最終話 狂気を歩む者たちへ
「……死んだのか」
何もない白い空間で、靭はポツリと呟いた。
即死ではないにしろ、心臓を穿たれたことで体が言うことを聞かず、電池切れのロボットのように倒れてしまった。呆気ない形での幕引き。生物としての格が違うと思い知らされたようで、後悔すらない。宇宙からやってきた存在だけあって、想像を遥かに超える強さだったという感想だけが、頭をよぎる。
「あーあー、終わりかー」
「え?」
聞き覚えのある声で体を起こした靭は、右から聞こえてきた声に反応する。
「琥珀……?」
「あれ、靭隊長じゃん。やっほー!」
「へ、あ、え……やっほー?」
なぜここに琥珀がいるのかと思いながらも、耳と尻尾がないなーというどうでもいい感想が、靭の頭に浮かぶ。影纏する前の琥珀なのだから、当然と言えば当然だ。
「死んでも元気ですね、琥珀さんは」
「あれ、吟時君じゃん!!」
「お前もいるのか、吟時……」
次に現れたのは吟時だ。ものすごく不満そうな顔で、なんなら少しいじけているような姿にも見える。膝を抱えて、視線は靭たちを見ずに、白い空間を眺めて死んだ顔をしながら、ブツブツと呟いた。
「そうですね。何が起きたのか分からないまま死んだ情けない男、吟時ですよ」
「吟時節炸裂だねー!!」
「……自分が悪かったので、やめてください」
なんだかいつも通りの光景だなーと感じるも、この光景がいつも通りになったのは最近のことなんだよなーと、靭は振り返る。
「……うわああ!」
悪夢を見て飛び起きたような大声をだして、ガバリと目を覚ましたのは、守大だ。
「ぎゃああああ!! って、なんだよ、守大かよ!」
「え、ああ、琥珀ちゃん……ご、ごめんね」
その声に驚いた琥珀は座りながら手を上げて驚く。声の主が守大だと分かると、心臓を押さえ、肩で息をしながらプリプリと怒り出す。そんな琥珀を見た守大は驚きながらも、すぐにその場で謝る。そして、琥珀以外の存在に気付いて、さらに目を大きく見開いた。
「皆さん……すみま」
「謝るな。無理だろ、あれは」
「そーだよー! なにあれ、化け物過ぎでしょ!!」
「……そうですよ。あんなに早く動かれたんじゃ、どうしようもないです」
靭、琥珀、吟時が、謝りそうになった守大の言葉を遮るように声をかける。守る守れないの次元ではない。戦うことすらろくにできなかったのだから。
「誰の責任でもねぇから、気負うな」
守大の隣に向かった靭が、守大の背中をポンと叩いた。守大は顔を下げるも、すぐに頭を上げて困ったような笑みを見せる。
「ありがとう、ございます」
「おう」
「こちらこそ、ありがとうだよ」
「たしかに。ずっと、守ってもらってましたからね。ありがとうございます」
「たしかにな、ありがとうな、守大」
「い、いえ。そんな……皆さんも、ありがとうございます」
ありがとうの言い合いになって、全員の顔に笑顔が戻りつつある。
「このメンツがいるってことは……」
「雫ちゃんと響ちゃんも来るかな!? みんな一緒なら、寂しくないね!!」
琥珀が嬉しそうに言うので、靭も思わず笑ってしまう。確かに孤独になるよりはいいが、死ぬ前提で話を進めるのは、いささか失礼な気もする。
とはいえ、あの状態でゼオンが逃がしてくれるとは考えづらいので、靭は恐らくここに来るだろうと思っている。
「あーあー、死んだわ」
「死んだ」
噂をしていれば、だ。
響と雫が、ほとんど同時に現れた。不服そうな顔をしているのが響で、事実を淡々と述べたのが雫だ。
「響ちゃん、雫ちゃん!」
琥珀が嬉しそうに二人に抱きつきに向かう。琥珀の勢いよく飛び込むような抱擁を、響と雫は驚きながらも両手を広げて受け止めた。
「琥珀ちゃんに、雫ちゃんもいるのね」
「違う、みんないる」
「え……あら、ほんとうだ」
ようやくこちらに気付いた響が、なんでいるのとでも言いたげな顔で、全員を凝視している。雫に関しては眠いのか、小さい口を大きく広げて眠そうにしていた。
「死んでも一緒にいるとはな」
「じゃあ、本当に死んだのね」
靭の言葉に、響は少し寂しげだ。
「たぶんな……なんせ、死んだことないからな」
靭は当たり前のことを当たり前に言う。たしかに、人が死んだ後でどうなるか分からない。なにせ、生きている人間では分かりえないことなのだから。
「そっか、死んでない可能性は考えなかったよ!!」
靭の言葉に反応して、琥珀がキラキラとした目で、キョロキョロと顔を動かす。出口なるものでも探しているのかもしれない。
「いや、でも、おそらく死んでるのでは?」
そこへ吟時が、反対の意見を述べる。
「状況的に考えると、そうですね」
なにやら思い当たる節のある守大は、視線を逸らして気まずげに言う。
「まあ、死んでると思うわよ。心臓、全員無くなってたからね」
とどめの一言は響が決めた。心臓が無ければどうすることもできない。靭たちのXENOの本体も心臓にあると思われるため、彼らの助けもこないだろう。
つまり、終わったのだ。
空気が少し重くなってしまう。
「まあでも、みんな一緒」
その言葉をつぶやいたのは、意外にも雫だ。
「一緒なら、いい」
「確かに、ワタシもそう!!」
「そうね……せっかく仲良くなったのだものね」
雫の言葉に感化されたように、琥珀は雫と頬を合わせながら抱きついて手を大きく上げた。その光景を見ている響は、姉のような優しい目つきで二人を見ている。
「自分も、そう思います」
「僕もです」
吟時もまた響の言葉に賛同し、守大も当然頷く。
「だな」
最後に靭が締めくくる。
ここ最近のいつもの流れだ。死んでもなお、その空気感は残っている。
靭は、帰ってこなかった日常が、ここにはある気がした。
「でもまあ、これからどうするか」
「何もないものね」
響の言うとおり、本当に、ただただ白い空間が広がっているだけだ。
「探検する!?」
琥珀が立ち上がって、手を双眼鏡代わりにして、周囲を見渡す。
「そうですね。ここにいても、あまり意味はないでしょうし」
吟時も立ち上がって、琥珀の意見に賛同する。
「僕は皆さんについていきます」
「わたしも。みんなといけるなら、どこでもいい」
「それもそうね」
守大、雫、響が順々に立ち上がる
「じゃあ、移動するか」
そして、最後に靭が立ち上がった。
何もない空間にも関わらず、全員の顔は明るい。
同じ部隊となって日は浅いが、仲間の大切さを、靭は痛感するのであった。
「どうしたの、靭?」
動きを見せない靭に、雫が様子を確認する。
「ああ、いや、どっちから行こうかなって思ってさ」
少しばかり感傷に浸りたい気持ちではあったが、そうも言ってられない。
心を切り替えて、歩き出そうとした。
その時だ。
『ジン』
「業讐?」
靭の耳には、友であるネメシスの声が届いた。
『コハク』
「あ、緋喰!!」
靭は琥珀の方へと振り返る。たしかに、声が聞こえたのだ。普段からは聞こえなかった、琥珀の中にいるXENOの声が。琥珀のXENOは、少し声の低い優しい女性の声をだして、琥珀の名を呼んでいる。
『マモタ』
「やあ、誓盾」
そして、守大のXENOの声も聞こえる。しゃがれた男の老人の声だ。守大を責めるような声にも聞こえるが、守大の声はXENOを歓迎しているため、仲違いをしているわけではないらしい。
『ギンジ』
「豪血ですか」
若い男の声。愉快な声色で、吟時の名前を呼んでいる。飲んだくれを相手にするように、面倒くさそうな顔を一切隠さずに接している。
『どうも、ヒビキ』
『よおぉ、ヒビキ』
「魂響よね」
響のXENOは、声の綺麗な女性と酒焼けした男のような、二つの声が合わさった声がする。声色は異なるというのに、靭は二つの声をしっかりと認識できた。
『シズク』
「零命」
優しい女性の声が雫の名を呼び、雫も優しい声でXENO名を呼んだ。とても大切な姿を思い浮かべているような声だ。
「みんなのXENOの声が聞こえたね!!」
琥珀がそういうと、全員が頷く。
どうやら、靭だけではないようだ。
『ゼオンは、最後まで我々を嘗めてくれたようだ』
ネメシスはゼオンを嘲笑うような声を出す。
『そのおかげで助かったけどね』
今度は、コタロウが粛々と声に出して伝える。
『このままでは、終われまい』
オースが、威厳のある声で呟いた。
『反撃の狼煙ってやつだぜ。楽しいことになってきたな、おい!!』
この状況を楽しむような声で、ムラマサが高らかに宣言する。
『まだ、やれることがあるわ』
『そう、諦めるには早いんだ』
ティアディアは、それぞれの言葉を口に出してはいるが、諦めていない様子だ。
『まだ……戦いは終わってないということよ』
セルラが、最後の言葉を伝える。
「終わってないというが、俺たちはもう」
靭がXENOたちに投げかけるも、ネメシスが靭の言葉を遮って全員に告げる。
『XENOである我らは、まだ生きている』
「……どういうことだ?」
靭が戸惑ったような声を出す。
『取引だ。このまま死ぬか……もしくはもう一度、奴を殺すために我らと手を組むか』
ネメシスが真剣な声で、告げる。
『決めるのは……お前たちだ』
ネメシスは全員に向かって、決断を迫るのであった。
「さて、どうなるか」
ゼオンが一人、死体を見ながら呟く。
血だまりの中で、一ミリたりとも動かない深海部隊。
「……来たな」
青白い顔で微動だにしていない肉体だが、ある一点が、突如として動き出す。
ズズ――穿たれた心臓部が、ゆっくりと再生していく。
その心臓部で再生されていくのは、ただの臓器ではなく、球体の黒い結晶だった。
結晶を閉じ込めるように、肉体も再生していく。
心臓の代わりとなった結晶が、肉体を通して徐々に赤く染まり、弱々しい鼓動をたてる。
シュウウウウウ――力強い鼓動を最後に、全員の心臓部からドロリとしたXENOが、一瞬にして全員を包み込んだ。XENOに包み込まれた六つの死体は卵のような形を取りながら、浮かび上がった。
「始まったか……XENOが共生していた人間だけの心臓を取れば、我々と同じ存在となると考えたが、成功のようだ」
ゼオンは、自分なりに予測を立てて、どうにか自分の手駒にするために思案していた。XENOが寄生していた人間の心臓。それだけを奪えれば、XENOが肉体を得て、本来のあるべき姿に戻るのではないかと。
XENOの力で強化された彼らの肉体は、いわば極上の器だ。心臓を破壊して人間の意志さえ消し去ってしまえば、肉体に残されたXENOが主導権を握り、我々と同じ【完全なXENOS】として蘇る。
――そう踏んでの行動だった。
満足な結果が目の前で繰り広げられることに、ゼオンは内心でほくそ笑む。
「……素晴らしい」
ゼオンの目の前には、死んだはずの全員が姿を見せ始めた。
「姿に変化はないと思ったが、なるほど……変化もしているか」
全員、影纏へと変身した姿ではあるが、そこからさらに変化している状態で地面の上に降り立つ。
「よし、お前たち……残党狩りといこうじゃないか」
ゼオンが、背中を見せて、歩き出した。
「……ん、これは?」
歩き始めたゼオンの視界に映ったのは、一枚の黒い羽根。
「動かないで」
女の声と共に、ゼオンの動きが止まる。
「馬鹿な……」
ゼオンは思わず口から驚きを吐いた。体が固定されている。目に見えるものではなく、高密度の空気の檻がゼオンを閉じ込めているかのようだ。
それでも、ゼオンはゆっくりと動き出す。無理やり動かすせいで筋肉が悲鳴を上げるが、そのたびにゼオンの体は再生し、徐々に動きを増していく。
「やっぱり、私にはこれが限界ね」
「貴様……なぜ?」
「さあ……どうしてでしょうね?」
堕天使のような姿をした響が、不敵に口角を吊り上げながら姿を見せる。
しかし、紫色の瞳に笑みはない。
響の姿は、以前と変わらず人間が恐れをなしてしまうほどの美貌だが、アイラインを深く色付けしたような紫色の結晶が、目元で妖しく光っている。
「まあいい……従えないのなら、殺すまでだ」
空気の檻をゼオンが完全に破壊する。すでに体は自由の身となり、空気に圧縮されるような息苦しさも消え去った。
ゼオンが一瞬で響の元まで移動した時のことだ。
烏がゼオンの体にぶつかり、まるで内側に入り込むように消滅した。ほんの僅かな違和感のみで痛みもないことから、ゼオンは気にせず直進する。
そして、余裕な笑みを見せつける響の命を刈り取るために、拳を放つ。
ガアアアアン――しかし、人の体とは思えぬような硬いものにぶつかった衝撃音が響くだけ。
目の前にいたのは、琥珀色の結晶鎧を装備した騎士の姿。
額には、小、大、小と左右対称に並んだ、三つの琥珀色の結晶が揺れるように輝きを放っている。
猛獣のように縦長に裂けた黄金色の瞳孔で睨みつけながら、ゼオンが響を確実に殺すために放った一撃を見事に防ぎきっていた。
「仲間は……殺させない!」
大盾ごとゼオンを振り払うと、ゼオンは勢いよく吹っ飛んでいった。
「力が、増している?」
空中で体を制御したゼオンは、音も立てずに地面に着地した。
殺す前と、後で、確実に力が増していることに、疑問を隠せずにいる。思ってもみなかった展開に拳を握りしめるような仕草をしようとして、違和感に気づく。
「腕が……ない?」
ドラゴンの鱗を纏ったような腕が喰いちぎられ、そこから血が滝のように噴き出している。
「考え事は駄目でしょ!!」
ゼオンの視線の先には、頑丈な鱗の腕を喰らう琥珀の姿。頬に小さな赤い結晶を散りばめ、真っ赤な結晶の牙を見せながら、ゼオンに親指を突き立てて地面に向けて振り下ろした。
ゼオンの腕を一口食べた後で、隣でゼオンを威嚇している真っ赤な炎で作られたコタロウに残りを喰わせる。
「どうなってる」
ゼオンはそう呟きながらも、一瞬にして喰われた腕を再生させた。
「馬鹿みたいな再生能力だな……ゼオン」
「ジン……生きていたみたいだな」
靭とゼオンの視線が交差する。
靭の顔には、右目を囲むように額から頬にかけて散乱した、大小様々な青黒い五角形の結晶が張り付いていた。
「ああ、まあな!」
「ふん!!」
靭の腕は、全体を青い鱗のような結晶に覆われていた。靭は、結晶化した手を握りしめて拳を放つ。
ゼオンは確かにそれが見えたが、かまわず拳を振るった。
ズガアアアアン――凄まじい衝撃音が周囲に轟く。
「全力か?」
靭が嘲笑い、煽るようにゼオンに問いかける。
「そんなわけなかろう」
ゼオンもまた、楽し気に笑う。
「だろうな」
グッと互いに拳を握りしめ、もう一度、同じタイミングで拳を放つ。
ズドオオオオン――まるで爆発物でも仕込まれていたかのように、靭の右腕が消滅した。
しかし、ゼオンの拳は多少の鱗が剥がれ落ちる程度で、まだ拳として機能している。
靭はそれをギリギリで躱し、流れるように横へ動く。ゼオンはもう手加減などいってられないという様子で、靭に追撃をするために一歩足を前に踏み出した。
しかし、靭はそれを見てニヒルに口角を上げる。
「迂闊だな」
「……」
横へ逸れた靭の背後――その死角から現れたのは吟時だった。
右の額から斜めに突き出した一本の漆黒角と、その付け根に十文字の黒い結晶を宿した吟時は、愉悦に歪んだ笑みを浮かべている。
吟時の首、腕、心臓から鮮血が噴出しており、それを妖刀が全て吸収していた。それだけではない。先ほどまであった血だまりまで吸収している。
妖刀はサイズを変え、地獄の業火のような赤色から、深淵から抜き出されたような漆黒の大太刀へと変化していた。
そして、ゼオンの視界から……吟時が消える。
「終わりですよ」
ゼオンの四肢から血が一気に噴き出し、漆黒の太刀へと吸収されていく。
「これは……」
ゼオンは斬られたことすら気付かぬまま、ようやく自分の状態を認識する。
「終わりだ……ゼオン」
目の前には、すでに結晶の腕が再生している靭が拳を構えていた。
「なぜ……」
靭の後ろには、左頬に青白い結晶の薔薇と、右目の下に涙粒の青い結晶を埋め込まれた雫の姿があった。
「ふふ……なるほど」
ゼオンは靭の拳に纏われているエネルギーを見て、空を見上げた。
「じゃあな、ゼオン」
「ああ……楽しかったよ、ジン」
ゼオンの胸の中央で光を放つ禍々しい結晶を、靭が青空のような結晶鱗の拳で穿つ。
拮抗するゼオンの結晶と、靭の拳の結晶。
そして、ゼオンの結晶が限界を迎える。
パリィィィィィン――結晶の砕ける音が響くと同時に、ゼオンの体から靭の拳が貫通した。
ゼオンは、そのまま一ミリたりとも動かなくなり、やがて宇宙石へと姿を変えていく。
靭は、腕を払ってゼオンだった宇宙石を落とした。
乱雑に落ちた宇宙石を見つめながら、小さく呟く。
「俺たちXNFAを……甘く見た罰が下ったんだよ」
その声は、もうゼオンに届くことはない。
靭は振り返り、全員が見える位置へと立つ。
そして、高らかに手を挙げて宣言した。
「俺たちの……勝利だ!!!」
靭の元へ部隊の全員が集まり、皆で涙を流しながら抱き合い笑い合った。
まだ、戦場は続いている。
しかし、彼らの中の戦争は、一足先に幕を閉じたような、祝勝の雰囲気に包まれるのであった。
臨死体験をした靭たちは、ゼオンを倒したあと、次の戦場には向かわずに休息を取っている。
次の戦いに備えて、英気を養っていたのだ。
「あ、見て!!」
「ん?」
突然、琥珀が空を指さした。
銀世界だった空が、ゆっくりと動き出す。
宇宙船が動き出してから、しばらくして、ようやく空が見えてきた。
「ね、ねえ、あれって……」
昼も夜も分からない、分厚い黒い蠢く雲で覆われてしまったはずの世界。
まだ、その黒い蠢く空は残っている。
しかし、それとは別で、他の空も姿を現し始めた。
「あれって、もしかして!!」
琥珀がぴょんぴょんと飛び跳ねる。
やがて宇宙船の端から、一筋の眩い光が差し込んだ。
「太陽と……青い空、白い雲」
雫が静かに呟く。
「よく分からんが、勝ったみたいだな……人類は」
そう呟いた靭は、天に手をかざして穏やかに笑った。
全員が靭の言葉を噛みしめる様に、明るい空を眺めていると。
「じんたいちょおおおおおおおお!」
聞き覚えのあるアニメ声の少女が、浮遊車に乗って、大きな声を出しながら手を振って、こちらに向かってくる。
「十善寺?」
なにやら焦っている様子の十善寺を見て、靭は響を見る。
響からは笑みが消えて、ギギギと硬い音を立てながら指さした。
「あの宇宙船……落ちてるみたい」
「へ」
そんなことを言いだすものだから、全員が響を見て固まる。
そして、顔を見合わせて頷いた。
「逃げるぞおおおお、マモタアアアアア!!」
「琥珀ちゃん、絶対逆だよおおおお!!」
琥珀は軽々と自分より大きい守大を持ち上げて、全力で走る。
「行きますよ、雫さん」
「ん、くるしゅうない。よきにはからえ」
吟時は、突然偉ぶる雫を片手で抱っこして駆けだす。
「逃げるぞ、紫苑」
「うわ、ちょ!!」
靭は、戸惑う響をお姫様抱っこして全速力で逃げ出した。
六人は何が何だか分からなくなり、逃げながらも笑いだす。
賑やかな笑い声の中、靭だけが、ふと空を見上げて微笑んだ。
真上の空は、そこだけぽっかりと青く澄み渡っている。
――自らの手で、平和な日常を取り戻した証だった。
次回、ラストです
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