表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/28

再生の靴音

「タケシさん。子供と老人だけではこれが限界ですね」

クマ村長が言った。

小さな家の前の畑には作物が実っていた。だがそれもほんのわずか。水が枯れてしなっている。

「自分らの分だけは作ってたんやろな」

「あの子、水汲みしてたんでしょう」

「そやな」

横で、何も言えず立ちすくんでいるアルベルク。

「よっしゃ。市中に行って荷下ろしや。話はその後な」

子供が数人駆けてきた。跳びはねるようにして。


一旦アルベルクの城へ。そこで全ての荷を降ろす。

「アルベルク様、お帰りになられましたか」執事が現れた。

「ああ。コチラはコンドウ商会のコンドウ殿だ」

「それでは誘致のお話が」

「いや。今回は救援に来てくださった」

「救援?」

「ともかく荷下ろしを手伝わせろ」


「おー。野菜がー。ノマドもございます。いやー、城の野菜も不足気味でしたので助かります」

「いや。ノマドは農村に配ってくれ」

「は?」

「ノマドは農村に無償配布。パンと肉....焼いた肉をつけてやれ」

「焼いた肉....串焼きのようなものでも」

「ああ、それでいい」

「はぁ......」

「野菜は市中の病院と孤児院に分けてくれ」

「それでは城の分が....」

「構わん。何班かに分けて直ぐに動け。急いでくれ......」

ただならぬ様子のアルベルクに、執事は驚きながらも

「承知いたしました。直ぐに手配いたします」と、踵を返した。


執務室のソファーに座って、うなだれるアルベルク。

「子供と老人だけ....あんなに痩せ細って......」

クマ村長が静かに話し始めた。

「若いもんから街へ行くんです。野菜は出来不出来もある。それに、ここは他所からも入ってくるから、安う買いたたかれたら税も払えん。外で働いた方が稼げるんです。

でね、いっぺん外を覚えたらもう、帰ってこれんですよ。あれじゃ」

アルベルクが息を呑む。

「どんなに広い土地があっても、耕すには馬もいる。道具もいる。種買って、肥料買って。毎日水やりして。農業はね、人が時間かけて作るんです。小さな芋一つに何ヶ月もかけるんです。街の人はそんなこと忘れてはるけど」

「どうすればいいのでしょう....」

「まず人を戻してください。それからです」

「戻すと言っても」

「あんな、金ないから帰ってこられへんねやったら、金払って連れてこいや。助成金出して無税にして、食べるもん回して、住めるようにせな」とタケシ。

「そう....ですね」

「あと水なー」

「タケシさん、ポンプを井戸につけても、あれじゃまともに散水も出来ません」

「それな、魔導水路からタンクシャに水入れてショウボウシャで撒く」

「タンクシャってあの樽の?」

「王都にな、ルークに繋いでもろてる。分けてもらえ。タンクシャなら井戸が枯れたら給水車にもなる。当面は村巡回せな、ジジババが死んでまうぞ」

「わかりました。直ぐ動かします」

「タケシさん。人が戻ったら、うちの息子こさせますわ」

「ええんか」

「ここまで枯れたら、一からです。息子ね、あれで結構色々考えてて、楽したいからって農地改良とか作業の効率化とか。ワシ、もうあんなん見たらほっとかれへんわ」

タケシの顔にちょっと笑みが浮かんだ。

「あとあの保冷箱も、アキラに言うて増産させてる。とりあえず今持ってきてるのはそのまま使うたらええ。直ぐ王都からでも仕入れてこい」


「コンドウ殿、私、手配してきます。ちょっと外しますけど」

「うん。行っといで。あっ地図あるか?ここの領土の」

「ありますよ」

アルベルクが巻いた紙を出してきた。

「うん。行っといで」


紙をテーブルに広げた。

「んー。ここ、あの若い衆の村ですな」

「そやな、こっちがさっきの村」

「小さい村が点在しとるんでしょうな」

「そやなー」

「これできれば1か所か2か所、大きい集落にまとめたらアカンのでしょうか」

「ん?」

「いや、広げ過ぎたら効率悪いでしょ。まとまって開拓した方がええんと違うかな」

「あー。そうやなー。分散し過ぎたらかえって進まんな」

「集約してそこから広げる方が」

「土地、離れるかな」

「領主命令なら従うでしょう。ゆくゆくは再配分してやればいいし」

「なるほどな」

「あのおじいさんなんか病院入れた方がええぐらいやし。まとまってたら面倒も見やすいでしょ」

「さすがクマ村長」

「いえいえ。タケシさん程では」

トントン。

「失礼します」執事だ。

「申し訳ありません、簡単なものしかご用意できなくて」

パンと串焼き。

「村に持っていくんちゃうかったんか」

「それは大丈夫です。小麦は備蓄の放出が決まりましたし、肉は十分にございますから」

「そっかー。ほな頂こか。レオン、腹減ったやろ。こっち来てもらい」

うれしそうにソファーに座って、レオンが串焼きをかじる。

「ほんま燃費悪いな、お前」

「勇者ですから」

「え!勇者なんですか」

「うん。オレに負けたけど」

「えぇー!コンドウ様ってお強いんですね」

頷くレオン。

「天下一です」

「コンドウ様は元冒険者とか?」

「ただの馬車屋」

「いえ、師匠は勇者です」

「??」



「そうですね、ここと、ここ位に。2か所位なら魔導水路伸ばせるでしょう」

「家はとりあえず小屋で十分ですよ。屋根壁床があれば。農民ってそういうの強いんです。少し落ち着くまで仮住まいで」

「そやな。直ぐ人戻るかもわからんし」

「まとまってもらえたら物資の供給もしやすいので、そこをアピールして戻れるようにしましょう」

レオンが壁に寄りかかって、立ったまま寝ている。

「さすがやな」


「ミナセに帰ったらポンプ隊よこすから。踏ん張れよ」

「はい。何から何まで。本当にありがとうございます」

「金もかかる。得意の商売も頑張らなな」

「そこは抜かりませんから」

「そっか。請求書持たすわ」

「はい。お任せ下さい」

「ほな行くわ」

タケシの馬車が見えなくなるまで見送ったアルベルクは、もう一度頭を下げると、馬車に乗り込んだ。

パンと串焼きを乗せて。

靴には泥が付いていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ