箱とパカパカ
コンドウ家の座敷。タケシが四つんばいで、グルグル歩いている。背中にはルークの娘のセリーヌが、キャッキャと喜んでいる。
「セリたん、ちゃんと捕まってー。パカパカ」
「じいじー、キャハハ」
「ルークお前、ちょい変われや」
「いいじゃん、セリたんじいじ大好きなんだもん」
「クッソー。はいパカパカ」
「タケシさん、僕変わりましょ。セリたん、ちっこいお馬さんだよ、ヒヒーン」ヒューイが横に四つんばいになると、セリーヌはヒューイの背に移った。
「さすがにヒューイ君、慣れてるね」
「あぁ、子守してたんやろな。扱いが危なげないわ」
「カツミさん、いつ帰ってくるの?」
「んー明後日くらいの予定やな」
「父から手紙来てさ」
「えっ!」
「保冷箱見つかっちゃったね」
「あー。ディオラムから王都に野菜買い付けに行ったからか」
「他にもあるんじゃないかって気にしててさ」
「ん?納豆とボンド.....」
「また来るって」
「えー!」
「さてと。みんな集まったな。ほな定例会議始めるで。まずカツミの報告から」
「はいはい」
カツミはディオラム領での活動を報告した。
「後ね、セルディオさん、うちに定期的に買い付けに来るって。次回リストがこれ」
「やっぱ商売人っすね」
「ふーん。保冷箱に納豆製造機にパッケージ、キックボードに.....これ商会が持ってるもんほとんどやんか。あ。けん玉も」
「向こうで売るって。値下げしろって言うから、無理って言うといたんやけど」
「ええよそれで。実際、行商の奴らはそれで利益乗せて売ってるんやし」
「数は一応な。足らんかってもええって。うちらかてそういっぺんに増産できんもんな」
「はいはい。ほなみんなこれ見て、自分とこの分チェック。ほんで増産計画立てて」
「はーい」みんなで文書を回し読みしてメモっていく。
「町の分は俺が明日頼んでくるわ」
「納豆とスライム関係は、村に工房作って、ゆくゆくは村の人の副収入にするって」
「そっか。ちょっとは足元見出したか」
「でな、ミナセのアンテナショップみたいな感じに店作るってさ」
「アンテナ?」
「あー。ここのもん集めた店な。ミナセって言うだけで興味持つのもおるし。うまいな」
「やっぱ商売人」
「ハハハ。食われんようにがんばろ」
「タケシさん、こんな感じです」サーシャが出してきたのは薄い金属板。何やらくっついている。
「あ、出来た?」
「何ですか?これ」
「ボンド作ってる時になー。あったらええなーって思て」
ペリッっと剥がした。
「シール。これで部品の整理楽になる」
「あー。よう似た形多いですな」
「うん。番号振って、これ貼る」
「あ、うちとこも使える」
「そやろ。テープは無理そうやったけど、これならできるかなって」
「あ、そや。ディオラムでこんなん見つけてん」
「何?」カツミが包みを出して広げた。
「海水塩」
「塩やん」
「ここ岩塩しかなかったからできんかったけど、出来るかも」
「何が?」
「豆腐」
「マジか」
「トーフ?」
「出来てからのお楽しみや」
「またですか」
「そそ」
「僕豆腐の味噌汁食いたいなー」
「ミソシル?」
「あ、カツミさん.....僕ちょい思い当たるかも。藁まだありますよね」
「うん。あるある」
そう言うと、2人は台所に行ってしまった。
「んー。ほっとこか。ほな今日はこれで終わり。おつかれさん」
カツミの研究室。
元々タケシが1人で住んでいた小屋は、カツミ用のスパイス工房となり、好き勝手に増改築された結果、納豆までここから生まれていた。
「ほんでこれ、どないすんの」
タケシが、交易品の海水塩をつまむ。
「海水塩ってミネラル多いんすよ。だから精製し直したら、にがり取れると思うんす」
アキラが答える。
「うん。ここの塩、精製しきれてない感じするし」
カツミは塩をひとつまみ舐めた。
「……うん。やっぱ」
「どれどれ……あ、苦味あるっす」
「てことはー。溶かして煮る」
「なるほど」
「ほな、やろかー」
後ろでは、レオンとヒューイが並んで眺めていた。
「何になるんです? すごく楽しそうですけど」
「分からないけど......きっと旨いものに違いない」
火を起こし、水に溶かした塩をタケシがゆっくり混ぜる。
「アキラ、これどう思う?」
「んー、まだですね。もっと白っぽい、カビみたいなんに」
「そうよねー。納豆試した時も、白いのに覆われたことあってさ。捨てちゃったんよね。多分あんな感じよね」
「かもしれないっす。まぁ僕もよく分かってないですけど」
2人は藁に包まれたものを見ながら、首をひねっている。
「あっちは何してるんでしょう」
「旨いもの作ってる」
数日後のコンドウ家。
座敷に座っているのは国王カイル。やっぱり護衛はリゥトスだ。
「ルークもちゃんと情報は流してくれ」
「だってー」
「いや。保冷箱は納豆の保管用に作ったやつを、でかくしただけで」
「そのナットーっていうのは何だ」
「もー。今カツミが用意してる」
「まったく。ディオラムから来たというから驚いたわ」
「あんなもん、スライムおったら誰でも作れる」
「え?そうなの?」
タケシは紙を取って、図を描いた。
「ここにスライム。これエサは何でもええんよ、ほんでうちはゴミ箱代わりにしてたんやけどな」
「うん」
「こっちはこのスライムの冷気を逃さんようにしてるだけ。うちはスポンジあるから使ってるけど、別に....そやなー、綿とかわらとか」
「うん」
「箱の内側もうちはカメスラコートやけど、王都やったら蝋引きあるやん。俺売ったやろ、ノマドの箱の」
「うん」
「あれ使こたらええやん」
「ほっほー」
「ちいとは自分らで考えや」
「うっ」
「はーい。納豆ですー」
「これは......」
「こうやって食べるんや」
タケシがグリグリと混ぜ、ご飯にかけるとかき込んだ。
真似するカイルとリゥトス。
「すごい匂いだ」
「腐ってないか?」
「文句言わんと食え」
「ん?」
「んん??」
「ではそのナットーの機械は頼む。箱はうちで作らせる」
「あぁそないして」
「機械、買い取りになります」
「買い取り?」
「ミナセはリース契約。保守交換付きで貸し出しやけど、遠いからそれは無理やで」
「壊れたら?」
「持ってこい」
「えー」
「しゃあないやん。馬車工房はこれは修理せん」
「では工房を」
「アホか、そんなもんのためだけに工房作れるかい」
「クソー」
「じいじーパカパカー」
縁側でヒューイと遊んでいたセリーヌが、タケシのところで服を掴んだ。
「おぉ。セリーヌ、じいじはこっちだよ」とカイル。
「いやぁーじいじがいいー」
「タケシお前......セリーヌまでも......」
「パカパカー」




