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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
最終章 狂気を歩む者たちへ

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第43話 VSゼオン

最終章スタート


 ゼオンと靭が同時に飛び出し、真っ向から拳と拳をぶつけ合う。


 その直前、黒い羽根がゼオンに触れた。


 ズガアアアアン――凄まじい衝撃音が周囲に轟く。


「うおおおお!」


 その一撃で、靭の右腕の皮膚が裂け、血しぶきが舞った。骨が砕ける嫌な音が響き、右腕がぶらりと力なく垂れ下がる。たった一回の衝突で、完全に腕が壊されたのだ。


 それでも、体は吹き飛ばされることなく、数歩後退しただけで踏みとどまった。右手はすでに使い物にならない。だが、左手は動く。靭には、それだけで十分だった。


 右足を大きく一歩前に出して体重を乗せ、グッと拳に力を入れて歯を食いしばり、腰から流れるように左拳を放つ。


「っ!!」

「ほう」


 ゼオンは感心を込めた吐息を落として、平然と殴りかかってくる。


 ズガアアアアン――先ほどと同じく、拳同士をぶつけ合ったとは思えない衝撃音。靭の左腕は、右腕と同様に容易く壊れた。靭は、後ろに大きく飛んで、回避に出る。そこへ、琥珀の炎雀が靭の肩に乗った。


「ふん!」


 しかし、両腕の使えない靭をみすみす見逃すゼオンではない。地面を軽くけったとは思えない速度で、靭に追撃する。ゼオンの拳が靭に迫る直前で、勢いが弱まった。


「……」


 目に見えない盾が、靭への追撃を防いだ。守大による万物全てを盾にする能力が、靭への追撃を許さない。しかし、盾はすぐに壊れてしまう。けれど、少しの時間稼ぎは成功する。


「はああああああ!」


 そこへ、吟時が現れて妖刀を振るう。ゼオンは腕を盾にしながら、吟時の妖刀を防ぐ。生体装甲のような腕は吟時の妖刀を弾く。けれど、ゼオンの腕はかすり傷を負った。そこから血が流れれば、妖刀がゼオンの血を吸う。吟時は追撃のチャンスとばかり次々に妖刀を振りかざして、攻撃の手を緩めない。


「はああ!」

「ぐ!?」


 ゼオンの気迫と共に放たれた拳は、妖刀だけではなく、吟時の体も吹き飛ばした。しかし、吟時に直接のダメージは入っていない。またしても、守大による空気の盾によって、直接の被弾を防いだ。


緋喰(コタロウ)!!」


 ゴオオオ――緋色の炎で造られたゴールデンレトリバーが、ゼオンを喰らうように口を開けて噛みついてくる。ゼオンは、それを紙一重で避けて、蹴りを放ち琥珀の炎を消失させた。


「ファイアスラッシュ!!」

「はっ!」


 ゼオンの後ろから、琥珀が火を纏う爪で攻撃を仕掛けるが、並外れた身体能力によりゼオンはそれを腕で防ぐ。少しの間、爪と腕が拮抗するも、琥珀の攻撃は弾かれて、体勢を崩され大きく後ろに吹き飛んだ。絶対に逃がさないという視線を琥珀にぶつけながら、ゼオンは地面を蹴り上げた。


「ほう」


 しかし、空気の盾が行く手を阻む。ゼオンが前に出るたびに、引っ掛かりを覚えて失速していく。その間に、琥珀は土の壁を蹴り上げて脱出した。けれど、それさえも逃さぬ勢いで、ゼオンは琥珀を追いかける。


「させない!」

「ふん」


 守大が琥珀を庇い、ゼオンの前に立ちふさがる。両腕に装備された盾を前に突き出して、ゼオンの攻撃を防ぐ。ゼオンは、守大に狙いを定めて連撃を放つ。


「ぐうう!」

「ふむ……」

「はああああ!」


 そこへ、吟時が妖刀を振るう。ゼオンの僅かな血を吸収したことによる妖刀の重い一撃は、ゼオンの体をさらに傷つけることができると踏んでの攻撃だった。


「ふん」


 けれど、ゼオンは一度距離を取った。かすり傷を負わされる程度の妖刀だったが、明らかに何かが変化していると悟っているようだ。


「守大さん、大丈夫ですか!?」

「う、うん、なんとか」


 守大の腕がぶらりと下がる。一撃ではなく、目にも止まらぬ速さの連撃を受けたことで、腕が言うことを聞いていない。それでも、ゼオンの攻撃は防いだ。ただし、あのままゼオンの攻撃を受け続けていたら、守大の腕は使い物にならなくなっていただろう。


「回復させるね!」

「ありがとう、琥珀ちゃん」


 琥珀の炎雀がすぐに守大を癒し始める。回復をしてくれる雫は、まだ眠ったままだ。琥珀がいなければ、回復手段のない守大にとっては、かなり厳しい戦いとなっていただろう。


「……ふむ」


 ゼオンは、靭たちを眺めた。本来であれば、この程度のやつらは造作もないはずだと言いたげな空気を纏っている。原因を探るために、一人一人を観察し始めた。


 靭はまだ、腕が回復しきっておらず、手出しが出来ない。琥珀と吟時も、いつもならすぐに突撃しに行くはずだが、じっとゼオンの行動を観察している。吟時と琥珀は、靭と守大とは違い、ヒット&アウェイを徹底しなければならない。強敵相手に、一度でもまともに食らえば即死の可能性さえある。迂闊には手を出せないでいた。


「ああ……」


 ゼオンが気付いたのは、響の眷属である紫色の鬣を生やした烏。烏は、常にゼオンの真上を飛行しており、自らの羽根をゼオンに落とし続けている。


「……これか」


 ゼオンが手を前に出して、炎の球体を作り出して烏に放った。しかし、烏が炎喰らっても、二体に数を増やすだけで、意味をなさない。


「なるほど……能力者を殺せなければ無駄のようだ」


 ゼオンはジッと、靭たちの観察を始める。


『響が狙われるぞ……我らを甘く見て力を抑えているというのに、あの強さだ。響がやられるのだけは、避けなければならない』


 ネメシスが靭に警告する。どうやら、まだ相手は本気ではないようだった。まだ、靭たちを諦めていないのかもしれない。ゼオンという強者から見ても、無視できる存在ではないということだ。


「分かってる……よし」


 靭の腕が回復する。先ほどよりも、力が上がっている確信があった。靭にとって腕を取られるのは厄介であったが、皮膚が裂けて骨が砕ける程度であれば問題はない。自己治癒力と琥珀の炎雀により、回復速度が上がっているからだ。


「はあ!」


 いの一番に、靭が突っ込んでいく。何の考えもない。ゼオンを倒すために、ひたすら足を動かし、手を動かす。体が壊れようとも、死ななければ、靭の勝ちだ。ネメシスも同じ。親であるゼオンを殺すことだけに集中している。見ている場所が同じなら、種族なんて関係ない。


 靭とネメシスの絆は、強固になる。


「はあああああ!」

「……ほう」


 ズガアアアアン――だから、同じ結果にはならない。拳は壊れることなく、ゼオンと同等の力で戦える。ゼオンに本気を出される前に、殺す。


 さもなくば、やられるのは靭たちだから。

 

「なるほど……やはり、殺すには惜しいな」

「ぐ……!」


 ゼオンの放つ圧が変わる。


「死んでくれるなよ」


 そう言い放ったゼオンの意思を汲むように、白い生体装甲に色が付き始める。純白が熱と光を発する赤色へと変化していく。ゼオンの体から赤い蒸気が漏れる。


 生体装甲はさらに変化していく。熱と光を発する赤を覆うように、生体装甲の外殻が黒に染まっていった。

 

 ゼオンの生体装甲が変化する速度は遅い。けれど、靭は感じていた。着実に力が変化していることに。

 

『殴れ、ジン!!』

「うおおおおおおお!!!」


 靭は、ネメシスに言われなくとも分かっていた。ゼオンから放たれる拳に熱が加わっているから。ぶつかり合うごとに、火花が散り始め、一瞬触れただけでも火傷をしてしまうほどの熱量。まるで、マグマを殴っているような粘度さえ感じた。


「く!」


 熱を発するだけでなら、まだ耐えられた。皮膚が焼かれる速度と、靭の自己治癒力と、琥珀の回復能力で、ギリギリ形を保っていられたから。しかし、ゼオンの変化が、それだけで終わることはない。


 靭の拳が徐々に押され始める。またしても、拳が使い物にならなくなってきた。じりじりと皮膚や骨が焼けていく痛みと衝撃で腕が砕けていく。一発放つごとに、歯を食いしばらなければ耐えられない痛みが靭を襲う。


「さあ、耐えてみせろ」 

「があ」


 捌けなかった。


 両腕は弾かれてしまい、最後の衝突で完全に使い物にならなくなった。


 靭の腹を、ゼオンの腕が貫通する。


「残念だったな」


 ゼオンは靭の腹から、腕を引き抜いた。


「ごふ」


 大量の血が、靭の口元から流れ落ちる。腹は焼かれているのか、血はほとんど出ていない。それほどまでの熱量が、ゼオンの生体装甲に宿っているのだろう。


 靭はそれでも、膝を地面につけないで、どうにか立っている。


「ほう、さすがの生命力か」


 ゼオンの言葉を無視して、ゼオンの生体装甲を眺めた。


 白から赤へ、赤から黒へ変化した生体装甲。心臓部で脈打つ結晶の核から全身を流れる線は、血管からマグマようなに赤とオレンジのどろりとした鈍い光と変化していた。


「……くそ」


 間に合わなかったが、耐えられた。


 なら、勝機はある。靭は、心の中でほくそ笑む。死ななければ勝機はあり、ゼオンは靭たちを欲しているように見える。殺せないのではなく、敢えて殺していない。付け入る隙があるなら、そこしかない。


「眠れ」

「が」


 ゼオンから放たれた蹴りによって、靭の体は後方へと吹き飛ばされる。けれど、威力はそこまで感じなかった。蹴られる寸前、無理やり動きを止められたような硬直を見せた。おそらく、響の声により振動だろう。靭は吹き飛ばされながらも、響の手助けに感謝する。


「はあああああ!」

「やあああああ!」

「壁よ!!」


 靭と変わるように、吟時と琥珀、守大が前に出た。


 靭は、ゼオンに立ち向かっていく三人の背中を見送りながら、迫りくる衝撃に備えようとする。しかし、来ると思っていた衝撃を背中に感じることはなかった。守大が創った空気の壁がクッション代わりとなって、響の近くで勢いを殺したのだ。


「ちょっと、生きてる!?」


 響が靭に駆け寄る。その表情は焦っていて、余裕がない。


「ああ……ぎりぎり……助かったよ」

「ほとんど止められなかったけどね」

  

 靭が声を出せば、響は安心したような表情を見せる。


「……琥珀ちゃんの炎の雀は付いてるわね」

「ああ」

「三人に任せましょう……きっと大丈夫よ」

「そうするしか……ないか」


 靭は、吟時たちとのすれ違いざま、彼らが自身の血を妖刀に吸収させていったのを確認していた。妖刀は、血を吸収すればするほど強くなる。今のところは靭の血だけではあるが、一瞬でもゼオンの攻撃を捌く力はあった。多少なりとも、吟時の手助けにはなると信じるしかない。


「戦闘の音を……聞かせて、くれ」

「……」


 響は靭の言葉には答えず、空を見上げて、何やら口を動かしていた。


「紫苑?」


 靭は、響をもう一度呼んだ。


「え、ああ、ごめんなさい。なに?」


 相当集中していたらしく、一度目は本当に気付いていなかったようだ。靭は響が何をしようとしたか聞こうとしてやめた。響が無駄なことをするとは思えなかったからだ。


「あ、ああ……戦闘の音を……聞かせてくれ、ないか」

「ええ、どうぞ」


 響は靭の願いを受け入れ、音を集める。


 三人が必死に戦う声が、靭の脳内に届く。



「はああああああ!」

「ふん」


 吟時が妖刀を振るった。しかし、軽々と弾かれてしまう。けれど、吟時は追撃する。


「ファイアスラッシュ!!」


 琥珀が吟時と合わせるようにほとんど同時にゼオンへ攻撃を仕掛ける。しかし、琥珀の攻撃を躱さずに直接体で受ける。


「かったい!!」


 琥珀の攻撃が通用しないことが分かっていたであろうゼオンの狙いは、吟時に絞られている。


「ふん!」

「きゃ!」


 ゼオンが軽く腕を振り上げれば琥珀が吹き飛ばされる。聞こえる音から察するに、ゼオンが腕に風を纏っていた。軽く腕を振っただけで、琥珀を引きはがしたようだ。吹き飛ばされた琥珀にダメージはない。守大の空気の守りが、琥珀を守ったようだ。


 しかし、厄介なことになったと、靭は思う。


 ゼオンが軽く腕を振り払った際、琥珀が吹き飛ばされるのと同時に、地面が抉られていた。つまり、吟時が戦っていた鬼のような風の斬撃も、ゼオンが使えるということだ。


「はああああ!」

「は!」


 見えない風による刃の連撃に肉薄しながら、吟時は血を流して前へと進む。吟時の血を吸った妖刀と、血を流すことで身体能力が上がった吟時の一撃は、黒い生体装甲を削っていく。しかし、まだゼオンの体から血は流れない。


「威力は上がっているようだが……この装甲を破るほどではないらしい」

「ぐ!」


 妖刀を破壊するような拳が放たれて、吟時は一度距離を取った。その追撃を許さないように、守大が間に入る。その隙に、琥珀がゼオンに迫る。


「は!」


 ゼオンは琥珀に気づいて、すぐに風で創った斬撃を琥珀にお見舞いする。


「ガブ!」


 迫り来る風の刃を、琥珀は炎で創り出した巨大な顎でそのまま喰らい尽くした。


「ふふん!」


 琥珀は獰猛にニヤリと笑うと、目にも止まらぬ速さで駆け出し、直接ゼオンの腕に噛みつこうと牙を剥く。しかし、ゼオンはギリギリでそれを躱した。


 ガキンっと琥珀の歯が、空を噛む。


「なるほど……その歯は、かなり危険らしい」

「へへ……何でも食べちゃうよ!!」


 風の刃を喰らったことで、琥珀の速さが上がったようだ。琥珀は凄まじい速さでゼオンを翻弄しながら攻撃を加えるも、次々と避けられてしまう。


「なぜ、私が君の攻撃を避けると思うかね?」

「食べられたくないんでしょ!!」

「はあああああああああああ!!」


 琥珀はゼオンの質問に答えながら、直接ゼオンの体に嚙みつこうと接敵し、吟時は琥珀の動きを予測してフォローに入りながら妖刀を振るう。


 それでも、ゼオンは二人の猛攻を簡単に捌いていく。


「答えは……君たちを殺さないように手加減するのが大変だからさ」

「ぬ!!」

「なに!?」


 そう答えたゼオンは地面を強く蹴って空へと飛んだ。


「……まずい」


 それを見て、聞いていた靭は、守大を見て叫んだ。


「マモタアアアアア!!」

「はい!!」

「うお!!」

「な!!」


 守大は吟時と琥珀の前に立ち、宙に浮かせていた大盾を構えた。宙に浮いている三つの盾を守大と琥珀、吟時のもとへ。残り三つは、靭と響、眠っている雫の元へと送られた。


「死んでくれるなよ」

 

 空に留まっていたゼオンがそう呟くと、漆黒の翼からいくつもの羽根が飛び出す。


 羽根は形を変えて、刃のように鋭く尖っていく。その数は、漆黒の翼からは想像もつかないほどの数だ。銀一色だった空が、またしても黒に染まった。


「行け」

 

 羽根の刃が、靭たちを戦闘不能にすべく次々と落下していく。


 ガガガガガ――守大が配置した大盾に羽根が突き刺さる。


「響!!」

「きゃ!」


 靭は咄嗟に、響を雫の元に隠した。盾に隠れる靭と、靭の背中に隠れる守大の盾が二枚と響と雫という配置になった。靭の盾から徐々に、羽根の刃が貫通してくる。靭は咄嗟に回復しきっていない両手を前に出す。羽根の刃を吸収するように、手のひらの中央から(ゼノ)が噴き出した。


「くっそ!!!」


 吸収しきれなかった羽根の刃は、後ろに貫通して靭と響たちの盾を襲う。


 どれほどの時間そうしていたのかは分からないが、ようやく羽根の刃の雨が止んだ。


「ふう……ふう……」

「深海、大丈夫!?」

「あ……ああ……」


 靭の体に突き刺さっている多くの羽根の刃。両腕の状態も、さきほどよりも状態が酷くなってしまう。顔にも傷がつき、スーツはボロボロで、至る所から流血している。気を失っていないのが不思議な状態だ。


「三人……は?」

「待って」


 響の能力で、靭に三人の声を届かせる。


「マモタ!!」

「守大さん……すみません」

「……」


 琥珀が泣きそうな声で守大を呼ぶ声、自身の力の無さを恨むような謝罪をする吟時。守大は二人を守るために、壊された盾の代わりに二人の盾となっていた。


 守大は靭の叫び声で反応し、どうにか防いでくれたようだ。


「気を失ってるわ……」


 響の言葉に、靭は焦りを隠せない様子で呟いた。


「……まずい、な」


 まともに相手を出来るのは吟時と琥珀だけ。吟時と琥珀では、ゼオンの攻撃を受け止め切れない。靭は無理に立ち上がろうとするが、すぐに尻もちを付いてしまう。響は慌てて靭を抑え込む。


「無理よ!!!」

「そんなこと、言ってられない……二人が」

「え」


 響が守大の方を向く。


「……」


 二人を庇うように、守大が靭達の元まで吹き飛ばされてきた。ゼオンが守大を蹴とばしたようだ。ゼオンはすでに地面に降りていて、こちらをただ観察している。


「マモタ!!」

「守大さん!!」

 

 守大の両腕には、二人が抱きしめられている。吟時と琥珀も血を流しているが、守大よりも軽症だ。

 

「守大……大丈夫、か」

「……」


 守大はやはり気絶している。それでも、二人を守るために、意識のない状態で琥珀と吟時を身を挺して庇ったようだ。影纏(シャドウ)が解けていないのは、守大の能力のせいだろうと察する。気を失えば、影纏(シャドウ)は解かれるはず。


 どんな状態でも、みんなを守りたい。その想いが、守大の能力に現れている。だが、それはあまりにも危険だ。気を失っているということは、それだけ体にダメージを負っているということなのだから。


 影纏(シャドウ)が解けない。それはつまり、守大はまた、無意識のうちにゼオンの攻撃を防いでしまうということでもあった。


「ふむ……やはり、欲しいな」

 

 ゼオンの呟きが、靭の耳に届いた。ここまでして、気を失わずに生きていることで、さらにゼオンの興味を引いているようだ。


「この野郎!!」

「待って琥珀ちゃん!!」

「離して! アイツ、絶対許せない!!」

「気持ちは分かるけど、一人で倒せる相手じゃない!!」


 響が必死に琥珀を止める。力は琥珀の方が上だが、傷を負っているせいで上手く出せていない。


「琥珀さん!!」

「っ!」


 普段、声を荒げない吟時の声が琥珀の動きを止めた。


「まずは……僕ら二人で、あれを防がないと」

「……うん」


 吟時の言葉で、琥珀が全員を見た。靭はボロボロで、守大は動かない。響は前衛のサポートがメインだ。今、戦えるのは、実質、琥珀と吟時のみ。


 そして、吟時が警戒しているのは、ゼオンの上空に浮かんでいる巨大な炎の玉。集まった炎はオレンジから赤へ、赤からマグマ色へと変化している。炎の玉は、空気を歪ませるほどの熱量を持っていた。


「あれを……どうにかしないといけません」

「少しでも削れる?」


 琥珀が吟時に尋ねる。吟時は少しだけ目を見開いてから、笑う。


「ええ、もちろんです」

「じゃあ、ワタシが喰らうよ」

「頼みます」


 吟時は琥珀の一歩前に出る。


「すみませんが、皆さんの血、吸収させてもらいます」


 吟時がそういうと、妖刀に血が集められていく。妖刀がさらに赤と黒がさらに濃く鈍く混濁した暗紅色の光を放つ。

 

「すうぅぅぅぅ」


 吟時は目を閉じて、深呼吸をしながら神経を研ぎ澄ませるように集中して、妖刀を構える。 

 

「消し炭に、なってくれるなよ?」

 

 巨大なマグマの塊が、吟時たちの元へと向かう。


 吟時は、ぎりぎりまでマグマ玉を引き付けてから、目を開いた。


「はあああああああ!!」


 妖刀を巧みに振りかざして、いくつもの斬撃を放つ。マグマ玉は、いくつにも分裂して、周りにはじけ飛んでいく。


緋喰(コタロウ)!!」


 巨大な姿のコタロウが、大口を開けてマグマ玉を喰らう。マグマ玉を飲み込んだ途端、靭たちに乗っていた炎の雀が巨大化し、靭たちの体を癒していく。


「それは、止めてもらおうか」

「ひ!」


 一気に接近したゼオンが、琥珀に狙いを定めて拳を振るった。


「……」

「マモタ!!」


 守大は気を失った状態のまま、琥珀を抱き寄せて代わりにその攻撃を受ける。


「なら、こちらだ」


 狙いを変えて、ゼオンは吟時の方へと向かう。吟時は妖刀を構えて、反撃しようとするが。


「うわ!」


 突如、体が吹き飛ばされる。


「な!」

「うそ!!」


 吟時だけでなく、その場にいた全員が吹き飛ばされた。とっさに吹き飛ばされはしたものの、吟時は高い身体能力で眠っている雫を掴んで着地する。靭は、近くにいた体勢が整っていない響を抱きしめながら背中から着地した。吹き飛ばされた時も、着地した時も痛みはなかった。


 気を失った守大が、とっさに壁を使って逃がしてくれたのだろう。壁の使い方に、感服しながらも、すぐにゼオンの方へと視線を移す。


「なら、それを喰らうまで」


 ゼオンが片手をあげて炎雀に、狙いを定める。すると、皆の元に向かっていった炎雀が、ゼオンの手に吸収されていった。


「雀ちゃんが!!」

「まずいな……」


 回復手段が消されてしまう。さきほど、琥珀が食べたマグマ玉の一部は、炎雀の能力アップに使ったのだろう。しかし、それを消失させられてしまった。


 それだけではない。


「そろそろ終わらせよう」


 ゼオンの言葉と共に、さらなる絶望が靭たちに襲い掛かる。


「なに、あれ」

「はは……ちょっと、多すぎないですかね?」


 ゼオンは宙にいくつもの炎球を生成し始める。先ほどよりも大きくはない。大きさから言って、野球ボールサイズの大きさだ。


「あれくらいなら、ワタシは喰らえる!!」


 琥珀は炎球を見て、コタロウを出そうとする。


「そら、一つお見舞いしてやろう」


 ピュン――高音と共に炎球から発射された何かが、琥珀の頬を掠めた。


「どうだ、速いだろ。お前さんが技を出す前に、貫通させてやる」

「レーザーって……それは、喰らえないかも……いや、でも……みんなが……」


 琥珀が、ぶるぶると頭を振って震える手足で構えた瞬間。


「!」


 靭が琥珀の前に飛び出した。

 

「はああ!!」

「愚かな」


 靭が両手を前に出して、黒い結晶から(ゼノ)を出して吸収しようとする。(ゼノ)を通り抜けたレーザーが琥珀に当たる直前。


「はあ!」


 吟時が妖刀でレーザーのような攻撃を弾き返した。靭が吸収したことによって数は減ったものの、それでも吟時の体を掠め、時には貫通してしまう。


緋喰(コタロウ)!!」


 全員が稼いだ時間で、琥珀はコタロウを生み出す。炎球の真横からコタロウがレーザーを喰らうように動き出す。


「待っていたよ」

「くそ……」


 炎球のレーザーを囮にして、ゼオンが靭へと肉薄する。


 ドン――掌底を放ち、靭を吹き飛ばす。


「靭さん」

「靭隊長!!」

「よそ見は、ダメだろう」

「うわ!」

「きゃ!」


 二人は後ろへ吹き飛んだ。


 気を失った守大が間に入る。


「お見通しさ」

「……」


 守大の体が凄まじい勢いで吹き飛んでいく。飛んだ先には、ゼオンが吹き飛ばした吟時と琥珀。二人は守大を受け止める。


「ぐっ!」

「ぐううう!」


 守大と体重差のある琥珀と吟時では守大を受け止め切れずに、体を地面に激突させてしまう。


「これは、詰みね……間に合わなかった、か」

「その通りだよ……烏の主殿」


 その呟きに答えるように、ゼオンが響の前に現れる。


「がは」


 ゼオンが軽く振り抜いた拳でも、響にとっては致命傷だ。気を失っていないようだが、地面に打ち付けられながら、靭達の元へと飛ばされた。響は、全身に力が入っていない様子だ。口元から、血を吐いている。


「ふむ……この娘も、預かっておくとしよう」


 ゼオンは雫を持ち上げて、皆がいる方へと放り投げた。だが、雫が傷つくことはない。守大の空気の壁が雫を包んだようだ。


 吟時と琥珀も守大に守られて、どうにか立ち上がれる。


 しかし、すでに二人とも満身創痍だ。肉体が靭と守大ほど硬くはないため、羽根の刃を喰らってしまっている時点でダメージは相当なものだった。立ち上がる気力があることさえ、奇跡と言えた。


「実に素晴らしい能力だ。深海部隊の諸君。君たちの力は、地球を侵略したあとで、存分に使わせてもらう」


 ゼオンは、そういい終えると、おもむろに上空に手を伸ばす。


「さて、それまでは眠ってもらおう。ある程度、体は壊させてもらうが、安心していい。もし治せなくとも、新たな肉体を与えてやる。それほどまでに、素晴らしい能力だった」


 上空に、巨大な岩石が生成される。もはやそれは隕石にも見えた。街を吹き飛ばすほどの威力はないにせよ、靭たちの体を壊すには十分すぎるほどの大きさだ。


「勘弁……してくれよ」


 靭はそれでも体に無理を利かせて立ち上がろうとする。


 吟時と琥珀、靭はどうにかしようと考えるも、体がふらついてしまう。


「ではな」


 ゼオンが冷酷に手を振り下ろす。


 逃げ場のない靭たちの頭上へ、巨大な隕石が無慈悲に落下してきた。

 










「やらせないよ!!」


 絶望に染まっていた靭の耳に届いたのは、聞き馴染みのある、力強い声だった。



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