第37話 分断
靭たちは、駆ける。
高速道路が建設されていたと思われる跡地を。木々は消え、道路は陥没し、破壊されて粉々になったがれきが積まれている。もはや、見る影もないとはこのことだろう。
「見えた」
靭が呟いた視線の先で、獣の姿をしたXENOSたちが暴れながら、前進している。もはや数えることすらできないほどのXENOSたちが、ひしめき合っていた。
「変異型の姿は見えない。まずは、アイツらを狩るぞ」
「おう!」
「俺が先陣を切る。仲間のフォローが届く範囲で、敵を殲滅しろ!」
靭は、簡易的な指示だけ飛ばすと、自らXENOSの群れに飛び込んだ。大群のXENOSたちからまだ距離があったはずだが、琥珀や吟時を置き去りにするほどの速さで、XENOSの中心へと突っ込む。その衝撃で、敵陣の中央に小さな空間ができる。
獣型のXENOSは靭を視界に捉えると、すぐさま行動に出る。数百のXENOSが、周りになりふり構わず靭へと一斉に攻撃を仕掛けた。
「うらあああああ!」
靭は、次々と動物型XENOSを殴り蹴り殺して回る。奴らに恐怖心はない。仲間のXENOSが殺されようと、本能のままに靭を襲い続ける。広範囲の攻撃を持たない靭は、ただひたすら手の届く範囲だけのXENOSを捌いていく。捌ききれなくとも、動物型のXENOSでは傷一つ付かない。無敵の特攻を見せる。
大量にいたはずのXENOSの群れに、さらに大きな空間ができる。その一部から「うりゃああああ」とかわいらしい声が響き、靭を中心に広がった空間に琥珀が突入してくるのが見えた。
「靭隊長ばっかりにやらせないよおおおおお!」
四足歩行で走ってきた琥珀が、動物型XENOSの合間を縫って、鋭く尖った爪でXENOSを屠っていく。ヒット&アウェイを徹底した素早い動きに、XENOSは追いつけない。琥珀は靭の場所に跳んで着地するように戻ると、XENOS目がけて両手を前に閉じた。
「がぶ!」
琥珀が短い声で叫ぶと、琥珀の目の前にいた多くのXENOSが巨大な歯に食われる。琥珀が口を動かすと、その口は連動して動いて、周りの敵を飲み込んでいく。
「うーん、微妙!」
それだけ言うと、笑顔のまま琥珀はまた周囲の敵へと突っ込んでいった。
「はああああああ!」
琥珀が作った道をさらに広げるように、吟時が刀を横に振り抜いた。その一線から黒い斬撃が放たれて、XENOSの体を真っ二つにしていく。数十体を巻き込んだ後で、反対側に同じ攻撃を放てば、大きな道が出来る。吟時は、真っ二つにしたXENOSの先にいるXENOSを殺すため、自ら前に飛び出す。
道が出来た奥では、守大が雫と響を守るように前に立つ。周りの残党が守大たちに襲い掛かるも、その攻撃が彼らに当たることはない。宙に浮かんだ盾が、XENOSの攻撃を防いで弾き飛ばしているためだ。守大の盾に守られながら、靭と琥珀、吟時が守大たちと合流する。
「深海、あんた指示が雑よ」
「本当にそう思う」
はぁ、と堕天使の姿をした響が呆れたように肩を落とす。その横で、蝶の羽を生やした精霊姿の雫が大きく頷く。靭は、頬を掻いて愛想笑いをするしかなかった。
「悪かった」
自分でもそう思っていたのだろう。見たところ変異型がいなかったため、突っ込んでも問題ないと判断した。あとは、単純に指示を出したことがないため、完全に勢い任せの発言で誤魔化したのだが、意味がなかったようだ。
考えなしの発言だと分かった響は、呆れた視線を見せつつも、ふっと肩を揺らした。どうやら、許されたようだと、靭は安堵する。
「まあ、いいわ。とりあえず、雑魚処理なら私たちに任せた方がいいわよ」
「うん、やる」
「では、僕がXENOSの注意を引き付けます」
守大は盾を操り、盾同士をぶつけて大きな音を響かせながらXENOSの群れに突っ込む。その大きな音に釣られて、周囲のXENOSが守大へと流れ込む。守大は、迫ってくるXENOSにも動じずに地面に触れた。すると、地面から土壁が音を立てて浮かび上がってきた。
「ギャアア!!」
土壁とは思えぬ強度で、守大の身を守っている。守大は、そこから盾を操り、琥珀と吟時のフォローに入っていた。
キイイイイン――突然のハウリング音が鳴り響く。響が悪魔の左手で、無線機のような手持ちマイクのスイッチを入れたようだ。響は口元にマイクを持っていき、呟いた。
「●゛●゛●゛」
「●゛●゛●゛」
「●゛●゛●゛」
言葉にならない声を出せば、周囲の眷属から衝撃波が放たれた。その衝撃波で動きを止めるXENOSもいれば、絶命したのか前のめりに倒れるXENOSが続出する。動きを止められた、もしくは倒れたXENOSの数が異常だ。目に見える範囲のほとんどの敵が、響の発した小さな声で動きを止めたのだから。
「雫ちゃん」
響が合図すると、雫が頷き、持っていた長杖を前に出す。
「茨よ」
周囲一帯の地面が黒く染まった。そこから異常な数の茨が発生し、動きを止めたXENOSたちを締め付ける。絞め殺すのかと思えば、XENOSに巻き付いた茨がどんどんと太くなっていく。逆に茨が大きくなるにつれて、XENOSがどんどんと萎んでいった。XENOSから力を吸収し終えると、茨は地面に戻っていく。
「お終い」
「これは……凄いな」
茨が消えれば、残されたのはXENOSの死体だけ。圧倒的な力を見せる雫たちに、靭は思わず目を見張った。なにせ、用意された時間はたった三日間のみ。影纏化すら危うかった五人が、影纏になってすぐに、力を存分に発揮している。
だからこそ、靭の口から素直に尊敬の言葉が出てきたのだろう。
「でしょ」
唖然としている靭の言葉に、雫は得意げに胸を張る。頭を撫でてもいいよというように、靭に向けて頭を近づけた。いつもの雫だなと思った靭は、数回だけ彼女の要望に応じる。目を細めて喜ぶ雫も、それで満足したのか、すぐ周囲に目を向けて意識を切り替えた。
「もう、ほとんど終わりだね!!」
辺りにいたXENOSを根こそぎ喰らった琥珀が、両手を頭の後ろに付けて笑う。靭は、そんな琥珀を見て、首を横に振った。
「油断するな、琥珀。この程度で終わるなら、俺たちがここに配備されることはない」
「え、そうなの?」
琥珀は、首を傾げる。真意はどうであれ、十善寺が靭に警告したのだ。この程度で終わるなら、あそこまで重たい空気にはなっていないだろう。
「私たちが送られたのは、地獄の最前線。こんな簡単に終わる訳がないわ」
苦々しい顔を見せる響が告げる。恐らくだが、出発前の靭と十善寺の言葉を盗み聞きしたのだろう。靭はそれを責める気はない。責めたところで、問題が解決するわけではないからだ。
それに、響がしんどそうな顔を見せても、全員がそうなるわけではない。
「でしょうね。これで終わりなら、物足りないくらいですし」
吟時だ。元々好戦的な彼からしてみれば、この程度では戦闘とは呼べないのだろう。吟時の表情は、これからアトラクションに乗る子供のように無邪気な顔をしている。
「そっかー! つまりさ、ワタシたちは期待されてるってことだよね!!??」
琥珀は目を輝かせて靭に尋ねた。たしかに言葉の裏を読めばそうとも捉えられる。琥珀のポジティブ思考は、どうしても殺伐とする空気を変えるにはうってつけだ。靭とは考えが真逆だが、部隊を引っ張る隊長としては、琥珀は必要不可欠な隊員だ。
なにより、今回に限っては、期待されているのも事実だ。だから、靭は素直に頷いた。
「その通りだ」
「ふぉおおお! 誰かに期待されるなんて初めてだから、超うれしいよ!」
牙を輝かせて笑う琥珀に、靭は微笑んで首を横に振る。
「そんなことあるか」
「ふぇ?」
「琥珀には、俺たち全員が期待している」
「え、まじ!?」
琥珀が皆の顔を見ると、全員がすぐに頷いた。琥珀は身震いして、グッと拳を握りしめる。
「ワタシ、ちょー頑張るよ!」
「ああ、頼んだぞ」
「はああああい!」
ビシッと敬礼する琥珀に、周りの空気が和む。
そこに、響が口を開いた。
「やる気になったところで、速報よ」
響は、そういうと、さらに開けた場所を指さした。響の言葉に、全員が響の指さした方を見るが、まだXENOSの姿は見えない。隠れようにも、隠れる場所がないため、姿を確認する方を優先した。
「……さて、今度は上手くいかないぞ」
ようやく姿が見えたところで、靭は肩を落とす。靭たちから見ても、かなりの距離だ。けれど、その姿をはっきりと確認できるほどには大きい。動物型のXENOSではないと一目で分かる。
「琥珀、吟時」
「ん、なに!?」
「なんでしょう?」
ジッと変異型XENOSを見ている二人に、靭はハッキリと答えた。
「アイツらの攻撃、お前らが喰らったらかなりヤバいから気をつけろ。最悪、一撃で即死なんてこともあり得るぞ」
靭が二人にそう伝えると、二人は互いに目を合わせてから、琥珀は腰に手を当てて、吟時はにやりと不気味に笑って答えた。
「じゃあ、当たらないように攻撃するよ!」
「では、当たる前に殺しますよ」
頼もしい返事に、靭は二人の頭をグチャグチャに撫でる。琥珀は目を細めて、吟時は少しのけぞりながらも仕方なく応じる。
「頼りにしてるぞ」
「はあああ!」
「ええ、任せてください」
前衛の二人が怖気づいていないことを確認して、今度は守大に声を掛ける。
「守大」
「みんなのことは、僕が守ります。大丈夫です、今度こそ、絶対に守ってみせますから」
言葉を掛けようとしたが、守大の方から決意の言葉が聞こえてきた。
ドン――それと同時に、守大がその場で地面に足を強く蹴りつける。すると、黒い大盾が地面から浮かび上がり二つから六つに増える。どうやら、靭まで守る気概のようだ。
靭は、守大の頼もしさに口角を上げながら、トントンと肩を叩いて告げた。
「俺は攻撃を受けたいから、守り手を増やすなら、他のやつにな」
「分かりました」
六つあった生成された大盾が、五つに変わり、一つ一つの大きさが変化した。145cmほどの身長である雫を、丸々隠せるほどの大きさだ。回復の担い手である凛が生存すれば、部隊の生存率が大きく跳ね上がる。
「任せたぞ」
「はい」
自分を隠すために背中を丸めていた守大はもういない。その横顔は、頼れる騎士そのものだ。靭は心配する方が失礼だと思い、視線を移す。
「響、雫」
「はいはい」
「ん」
靭の話を聞くために、響と雫が前に出る。
「お前らは、サポートだ。中途半端な攻撃は、やつらに効かないからな。響は倒せるなら倒してもいいが、基本的には敵の動きを止めてほしい。それと、情報を俺たちに随時報告してほしい。こちらのほうが、最優先だな」
少数で大人数を相手にするには、どうしたって目が足りない。情報は命だ。響に重荷を背負わせることになるが、それでも、最も適している人材は響だった。
響は、いつもの余裕のある笑みを浮かべず、真剣な表情で頷く。自分でも、重要な立ち位置であると理解しているようだ。
「任せて、とは即答できないけど……やるだけやってみるわ」
「ああ、それでいい」
靭ですら、即答はできない。自分には自分のペースがあるし、覚悟の言葉もそうだ。人によっては、頼りないかもしれないが、響の性格を知る靭は、その答えが聞けただけでも十分だった。
そして、靭は、最後に雫を見る。
「雫、お前が部隊の生存率を左右する。敵の足止めは二の次でいい。とにかく、傷を負った仲間を助けてほしいんだ。俺には自己回復があるから、本当にヤバい時だけでいい。全員を見てやってくれ」
靭は、緑色をベースとした四色の玉模様が浮いている雫の瞳を、見つめて言葉を告げる。靭のためなら、全てを捧げる覚悟がある雫だが、それは靭の命を優先するだけで、靭が本当に望んでいることをするとは限らない。
だからこそ、靭は、目を合わせて、噓偽りがないか確認すべく、そう伝えた。
「うん、もちろん。誰も死なせない。わたしは、部隊のみんなが好きだから」
靭の瞳を見ながら、一切視線を逸らさずに言い切る。靭は、雫の覚悟を受け止めて安堵するような顔を見せた。これなら大丈夫だ、と確信する。靭の中で、雫はすでに、靭だけに依存する凛の代わりをしていた雫ではなくなったのだろう。
「なら、しっかりと頼むな」
「うん……任せて」
靭は雫の髪を数回撫でてから、前衛組の前に戻り、全員を見渡す様に振り返る。
「第二ラウンド開始だ」
「おう」
靭の言葉に、全員が頷き返事をした。
靭はそのまま、前衛の二人に指示を出す。
「ご挨拶程度に、俺が何体か屠る。琥珀と吟時は、好き勝手に暴れ回っていい。あんまり激しく立ち回って、XENOSに目を付けられないようにな」
「りょうかい!」
「善処します」
「うし、先陣を切る! 距離を離してついてくるように」
そういうと、靭は颯爽と前に飛び出す。
「よっしゃああああ!」
「やってやりますよ」
靭の指示に従う二人は、しっかりと距離を離して靭に付いていく。指示を無視せず飛び出さない琥珀と吟時を見て、これなら問題ないと判断する。出来る限り、二人のフォローに入るつもりだが、可能なら一体でも多く屠りたいのが、靭の正直なところだ。
だが、その考えはすぐに消えた。
「盾だ!」
「これは、ありがたいですね」
琥珀と吟時がそれぞれを口にしている。靭の考えを読むように、守大の操る大盾が、琥珀と吟時の頭上を飛んでいる。二人のフォローには自分が入る、そう言われているかのようだ。靭は、思わず笑みを浮かべたが、すぐに表情を切り替える。
「……前衛と後衛に分かれているのか」
靭はすでに、XENOSに攻撃を当てられる範囲に入っている。靭の前には、前衛には第一変異型がずらりと並んでいる。第一変異型の姿かたちは様々で、多本腕で筋肉粒々のXENOSや、腕を壁のような形にしている防御型であろうXENOS、足の筋肉が異常に発達している速さ特化のXENOSだ。
「……厄介なのがいるな」
前衛に守られながら、後方にいるのは第二変異型のXENOS。腕が銃のようになっているXENOS、背中に大筒のような見た目をした部位があるXENOSといった、見ただけで中遠距離型のXENOSがいる。この場にいる例外は一体だけ。体全体が、丸々としていて、一見前衛型にも見えるXENOSは、広範囲攻撃の自爆型だ。ある程度の衝撃を与えてしまうと、爆発する仕掛け。自爆型が地形を変える要因だとも言われている、厄介なXENOSだ。
「まあ、でも、まずは手前だ!!」
動物型のXENOS同様、中央に入りヘイトを買うつもりだったが、爆弾タイプのXENOSがいるため、靭は正面突破で挑むことにした。
「ネメシス!」
『ああ、やろう』
靭が相棒の名前を叫ぶと、靭の足に力が溜まっていくのが分かる。三日間、敵からの攻撃を受けた靭は、力を解放せずに戦っていた。
その力を今、解放する。
ズガアアン――地面を蹴っただけで、地面が大きく抉れる。後ろにいた琥珀と吟時の姿が、土埃で姿が消えてしまうほどの衝撃だ。後ろから、少しだけ文句が聞こえたが、靭は気にせず数体のXENOSに狙いを定めた。
「おらあああああ!」
「GIIIIIIIIIII!!!」
速さ特化のXENOSだ。以前、戦闘した際、強化された靭の腹を抉ったほどの力を持っている強力なXENOSだ。足に力を入れるための時間が必要なため、すぐには動けないが、動き出したら止まらない。琥珀と吟時を一撃で殺せる相手は、徹底して屠っていく。
とはいえ、一人で相手にできるほど、変異型のXENOSは弱くない。
「BAAAAAAAAAAA!!!」
「GIIIIIIIIIII!!!」
「GYTRARARARARA!!!」
靭の攻撃に気付いたXENOSたちが、靭に向かって一斉に群がってくる。
ダダダダダ――機関銃のような轟音が周囲に響く。第二変異型のXENOSが、第一変異型のXENOSの合間を縫うように銃撃を仕掛ける。
『無視だ』
「了解」
ネメシスが、靭に指示を出す。無視、つまりは、攻撃されても痛手はないということだ。ネメシスの言葉通り、靭の体に第二変異型の銃撃が当たると、体から弾かれていく。BB弾が体に当たった程度の痛みは、あるもの、その程度の痛みであれば、靭には問題ない。
「おらああああ!」
「BAAAAAAAAAAA!!!」
「GYTRARARARARA!!!」
XENOSの攻撃を弾きながら、即座に接敵し、XENOSの足を狙って、思い切り蹴っていく。接近型の対処としてまずは足を潰す。移動手段が無くなれば、やつらはただの硬いだけの物に過ぎない。三日間、相手をどう無力化するか考えていた靭なりの対処法だ。
「がぶ!」
少し離れた場所から琥珀の元気な声が響いた。琥珀の声が聞こえた方を見れば、琥珀の影が多本腕XENOSの腕を食い千切っているところだ。ただ、さすがに、一撃では倒せない。数体のXENOSを相手にしているため、一度距離を取って動き回り、反撃の隙が出来れば、また噛みに行く。ヒット&アウェイの動きを徹底している。避けることが難しい機関銃の攻撃は、守大の盾が防いでいるおかげで、琥珀にダメージはない。
「はあああああ!」
吟時は、数体を相手にしながら、紙一重の動きでXENOSの攻撃を躱して、切り伏せていく。二本の刀が流れるように動き、XENOSの首を的確に当てている。こちらも、一撃とはいかないが、二回連続攻撃だ。一度でXENOSの硬い体に傷を入れて、そこを的確に、二本目の刀で致命傷とする。避けれない攻撃は、避けずに、守大の盾を信頼しての追撃。一人だけで倒すという執着が消えた吟時は、やりたい放題に敵を殺している。
「これは、負けてられんな」
靭は、琥珀と吟時が相手にしている多本腕と盾腕XENOSを避けて、脚力特化のXENOSに狙いを定める。すでに動き回っているであろう脚力特化のXENOSだったが、そいつらはその場で身動きが取れずに固まっていた。
「はは、さすがだな」
脚力特化型の足を封じているのは、雫の茨と、そのサポートをしているであろう響のスピーカー眷属が周囲を囲っている。靭は、ニヒルに笑いながら、脚力特化型XENOSを、次々と殺していく。
前衛が暴れて、後衛がサポートに徹する。一人では時間が掛かったXENOS退治も、頼れる仲間がいることで、数が多くても対応できる。
いきなりの部隊戦であったが、どうにか戦えていることに、そっと息を吐いた。
「これなら」
靭は次に狙いを定める。周囲を巻き込むもっとも厄介な広範囲攻撃、自爆型XENOSだ。前衛が減れば自ら前に出れるほどの肉体もある。それ以外の爆弾型や銃撃型も、仲間がいる状況では厄介な存在だ。一人であればある程度の無茶は出来るが、仲間を巻き込んでしまう範囲攻撃持ちのXENOSは、部隊戦では相性が悪い。
「っち、いきなりか」
靭が懸念した時には、すでに背中に大筒のような部位を持つXENOSが爆弾を発射していた。周囲を巻き込む威力であり、第一変異型のXENOSでさえも、巻き込まれれば戦闘不能になる。接近型諸共、やってしまおうということだろう。
靭が、琥珀と吟時に向けて、声を張り上げようとしたとき。
「●゛●゛●゛」
「●゛●゛●゛」
「●゛●゛●゛」
聞き覚えのある声にならない音が、周囲に響いた。
ドカアアアン、ドカアアアン、ドカアアアン――放たれた爆弾が、次々と空中で爆発し、暗い空を一時的に明るく照らしていく。音の正体は、琥珀たちの近くを飛んでいた響の眷属だ。状況を即座に判断して、爆発を空中に留めてくれたのだ。その対応は、まさに完璧なサポートだった。
「いや、本当にありがたいね」
靭は、幾度となく爆弾を発射する爆弾型のXENOSに接敵する。
「遠距離特化は、豆腐なみに脆いってな!!」
靭が拳を放つと、爆弾型の頭がはじけ飛んだ。爆弾とXENOSは繋がっているのか、放たれた爆弾は爆発せず、ただの黒い球として転がっていく。
「琥珀、吟時、第二型優先だ!」
「はあああい!」
「もちろんです」
琥珀と吟時に指示を出してから、靭はさらに後ろに隠れている三体の自爆型へと向かう。
「さて、どうするかな」
一体だけであればまだしも、三体同時に倒す方法は、靭にない。被害を拡大させずに、自爆型を殺す方法を考えると。
『ジン、手のひらの黒い結晶は、どんなエネルギーでも吸収できる。先日もやってのけただろ』
「だよなぁ……」
両手に埋め込まれた黒い結晶を見て、溜息を吐く。先日の戦闘でも、ネメシスに言われたことを実践したからこそ、やりたくない気持ちが大きいのだろう。
「痛いんだよなぁ……」
『痛み無くして、成長などあり得んぞ』
「正論だな……」
またさらに深くため息を吐きながらも、呆れながら頬が緩んでいる。痛みを我慢するだけで、仲間を守れるなら安いものだと思っているかのように。
「んじゃ、覚悟しますか」
自爆型の前に立つ。第二変異型の自爆型は、衝撃を入れてすぐに爆発するが、人が目の前に来ても自爆してこない。ならば、放置すればいいだけだが、ある程度時間が経つと爆発する。それも、時間が経てば経つほど、自爆型の大きさが増す。それに伴い、威力も増して、さらに範囲が広くなるのだ。見つけ次第、自爆させることが、もっとも被害が少ない。
「bububububububub」
ハエの羽ばたき音をさらに低くして、くぐもったような音を出している。聞いているだけで不快にさせる音は、勢いあまって叩きたくなる音だ。
「うし、いくぞ……」
靭は、息を吐いてから、自爆型の体に手を突っ込んだ。自爆型の体はそこまで硬くないため、簡単に手を突っ込むことに成功した。
「BUUUUUUUUUUU!」
靭が自爆型の体に手を突っ込んだとたん、自爆型の体が真っ赤に染まる。そして次の瞬間には体が弾け飛んだ。しかし、爆発した体から生まれた超高熱エネルギーは、靭の手の黒い結晶に吸収され、影に包み込まれていく。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」
超高熱エネルギーを抑え込んでいる影は、靭の腕まで飲み込んでいる。それはつまり、靭は爆弾の吸収が終わるまで、この超高熱に耐えなければならないということだ。
皮膚が一瞬で炭となり、筋肉が白く焼け焦げ、骨が浮き出ている。自己回復をしているせいで、痛みは延々と続く。声を張り上げながら、どうにか痛みに耐える。一瞬でも気を抜けば気絶してしまうほどの痛みに、靭は叫ぶことで耐え続けた。
そんな痛みに耐え続けて、数分。靭の中では途方もない時間を過ごしたように感じて、ようやく一個目の自爆処理が終わる。腕は幸い残っているが、ほとんどが炭と化していた。腕の形状を保っているのは、自己回復と、骨のガントレットが靭の腕の形を維持させているからに過ぎない。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
大量の冷や汗と、涙と鼻水を出しながら、地面に倒れることなく突っ伏している。
「ああ……あと二体か……」
『いや、朗報だぞ、ジン』
「なにが」
若干切れ気味の靭が、ネメシスの言葉に反応する。
『次は、消し炭になることはない。連続で対処できるぞ』
「鬼か……お前は」
『いや、我は復讐の修羅だな。復讐のためなら、どんなこもさせるぞ』
「……ああ、うん、そうか」
もはやどうでもよくなった靭は、治った腕をさらに酷使して自爆型の被害を最小限に抑えつつ、汗と涙と鼻水を出しながらどうにか残りの処理も耐えきるのであった。
靭が自爆型と格闘している間に、琥珀と吟時が善戦し、変異型のXENOSを殲滅することに成功。
靭が最後の自爆型の攻撃を吸収しきって倒れる直前、吟時と琥珀に足と胴体を持たれながら、雫の元へ緊急搬送された。
「ああ、痛かった」
「ねえ、馬鹿なの?」
靭の行動に、響が罵る。それは、もう、真顔で。半分悪魔のような姿になっている響の姿は、ほとんど本物の悪魔だと、靭は思った。
「誰が悪魔よ……本気で殺すわよ?」
「本当に、すみません」
心を読まれてしまった靭は、素直に謝罪した。
「終わった」
「ありがとうな……助かったよ、雫」
「うん」
雫は靭の腕を掴んで自分の頭に乗せた。撫でてくれと賢い犬のように求めてくるので、素直に応じる。いつもの淡々とした表情で目を細めているのを見て、靭が大怪我しても精神が不安定になることはなくなったようだ。
雫もまた、成長していることに、靭は安堵しつつ、響に話を聞く。
「数キロ周辺に敵はいないか?」
「ええ、確認してるわよ」
「ありがとう。助かるよ」
雫の頭から手を離して、ホログラムを展開する。地図を眺めている雫が、靭に聞く、
「次は、どこ?」
「次は、南の方のこの辺だな」
「ねえ、少し、休憩してから行きましょう」
「そうだな」
ホログラムで位置を確認してから、響の提案を受け入れる。無理して連戦する必要はない。靭にとっては、戦いを急いで終わらせるより、全員で生き延びる方が重要だからだ。
「ふうう、疲れたねえ!」
「お疲れさま、琥珀ちゃん」
「守大もお疲れなー!」
まったく疲れてるようには見えない琥珀だが、本人は疲れているらしい。いつものように、守大が琥珀を労う。ここは相変わらずの仲の良さである。
「吟時は、疲れてないのか?」
一人で突っ立っている吟時に声をかける。
「ええ、まあ。それほど疲れてませんね……あの人との修行の方がきつかったですから」
「なんか、ごめん」
「い、いえ……」
吟時は何とも言えない顔で乾いた笑みを見せた。思い出したくないことを思い出させてしまったらしい。
「あ、怪我してる」
腕に怪我をしている吟時に、雫が近寄った。
「ん、ああ、本当ですね。気付きませんでした」
吟時はまったく気付いていなかったようで、少しだけ驚いているようだ。
「ちゃんと、気付いて。小さい傷も馬鹿にできない」
「そうですね……ありがとうございます」
「ふふ、素直になったわね、吟時君」
「あ、ちょ、それはやめてくださいよ!」
素直に雫に治療される吟時を見た響が、揶揄うように吟時の頭を雑に撫でた。吟時は響の手を振り払おうとするが、響が手を止めることはなかった。
少しだけいつもの空気が戻ったことを確認して、靭が座るのにちょうどいいサイズの石が転がってる場所へ向かった時のことだ。
「ん?」
靭の背後に誰かの気配がした。後ろから誰かが来たのかと思った靭が、映りこんできた何かを確認するために振り返ろうとして。
「敵だああああああ!!」
琥珀が全力で叫んだ声が聞こえる。
振り向いた先には、靭たちのちょうど中心に、巨大なアイアンメイデンのような形をした物体が三つ現れていた。気配も何も感じなかった。気が付けばそこにいたのだ。
響の音による索敵を搔い潜り、どこからともなく突然姿を現した。
「さんかあああああああい!!!」
靭は、アイアンメイデンからすぐさま距離を取りながら、全員の安否を確認する。
「うりゃあああああああ!!!」
琥珀は、守大を持ち上げて後ろに大きく飛んでいる。
「二人とも!!」
吟時も、響と雫を抱えて後ろへと飛んだ。ひとまず、靭は、全員が無事であることを確認した。
そして、もう一度、アイアンメイデンに視線を戻すと。
「な!?」
ブオン――三つのアイアンメイデンの目から、光が照射され、気が付けば、アイアンメイデンを頂点とした光の壁が、数十メートルはあるピラミッド型で生成されていた。
「……分断されたのか」
左には、吟時と響と雫。右には琥珀と守大。孤立したのは靭だけのようだ。
『結界のようなものだな……強度を確認してくれ』
ネメシスがそう言うので、靭は光の壁に触れる。コンコンと叩いてみた感触から、破壊は不可能なほどの強度が確認される。
「壊せるか?」
『無理だな。破壊不可と言っていい……あれを倒さない限り』
アイアンメイデンは、結界を展開してから動く気配はない。光の壁が破壊不可ということは、ネメシスの言うとおり、アイアンメイデンを壊すほかないだろう。
「襲ってくる気配はないが……」
どう考えても罠のため、不用意に近づくのはまずい。
「これって、どの変異体なんだ? それとも、宇宙人側のそういうアイテムなだけか?」
靭が色々と考えているときだ。
「ん?」
ガシャン、ギイイイイイ――アイアンメイデンが開いた。
「ああ……そういう」
逃げ場のない空間で、確実に人を殺すために開発された物体なのだろう。まだ姿は見えないが、ゆっくりと何かが動く音が聞こえてくる。
そして、それが姿を現した。
「まずいな……」
靭は思わず冷や汗を掻いて、アイアンメイデンから出現したXENOSを見ながら呟いた。
大きさは2mほど、姿は人だが、ところどころ異なる。
亜人、と言った方が正しいのかもしれない。
顔の骨格は肉食恐竜そのもので、口が異様に長く歯が鋭い。全身には鱗が硬質な装甲のように重なり合っている。背中は曲がり、ダラリと腕を下げ、剣のような刃物が手の代わりになっていた。服装は、鎧のように形成された黒い結晶だ。
特筆すべきは、周りに浮かんでいる尖った岩だろう。恐らく、自在に操れるのだろう。魔法のようなものまで使えるようだ。亜人のような姿で、何かしらの能力を使う。
靭も、実物を見るのは初めてだ。
今まで出会わなかったタイプのXENOS。
「第三変異型……」
呟いた言葉は、結界内に留まり、ネメシス以外には聞こえない。
第三変異型――第一、第二とは比較にならない強さを持つXENOSである。




