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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第二章 XNFA--ゼノファ--

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閑話 普通じゃないワタシ&僕は化け物


◆◆◆◆普通じゃないワタシ◆◆◆◆


 久しぶりに、夢を見たんだ。


 でも、夢じゃなくて、それは過去の記憶だった。


 嫌な過去。忘れたい記憶。


 だって、みんなが、ワタシを普通じゃないって指さすの。


「○○ちゃんはどうして、そんなことも覚えられないの?」

「○○ってさぁ、変な奴だよな」

「○○、普通はこうやるんだよ」

「○○、みんなこうしてるんだから」


 みんなが、みんな、ワタシに【普通】を押し付けてくる。人と覚えるペースが遅いだけなのに、どうして急かすの。ワタシは普通に生きてるだけなのに、どこが変なのかな。普通ってなに。普通の基準は誰が決めてるの。みんなと同じことしないといけないのは、どうして。【みんな違って、みんないい】って言葉があるのに。


 普通

 ふつう

 フツウ

 クツウ

 くつう

 苦痛


 いつからか、普通という言葉が嫌いになった。


 いつからか、みんなの普通が、ワタシの苦痛に変わった。


 みんなが、みんな。ワタシを馬鹿にする。


 学校は、窮屈だった。


 でも、書道や、図工、美術の時間は好きだったの。みんなと違っても、いつも困った顔の先生から褒めてもらえる。同級生も、褒めてくれたから。


 でも、それが終われば、また苦痛が帰ってくる。 


 どうにか頑張って、【普通】になろうとした。あんまり話さないようにしたし、みんなに合わせたの。同じタイミングで笑って、給食が足りなくても『ごちそうさま』をする。分からないところがあっても、授業を止めない。空気を読むのは……よく分からなかったけど、必死だった。


 でも、駄目。


 頑張って合わせても、みんなのように普通にはなれなかったから。


 ワタシなりに頑張ったせいかな、そこからもっと疲れたの。だって、頑張っても頑張っても普通じゃないって言われた。どうしても、他の人と合わせることができなかったの。


 女の子と遊ぶより、男の子とゲームしたかったのに、それじゃあ駄目なんだって。

 嫌なことは、嫌。好きなことは、好き。なんで、それじゃあ駄目なのかなぁ。

 陰で悪口を言うのって、何が楽しいんだろう。全然分かんない。

 空気を読むって何だろう。空気は吸うものなのに。

 どうして、そんな目でワタシを見るの。ワタシは人と何が違うんだろう。


「……学校、行きたくない」

 

 いつからか、学校に行くのが怖くなったの。だって、みんなが敵だから。普通じゃないって、笑ってくるから、本気で困らせちゃうから、怒らせちゃうから。


 そんな、ワタシに、ママは優しかった。


『普通じゃなくていいじゃない。あなたは、あなたよ。○○』


 でも、みんなは認めてくれないよ?

 みんなは、ワタシを見てくれないし、馬鹿にするし、笑ってくるよ?


『大丈夫。○○はいい子だ。きっと、いつか分かってくれる人がいるさ。パパもね、みんなとは違う人生を歩んできたからね』

 

 いつかって、いつまで待てばいいの?

 みんなと違う人生って何?

 みんなはみんなでしょ。人とは違う人生なんて、当たり前じゃない。


「……分かんない」


 無責任だなって思っちゃったの。ママとパパは、ワタシじゃないから。ワタシみたいに弱くないから。


 学校に行きたくないって言ったら、いいよって言ってくれたの。その分、好きなことをしなさいって言われた。だから、絵をたーくさん描いたの。


 ママも、パパも、褒めてくれたの。でも、それで終わり。


 描いて、食べて、眠って。


 食べて、眠って、描いて。


 眠って、描いて、食べて。


 本当に、これでいいのかなって思っちゃう。高校にはどうにか進学できた。そこは小学校や中学校とは違って、好きなことがたくさんできる場所だったの。もちろん、勉強はしないといけないけど、少しだけついていけた。どうにか友達もできて、退学にならずに済んだ。


 でも、高校を卒業して絵の専門学校に行ったけど、なんかまた駄目で。結局、専門学校にも行かなくなり、何をしていいか分からなくてニートになった。


 働いてみようとも思ったよ。人生初のアルバイトは悲惨なものだったけど、お金が欲しかったから働いた。でも、いつも周りを怒らせるし、呆れさせるし、最後にはクビになったけど。

 

 あと少しで20歳なのに、自立できないワタシのせいかな。家の中も、あんまり居心地が良くなかった。


 学校、社会、家。


 すべてが窮屈だった時、Vstar(ブイスター)を見つけたの。


「おはよー、赤月カルだよーん」


 耳の生えた赤い髪と、ふさふさの尻尾。


 ワタシが好きなVstar(ブイスター)、獣人姿の赤月カルちゃん。


「普通ってさぁ、分かんないよねぇ」

「アタシもさ、苦労したよぉ」

「でもさ、こうしてVstar(ブイスター)になれたし、結果オーマイガーだよね」

「ん、ああ、結果オーライね。ごめん、ごめん」


 ワタシと同じ悩みを持っていたカルちゃん。


 ワタシだけじゃないっていう安心と、ワタシにも、やれることがあるんだなって気付けたの。おすすめのアルバイトも知れたから、似たような場所で働いたよ。意外と、上手くやれたの。やっぱり、怒られたけど、クビにはならなかった。


 少しだけ、世界が生きやすくなった気がした。


「アタシも、自由に生きるの」

 

 この日から、アタシは生まれ変わった。


 赤月カルのように振舞えば、本当のワタシは傷つかないから。


「……あれ?」


 ……そういえば、本当のアタシの名前って、なんだったっけ?


「ワオン!」


 ……コタロウだ。アタシが飼ってたペットのワンちゃん。


 あれ……どうして、いままで思い出せなかったんだろう。コタロウって名前なのに、大型犬のゴールデンレトリバー。ふさふさの毛で、優しい心のワンちゃん。小さいころからずっと一緒のコタロウ。


 アタシが辛いとき、泣いてるとき、悲しんでるとき、ずっと傍にいてくれた。一番の仲良しさん。温かくて、いい匂いで、ぎゅっと抱きしめると抱きしめ返してくれるコタロウ。


 今でも大切な家族なはずなのに……。


「……あれ……なんだっけ」


 なにか、大切なことを忘れてる気がした。

 

 でも、思い出せない。


「まあ、でも……」


 思い出せないなら、きっと、そこまで大したことじゃないよね。


「いいや」


 大切なことなら、きっと、後で思い出すよ。


 アタシは、アタシ。


 赤月カル。


 それでいいの。


『主よ、本当に、それでいいのかい?』


「え?」


 なんだか懐かしくて、聞いただけで泣いてしまうようなお姉さんの声が、聞こえた気がした。




 

◆◆◆◆僕は化け物◆◆◆◆


「守大はデカいな!」

「男の中の男だよ」

「やっぱ、デカいって、ロマンだよな」

「そ、そうかな」


 子供の頃、みんなというか、男友達から好かれていた自負はある。体格も大きいし、人より力持ちだったし、体力もそれなりにあったから。


「威圧感ヤバいよね」

「本当に同い年かなって思うよ」

「ちょっと怖いよね」


 案の定、女友達はいなかった。何もしてないのに、怖がられた。きっと、母親譲りの目つきの悪さと、父親譲りの大きな体を引き継いだせいだろう。僕にはどうしようもないから、なるべく威圧感を出さないように、いつも縮こまっていた。好かれるための努力というやつだ。


 あまり意味が無かったけども。


「よお、守大、元気かぁ?」

「さつきお姉ちゃん」

「相変わらず、でっけぇわりに委縮してるな、お前! 男なら、シャキッとしろ、シャキッと!」

「う、うん」


 ガッハッハと豪快に笑うのは、高校生の沙月お姉ちゃん。お姉ちゃんはヤンキーらしくて、髪は金髪だ。ピアスもたくさん耳に着けてる。制服のスカートも短い。心臓に悪いのを覚えてる。


 中学校の塾の帰り道、変な人に絡まれてる沙月お姉ちゃんを見つけた。僕が声をかけたら、変な人は逃げていったよ。どうやら僕の顔が怖いかららしい。そこから、見かけたら声を掛けてくれるようになったんだ。


「お前、高校はどこ行くんだよ」

「え、南部高(なべこう)だよ」

「んだよ、頭いいとこかよ。アタシと同じところ来いって!」


 全然頭のいいところではない。普通だ。それに……。


「……沙月お姉ちゃんとは入れ替わりになっちゃうよ」

「あー、それもそうだな。スカートいるか?」

「い、いらないって」


 ガッハッハといつも楽しそうに笑う。正直、同級生の女子から嫌われてる僕には、沙月お姉ちゃんは、魅力的だった。とはいえ、自分には見合ってないから、告白することはなかったけど。


「守大、お前高校生になったら、アタシと遊びに行こうぜ」

「え」


 まさかの言葉に、固まった記憶がある。懐かしい。あの時の沙月お姉ちゃんの笑顔が忘れられそうになかった。それから中学を卒業して、高校に進学。やっぱり女子からは好かれてなかったけど、男子には変にモテた。


「え」


 沙月お姉ちゃんから、連絡が入って、本当に遊びに行くことになった。異性と出かけた事がなかった僕は、内心でびくびくしてたし、ちょっと小躍りもしている。内気なところは母親譲りだなと、父は豪快に笑っている。


「よお、守大。ほんじゃあ、行こうぜー」

「う、うん」


 お姉ちゃんは、なんというか、綺麗だった。服装はファンキーだったけど、顔がいいからかもしれない。南部高の友達は『もっとお淑やかな子がいい』って引き気味だった。


 けど、僕は、かっこいい沙月お姉ちゃんが好きだ。


 遊びは、とても楽しかった。人生で一番と言ってもいいかもしれない。いや、言える。間違いなく、そうだった。


 それから、二人で何度か遊びに行ったけど、進展はない。僕に、そんな度胸はないから。なんだか、こき使われる弟みたいだなって思ったこともない。まあ、でも、その場合は役得だからいいけども。


「それでさぁ」

「でも、それって」

「おい、守大。女の話を遮るのは、ダメだって教わらなかったか?」

「ああ、うん、ごめん」

「へへ、許してやるよ」


 沙月お姉ちゃんはいつも楽しそうだった。今は、専門学校で上手くやっているみたい。パティシエになりたくて、努力してるとか。毎日が楽しいのは、少し羨ましいなと思った。


 そんなこんなで、ほどほどに楽しめるくらいには、毎日が過ぎていく。




 僕は高校二年生。沙月お姉ちゃんが20歳の時だ。


「離せって!」


 沙月お姉ちゃんが今度は酔っ払いに絡まれてるのを見かけてしまった。金髪だからか、それとも容姿のせいなのか。良く絡まれるなぁと思いながら、僕はもう一度、助けに入った。


「守大!」

「んだてめぇ、やんのか、ゴラア!」

「……は、はぁ」


 正直、自分よりも身長も体格も劣っている相手を、怖いと思ったことはない。馬鹿だなぁとは思ったことがあるけど。


「うらあ!!」

「……はぁ」


 僕はかなり頑丈らしく、正直、体を殴られても痛くも痒くもない。でも、顔に怪我の痕を付けると、母と沙月お姉ちゃんが心配してしまう。


「ほい」

「うああ!!」


 軽く押しただけでこれだもんな。そこまで大げさにならなくてもいいのに。


「帰ろう、姉ちゃん」

「助かったぜ、守大! コイツ、変に絡んでくるからよ!」

「沙月お姉ちゃんって、本当にそういうことあるよね」

 

 沙月お姉ちゃんがそういう事件に巻き込まれることは多々あった。もう、僕はボディーガードみたいな扱いになっていたようだ。


「ガギガアアアア!!!」


 酔っ払いではなく、危ない人だったらしい。どうしてこう、裏路地って酒瓶とか置いてあるんだろうね。正直、余裕で耐えられそうだったから、その瓶ごと受け止めてやろうと思ってたんだ。


 でもさ、普通の人はそう思わないよね。


 僕は勘違いしてたんだ。【僕なら平気だ】って分かっているのは、僕以外にはいなかったって。


「マモタアアア!!」

「へ?」


 ゴッ――鈍い音だ。酒瓶に中身が入っていたらしい。ドラマのように、酒瓶が激しく割れることもなかった。


 僕の前に割って入ったのは、沙月お姉ちゃんだ。頭から血を流して、倒れている。


「へ、へへ……ざまあねぇ」

「!!」


 その時のことは、断片的な記憶でしか覚えていない。獣のような叫び声と、男の断末魔、女性の悲鳴も聞こえた気がする。写真のような記憶に残っているのは、ボロボロに砕けた歯、ひどく腫れた目、血まみれの男。


 生きている意味のない人間って、無駄にしぶといなと思えた。


 気が付いたら、僕は目の前の男を半殺しにしていたようだ。


「化け物だ」

「なに、あれ」

「どっちが被害者?」


 警察に捕まったのは、僕の方だった。でも、結局、頭のおかしい男のせいだと、野次馬たちが情報提供したらしい。まあ、高校の服を着ていたし、酒瓶にも指紋がついてたから、当然か。


 その酒瓶のせいで沙月お姉ちゃんは病院に運ばれて、意識不明の重体だった。


 沙月お姉ちゃんの両親とは、面識があったから、頭を下げられてしまう。また、うちの子が、と。僕は謝ってほしいわけじゃなかったのに。


 あの後、沙月お姉ちゃんが目を覚ましたかどうかは、僕は知らない。


 知るのが怖かった。


 学校に呼ばれた日。たまたま出会った一部の友人だけは『よくやった』と褒めてくれたよ。といっても、他からは化け物を見るような目で見られたけど。SNSに動画が拡散されていたからね。たしかに、あれは化け物だ。沙月お姉ちゃんの容態を気遣うよりも先に、目の前の人間に我を忘れて暴力を振るってしまったんだから。


 学校は、退学になった。暴力沙汰を起こしてしまったから。地元から姿を消した。マスコミが来たり、近所の人たちの冷やかし。とてもじゃないが普通に暮らしていけなかった。


 両親には土下座する勢いで謝ったけど、『お前は間違ってない』と言われてしまったよ。間違えてるに決まってる。相手はゴミみたいな人間だけど、それでも人だから。社会はきっと僕を許さない。


 幸いだったのは、料理の仕事ができたこと。母方の祖父母が旅館を経営していたからだ。そこに僕ら家族を匿ってくれたし、本当にありがたかった。


 でも、正直、犯人の男を殺せばよかったなとも思っている自分がいる。


 あいつは、また、誰かを傷つけるから。


 でも、そのとき、ふと思った。

 

「それは……僕も同じだ」

 

 怒りが限界に達した時、僕は何をするか分からない。


 結局、最後は暴力に頼ったのだから、あの男と一緒だ。


 学校の人が言うように、僕は化け物。


 でもさ、人があんなに脆いなんて、知らなかったんだ。


 だから、つい、やりすぎてしまった。


 僕はきっと、周りから見たら恐怖の対象なのかもしれない。


 だから、身を縮めて、話し方も変えた。


 怖がられないように、頼りなく見えるように。


 そうすれば、そこまで怖がられなくて済むと思ったから。


「……そういえば……僕ってそういう人間だったな」


 どうして、今まで忘れてたんだろう。

 

 どうして、今になって思い出したんだろうか。


『人を守る……力が欲しいか?』


「え」


『大切な人を守る、力が』

 


 独特の渋みと迫力のある掠れた声が、部屋中から聞こえてきた。


明日も閑話です。


本作は【毎日18時】に最新話を更新しています。

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