガルードが慌てて出てきた。

「あぁレオン、よく来たな。こっちに」

奥の部屋で向かい合う。

「どういうことだ」

「あー。ちょっとな。流れ者がな......急に増えてきて」

「前は抑えられてただろう」

「ああ、もうあの頃の倍、いやそれ以上かな、抑えられん」

「それを何とかするのがガルードの仕事ではないのか」

「わかっちゃいるが.....なめられてるんだよ。領主が若いから」

「......」

「やっぱり無理だよ。あれじゃ」

「いや。違う」

「え?」

「ミナセの領主も若い。ギルドが、スサノー様がしっかり抑えていたんだ。あそこも同じだ。外からの者が増えたんだ」

「いや、ミナセとは違うだろ」

「やるべきことは同じだろう。領主を守るのもギルドの勤めではないのか」

「.......」

「信頼できるものを集めて、自衛団を組織する」

「......」

「巡回強化。不穏分子はあぶり出して制裁」

「わかった。ミナセのやり方を取り入れるんだな」

「あとは.....これ」胸の袋を差し出すレオン。

「何や?」

「胡椒玉」

「うっそ。俺らそんなん使うんか」

「コンドウ流奥義だ」

「あー。お前これでやられたんやったな、タケシさんに」

「師匠に出会えて良かった」

「そっか。勇者やもんな」


部屋を出ると、ニヤニヤ笑いながら近づく男。

構わず出口に向かうレオン。「おい。勇者さんよぉ、あんた剣も持たずに何しに来たんだぁ?」

ゆっくりと振り向くレオンに、その男はさらに笑いかける。

「へへっ。剣、貸したろか」大剣をドンと床に突き立てた。

レオンはゆっくり息を吐くと、腰のけん玉に手を掛けた。

ピシュっ。カツーン......シュパッ。

けん玉が腰に戻った時、男の剣がポキリと折れた。

レオンはそのままギルドを後にした。


一旦商会に戻った。

「ビアントさん、よければ一緒に。セルディオ様にお会いしたいです」

「あぁ。いいですよ。行きましょうか」

「あ、胡椒玉あります?」

「ああ。布袋のですけど」

「後でいただきます」

「?」



「すみません。僕がちゃんとできないばかりに.....」

うなだれるセルディオ。すっかり自信をなくしている。

「セルディオ様、先ほどギルドに行ってまいりました」

「ギルドも一生懸命やってくれているのですが......」

「いえ。まだまだです。ガルードには指示しておきました」

「はぁ」

「それで、難民とかが流れて来ていると」

「はい。数も多くて。職につけないものが裏にたむろしてしまって」

「農地の開拓をさせるのはどうでしょう」

「開拓ですか?」

「はい。豆の増産するんですよね。荒地を開拓させて、そこで豆づくりと、井戸を使ったスライムの養殖をさせるんです」

「はぁ」

「家と食べ物を与えれば、やると思います」

「それ、いいですな。商会もスライムをそこから仕入れてもいいですし。すごいねレオン君。そんなこと考えたんだ」

「いえ。これはカツミさんがディオラム領でやったんですが」

「村を新しく作るということですか」

「そうです。あ、ギルドが捕まえた奴に強制労働させるのもいいですね」

「できるでしょうか、私に」

「セルディオ様。出来るできないではありません。するんです。領民のためです」

「セルディオ様。商会としても、このままでは撤退も考えねばなりません。実際どろぼうの被害も増えているんです。今ならまだ何とかなります。私共も協力しますので、やってみましょう」

「そう....ですね。私、この頃は町に出るのも嫌で。目が.....気になってしまって」

「もっと堂々となさってください。貴方が領主です。誰もここでは逆らえません」





「ねえタケシさん。ギルドの討伐っていつ?」

「あ?あれ嘘」

「え?」

「ビアントから手紙きててん。そいで、レオンに行かせた」




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