枯れた暮らし
クマ村長がやって来た。タケシがしばらく話し込む。
「わかりました。近くの村も当たって来ます」
「悪いな、頼むわ」
「レオン、俺の馬車と、荷馬車1台。準備しといて。整備済んでるから。5日分位」
「はい。師匠」
アルベルクに向き直った。
「とりあえず俺が行く。見なわからん」
カツミが帰ってきた。
「タケシ、フロー麺は2箱やけど、ノマドは3ついけた」
「そか。俺の馬車に積んどいて。あー。スライムのエサ。保冷箱用の」
「あれゴミスラやから何でも食べるで」
「ほな道の草でええな」
「うん。十分」
「ゴミスラって何ですか?」
「あー。スライムにゴミ処理させてるねん」
「?」
「もー。そんなん後でええ」
「タケシさん。保冷箱持ってきました」
「タケシー。どうしたのさ」とルークがやってきた。
「あれ、アルベルクさん来てたんだ」
「はい。実は....」
アルベルクがルークに説明する間にも、タケシ達の準備は進む。
「ポンプシャ...馬車引き具あるか.....いや。俺の馬車に乗せよ。ショーボーシャは荷馬車に固定しよ。後で工房に回るわ。アキラ、ホースも一緒に準備しといて引き具も」
「了解」
「アルベルク、すごいでしょ。タケシ」
「私にはもう何が何だか」
クマ村長が戻ってきた。
「タケシさん。集めてきました」
「助かるわー。生鮮は保冷箱に入れて荷馬車に奥から詰めて。んでほかのもんは.....アルベルクの馬車に放り込んどいて。アルベルクー。見とかんと馬車の中ぐちゃぐちゃになるでー」
「ハハハ。タケシ容赦ないなー」
「ルーク、ちょっと」
「ん?」
何やら耳打ちすると「了解!」とルークは去って行った。
「村長、悪いな、付き合わせて」
「いえ、いつもお世話になっているのはコチラの方ですから」
「農地は俺じゃわからんから」
「そりゃそうですよ。ハッハ」
馬車を止めて休憩中。パンと干し肉と水。
「ほんま遠いよな」
「すみません......」
「明日入ったら、まず農地見る。荷下ろしは後にしよ」
「わかりました」
レオンがすっと立って茂みの方へ。
パンパーン。
カースケが飛んで行った。
「うわぁああー」
茂みをかき分けて這い出たのは、ボロ雑巾のような男だった。 尻もちをついたままガタガタ震えている。
「ひっ……た、助け……」
「レオン」 「はい。武器なしです」
レオンが男の腕を掴んで立たせる。
タケシは男をじっと見た。 頬はこけ、唇は乾いて、目は....タケシの手元。
「……腹減っとるんか」 頷く男。
「三日……何も……」
「ほな座れ」 タケシが干し肉を投げる。
ほんの少し躊躇した。が、耐えきれずに貪りついた。
アルベルクが小声で呟く。 「……酷いな」
クマ村長が顔を曇らせた。 「この辺りの村でしょう。不作で逃げ出したのか.....納税かも.....」
アルベルクがハッとする。
タケシは水筒を男に渡した。 男は両手で抱えて飲む。 途中でむせた。
「村、まだ人おるか?」
「……います……でも、もう……」
「案内できる?」 男は震えながら頷いた。
タケシは立ち上がる。
「予定変更や。先にこいつの村に行く」
「ですが農地が…….」
「ここ、あんたの領やろ」
アルベルクが黙ってうつむく。
タケシが男を馬車に乗せ、村へ案内させた。
「あそこです」小さな家が数軒見えてきた。
「よっしゃ」
タケシは荷台に入って、手近な布にノマドとフロー麺を一抱えと、残っていたパンを全て包み込み、男の背にくくりつけた。
「これなら持てるな」
ガリガリに痩せた男が頷く。
「水で炊いたらすぐ食える。このままじゃ食えんからな。分けろよ」
「あ、ありがとうございます」
「ほな行き」
男は何度も振り返りながら、村へ向かって駆けていった。
カースケがパサッとタケシの肩にとまった。
商業地は、青々とした木立の向こう。大きな建物であふれ、荷を積んだ馬車が行き交っている。それを横目に見ながら、未舗装のみちを進んでいくと、やがて広い荒地に出た。
「これは.....いつからこんなことに.....」
唖然とする村長。
「タケシさん。耕作されていないどころか、ほらあれ」小さな木。
「ここらへん、完全に捨てられとりますな。これを戻すのは大ごとですよ」
「もうちょっと行ってみるか。あっち、家ある」ポツンポツンと小さな家が見えていた。
しばらくすると、カースケが飛び立った。
「カー」
「ん?どないした?」馬車を急がせカースケの後を追うと、小さな家の前でオロオロしている老女が。
馬車を止めて走った。
子供の泣き声!どこやっ!見回すがいない。
「あー。子供がー井戸にー」
慌てて駆け寄ると、水かさの減った井戸の中に5才位の子供が泣いている。
「レオン、ロープ。ロープ持ってこい」
レオンが取りに走る。
「おーい。待っとけーすぐ助けたるー」
井戸のなかに声をかけ、周りを見回す。一本の木に目が止まる。
レオンがロープを持ってきた。
後から村長とアルベルクが続く。
タケシは引ったくるように取ると、端を木に結わえつけ、井戸にロープを垂らす。
「レオン、ロープ、しっかり持っといてくれよ」
そう言うと、タケシは井戸の中に降りて行った。
「おーい、上げてくれー」
レオンが引くと、スルスルと子供が上がってきた。
ロープを解くと、老女に抱きついて泣いている。
「おーい。ロープ降ろしてー」
浅い井戸で、水かさも減っていたのが幸いして、子供は無事なようだ。
ふぅ。と井戸べりに座り込む。
「ありがとうございます」
シワだらけの手を合わせ、タケシを見つめる老女は、小さく痩せていた。
「おじちゃんありがとう」
「大丈夫か。うん。坊、いくつや?」
「7才」
そうかー。軽かったなー食えてないんや......
「ばあちゃん、家のもんは?」
「じいさんが寝とる。若いもんはおらんのよ」
「近所は?」
「あぁー。みんな似たようなもんでなー」
「ちょっと待っとってな」
と言うとタケシは馬車に戻った。
箱にノマドとフロー麺を詰めてレオンに渡すと、保冷箱をゴソゴソ漁る。
「あったー」
「ばあちゃん、ちょい台所借りてええか」
タケシはノマドの作り方を教えた。
じいさんが這い出てきた。
「誰...じゃ」
「じいさん、孫助けてくれたんや」
「んでな、ばあちゃん。みんなで分けて」
と出したのは肉の固まり。
「いたむから、今日すぐ。しっかり焼いて食べや。みんなで食うんやで」
「こんな....肉なんて長いことワシら......」
「出来るか?」
「.....」
「よっしゃ。ほな炊こ」
タケシは肉を切ってノマドの鍋にぶち込む。
子供が肉の匂いに目を輝かせた。
「坊、近所のもん呼んできたり。みんなで食べ」
「うん」駆け出す子ども。
それを見届けてタケシは立ち上がった。
「じいちゃんも食べ。元気出るで」
そう言うと馬車に戻った。




