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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第一章 デスゲーム

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第3話 共同生活と異変


「お風呂、入りたい」


 心の叫びも虚しいままに、凛の声が靭に届く。


 いつの間にか、彼女は目を開けていたようだ。反応がないため気絶して眠っていると思い込んでいたが、そうではないらしい


「あ、ああ。歩けそうか?」

「うん。ありがとう」


 平然を装いつつ、靭は凛を降ろす。凛は暗い瞳のまま、洗面所で当然のように服を脱ぎ始める。


(マジかよ!)


 靭は急いで洗面所から飛び出す。柔らかな肌が視界の端に映り込んだが、それ以上は見えていないので、本人的にはセーフだと思い込むことにした。


 生々しいシャワーの音が、無音の空間に響き渡る。


(初めてデリヘルを呼んだ時の緊張感……)


 『はぁ』と行き場のないため息を漏らして、部屋を見渡す。


「……部屋でも物色するか」


 靭は、引き続き部屋を探索する。収納棚には嫌味のような数の大小さまざまな白い服がたたんで置かれていた。なぜか、裁縫セットまで。誰が使うんだと思いながら、Lサイズの服を取り出して、近くのソファーに放り投げる。


(下着もありそうだな)


 さらに物色すると、女性用の白い下着が目に飛び込んできた。靭は男子中学生のような反応速度で棚の引き出しを閉め、目的の男性用の下着を探して一枚取り出す。


「着替えるか」


 さすがに他人の血が付着した服を着ていたくはないので、着替えることにした。凛がシャワーを浴びている音が響く中で着替えるのは申し訳ないという顔で、とぼとぼと廊下に向かう。


 全裸の状態から過去最高スピードで服を着て、ダストシュートに汚れ物を放り込む。靴も汚れているため、遠い玄関に向かう。靴箱の中にも、嫌味のような数の靴が置かれていた。


(どれくらいの時間を、ここで過ごすんだろうな)


 想像するだけで、今日何度目か分からないため息を吐く。自分に合ったサイズの新しい靴を靴箱から取り出して、床に並べる。もちろん、凛の分もだ。


 用が済めば、また部屋の物色。今度はキッチンに向かう。業務用の冷蔵庫には、大量の飲料水や食材が置かれていた。


「水、お茶、ジュースに、酒。なんだこの黒卵は。本当に食えるのかよ」


 真っ黒な卵が、綺麗に置かれている。賞味期限などが気になるところだが、ほかに何があるか気になるため探す。


「野菜と果物は普通っぽいな。ちょっと小さくて色が濃いのが気になるが。これ以外は特になしか。野菜とか果物は腐る前に食っちまわないとな」


 そういって、靭はそのまま冷蔵庫からビールを一本取り出した。カシュっと響く癒しの音を聞きつつ、ぐびぐびとビールの喉ごしを楽しむ。


「んんん、沁みる」


 今度は隣の冷凍庫を物色する。扉を開けた靭は、一度何も見なかったかのように扉を閉めた。


「黒い肉かあ……。本当に食えんのかよ」


 ぐびっとビールを飲んで、諦めたように再度冷凍庫を開けて中を探る。中には大量の氷やアイスまで常備されていた。食後のデザートがあるのを喜ぶべきことなのだろうか。靭はもやもやした感情をビールと一緒に飲み込んだ。


 キッチンには、食器やグラス、包丁にまな板、フライパン、鍋と、その他もろもろのキッチン道具がそろっていた。なんでも作れそうではあるが、誰がこんな場所で料理を作りたいと思うのだろうかと、靭は呆れたような視線を向ける。


 キッチンの棚にはそのほかにも、お菓子やパスタ、カップラーメンに袋麺。米や小麦粉、コーヒー粉末や茶葉、大量の調味料。挙句の果てにはコーヒー豆まであり、割と何でもあることだけは理解できた。


「拉致されてなきゃ、文句はないんだけどな」


 そういって、キッチンを後にする。ダイニングには特に何もないので、リビングと思わしき空間のソファーがある場所へ向かう。


 ブラウン色のソファの近くには、ヴィンテージシックなローテーブルが置かれている。床に座ってソファにもたれ掛かりながら、ローテーブルの小さな引き出しを開けると、靭は目を大きく見開いた。


「た、たばこ!」


 乾燥剤と共に、びっしりと入ったタバコ。独特の葉の香りが、靭の脳内を刺激する。隣の引き出しには、黄色いガラス製灰皿とマッチ棒。


 慣れた手つきで灰皿を置き、タバコを口元に持っていく直前で硬直する。曇りガラスの向こう側で、ゆっくりと動く凛のシルエットが目に映った。すでに風呂から上がったのか。


(ということは……)


 というところまで妄想し頭を振ってタバコを凝視した。


「吸えねえ……」


 小さくつぶやいた言葉と共に、靭は泣きそうになった。ヘビースモーカーの靭の目には、割と本気で、あくびをした際に出るくらいの涙が浮かんでいる。


(吸ってもよくないか? 換気扇の下なら。いや、でも、キッチンとの区切りもないし……)


 吸うか、吸わないか。どれほどの時間葛藤し、タバコを眺めていたのだろうか。

 

「靭」

「あ、ああ?」


 すでに凛の髪は乾いた状態だった。体にはタオルが巻かれており、服を着ていないことが目に見えてわかる。


「服、どこ?」

「あ、ああ。そこの収納棚の下から一番目と二番目にあったぞ」

「ありがとう」


 凛は、すたすたと収納棚に向かう。


(まて……下着の場所まで言ったら、きもくないか?)


 すでに手遅れではあるが、タバコへの未練が一瞬だけ吹き飛んだ。凛が服を探している間に、持っていたタバコを隠す。確実に見られたであろう灰皿も、エロ本を見られてしまった子供のように、静かに引き出しへ戻した。


 バサ――タオルが床に落ちる音がした。


(え、まさか今、裸?)


 ゴクリ、と靭の喉が鳴る。聞いてはいけない物音だが、一部屋しかないため下手に動けない。靭が動揺している間、収納棚の引き出しを漁る音が聞こえ、やがて止んだ。


(着替え早いな。まあ、着替え終わったならいいか)


 靭は、乾いた喉を潤そうとビールを持ち上げる。しかし中身はすでに空になっており、もう一度飲み物を取りに行こうと立ち上がった

 

「り……」


 ついでに凛に何を飲むか聞こうと、彼女の方へ顔を向けた。


「!!」


 ビュンと音がしそうな勢いで、靭は視線を反らす。


(なんで、まだ裸なんだよ!)


 頭を抱え、手で目を覆う。最初から遠慮のない凛ではあったが、まさかここまでとは思わなかった。


 靭の瞼の裏には、くっきりと視界に焼き付けられた美しい背中と、小ぶりの桃尻が浮かんでいる。

もはや色々と限界の靭は、ソファーに寄りかかって、一切の身動きを止めた。


「ふう」


 しばらく呆然としていると、着替え終わった凛が一呼吸いれて、靭が寄りかかっていたソファーのすぐ近くに座った。ぱたぱたと服の襟元を扇ぎながら、足をぶらぶらと揺らしている。


 人が破裂していく地獄にいた時より疲れ切っている靭とは、大違いである。


「あれ、吸わないの?」

「……へ?」

「たばこ」


 その言葉に靭はがばりと振り返り、ソファーに座っている凛へと視線を上げた。靭の瞳は、それはもう嬉しそうにキラキラと輝いていた。


「いいのか」

「いいよ。わたしも吸ってるから」

「そうなのか!」


 凛の言葉を信じ切って、意気揚々と灰皿を取り出し、タバコを咥えて火を点ける。一呼吸目を肺に入れずに吹かして、二呼吸目に煙を肺に入れ、煙を吐いた。


「ああ……うまい」


 燃焼剤が入っていないのか、ひと吸いしてもタバコの葉がすぐには減らない。花のような香りが最初に来て、後に木のような香りがする。久しぶりに吸った時に起こるヤニクラに襲われつつ、ゆっくりと楽しむようにタバコを吸う。


「隣、座るね」

「ああ」


 風呂に入ったからか。凛からはシャンプーがほのかに香り、靭の鼻腔をくすぐる。


「なんか、普通のタバコと違っていい香りがするね」


 その言葉に、靭は閉じていた目を開いた。


「凛さんがそういうなら、いい香りなんだろうな。

吸ってる本人からしてみれば、吸ってる時のタバコって臭くないし。

他人が吸ってたら、臭いんだけどな」

「ふふ。自分勝手だね」


 その言葉に、靭は凛を横目で見る。彼女はいつの間にかタバコを口に咥えて火をつけようとしていたが、うまく点かないようだ。


(……はあ、馬鹿か俺は)


 白髪の可憐な美女という言葉が似合う女性。色々と積極的でおかしな行動はさておき、地べたに座った姿勢から育ちの良さも感じる。


 そんな女性が果たしてタバコを吸うのだろうか。吸う人は吸いそうではあるが、どうみても慣れてない様子。現に、タバコに火がうまく点かずに苦戦している。


「……悪かった。気を使わせて」

「バレちゃったか」

「さすがにな。嫌なら捨てていいし、消すぞ」


 靭が咥えていたタバコを灰皿に押し付けようとすると、横から凛の手が伸びてきて、靭の腕を掴んだ。


「いいの、吸いたい気分だから。

それに、これから一緒に暮らすなら、遠慮は駄目。この環境のストレスは、馬鹿にならない」

「それでいうなら、凛さんもそうだろう。タバコは臭いだろ?」


 その言葉に、凛は首を横に振る。


「本当に臭くないの。このタバコが特別なのかも」

「……まあ、そういうなら遠慮はしない。ありがたく吸わせてもらうよ」

「うん、そうして」


 タバコを吸いながら、せめて凛のほうに煙が行かないように反対側に煙を逃がす。


「助言しておくと、火を点けるときは、吸いながら火を点けるんだ。まずは軽く吸ってから、煙を吐き出す。二回目で口の中に煙を溜めて、そのままゆっくり深呼吸するように肺に入れるんだ。最初は咽るだろうから、少しの量をゆっくりな」

 

 シュッとマッチ棒に火を点けて、凛のほうに近づける。


「なるほど」


 凛は落ちてくる髪を耳にかけながら、慣れない手つきでタバコに火を点ける。凛は言われた通りにするも、少し口の中に入れる煙の量が多い。靭はそれを見て、むせるだろうなと思いつつ、それも経験だと横目で見守った。けれど予想に反して、凛はそのまま煙を肺に入れ、ふうっと煙を吐き出した。


「うん。やっぱりいい香り」

「咽ないのか?」

「咽ないよ?」

「喉が強いのかもな」

「そうなんだ」


 あとはゆっくりと二人でタバコを吸った。特に会話はない。凛の灰の落とし方が不器用で、それを見た靭が静かに笑って、つられて凛も静かに笑うくらい。横目で見る美女とタバコは、なんだかとても様になっていた。


 もう一本、遠慮なく。

 靭が一本目を吸い終わり、二本目を吸おうとしたとき。


「靭」「ん?」



(え、急に呼び捨て? いや、別にいいけども)


 色々と距離感がバグってる凛に対して、若干動揺しつつ顔を向ける。


「お風呂入ってきなよ。服は綺麗だけど、顔と髪が血まみれ」

「……ああ、そうだな」


 いろいろと状況に困惑していたが、自分が血まみれだったことを思い出す。さすがに凛に悪いため、靭は新しい上着だけを持ち、すぐに風呂場に向かう。


 洗面台に備え付けられた鏡に、ふと目が行く。


(うわ、こわ。凛はよく普通でいられたな)


 鏡の中には、顔のところどころに血が付き、白髪にはべっとりと血液が付着している男の姿があった。


(やっぱ白髪か……うーん、もう少し老けたら似合いそうかも)


 意外と気に入ったのか。それともタバコが吸えて上機嫌なのか。靭は、気分良く風呂に入る。


「ん?」


 シャワーで血を洗い流し、体を洗っている時だ。ふと、自分の体に違和感を覚える。腹筋がやけに綺麗に割れていた。


「元から痩せてて腹筋は出てたけど……なんか、立派じゃね?」


 とんとんと叩くも、違いはあまり分からない。


(なんか、起きてから色々と体に違和感があるんだよな。腰とか首も痛くない。そういえば、歩いても膝がポキポキ鳴らないし。つか、そもそも凛を片手で持ち上げてたよな、俺)


 目が良くなっていたり、腹筋が前より割れているような気がしたり。体に筋肉がついてるわけではないが、力が上がっている感覚があるようだ。


 反射神経もよかったし、人が死んでるのに冷静過ぎた。


 体の泡を流して湯船につかる。


「ふう……風呂最高……」


 音のない空間で、天井を見上げた。


(突然の若返りとかいうやつ? いや、何もしてないのに、そんなこと起こるわけないか。つか、そもそも若返りだろうと何だろうと、心は変わらんよな)


バシャバシャ――風呂のお湯を顔にかけて、また天井を見つめる。


「自分が自分じゃなくなってる気がするのは、気のせいだろうか」


 湯船につかりながら、靭はぽつりと呟いた。


 その言葉は風呂場に響くことなく、お湯と湯気に溶けていく。



お読みいただきありがとうございます。

本作は【毎日18時】に最新話を更新しています。


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