第26話 黒鬼
『木花ちゃん、将也くん、小奈津ちゃん、颯くん、クリアアアアアア!!』
靭が眠っている間に、他にも合格者がでたようだ。ということは、まもなく迎えが来るだろう。それまでは、凛を介抱する。靭が相手していた結晶頭の化け物は、すでに死んだのだ。他の結晶頭の化け物も、残りは一体だけ。その一体は、吟時が相手をしている。まだやってるのか、と呆れながらも、靭は仕方のないやつだと笑う。
ガッ――頭に何かが当たった。靭にとって、まったくもって痛くも痒くもない衝撃ではあるが。
「いったあああああああい」
「……何してんだよ」
どうやら、響が靭の頭に拳骨を落としたようだ。ただ、靭の体は結晶頭の化け物相手に殺されかけるほどのダメージを負ったため、さらに頑丈になっている。殴られた張本人はあっけらかんとしていた。ダメージを負ったのは、殴った響の方だけだった。
「あんたが、馬鹿やるから殴ったのに……はぁ、これじゃあ殴り損ね」
「悪かったよ。でも、うまくいったろ。それで、何か分かったか?」
自分の拳に息を吹きかけて涙目の響に、情報を得ようとする。『本気で死にかけたくせに』と、なぜか全てバレていることに驚きを隠しつつも靭は平静を装う。響は納得のいかない顔をしながらも、呆れた声で教えてくれた。
「アンタの考え通り、凛ちゃんの異常なまでの心拍数で、もう一つの心臓が弾けそうなくらい異常な音を立ててたわ。本来ないはずの心臓ね。仮に、影の心臓ということにするけど、そこから液体の影が体から溢れ出てきてた。これが、影の発現のメカニズムよ」
「おお、さすがだな。確証が得られたのはデカい」
納得のいく回答を得られて、靭は満足そうに頷いた。逆に響は、まだ納得していないようで、口をすぼめている。
「……ほとんど自力で気付いていたくせに。本当に、腹立つ。ああ、でもそうね、それで、わざわざ自らを犠牲にして死にかけようとした挙句、本当に死にかけてるんだもんね。賢いと思ってたけど、やっぱり男はみんな馬鹿な生き物なのね」
「……お前さん、俺の心の声まで読めるのかよ」
靭は、自己犠牲の作戦を心の中だけに留めておいたはずだ。なのに、それを響が知っている。たとえ状況を見て考えても、自ら死にに行くとは普通思わない。だからこそ有効な作戦なはずだったが、響にはバレている。つまり、心が読めるようになったのだと靭は推測した。
またしてもすぐに回答を導き出した靭に、響はつまらなそうに長い長ーいため息を吐いた。以前のように揶揄うことも難しいな、という表情で。
「アンタのおかげでね。表情や心拍数だけで感情を読み取れるようになったかと思ったのに、心まで読めるなんてね。ああ、安心して。かなり集中して意識しないと無理だし、他人の考えを常に覗き見するほど趣味は悪くないから」
「そうか」
どうでもよさそうに答える靭に、響は何度目か分からないため息を吐くのであった。
しばらく壁に寄りかかり、体力を回復させていると、視界に軍服を着た女性が映る。カルを運んだ女性とは違い、肩まで伸びた青髪の女性。彼女は軽く頭を下げると、凛を見た。
「こちらの方が木花さんで、お間違いないでしょうか」
苗字呼び。この人が凛を名字で呼んだことに違和感はなかった。しかし、十善寺は合格者を呼ぶとき、ほとんどが下の名前だった。だが、凛のときだけは苗字だった。ただ凛のときだけ。何か理由があるのかと考える。
「深海さん?」
「ああ、すみません。そうです、彼女が木花凛です」
「りん……」
「?」
少し考えた様に凛を見つめる女性だったが、「ああ」と言葉にはならない声で呟いた。そして、ゆっくりと座って、凛をお姫様抱っこする。
「それでは、後ほど」
「あ、はい」
まただ。またしても、靭がクリアする前提の言葉を投げかけられた。響を見るが、どうやら心を読んでいないらしい。両手を肩まで挙げて首を横に傾げている。
「相手のことを深く知らないと使えないみたいね」
「まあ、それくらいの制限がないと、強すぎるもんな、その力」
「そうかしら。化け物相手には意味ないと思うけど」
「どうだろうなー。どこかで役立つかもよ」
「だといいけど」
それ以降、会話はなかった。周りは静かだと言いたかったが、吟時が遠くの方でまだ戦っているため、戦闘音が響いている。
「よくやるわよね、彼」
「だな……ああ、そうだ。吟時に影の発現の情報共有はしなくていいのか?」
「したわよ。だから、あんなに張り切ってるんだと思うわよ」
すでに情報共有は済んでいるらしい。『仕事ができる女だな』と靭は感心するように目を開いた。
「なるほどね」
靭は吟時の戦闘を窺う。とてつもない運動量、愉快な笑い声。心の底から戦闘が好きらしい。『よくもまあ、何時間も戦っていられるな』と感心する。結晶頭の化け物は少しずつダメージを負っているが、吟時は無傷だった。
「結構いい感じね。彼一人で、意外とどうにかなるんじゃないかしら?」
「そうなることを期待しよう」
感情の昂ぶりは、人によって異なる。守大と凛は、感情の昂ぶり、不安定さから影を発現した。カルはまだ不明だが、おそらく似たような現象だろう。
問題なのは、残った自分たちの方だ。
「なあ、紫苑さん」
「なによ」
「異常なまでの心拍数って、どうすればいいんだろうな」
「……さあね。人によって違うでしょ」
「それもそうか」
話が一区切りし、戦闘音と吟時の声だけが響く。
ジュ――聞き覚えのある音がしたあと、馴染みのある香りが隣からする。みれば、ポケットにタバコを入れ直す響の姿が。
「え、なに、ポケット」
「作ったのよ。暇だったし」
この服にポケットはない。そういえば、部屋に裁縫セットがあったことを思い出す。あれでポケットを作ったらしい。『器用なものだな』と感心しつつも、靭の目はタバコに釘付けだ。
「吸いたい?」
「ぜひ」
「ええー、どうしようかしら?」
「土下座すればいい?」
今までにないくらいの本気の顔で靭が言うもんだから、響はかなり引いた。
「……本当にする気なんて……勘弁してよ」
そう言うと、響はポケットからタバコを取り出した。靭は心の底から感謝してタバコを吸う。戦った後のタバコは、極上の味がした。
「紫苑様、誠にありがとうございます」
「……きも」
「よせ、照れるだろ」
「はぁ、何とも思ってないくせによく言うわよ」
何を言われても動じない鋼のメンタルを持つ靭は、罵倒されても気にしない。にこにこ顔で響を拝んでいる。もはやどうでもよくなったのか、響は吟時を眺めながら言う。
「……あんたの心臓は、いつも静かよね」
響は、脱線した話を元に戻すように、ぽつりと呟いた。
「そんなことないだろう」
靭は即座に否定した。心臓が強く鼓動した時が、少なからずあるからだ。けれど響は、否定する靭をよそに、ただタバコを吸うだけ。彼女が答えたのは、タバコをある程度吸い終わってからだった。
「心臓が二つあると言った時も、凛ちゃんとの行為の最中も……って、これは余計か」
「お前な……」
響は悪戯な笑みを浮かべた。心臓が二つあると発言した際に見せた、彼女らしい表情が蘇る。
「悪かったわよ。えっと、それから戦闘中も、本気で死にかけた時も、ずーっと静か」
「だから、そんな訳ないだろ」
「……そっちじゃない」
「そっちじゃないって」
響は少し近づいて、靭の胸をコンコンとノックする。
「もう一つの方よ」
「もう一つの方、か」
響は離れて、吟時の方に顔を向けた。
「十善寺の言う合格ラインを超えた黄土くん、カルちゃん、凛ちゃん。今も戦ってる戦闘狂の黒曜君。彼らは、もう一つの心臓も強く鼓動してる。ああ、もちろん、私もね」
「……何が言いたい?」
真剣な表情で、響はもう一度、靭の瞳を見つめた。
「そうね……もしかしたら、このゲームをクリアできないんじゃない?」
靭は、己の瞳を見てくる響から視線を外した。響の問いにすぐには答えない。先ほどの意趣返しのように、ゆっくりと肺に煙を入れて、静かに吐いてから、天井に流れる煙を見つめて呟いた。
「それは……よくないな」
その答えに対して、響が何かを言うことはなかった。
『残り、66時間!』
響が何も言わない代わりに、十善寺から残り時間を知らせるアナウンスが耳に届いた。
「はあ、どうするか」
碌な案が出てこないまま、靭は時間を過ごしていた。
残り66時間と言われて、かなりの時間が経過していると思われる。あれから、結晶頭の化け物と幾度も対峙していた。だというのに、影が発現するどころか、影の『か』の字も体から出てこない。
「にしても、困ったね」
だが、靭が最も困っているのは、そこではない。
「まさか……こうも簡単に」
靭の服装はボロボロで血に濡れていて、服と言っていいかも怪しい。だが、細かな傷はあれど、どれも軽傷だ。腹に風穴を空けられ、その上、殺されかけた記憶もある。
だというのに。
「殺せるとはな」
影の発現なしに、靭は自身の能力だけで化け物を倒しきってしまった。足元では、結晶頭の化け物の結晶が粉々に砕け散っている。両腕を捥がれて、何もできぬままに殺された模様だ。周囲には似たような死骸がいくつも転がっていた
「ねぇ、ちょっと」
靭に声をかけたのは、響だ。靭は、響を見ずに口を開く。
「どうした」
「どーすんのよ」
「はぁ、考えてはいるけどさ」
ガシガシと頭を掻く靭は、もはやお手上げ状態。靭の心臓も、強く鼓動することがなくなった。勝てる相手に緊張もクソもないからだ。
「弱すぎないか、こいつ」
「いや、十分強いわよ。私なんて、足止めするだけで精一杯なんだから」
「ああ、そうですか。とりあえず、タバコ貰っていいか?」
「ん」
「さんきゅー。壁際で休もう」
「はぁ、そうね」
靭達は、再び休憩に入る。戦場を見渡せば、随分と人が少なくなっていた。靭と響を合わせて、残り10人と言ったところだ。
「吟時、あれからずっと一人で戦ってるな」
「さすがに、余裕がないみたいね」
奥の方で、吟時が傷を負いながら、二匹の結晶頭の化け物と対峙している。余裕がないのか、その表情に笑みはない。一体は最初から相手にしている結晶頭の化け物、もう一体はどこかの人間が倒せなかった結晶頭の化け物。吟時は、それを一人で相手にしていた。
靭と響は、タバコを吸いながら、それを眺めている。
「そろそろ、手助けするか」
「手伝ってみなさいよ。彼、本気で殺しに来るわよ」
響が心配もしてなさそうな顔で言う。一度、靭がさすがに手を貸そうと近づいた際に、キレ気味に叫ばれた。
『手を出したら……コロス!』
それから手伝うことはしていない。本人が求めていないし、無理に手助けして反撃されてしまった時のことを考えたからだ。おそらくだが、今の靭では吟時を殺してしまう。手助けに行って吟時を殺してしまったら元も子もないし、後味が悪い。なので、吟時を手助けに行けないのが理由だ。
「まあ、でも、そろそろ発現しそうよ」
「吟時か?」
響はコクリと頷いた。あれから、数十人の影の発現者を観察していた響が言うなら間違いないのだろう。彼女の耳は、とても都合のいい耳だから。
「でも、何か足りないのよねー。あと少しなんだろうけど」
そうか。まあ、36時間以上あの状態なわけだしな。心臓もおかしくなってるだろうし、当然か」
残り時間は、すでに半分を切っている。不眠不休で戦闘をしているというのに、一向に吟時の動きは衰えない。それどころか、動きは格段に良くなっている。『戦闘中に強くなる主人公タイプだな』と、靭は他人事のように思った。
「それでいうなら、私たちも不眠ではあるでしょ」
「あとは、断水断食だ。みんな、よくこの状態で動けるもんだよ」
全員が全員、何も口にしていない。靭も目の前の結晶を食べてみたが、すぐに吐き出すほどのまずさだった。カルが食べていたから食えると思ったが、彼女は特殊だったのだ。
つまり、ここにいる全員が不眠で戦い続け、その上で断水断食の状態だ。精神が狂うような状況。感情が不安定になるのも頷けるし、影が発現するのも納得できた。まあ、それでも、影が発現していないメンバーが残りの10人というわけだ。
「ねえ、黒曜君の手助けしてくれば?」
「なんでだよ。手を出すなって、言われただろ」
冗談じゃないと、靭は苦虫を嚙み潰したような顔で言う。
「手助けしたら、超本気でキレるでしょ。影を発現できるんじゃない?」
「……いや、まあ、そうだが」
そこで一つ問題がある。例えば、そうして無理に吟時の影を発現させたとして、そのあとはどうなるか。怒りの矛先は誰に向くのか。それだけが不安要素であった。
「俺が死ぬか、あいつが死ぬかの二択な気がするけど……」
「まあ、そうよねー」
喫煙者二人は、吟時を見ながらタバコを吸う。
やるか、やらないか。二択を考えながら。
『残り24時間だよーん!さあ、さあ、残りの10人諸君、さっさと影を発現したまえ、まえ、まえ~』
タイミングがいいのか悪いのか、十善寺のアナウンスが響いた。二人は、そのアナウンスを聞いて、互いの目を見て、頷く。
「思ってるより、時間なかったな」
「そうね……そろそろ、黒曜君の体がもたないかも」
ジッと吟時の方を見つめて、響はそんなことを呟いた。以前も、影が出るか出ないかの人間が、その場でぶっ倒れて殺されたところを目撃している。つまり、吟時の体力が底を尽きるということだ。
「それはさすがにか……はぁ、いつも嫌な役回りだな、大人ってのは」
「そうね……もう、こうなったら、どうにでもなれよ」
床にタバコをこすりつけて、立ち上がる。
二人は、吟時の元へと向かった。
「おい、吟時。大丈夫か」
「……!!」
吟時に声をかけるも、靭のことすら見ていないようだ。よく見れば体は傷だらけで、腕もほとんどあげられない様子。立っているほうが奇跡に近い。この執拗なまでに自分を苛め抜く姿勢は、サラリーマン姿の自分を思い浮かべてしまう。
「それと比べるのは、さすがに失礼か」
本来であれば、関わるはずのない人間。でも、いま関わっていることが事実だ。生意気ではあるが、意外に可愛いところもある。弟がいればこんな感じなのかと、思ってしまうほどに。
「さて、やるか」
覚悟を決めて、結晶頭の化け物に目を向ける。
作戦は、吟時の化け物を横取りすること。
あとは、流れに任せるという雑なもの。
それでも、靭は飛び出した。弟分を守るために。
「ーーーーーーーーーッ!!!!」
横から大声で叫んだ響が、化け物二体と吟時を硬直させた。吟時の耳から血が流れる。おそらく、鼓膜がいかれたのだろう。それでも、響は、お構いなしで叫び続けた。
硬直させる時間は、数十秒のみ。でも、靭にはそれで十分だった。
「うらあああああ!」
バリーン――渾身の蹴りをお見舞いすれば、結晶頭の化け物の結晶が砕ける。
「はい、次!」
吟時は、影化していないカルと同等の速さで動いた。速度も力も、今の靭は、今までの靭のなかで一番強い。というか、ここにいる誰よりも強くなっている。
「おらあああああ!!」
バリーン――残り一体の結晶が割れた。
「よし!」
吟時を見れば、ハイライトが消えた灰色の目で響を凝視していた。体はゆっくりとだが、響の絶叫に慣れたのか、徐々に距離を詰めている。
「逃げるぞ!!!!」
「んっん、お願い」
靭はすかさず響をお姫様抱っこして、最大速で逃げ出した。吟時から目を離さないように、脱兎の如く。しかし、吟時が追ってくる気配はない。近づいてこないと分かると、靭はある程度の距離まで近づき、様子を窺った。
「あれ……ずっと、あそこにいるぞ」
「まって……なにか言ってる」
響の能力で、吟時の言動を確認する。
「どうして、あんな雑魚も倒せない。弱かったあの人ですから倒せたのに。僕はそんなに無能なのか。そんな訳ない。あの人にできて、俺にできないはずないだろ。僕は強い。ちがう、俺は強い。なら、どうして勝てない。どうして、手も足も出ない。俺はできる。僕はできるんだ。本当だよ。本当は、できるんだ。でも、今は調子がでないだけだ。嘘つくな本当は何もできない癖に。違う、嘘じゃない。ならどうして、どうして、どうして、どうして、どうして……」
ぶつぶつと言葉を吐き出している。怒っているのか、泣いているのか、区別がつかない声で。
「そ、そうだよ。あいつが悪いんだ。僕から、俺から、全てを奪ったあいつが。でも、もう、あいつはいない。そうだよ……もう、いないんだ。だからこれ以上、アイツらと、僕と、俺と……自分と……比較しないでくれ」
弱い彼が顔を見せる。誰かと比べられ続けた日々を思い出しているかのように。
「そんな目で……俺を見るな……そんな目で……僕を見ないで……ゴミを見るような目で……自分を見ないでくれ」
目から涙が落ちるように、吟時の体の至る所から、大きな影が落ちていく。その影は、次第に足元へと溜まっていき、やがて大きな水たまりのような影ができる。
「自分は……ジブンハ……じぶんは……」
その言葉を最後に、影が吟時の全てを飲み込んだ。
「自分は……誰よりも強くならなきゃいけないんだあああああああ」
その言葉を最後に、影が吟時の全てを飲み込んだ。
「ああああアアアアアaaaaaaAAAAAAAア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
「アアアアアaaaaaaAAAAAAAア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ああああ」
「aaaaaaAAAAAAAア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ああああアアアアア」
絶叫する声が、幾重にもなって重なり始めた。
その悲痛な声に影響されていくように。
影が、形を成す。
最初に出てきたのは、竹刀。それが、形を変えて、やがて刀へと変化した。刀は宙を舞いながら数を増やし、10本の刀が生まれると、刃を吟時に向けて突き刺していく。一本、一本、刺された吟時は、ドームの空気を飲み込むような痛みを含んだ悲鳴で叫んだ。
やがて、刀がすべて突き刺さると、吟時に鬼のような角が二本生える。長髪の後ろには団子の髪が結ばれ簪が刺さっている。口元には、二本の長牙。耳には針のような耳飾り。服装は和服に変わり、腰には二本の刀。靴は下駄へと変わった。
その姿は、まるで【黒鬼】。
「……」
悲痛な叫びは消え去り、静まり返る。
影を纏い変化した吟時は、あたりを見渡し、あるところで止まった。
視線は、靭に固定されている。
「来るぞ……離れてろ」
「ええ」
靭は、拳を握り締め、静かに構えを取った。
それが、戦いの合図のように。
影を纏った吟時が、靭に襲い掛かる。




