第7話 交流会
「これも面白かった」
「だろ。SFはロマンがあるんだよな。ちっとばかし、エイリアンものが多い気もするが」
「だね」
生存ゲームから就寝を二回ほど繰り返し、本日は朝食後に映画を見ていた。二人はソファーに仲良く肩を並べて、映画を堪能。もちろん、飲み物とポップコーンも忘れずに。
生存ゲームを終えた後、疲れ切っていたのか、二人は食事を終えてすぐに寝てしまった。特に凛は、食事を終えるやいなや、さっさとベッドに潜り込んで熟睡していた。靭も娯楽に手を出す余裕はなく、シャワーを適当に浴びてから速攻で眠りについた。
ぐっすりと眠ってから目覚め、二人で食事を取り、手持ち無沙汰になった時だ。各々好き勝手に娯楽を楽しむことになった。靭は昔懐かしいSF作品を吟味して、これだというものを選ぶと、好き勝手にタバコを吸いながらソファーで映画を見ていた。
その隣では、凛が小説を読んでいたのだが、気が付いた時には、手に持っていた小説を忘れて、食い入るように映画を見ていた。どうやら、男が好きなアクションや、ファンタジー、SFといったジャンルの作品を見てこなかったようだ。それに驚いた靭が、凛にお勧めの映画を紹介して、今に至るというわけだ。
「さて、そろそろ飯にするか?」
「そうだね」
二人が立ち上がったとき。
パンパンパパパン、パパパパッパン――場違いなほど陽気な音楽が流れ込んできた。
二人の間に、緊張が走る。ゲームを知らせる合図だからだ。
『えー、みなさま。同棲生活はいかがお過ごしかなー??
二人きりでいちゃいちゃラブラブもいいですが、今回は参加者同士の交流会をしてもらいまーちゅ!』
ふざけ切った口調と、ふざけ倒した文言。普通なら呆れてしまいそうなアナウンスも、靭は眉をひそめている。
「交流会?」
「ゲームじゃない?」
「どうだろうな……ひとまず、気を引き締めたほうがよさそうだが」
『じゃあ、3分後に始めるよん!
これなかった人は、もちろん……もう、そんなこと言わせんなって!
じゃあ、早く来てねーーー!』
ブチン――マイク音が切れる。一瞬で静まり返る室内。
二人は顔を見合わせて、いつものドームへと向かう。
ガチャ――扉を開け、目に飛び込んできた光景に、靭は思わず頭を抱えてため息を漏らした。
「……なんというか、本当に交流会っぽいな」
「だね」
扉を開けてすぐ。目の前に広がるのは、六人掛けの丸テーブル。その上には、黒い食事がこれでもかというほど並べられている。
ぱらぱらとだが、もう集まってるのか。すでに、多くの人たちが、ドームに集まっていた。タバコを吸う人もいれば、眠れていないのか欠伸を何度もする人、シャワー中に慌てて集まった人もいる。
(まあ、時計がないからな。体内時計も、生活習慣もバラバラなのは当然か)
そんなことを思いつつ、靭たちは座るタイミングを見計らう。一部はすでに席についているようだが、変に動いて何があるか分かったものではないからだ。
しばらく、人の流れを見ていると。
『はい、終了ーーー!!
さすがに、ここまで生き残った人たちだねん。脱落者は一組だけ!
偉い、優秀、いいね!』
パフパフ――またしても、ふざけた音がドーム内に響き渡る。
『じゃあ、それではさっそく交流会を初めてちょんまげ!
もうね、好きに食って、好きにしゃべってくださいな!
時間になったら、またお知らせに来るよ~ん。バイビー!』
ブチン――放送が切れる。
(どんどん口調がおかしくなるな、女の首謀者は)
目頭を押さえつつ「はぁ」と息を吐いてから、靭は凛に話しかけた。
「そこでいいか?」
「うん」
靭が目の前のテーブルを指さす。凛も特に不満はないようで、靭についていく。
そして、靭が椅子に手をかけたのと同時だった。
「あ」
「ん!」
「おや」
別のペアの二人も同時に手をかけていた。靭の両隣の住人である。「カルちゃん」と呼ばれていた元気な女と、学生と思われる背の小さい中性的な顔立ちの青年。
「よ、よろしくお願いします」
「どうも」
カルちゃんのペアである背中を丸めた大きな男と、中性的な顔立ちの青年のペアである背の高い綺麗な女性がやってきて、それぞれが挨拶を短く交わす。
「よろしく」
凛も小さく頭を下げ、全員が円卓の席に着いた。
これでちょうど三組、六人だ。交流会というだけあってか、料理の手前に、ホワイトボードと付属のペンがテーブルに置かれている。
(本当に交流会って感じだな)
ホワイトボードから視線を外し、席に着いた面々を眺めていく。靭から見て右回りに、凛、背の高い美女、背の小さい青年、カル、マモタの順で座っている。
(さて、なにから話したもんか)
会話のきっかけを探ろうしていると、奥から声が響いた。
「マモタ、もう食べていいかな!!」
「カルちゃん、まだまずいよ」
元気いっぱいに目を輝かせて食事に手を出そうとするカルに、マモタは控え目な声で止めに入る。
「好きに食っていいと思うぞ。交流会なんだし、手を付けないのも問題だと思うしな」
ひとまず、場の空気が悪くならないように、靭が助け船を出す。最も大切な最初の発言を、いの一番にぶっ壊してくれたお礼でもあった。何を切り出すかで、この席の空気が生きるか死ぬかが決まるからだ。
本人は何も考えてなさそうだが、いい感じの空気になった。
気難しそうな美女が、微笑まし気にカルを見ているからだ。隣にいる凛も、カルが苦手なタイプではないのか、興味深そうに見つめている。
マモタと呼ばれた大男は靭にぺこぺこ頭を下げて、尊敬の眼差しを靭に向けていた。何を考えているか分からない笑顔を張り付けた青年だけが気がかりだが、こればかりは仕方がない。
「お兄さん、いい人だね!!
じゃあ、いただきまーす!!!」
一人の許可に反対意見が出ないのを察して、瞬時に大きな肉の塊を三つほど皿に取り置き、カルは新たに一つの黒肉を口に頬張る。バクバクと勢いよく食べながら、頬を染めてうっとりとしている。
バギッ、ゴリッ――ただ、口の中から聞こえてはいけない音が聞こえる。どうやら、骨付き肉だったらしい。当の本人は気にしてるそぶりも見せないが、思わず突っ込む者がいた。
「骨まで食べてますけど、大丈夫ですか?」
笑みを絶やさずに背の低い男が、カルに声をかける。カルを引いて見るどころか、興味津々で骨を口で砕くカルを眺めていた。
「ん、だいじょうぶ。あたし、ほねまでたべるたいぷ」
「カルちゃん、口に物が入ってるときは、喋ったら失礼だよ」
「ん!!」
ごっくんと聞こえそうな勢いで飲み込む。すると、カルは、大きく口を開けて、特徴的な八重歯を見せながグッと親指を突き立ててグッドマーク。
「大丈夫、アタシは骨まで食べれるタイプだから!」
「そうなんですか。歯と顎がとても丈夫なんですね」
「まあねん!」
そういう問題なのだろうかとツッコミたくなるが、靭は口を閉ざしたまま、全員を眺める。
(もう、なんか、すんごく濃いなー。まあ、陰気臭いよりはいいけどさ)
交流できそうなタイプで安心する。けれど、誰も自己紹介を始める様子はない。
(……はぁ、仕方ないか)
これは交流会だ。自己紹介をせずに、果たして交流と言えるのだろうか。かなり、いや、とても面倒だと感じる靭だが、深くため息を吐いて全員を見渡した。
「ひとまず、自己紹介をしないか?
交流会って名目だし、ひとまずは必要なことをしていこう」
「そうね、私も賛成よ」
背の高い美女が、靭に賛同してくれる。反対意見もないようなので、靭は先んじて自ら名乗り出た。カルのお陰で、発言がしやすい空気となっていることに感謝しながら。
「ひとまず、言い出しっぺの俺から。
俺は、深海靭。漢字はこう書く。年齢は25歳で、ここに来る前は普通のサラリーマンをしてた」
「へーー、そうなんだ! お兄さんは、社畜だった???」
突然、カルがそんなことを言い出した。
「っふ」
凛の隣の美女が、笑いを堪えられずに息が漏れたように笑う。突然ぶっこんできた質問に、靭は思い出したくもない社畜時代の記憶が蘇り、顔が引きつる。
「……な、なぜ、そう思った」
「目の下の隈がすんごいから、疲れてるのかなって!せっかくのいい顔が台無しだなと思ってさ!」
「ふふ」
隣で凛が、肯定するように静かに笑った。さらに奥では、顔を青ざめたマモタと呼ばれる男があわあわと慌て始めた。
「か、カルちゃ~ん。すみません、すみません」
「あ、いや、いいんだ。それは事実だし。いい顔ってのは否定させてもらうが」
「えー、いいと思うけどな! もっとポジティブに生きたほうがいいよ、お兄さん!」
「あ、ああ、善処する」
カルがいることで、良くも悪くも場を掻き乱れることに戸惑いながらも、靭は凛に視線で合図を送る。
「私は、木花凛、今年で23歳」
「え、嘘でしょ」
凛の言葉を信じられないのか、美女はまじまじと凛を見つめている。凛は特に気にならないのか、特に表情を変えずに、美女を見て答えた。
「本当」
「三個上のお姉ちゃんだ!よろしくね、凛ちゃん!」
バッと立ち上がり、カルは目を輝かせて満面の笑みを見せる。凛は、こちらにも特に大きくリアクションを見せることなく、頷くだけだ。
「うん、よろしく。内定をもらって、就職する直前にここに来た。以上です」
凛の自己紹介が終われば、流れで美女がホワイトボードに名前を書いていく。
「私は、紫苑響。歳は25。モデルをやっていたわ。どうぞ、よろしくね」
「しおんひびき!! 似てると思ってたけど、本物の有名人だ!」
またしても、バッと立ち上がり、カルは尊敬の眼差しで響を眺め始めた。靭は響を見て、顔を改めてみる。たしかに顔立ちは日本人とは思えないくらい目鼻立ちがはっきりとしており、それでいて整っているし、聞こえやすい声も印象がいい。
女性なら一度は憧れを抱きそうな存在だなと納得できる。
ただ、靭は覚えがないのか、こっそり凛に耳打ちで聞く。
「そうなのか」
「それなりに知名度はあると思うわ。女性に、という枕詞がつくけれど」
凛に耳打ちしたつもりが、聞こえてしまったらしい。靭はやってしまったと顔にもろに出て、思わず頬をかいてしまう。
「知見が狭くてな、申し訳ない」
「謝ることじゃないわ。わたし、テレビにはあまり出ないもの」
「youcastではかなり有名なんだよ!」
「なるほど」
動画配信サイトのyoucastは、靭もよく見ていた。
(急上昇に乗っていたら、顔くらいは見たことがあるのかもしれん。とはいえ、俺が見てる動画のジャンルとは異なるからな……やっぱり、覚えがない)
靭が見ていたのは自己啓発やゲーム配信といった男向けのものばかりなので、知らないのも無理はないだろう。自分のことについて語られるのが好きではないのか、響は「はぁ」と小さくため息を吐いて、隣の青年を横目で見やった。
「私のことはいいから、次お願いね」
「はい」
青年は立ち上がって、自己紹介を始めるらしい。
「自分は、黒曜吟時です。今年の4月から大学生でしたが、気が付けばここに。
高校では剣道部に所属していました。といっても、部活どうこう言ってる場合ではなさそうですが。
先輩方、どうぞよろしくお願いいたします」
席を立っての自己紹介。優等生らしい学生らしい姿ではある。髪も後ろで結んでいて、それなりの長さ。顔は中性的なイケメンだが、醸し出す空気が大人のそれなのだ。背が低いことをカバーできるくらいの中性顔のイケメンであるが、身長のせいか女性にも見える。
凛と逆の意味で、年相応には見えない。独特な空気を纏っているせいか、正直、普通の大学生にはとても見えない。こんな場所に呼ばれてしまったというのに、あまりにも冷静なのも要因の一つだろう。
(ただな……笑顔が嘘臭い)
社会人経験のある靭は、今まで名刺交換をしてきた胡散臭い営業マンを思い出していた。笑顔の仮面を張り付けたように話す彼らと、似た空気を感じたのだ。
(目がな……本当に普通の大学生なのかね)
口元は上がっているのに、目は笑っていない。吟時とは正反対の性格の持ち主であるカルが隣にいるから、靭から見た吟時の目が、とても冷たく感じていた。
「真面目だ!」
吟時と真反対の性格であろうカルは、その底知れなさにまったく気付いていない様子だった。
「本当に、とっても真面目よ、黒曜君は」
「そうなのか」
「ええ、とってもね」
響は、本当につまらなそうに呟く。部屋で何かあったのかもしれないと、靭はただただ想像するほかない。
「あれ、終わり?」
「ええ、次どうぞ」
「はーい!」
吟時に倣ってか、カルも立ち上がって自己紹介を始める。ウルフヘアーの髪をなびかせて、八重歯を見せながらとびっきりの笑顔。愛嬌があって親しみやすい。なんとも分かりやすい人物である。
「はいはーい! アタシは、赤月カル! 漢字はこう書く!
歳は今年で20歳! だから、今は19歳! でも、誕生日が分からなくなった!
だから、もう20歳! 大人だよん! 仕事は何もしてないから、ニート! 食べることが大大だーい好き!よろしくね!」
[赤月カル]とホワイトボードに書かれた文字は達筆で、マーカーで書いたとは思えないほどだ。カタカナの名前は珍しいなと思ったが、それ以上に、今元気いっぱいに話している人物が書いたとは思えないほど美しく綺麗な文字に目が行く
「字が上手いな」
口をはさまない靭が、思わず口に出してしまうくらいには。
「でしょー。絵はもっとうまい!文字は絵みたいなもんだし、ギャップ狙ってみた!
ちな、絵の先生にも、超褒められたことあるよ!絵でも、食べていけるんじゃないかって言われたことあるよ!」
「あら、どうしてニートしてるの?
芸術家でも、食べていけるくらいには凄いんでしょ?」
カルは、口の端を上げてニヤリと笑う。
「絵は描いてるけど、収入がないからね!だから、ニート!」
ドヤ顔で言うことではない気もするが、本人は何も気にしてなさそうだ。
「潔くて好きよ、私」
「紫苑響に褒められた!!」
「フルネームはよしてよ。響でいいわ」
「やったー!よろしくね、響ちゃん!」
「ええ、よろしく」
天真爛漫とは、まさに彼女を指す言葉ではないかと、靭はただただ感心するしかなかった。
「じゃあ、次、マモタ!」
「あ、うん」
マモタと呼ばれた男が立ち上がる。隣に座っている靭は、その大きさに思わず息を飲み込む。遠くから見てもデカいとは思っていたが、想像以上の圧を感じた。横も大きいが、服から出ている部分に、筋肉がかなりついていることが分かる。鋭い目つきに圧を感じるが、清潔感もあるし、怖いおデブさんではないのだろう。
「えっと、僕は黄土守大です。今年で24歳の一応料理人で……した。
えっと、趣味は料理を作ることです。よろしくお願いします」
ゆっくりと礼儀正しく腰を下げる。
(見た目に反してというのは失礼だが、かなり穏やかな性格だな)
人は見かけによらないとはよく言ったものだ。守大はもじもじしながら、圧を感じさせないよう身を縮めて自己紹介をしている。なんというか、体格の割に、少し頼りないというのが第一印象だった。
「マモタの料理は、めちゃくちゃうまいんだよ!
一応料理人じゃなくて、もう立派な料理人! 今度みんなに食べさせたい!」
「それはいいですね。こちらは肉を焼いただけの料理が続いているので」
「そうね。今度、ご相伴に預かろうかしら。さすがに、飽きてきたしね」
どうやら、吟時と響は料理が苦手らしい。吟時は優等生、響は仕事。どちらも料理に手をだすほど暇ではない生活を送っていたのだろう。
「焼いた肉も上手いよ!でも、守大が焼くともっと美味い!」
「へ、へへ。嬉しいな」
「ちなみに、初心者でもできる料理ない?」
「あ、えっと、それなら」
(自己紹介が終わるな。次の会話の議題を考えるべきか)
これから何を話すべきか色々と考えてはいたが、いざ話すとなると、どう話題を差し込めばいいかの判断が難しい。無言のままでは、他の発言も減ってしまう。どうせなら情報共有もしたい靭は、会話に切り込むタイミングを伺っていた。
「へー、それでいいんだ」
「今度、試してみましょうか」
「そうね」
そろそろ、守大と響たちの会話が終わった。カルはバクバクと食事を取っているからか、全員が食事に手を付け始めて、いったん会話が区切られる。
靭も食事を取りつつ、脳内で次の話題を考えていた。
(さて、共通の話題というのは難しい。まあ、今のところ、生存ゲームはどの扉を選んだか、くらいか。そこからの流れで、体の変化を聞いてみるのもありかもしれん。デスゲームで殺し合いをするという前提がある場合は、その情報すら得られないかもしれないが……まあ、そこらへんはアドリブでどうにかするか。はぁ、本当はこういうリーダー的な仕事はしたくないんだがな)
とはいえ、行動しなければ何も進まない。自分が知りたい情報を逃してしまうのはもったいないので、腹を括ることにする。
(さてと)
静かに意気込み、背筋を伸ばしたところで。
「ところでさ!」
骨付き黒肉をバクバクとバリバリゴリゴリと、骨まで食べていたカルが急に発言する。
「これってさ、本当にデスゲームなのかな??
なんかさ、色々と変だと思うんだよねー!」
カルの確信を突く発言により、一瞬にして空気が変わった。




