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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第二章 XNFA--ゼノファ--

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第31話 XNFA-ゼノファ-「ようこそ……地獄の最前線へ」


「じゃあ、深海靭、影纏(シャドウ)を解いてね。話したいことがあるんだ」


 十善寺の言葉に、靭は頷いた。靭としても、聞いておきたいことがあるから。


「わかった。頼む、ネメシス」

『ああ。では、また会おう』


 ネメシスは、素直に言うことを聞いて、影纏(シャドウ)を解いた。ボロボロの白い服の靭が現れる。十善寺は、じっと靭を見ると、腕を組んだ。


「さすがに、その格好は駄目かな。着替えよっか!」

「頼む」

「といっても、着替えはここにないから、上の階に行こう。

もう、このドームに要はないし、ついてきて!」


 元気なのは相変わらずだが、アナウンスの時のような狂気が感じられない。あれは演じていたのだろうと、靭は思った。ただただ狂ったやつが、上に立てる人間だとは思えないからだ。


 十善寺の様子を観察しつつ、靭は軍人たちが出てきた扉に入る。


 廊下もまた、無機質な作りでできていた。今までと違うのは、軍人がそこらにいることだろう。みな、作業に追われているのか、靭に興味を示すことはない。


「人がいることに驚いたかい?」

「いや、思っていたより、いるんだなと」

「前はもっといたんだけどね。みんな、死んじゃったんだ」

「……そうか」


 重たい話だが、それが日常なのだろう。この小さな背中は、何を経験してきたのか。そう思わざるを得ないほど、貫禄のある背中だ。


「とりあえず、サイズの合う軍服に着替えてね。ここにいるときの服装は、常にこれになるよ」

「わかった」


 靭は、さっさと着替える。首を隠すような白い軍服。ここにいる全員が、同じ服を着ているようだ。


「じゃあ、ついてきて。おっちゃんのところに行こう」

「ああ」


 おっちゃんと言っても、そこそこ偉い立場なのだろうとは思う。十善寺も割と高い地位にいるそうだし、靭の特別試験においても、十善寺はおっちゃんが規律に厳しいと言っていた。偉い人のところに向かうのは、どうにも好きではない。こういう時は大抵の場合、面倒ごとを押し付けられるに決まっているからだ。


「上に参りまーす!」

「ああ」


 性格はカルのようだが、作ったような元気さだ。正直、今の靭は十善寺の態度にどう反応すべきか困っている。無理に明るくするなとは言えないし、急に無言になられても居心地が悪い。結局のところ、無難に相槌を打つ程度しかできなかった。

 

「はい、どうぞ!」

「ありがとう」

  

 エレベーターを上がれば、また同じような景色だ。上も下も、造りは同じらしい。迷子にならなくていい分、違う階に止まった時に気づけるか不安になる造りであった。


 少し歩いた先の扉の前で、十善寺が止まる。


「最初に言っておくけどさ」

「ああ」

「おっちゃんにも態度変えなくていいよ。あの人、そういう空気好きじゃないから。敬語とか、ご機嫌取りとか、そういうのされるの嫌いなんだって」

「そうか」


 まあ、相手が嫌うならしないほうがいいだろうと思うが、敬語は出てしまいそうだなと思った。目上の人に対する態度は、そんな簡単に変えられるものではない。ひとまずは、意識だけしてみることにした。


「おっちゃん、入るよー」


 十善寺は、ノックもせずに入る。ノックくらいはしてもいいだろうと思ったが、口には出さない。


 部屋の中は、とてもシンプルだ。アニメでよく見る上官がいそうな部屋とでもいうべきか。それにしては、家具はほとんどないし、装飾品に至っては一つもない。上官が座っていそうな机と、話をするためのソファーが向かいあって配置されてるだけ。


 無機質な壁と床は、ここでも変わりないらしい。


「おう、来たか、花火」


 目の前の人物に目を向ける。上着の軍服を脱いでおり、黒インナー姿のまま退屈そうに座る『おっちゃん』と呼ばれた人物だ。タンクトップインナーを着ているため、異常なまでに発達している筋肉に自然と目が向かう。体には、深すぎる傷跡がいくつも残っている。よく生きていたなと思えるような傷ばかりだ。顔にも、大きな傷跡が残っている。


 部屋に入ってから、独特な空気を感じた。明らかに強者の空気だ。少しでも変なことをすれば、一瞬で命を刈り取られそうになる。足元にも及ばないとはこのことかと思わざるを得ない。強くなった気ではいたが、実戦を潜り抜けてきた人間の圧は違うと実感する。


「つうことは、お前さんが、深海靭か」

「ああ、よろしく頼む」


 靭は淡々と告げるも、体が小刻みに震えていた。なにかしらの圧を感じるが、十善寺に言われた通りに接している。


 男はそんな靭を鷹のような目つきのまま値踏みしてから、頷いた。


「おう、いいな。私に怯えないということは、もう影纏(シャドウ)化できるということか」

「そうだよー。ほらね、言ったでしょ。絶対に、待った方がいいってさ!」

「ああ、感謝するよ、花火。お前さんのおかげで、貴重な戦力を手放さないですんだ」

「えへへ」


 まるで親と子だなという感想を、頭に思い浮かべる。この二人は、仲がいいらしい。


「自己紹介が遅れてしまったな。私は、戦原凱導(いくさばらがいどう)だ。今後とも、よろしく頼む」


 すっと手が前に出される。グローブのような手だ。靭の手など、簡単に捻り潰されてしまいそうだ。しかし、靭は、求められたのだからと、当然のように握手をする。


「ああ、よろし……く」


 ミシミシ――骨が軋んでいく。たぶん小指辺りは砕けている。まもなく薬指、中指と到達するところで、スッと痛みが和らいだ。どうやら、相手の力を吸収し強化しているようだ。影纏(シャドウ)に変身しなくとも、ある程度の能力は使えるらしい。


「ほう……私の力に適応し、強化したのか。それに骨も治っている。痛みにも強いようだな、表情一つ変えないとは」


 表情は変えていないが、冷や汗は出ている。ゆっくりと骨を砕かれる痛みは、想像以上にしんどいものだった。


「そんなことするから、最初はみんなから嫌われるんだよ」


 呆れた様にため息を吐く十善寺。十善寺に呆れられるとは、よっぽどの人だなと思う靭。しまった、またやってしまったと苦笑して頬を掻く戦原。


「すまない……有望株は、試したくなるんだ」

「いや、別に問題ない」


 すでに痛みもない。これくらいの痛みであれば、靭にとっては悪戯みたいなものだ。


「女の子にもやるんだよ? 最低じゃない?」


 はぁ、と肩を落とす十善寺に、さすがの靭も呆れたような視線で戦原を見た。


「それは、最低だな」

「ハハハ、容赦ないな、深海靭。まあ、いい。その方が、気が楽だ」

 

 本当にそう思っているようだ。十善寺の『おっちゃんはそういう空気が好きじゃない』という発言は、どうやら本当らしい。多少の難はあるが、これから関わっていくなら靭としてもこれくらいの方が気楽ではあった。


「花火、これから説明に行くのか?」

「そうだよ。まずは、現状を知ってもらわないとね!」

「そうか……深海靭」

「なんだ」


 真剣な声色を出す戦原に、靭は背筋を伸ばす。


「これから、よろしく頼む。お前さんの働きには、期待している」

「やれるだけのことは、するつもりだ」

「ああ、頼んだぞ」


 それだけ言うと、戦原は部屋を出ていった。


「どこへ向かったんだ?」

「外にいる化け物を殺しに行ったんだよ。あの人、戦ってないと死んじゃう病気みたいなもんだから。少しは休まないと、みんなも休みづらいのにね。少しは空気を読んで欲しいよ」


 戦闘狂、バトルジャンキーといったところか。十善寺の気持ちは、靭にも痛いほど分かった。上司が有給を取らないと、他の人間も取りづらい。それと、同じなのだろう。


「ボクたちは、違う場所に行くよ。まずは、現状を説明するから、外に出るよ」

「分かった」


 部屋を出て、先ほどと同じエレベーターへと向かう。十善寺が押した階は、上へと続くボタンだった。


「外に出るんじゃないのか?」

「ボクたちは、地下に住んでるんだよ。地球人から地底人になったわけ」


 十善寺のまさかの発言に、靭は目を見開いた。ここは地上ではなく、どうやら地下だったらしい。地球を取り戻す話は、ネメシスから聞いたが、まさか地下にいるとは思っていなかったようだ。


 地球人から、地底人になった。それはつまり、地上はすでに宇宙人に支配されているということだろう。さっそく笑えない現状を聞かされた靭は、ため息を吐いた。



「……笑えんな」

「ボクもそう思うよ」


 十善寺も、即答で同意した。それ以上の会話はなく、エレベーターが到着するまで、無言のままだ。


「一番奥まで歩くよ」

「ああ」


 人はいない。地下に住んでいる話が本当のことだと分かる。ここにも扉が配置されているにも関わらず、扉の奥から人の気配がないのだ。


 廊下を歩いて数分、ようやく扉の前に立つ。


「外に出るよ。今は、膠着状態が続いてるから、外に出ても問題ないからね」

「そうか」


 ブワッと、冷たい風が、靭の頬を伝う。久しぶりの自然の空気に、思わず深く息を吸った。どのくらいの時間、室内で過ごしたかは、定かではない。おそらく、そこまで室内で過ごしていたわけではない。長くても、二週間だろう。それでも、本当に久しぶりに自然を感じた気がした。


「夜か」


 雲一つない快晴の夜空。月や星の明かりはないし、ちかくに街灯のような人工的な光もない。けれど、周囲の風景はよく見える。外の景色が一望できるくらいには、そこそこ高い位置に出口があるようだ。


「違う……と、否定することもできないかな」

「どういう意味だ」


 十善寺の曖昧な返答に、靭は眉をひそめた。雲一つない快晴の夜空だ。月や星の明かりはないし、近くに街灯のような人工的な光もない。けれど、外の荒廃した景色が一望できるくらいには明るい。


 前を歩いていた十善寺が、靭の方を振り向く。その顔は、悲し気な表情を見せていた。


「昼も夜もない。世界、と言っていいか分からないけど、日本は、というかたぶん、世界は24時間365日この状態」

「太陽が消えたわけではないよな」


 太陽の光がないとはいえ、高い場所のこの位置から辺りが見渡せるほどの明るさはある。それに、肌寒い程度で済んでいる。太陽そのものが無くなれば、世界は急速に凍えてしまうはずだから。


「そうだね、太陽はあると思うよ。空をよく見てほしい」


 言われるがまま、じっと空を眺める。快晴の空だと思っていたが、黒い何かが蠢いているのが見えた。虫ではないだろうが、鳥肌が出る気味の悪さだ。


「なんだ、あれ」

「敵が太陽の光を遮るために生み出した何か、としか言えないね。あれのせいで雨も降らなくなったし、とても人間が住める環境じゃなくなったんだよ。幸い、まだ木々は生きてるけど、このままだと本当に人が住めなくなる場所になっちゃうよ」

「……そうだな」


 光がなければ、酸素を生み出す植物が消えるということだ。現状はどうにかなっているようだが、それも時間の問題だという。


「だから、夜なのか昼なのかも分からないのか」

「そういうこと」


 もう一度、地上を見渡す。よく見れば、周りの地形そのものが変わっている。地面はボコボコに荒れていて、建物が一つもない。壮絶な戦闘の跡だろう。太陽の光は遮られているのに、そこらに落ちている結晶の欠片がキラキラと妖しい光を生んでいるように見えた。


 耳をすませば聞こえてくるのは、爆発音と破壊音、人の叫びと、化け物の悍ましい声。それに、そこまで遠くない場所で、波打つ音が聞こえる。 


「海があるのか」

「そう、海。戦いで地形がね。一応ここ、埼玉らしいんだけど」

「はは、まじかよ」


 埼玉に海はない。つまり、それほどまでの戦闘で、日本列島が分断されてしまったのだろう。思っていた以上に、戦いは激しいものとなっているらしい。

 

「そろそろ本格的な戦争が始まる。総力戦ってやつだね」

「ああ、ネメシスから聞いたよ」

「意思疎通ができるほど、影と親密な関係にあるんだね」

「十善寺は違うのか?」

 

 靭の言葉に、十善寺は首を横に振った。


「ボクは隊長だからできるよ。でもね、できないのが普通だ。影纏(シャドウ)に変身できれば、問題ないんだけどさ。影と意思疎通が取れれば、さらに強力な影纏(シャドウ)に変身できるんだ。ボクと君みたいにね。だから、君はすでに隊長クラスってわけだ」

「……責任ある立場にはなりたくないんだが」

「仕方がないね。もともと、その情報が無くても、隊長にする予定だったし」


 面倒ごとから逃げようとするも、意味がないことを知ってため息を吐く。


「……勘弁してほしいな」

「はは、どんまい。さて、ここは少し肌寒いし、中に入ろう。今までのこと、説明するからさ」

「ああ」


 十善寺に続くように、靭も中に入る。



 中に入って、少しだけ歩いたところで、十善寺が部屋の中に入った。


「作戦室だよ。前は、結構広いでしょ」

「そうだな」

「全員に説明するのも大変だからね。各隊長に、おっちゃんが作戦を伝えるんだ」

「なるほどな」


 真ん中に大きな机が配置されている。十善寺が机に触れると、ホログラムが浮かび上がった。靭は、その光景に目を奪われる。


「これはまた……すごいな」

「でしょ。この基地は、奴らから奪った宇宙船だからさ。私たちよりもハイテクなんだよ」

「奪ったのか」

「らしいよ。ボクたちより前の人たちが、死に物狂いで手に入れた基地だって。オーバーテクノロジーがたくさん詰まってるらしいよ」

「そうなのか」


 靭はただただ感心するばかりだ。


「さて、じゃあ、まずは現状を説明するね」


 席に着いた十善寺が、ホログラムを操作する。靭も席について、おとなしく十善寺の話を聞くことにした。


「まずは、地球外生命体についてね」


 ブオン――機械というより風が出た音が聞こえると、今まで戦ってきた化け物たちの姿が映し出された。


「X・E・N・O・S。ボクたちが戦ってる敵の総称だよ。XENOS(ゼノス)って呼んでる」


 黒いスライムのような液体が映し出される。


「こいつらは、XENO(ゼノ)だよ。XENO(ゼノ)が寄生した化け物たちをXENOS(ゼノス)って呼んでるんだ」


 哺乳類や爬虫類にも寄生するらしい。犬や猫、馬、豚、イノシシ、牛、熊、蛇。ある程度の大きさがないと寄生できないとネメシスは言っていたが、どうやらその通りのようだ。


 人に寄生するタイプもいる。ただ、自分たちとは違い、もはや人の形を成していないようだ。

 

 靭はそれを見て、ひどい頭痛を覚えたように、こめかみを押さえた。


「勘弁してくれ……俺たちは、カニバリズムになってしまったのか」

「人に寄生したXENOS(ゼノス)だよ。人の手が刃物に成ったり、腕が伸びるわけないじゃないか」


 あっけらかんと言うが、納得できるかと言われればそうではない。


「……でも、元は人だろ」

「それでも、食べないと生きていけないんだ。動物タイプのXENOS(ゼノス)がいない場合、そいつらを食べるしかない。だから、食べさせた。戦場で、食料を送る暇はないんだ。だから、生きるためにはその場で食うしかないんだよ。幸いなことに、黒い食べ物を食べさえすればボクたちは水すら飲まずに生きていけるんだ。地球を取り戻すために、人型のXENOS(ゼノス)を食う。諦めてね」


 食べたくない、倫理がどうなどと言ってられる状況じゃない。靭は、割り切ることにした。今、この戦場で生きるということはそういう覚悟が必要なのだ。目の前の年下の少女も、それをして生き残ってきた。声を大にして文句を言う場面ではない。


「……悪かった。話を続けてくれ」

「いいんだよ。みんな、最初は戸惑う。そのうち慣れるさ」


 慣れたくはないが、慣れてしまうのだろうなと思った。人が死ぬ場面に慣れるのだから、人だった生物を食べることに躊躇することもなくなるだろうと。


「ネメシスって子から聞いてると思うけど、ボクたちは共生できてる。人の形を保って共生してる人を、ボクたちは適合者って呼んでる。寄生されたらXENOS(ゼノス)になるからね。分けてるわけだ」


 そういって、十善寺はホログラムを操作した。


「といっても、XENO(ゼノ)と共生できるのは、僅かな人だけ。どうすれば、影まで発現させることができるのかとか、共生のメカニズムとか、難しいことは分かってない。まあ、できてたら、篩にかける必要もないしね」

「デスゲームか」


 あまりしたくなかったとでも言いたげな顔で、頷く。声はノリノリに聞こえたが、率先してやりたかったわけではないらしい。


「共生してるとは言ってもね、それなりに適合率があるんだよ。ドアノブに血を取られたでしょ」

「ああ」

「この宇宙船に、適合率を調べる場所があってね。血を採決すると、今どのくらいXENO(ゼノ)が体と適合しているか分かるようになってるんだ」

「……それって」


 十善寺は、困ったように笑うだけだ。


「敵さんも、同じことをしてるってことだね」

「ネメシスは、親に生み出されて捨てられたと言っていた」

XENO(ゼノ)を作製する方法があるんだろうね。ボクらにはないけど」

「そうか」


 人体実験、改造。そういう言葉が思い浮かぶ。倫理もなにもないと、そこまで進化できるものなんだなと、靭は他人事のように思った。


「君たちが白い部屋で起きる前、実は共生しているXENO(ゼノ)を活性化させる注射を打ってるんだ。簡単に言えば、XENOS(ゼノス)から奪った血だよ」

「それを体に流し込んでるのか」

「そう。目覚めたら、影を発現させる可能性があるんだ。ちなみにだけど、そのままXENOS(ゼノス)になることもある」

「そいつらを、俺たちは食ったのか」


 靭の言葉に、十善寺は首を横に振った。


「さすがに、そんなことしないさ。XENO(ゼノ)に耐性のある人たちを見つけるときって、地上で眠っている状態で見つかるんだ。不思議だよね。侵略されてから何年も経ってるのに、体が腐ってないんだもん」

「……そんなに時間が経ってるのか?」

「そうらしいよ。といっても、時間の感覚も分かってないから大体だけどね。最初の戦争が始まってから、大体5年経ってるらしいよ」

「なぜ、すぐに言わないんだ」


 またしても驚愕の事実だ。もう少し説明があってもいいだろうと睨む靭に、十善寺はじっと視線を返した。


「歴史の勉強じゃないんだよ。これでも、君が知りたがってた情報を話そうとしてるし、質問には答えてるよ」

「……いや、すまない。忘れてくれ」


 必要なのは敵の情報と、これまでのことに関する知識であって、全てを知れるわけじゃない。そういうのは、平和な世界になってからと、靭は諭された。

 


「話を戻すね。地上で注射を打って、髪が白くなれば適合したってこと。注射を打ってすぐにXENOS(ゼノス)になれば、利用せず即殺すよ。野生のXENOS(ゼノス)から採った血の方が、強化するにはいいんだよね。理由はよく分かってないよ」

「了解だ」


 そっちの方が、気が楽だった。人の形を保っていたのに、人間の手によって、XENOS(ゼノス)にしてしまったのだから。利用するにしても、最後は殺してやるべきだと。


「今回は、割と時間があったからね。1000人くらい見つかったんだ。色々と初の試みだったけど、豊作だったよ。深海靭を筆頭に、木花ちゃん、カルちゃん、守大君、響ちゃん、吟時君。どの子も適合率が高い。実に素晴らしいよ。ほかの子たちも、なかなか当たりだったし。数が増えるのはいいことだ。どれだけ人が増えても、すぐにみんな死んでしまうしね」

「……」


 今までも、同じことをしながら適合者を探して、戦争してを繰り返していたのだろう。多くの血が流れてもなお、また血が流れてしまう。靭は、平和だったあの頃が、随分前のように感じた。きっと、目の前の少女も、戦原も、他の生き残った軍人も、同じことを思っているのだろうなと思う。


「にしても、初回にしてはなかなか厳しいゲームだったと思うぞ。デスゲームと言ったから、なおさらな」


 一番初めのゲームは、それなりに酷だった。きっと、最初から深海靭の記憶が残っていたら、きっと生き残れていないだろう。客観的な意見になってしまうが、今の靭がそう思うほど、なかなかに酷い篩のかけ方だ。


「見知らぬ場所に集められて、突然世界を取り戻すために戦えって言われたら信じる?」

「……信じないだろうな」

「でしょ。だからそうしたの。ボクらがやってきたことに、意味のないことなんて一つもないよ」


 靭は、また余計なことを言ったと反省する。誰もやりたくてやったわけじゃない。でも、そうしないと日本を、世界を取り戻せないのだ。だから、やる。不必要な犠牲は、ないのだと。

 

「また、余計なことを言った。すまない」

「いいよ、慣れてるから」


 似たようなことをしてきたのだろう。きっと、これからもそうするのだ。人類を救うために、嫌われる言動を取るというのは、どれほどキツイことなのだろうか。今の靭では、かける言葉が見つからない。


「言うことを聞かないやつ、冷静じゃないやつ、気を失うやつ。こういうやつは適合率が極めて低い。どうせ死ぬなら最初のうちにやらないと。極限状態の地獄の中でも、平然とまでは言わないけど理性を保つくらいはしてくれないと。こんな世界だ。物資は限られてるわけだし、不要な人間は最初から弾くんだよ。それでも今回はかなり多く残ったほうだけどね」

「そうか」


 十善寺は、説明を続ける。


「適合率が高ければ高いほど、肉体の変化は早い。危険が上がれば上がるほど、XENO(ゼノ)が活性化しやすいんだ。XENO(ゼノ)が活性化すると、能力が芽生えたり、肉体が強化されたりもする」

「順々に適応させていったわけか」

「そうだよ。男女のペアに分けたのだって、意味がある。前々回、男同士でも女同士で組ませても、適合者が出てくることはなかったからね。異性の性行為、心の共有をすればするほど、どんどん適合率が上がっていくのさ。理由は分からないけどね。ある程度すれば、それも必要ないんだけど」


 すべてのことに意味がある。そして、実験もしているのだろう。今後、XENO(ゼノ)と共生している人がいれば、どんどん影を発現させる人々が増えていくから。


「宇宙石にも意味はある。あれは、力を持つXENOS(ゼノス)を殺したあとで、その辺にできてしまう廃棄物だよ。その辺に転がってるから、触れない保証はどこにもない。触れただけで死ぬなら、戦闘員にはならない。戦闘員以外いらないの」


 いるんじゃないかと、靭は思うが、口を挟まない。気になることがあっても、十善寺が話してくれることを待った。必要なことがあれば、話してくれるだろうと。どうやら、今回は理由について話してくれるらしい。


「非戦闘員も必要だろうと思ってるでしょ? でも、それはもう不要なんだ。戦争で怪我するのは当然だけど、心にケガをしてしまう人も当然いる。そういう前線で戦えなくなった人たちが、色々な管理をやってるから。それにそこそこの人数がいれば、宇宙船のテクノロジーで賄えるからさ。やけに色の濃い野菜とかは、ここで育ててるからね。さすがに限度はある。ボクらはよく食べるしね。全員が大食いだもん。難しい問題だよ」

「そうだな」


 そもそも、と、十善寺は言葉を続ける。


「普通の人間はね、ここでは絶対生き残れない。適合率が低い人間は、ほとんど普通の人間と大差ない。まず、黒い食事、宇宙船で作った食べ物で死ぬ。食事の問題が解決しても、太陽の光を浴びれずに精神を病んでXENOS(ゼノス)になる場合もある。外に出たら出たで、石に触れなくても空気で苦しみながら死ぬ。最初に、気付いたら死んでるくらいが、一番の救いってわけさ」


 靭は、そこまで説明されて納得する。というか、しないといけない。戦える人材だと思って確保したが、そうではない人間がほとんど。今までもきっと、目を覚ました人を生かそうとしたのだろう、でも、ダメだった。なぜならもう、ここは普通の世界ではないから。


 だが、XENO(ゼノ)と共生した人間は欲しい。でないと、日本を取り戻せないから。


 十善寺の言葉通り、最初に適合していない人物を殺すことが、なによりの救いなのだろうと。きっと、ここまで説明しているのは、過去にここまで説明しないと納得しないものがいたからだ。十善寺の気苦労を考えると、やはり頭を撫でてやりたくなる。よく頑張ったなと。


「俺も、そう思うよ」


 でも、それをできる立場ではないと思った。だから、肯定する。なるべく彼女に負担を掛けないような言葉を選んだ。


「ふふ、肯定してくれる人がいると、気が楽になるよ。ありがとう」

「なら、よかったよ」


 十善寺は少し疲れているように笑う。今まで説明した人たちに、色々な感情をぶつけられたのだろう。それは大人がやるべきことだが、適任は十善寺だけなのかもしれない。


 さてと、とつぶやいて、十善寺はホログラムを操作する。


「説明を続けるね。人型や動物型のほかにも、改造型XENOS(ゼノス)っていうのもいるんだ」


 三種類の改造型XENOS(ゼノス)が映し出される。


「右から、接近型の第一変異型XENOS(ゼノス)、中遠距離攻撃型の第二変異型XENOS(ゼノス)、特殊な能力を持つ第三変異型XENOS(ゼノス)。いまのところ三つの分類に分けられる。まあ、中ボスだと思っていいよ。数はそこまで多くないから」


 接近型の見た目は、筋肉質だ。腕が四本や六本当たり前に生えているタイプや、足がたくさんあったり、いかにも硬そうなやつもいる。まとめられた資料には、鋼鉄のように硬い筋肉らしい。攻撃力が高かったり、防御力が高かったり、移動速度が速かったりと。どれも厄介そうな相手だ。


 第二変異型は、銃のような腕や、やけに口が長いXENOS(ゼノス)や、飛行タイプなんかもいるらしい。銃撃やミサイル、爆弾、とにかく威力が高くて、広範囲に攻撃が及ぶものもあるとか。


 第三変異型は、特殊な能力を持つタイプらしい。炎を出したり、地面を操ったり、念力を使用したりと、多種多様だ。もっとも厄介なのは、回復や、支援型のようだ。第三変異型が、最も人に近い形をしているらしく、亜人と言っても過言ではないという。


「君たちに注射したのは、第三変異型の血だね。多種多様な能力。ようやく手に入れることができた貴重なXENOS(ゼノス)の血だよ」


 そう言うと、十善寺はまたホログラムを操作して、画面を切り替える。


「XeNo-Factor Adapter Type-3 Variant」

「ゼノファクター……タイプスリー」


 靭は、突然の英語に頭がついていけず、聞こえた単語だけ呟く。


「第一、第二、第三変異型の血に適合した人間。異種因子適合者 第3変異型って意味ね」

「三つの血が混ざってるのか……」

「割合は、第三変異型が多いけどね。第三変異型を直接注射すると、100%XENOS(ゼノス)になるんだよ。本当に、よく分からないよね。XENO(ゼノ)ってやつは」


 困ったように笑う十善寺。靭はもはや受け入れるしかない。


「もうわかってると思うけど、君たちは、その第三変異型。XNFA/T3V(ゼノファ・サード)だよ」


 十善寺は、説明を続ける。


「異種因子適合者。つまり、XENO(ゼノ)と共生し、影を発現させた者たち。ボクらを総称してXNFA(ゼノファ)って言うんだ。

XNFA(ゼノファ)……」


 言葉を繰り返す靭に、十善寺は微笑む。


「君たちの場合は、第三変異型。第三変異型(サード)って呼ばれることになると思うよ。第一型は、ファース。第二型はセカンズだし。ボクは、第三変異型(サード)って呼ばれてるからね」

「十善寺も第三変異型(サード)なのか」


 靭の言葉に、十善寺は意味深な笑みを浮かべる。


「自ら名乗り出たのさ。ボクも、君たちを運んだ人たちもみんなそうだよ。もとはセカンドだったんだけどね。第一と第二の血が混ざったところに第三の血を入れる結構危険な賭けだったけど、成功したからこうして運用できることになったわけだ。いわば、実験体だね」


 これまで生き残ってきたのに、またしても危険な賭けに出る。そうでもしないと、倒せない敵がいるのかもしれない。


「次は本当にヤバいって、未来ちゃんが言ってたからね。なんでも、『最初の決戦』とか『前線が崩れたら全滅ですうううう』とか『負けたら死んでしまいますううう』とかなんとか。負けたら死ぬのは当たり前なのにね、ハハ」

「笑いごとではないだろ……」

「ハハ、そうだね。まあ、でも、『勝てたら一筋の光が見えるですううう』とも言ってたかな?」


 ひとまず、次が靭たちにとって命運を分ける【最初の決戦】になることだけは理解できた。デスゲームを乗り越えたと思えば、いきなり重要な任務だ。僅かに胃が痛むのを感じた。


「あ、未来ちゃんは、索敵タイプの第三変異型(サード)だよ。能力が化けて、ある程度の予知ができるようになったらしいんだ。今度、紹介するよ」

「本当に、何でもありだなぁ」

「そうだね。地球外生命体って、異世界人なのかなって思うほどだよ。まあ、人の形をしているとはいえ、姿は人間じゃないけど。とりあえず、必要なことは伝えたかな」


 アハハと、少しも楽しそうではない声で笑う。細められた赤とオレンジの目が笑っていないから、今までのアナウンスで放送していた軽い口調が演技だったことがよく分かる。


「じゃあ、これから日本を取り戻すために、一緒に頑張ろうね。深海隊長」

「本当に、隊長になのか……管理職は嫌なんだが」

「ダーメ。君は、貴重な戦力なんだから」

 

 十善寺は、にっこりと笑みを浮かべて頷いた。なんだか、本気で嬉しそうにしている。


「影を発現させただけじゃ、隊長とは呼べない。影纏(シャドウ)に変身することは、必須事項なんだけど、能力を100%引き出せるわけじゃないんだ。深海君は、すでに影と意思疎通が取れている。それはね、影の力を100%引き出すことができるってことだ。そういう人は、強制的に隊長ってわけ。それにさ、拒否反応が出てたのに、数分間、体は持ち堪えるし、影を纏わずに第一型の結晶頭を殺せちゃうとか、意味わからないし。本当に、期待してたんだよ」

「期待されるのは、好きじゃないんだがな」


 どうやら、かなり前から期待されていたらしい。靭としては、必死だっただけだ。結果的に助かっただけで、なにかが違えば、靭は間違いなく死んでいただろう。

 

 ネメシスの言うとおり、運はそこそこ強いらしい。


 悪運という意味でだが。


「超期待してるよ。君が関わっていた5人にも期待してるんだ。第三変異型の能力を十分に引き出せそうだしさ。だから、君の部隊には前回関わっていた5人全員を入れるよ。本当は10人くらいを率いてほしいけど、特別措置だ。ボクが想像している少数精鋭の部隊をぜひ作ってほしいな。君たちは、最前線に送り込むつもりだからさ。あ、でも、今はもうどこも最前線か、ハハ」

「……まあ、どうにか、頑張ってみるさ」


 靭がそう宣言すると、十善寺は満足な笑みを浮かべる。そして、ゆっくりと立ち上がり、靭の元へと向かう。


 靭も、十善寺につられて立ち上がる。靭の元まで来た十善寺は、少女らしい笑みを、靭に向けた。


「深海靭隊長。これから、一緒に頑張って日本を取り戻そうね」


 十善寺に差し出された手。

 

「ああ、どうにか頑張るよ」


 靭は、苦笑いしながら、その手を掴んだ。


「ようこそ……地獄の最前線へ」


 まるで、本当の地獄はこれからだぞと、警告されたように呟かれた言葉。


 靭は、特に言葉を発しない。靭にとっては、すでに地獄のような環境を生きてきたと思っているから。


「いつも通りやるさ」


 それだけ言って、握手を解いた。


「そっか」


 十善寺はそれだけ呟くと、扉へと向かう。


 そして、何かを思い出したように振り返る。


「まずは、5人の育成からお願いね! とりあえず、あとで資料渡すからさ!」


 満面の笑みである。いたずらに成功して喜んでる子供のように。


「……いきなり仕事か。少しは休みたいんだがな」

「大丈夫! ボクたちは寝なくても生きていけるからさ!」

「……そっすか」


 肩を落とし、ため息を吐いて部屋を出た。


 

 




 地獄の最前線で迎える最初の決戦は、すぐそこまで迫っていた。




第二章終わりです。

三日後に第三章が始まります。


本作は【毎日18時】に最新話を更新しています。

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