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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第二章 XNFA--ゼノファ--

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第23話 結晶頭

ギイイイイ――重々しい門が開く。


『制限時間は72時間! クリア条件は……影の発現!

発現したかどうかは、ボクチンこと、十善寺花火ちゃんが見定めちゃーうぞ!

それじゃあ、張り切って行ってみよう!』


 扉は開いたが、化け物は姿を見せない。今までとは違う流れだ。靭たち一同が扉を見つめて待機していると、靭の視界の端に一つの影が映る。


「こちらに参加させていただいても?」

「吟時。もう、いいのか?」


 先ほど一人で戦っていた吟時が、靭たちのところへ戻ってきた。前のゲームで熊の化け物に苦戦したことを思い出しているのかもしれない。吟時は、柔らかく拳を握りしめるも、その表情は硬い。


「そうですね……一人でやるには、限界があると教えられたからでしょうか」

「ふ、そうか」


 人は成長する。小さなきっかけで少しずつ。吟時もまた、そういう人間なのだろう。とはいえ、先ほどの、響に対する足手まとい発言が無くなるわけではない。


「だ、そうだが、紫苑さんはどうかな?」

 

 話を振られた響は、眉間に皺を寄せた。あまりいい気分ではないのだろう。彼女の返答を待つように、全員が響を見つめている。響は、何か言おうとして、肩を落とす。


「ちょっと、そんな心配そうな目で見ないでよ。さっきの発言がどうであれ、今の言葉も嘘じゃない。私は彼のことも信頼してると言ったでしょ。それに、子供の面倒を見るのも、大人の役目だし構わないわよ」


 響はそれとなくいつもの皮肉めいた発言をする。吟時の顔を見ることはないが、照れているのか、耳が少し赤い。器用な人だなと思いつつ、靭は全員を見渡した。反対意見が出そうな表情ではなさそうなので、一安心といったところか。


「そうか。なら、みんなで頑張らないとな」

 

 靭がそういえば、周りから笑顔が零れる。


「うんうん、新生パーティーなんだから、こういういざこざも定番だよね!」

「か、カルちゃん、今はそういうこと言わないほうが」


 カルの言葉に、守大があたふたしながら、カルの発言に肝を冷やしている。


「黒曜は子供。お姉さんのわたしが、面倒見てあげる」

「ふ、そうね。お姉さんたちが、最年少の黒曜くんの面倒を見ないと」

「お姉ちゃんたちにまっかせなさーい!!」

「……た、頼りにしてます」


 凛、響、カルの言葉に、吟時は顔を引きつらせた。最後のカルの言葉が響いてるのかもしれない。カルとは、ほとんど年齢が変わらないからだろう。とはいえ、迷惑を掛けたことを気にしてるのかもしれない。一応それらしい言葉を伝えている。


「まあ、これもまた、パーティーだよな」


(完全にまとまったわけではないが、負の感情はそれほどないのだろう)


 仲間意識がほんの少しだけ芽生えていることに、靭は多少のやりづらさも感じている。だが、それもまた臨時のパーティーだからこそ許されるとも思っていた。それぞれが、それぞれのやりたいことをする。今は、それでいいのだろう。


「さて、そろそろ来るわよ。たしかにこれは、とんでもない化け物かも」


 響の聴力で、感じ取ったのだろう。先ほどの笑みが消えている。それほどまでに、ヤバい存在なのだと、靭は溜息が漏れそうになるのを必死に抑えた。そして、全員を見て伝える。


「うし、準備だ。各々、配置に付こう。といっても、自分たちでやれそうなら、勝手に動いてくれよ」

「はーい!」


 カルが元気よく返事をすれば、周りも合わせて頷いた。前衛は前から順番に守大、その後ろに吟時とカル、さらにその後ろに靭。後衛は凛が前で、響が一番後ろだ。六つの扉から敵が現れるため、後衛の二人には背後を警戒してもらっている。


「来るわよ!」


 響が声を張り上げた。緊張しているのか、声が少し震えている。


 靭も耳を澄ませる。


 ジャラジャラ、ジャラジャラ――何かを引きずっている音がうっすらとだが聞こえてきた。徐々に大きくなる何かを引きずる音。


 そして、ようやく、それは姿を現した。


「わお、デカいね!!」

「3mくらいはありそうですね」


 巨大な門にふさわしい化け物と言えるだろうか。二足歩行で、かなりの大きさだ。吟時の言う通り、身長は3mはあるかもしれない。巨人ということが相応しい姿。顔と言っていいかは判断がつかないが、フードの奥には正八面体のどす黒い結晶がくるくると回っている。筋肉粒々の体の一部にも、細かな結晶が付着していた。服装は、そこら中に穴の開いたフード付きのローブ。ジャラジャラという音の正体は、引きずっている錆びた鎖だろう。鎖の大きさは、船を港に繋ぎ止められるほどの太さだ。


 正真正銘の化け物と呼ぶに相応しい姿と空気だ。


「これ、勝てるの?」


 凛が思わず呟く。今まで出てきた化け物の中で、圧倒的にヤバい存在だ。彼女が怖気づいてしまうのも無理はないだろう。


「やるしかない……いくぞ!」

「おっしゃーーー!」

「う、うおおおおお!」

「合わせます」


 前衛組が、一斉に前に飛び出す。


「……」


 化け物は何も言わない。頭が結晶だからか、声を発する器官がないのだろう。ただ、靭たちの動きは見えているかのように、引きずっていた巨大な鎖を鞭のように軽々と振り回し始めた。


 ガン、ガン、ガアアン――鎖を叩く音が、ドーム全体に響き渡る。


「避けてください!」


 吟時が叫んだ。その声に合わせて、纏まって動いていた靭たちが一斉に散開する。直後、鎖が靭たちがいた場所に直撃した。少し先の動きが読める吟時のおかげで、被害はなかった。


「なんつう威力だよ」


 化け物たちが暴れても、傷一つ付かなかったドームの床に傷ができる。見掛け倒しではなく、相当な力があることに違いない。


「スラアアアッシュ!!!」


 最も身軽なカルが、すでに正八面体の化け物に接敵していた。伸びた爪で渾身の一撃。


 キイイイイン――硬い金属のような音が響く。靭がカルの攻撃した箇所を見るが、傷が付いたようには見えない。


「かったああああい! あ、私の、爪ちゃん……」

「凛に治してもらえ」

「うん!」


 靭のそばまで戻ってきたカルの爪を見ると、長く鋭いそれが根元から折れている。凛に治してもらうように指示を出すと、カルは元気な返事と共に凛の元へ駆け寄っていった。


「うおおおおおおお!」


 守大が全力で突進しても、びくともしない。顔の代わりである正八面体の結晶を動かし、守大を眺めている。そして、ゆっくりと動きながら、片手で守大の体を掴んで持ち上げた。


「守大!!」


 靭が叫ぶ。


「うあああああああ!」

「ちょ!」


 靭を目がけて、守大が猛スピードで突っ込んでくる。あの化け物に投げ飛ばされたのだ。しかも、軽々と。守大の体はデカくて重い。体重は100kgを超えていそうだ。それが猛スピードで突っ込んでくる。後ろには凛と響、そして治療中のカルがいる。靭は両手を前に出し、決死の覚悟で受け止めた。


 メリメリ、ミシミシ――守大を受け止めただけで、靭の筋肉が切れる音と、骨が潰れそうな音が聞こえる。それでも、後ろには飛ばされまいと、必死に足の力だけで止めにかかった。


「ぐおおおおおおおおおおおお!」


 徐々に緩まっていく速度。痛む全身を無視して、靭は見事に受け止め切った。


「ゴフ」


 筋肉達磨と言っていいほどの重量と堅さを誇る守大の体。それを受け止めただけで、巨大な鉄球を全身に食らったような激痛とともに、内臓が潰れたのか靭はその場で血を吐いた。


「し、深海さん!」

「だい、じょうぶ。いいから、カルと一緒に」


 爪を治療してもらったカルが、すでに前線に戻っている。それを見た守大は、二回靭を見たあと、泣きそうな、でもそれ以上に悔しそうな顔で、頭を下げた。


「す、すみません!」


 守大は大きな声で謝罪してからすぐに前線に復帰する。


「靭!」

「頼む……内臓は、いけるか?」

「大丈夫」


 凛が影を発動させる。靭の体を覆うと、ゆっくりとだが痛みが引いていくのを感じた。


「結晶頭の化け物は四体しかいないみたい。私は今だけフォローに回るわ」

「頼む」


 響の言葉通り、結晶頭の化け物は四体のみ。運よく近くにはいないため、今相手してる結晶頭の化け物に集中すればよさそうだった。


 前衛の様子を窺う。結晶頭の化け物の動きはそこまで早くない。問題は、あの鎖と硬すぎる肉体だろう。攻撃が届かない。弱点と思われる顔を、吟時が攻撃するも、まったくもって意味をなさない。


「どきなさい!!」


 前衛の三人が、響の言葉に反応して飛んだ。


「ーーーーーーーっ!」


 響の超高音による叫び声で、結晶頭の化け物の動きが一瞬だけ止まる。操ろうとしていた鎖の動きまでもが、完全に停止していた。


「はああ!」


 吟時がすかさず、結晶頭の化け物の懐に飛び込み、ピンと伸ばした手で、鎖に何発もの手刀をお見舞いする。


 ギイイイイン――――長い鎖が、瞬時にバラバラになる。リーチを失った鎖に意味がないと悟ったのか、結晶頭の化け物は、鎖を捨てた。


「ちょっと!」


 カルの方へとぶん投げたのだ。


「ふうん!!」


 そこへ、カルの盾になるように、守大が飛び込んでくる。ガアンと音が響くも、守大に傷はない。


「サンキュ、守大!」

「う、うん」


 ダメージはないようだ。守大はまだ余裕そうに感じられる。


「……」


 結晶頭の化け物は、ただそれをじっと見つめていた。


「終わったよ、靭」

「ありがとう、凛。助かった」

「ちょっと、あの化け物、どうやって倒すのよ」

「地道に、削っていくしかないか」


 治療が終わると同時に、響が戻ってきて靭に文句を言う。靭は靭で、当たり前のことしか言えない。


「武器がないから、攻撃力はそこまでだろ。耐えられれば、どうにか」


 苦しい言い訳だ。決定打がないのは非常にまずい。相手を弱らせることができないということは、こちらの方が先に体力が切れる。周りが殺されたら、今度はこっちに敵が向かってくるのだ。このままではジリ貧であった。


「うおおおおおおお!」


 守大は果敢にタックルで突っ込んでいく。相当な速さだ。あれをまともに喰らえば、多少なりともダメージを負うだろうと、靭は予想する。


「……」


 結晶頭の化け物は、鎖を持っていた右手を握る。そして、ゆっくりと前に持ち上げた。


 ビュン――風を切る音が響いた。


「ご!」


 そのあとで、守大が吹き飛ばされた。バウンドしながら、靭達を通り過ぎていく。


「り、凛! 守大を頼む!」

「う、うん!」


 地面をバウンドしていく守大の姿が、靭には一瞬見えた。顔面を庇っていたはずの強靭な両腕が、だらりと力なく揺れている。完全に折れていた。守大の防御力ごと粉砕するような一撃を、あの化け物は放ってきたということだ。


「鎖がない方が強いって、そんなのありか」

 

 そういうギミックのモンスターかよと、文句を言いたくなるような仕様だ。管理人の十善寺に、今のままでは絶対に勝てないと言われたことが、頭をよぎる。


「コノヤロオオオオオ!!!」


 初めて守大が傷を負ったところを見たことで、カルが怒りを露わにして叫びながら突っ込んでいく。


「まずい!」


 靭は慌ててカルの後を追う。盾役を失った今の前衛は、非常に危険だ。カルと吟時ではとても耐えきれる一発ではないと悟った。靭も怪しいが、一撃でも耐えられれば問題ないと考えているようだ。


「絶対、倒す!」


 斜め前を走るカルから、影が生み出される。影はカルの手から腕までを覆い、長い爪を形成した。カルは、姿勢を低くしながら、猛スピードで突っ込んでいく。


「スラッシュ」


 小さく囁くような声で、カルは影の爪で結晶頭の化け物の腕を切りつける。少しだけ肉が削れたのが確認されれば、カルはそのまま攻撃の手を緩めず、攻めに攻め続けた。


「はあああああああ!」


 いつものような楽しそうな声はいっさいない。絶対にコイツを許さないという気合の入った声で、とにかく攻撃する。しかし、結晶頭の化け物は動じない。いくら傷つけられようとも、構わず右手の拳に力を入れて、ゆっくりと拳をあげる。


「まず!」

 

 靭はカルの元へ駆けた。間に合うかどうかじゃない。間に合わせなければならない。しかし、どこへ飛び込むべきか、判断に迷ってしまう。


「靭さん!」

「!!」


 靭は吟時の意図を察し、指さされた方へ全力で飛び込んで空中で体を丸めた。同時に、吟時は化け物の攻撃を先読みして、その範囲から素早く離脱しようとする。


 ビュン――風を切る音が、靭の耳に届く。


 パァンッ――人がはじける音を、靭は久方ぶりに聞いた気がした。


 吟時だけでは、彼かカルのどちらかに被弾していたであろう攻撃。間に靭がクッションとして入ったことで、二人への直撃を防げたのだ。


 だがそれは、靭が全ての攻撃の威力を引き受けるという意味でもある。


「ゴフ」


 血を吐きながら、吹き飛ばされる。体を見れば、こぶし大の空洞が体にできていた。心臓よりも少し下だ。飛びそうな意識の中で、靭は懸命に意識を保とうとする。


 胴体に穴が開いた痛みは尋常ではないが、なぜか耐えられた。靭の頭の中では、初めて注射器を打ったときの痛みの方が勝っていたようだ。それよりはましか、と吹き飛ばされながらに思うのであった。


「じいいいいいいいいん!」


 吹き飛んでくる靭を受け止めるように、蜘蛛の巣のように張った蔦のネットで、凛は靭を救った。


「大丈夫、絶対、大丈夫だからね」

「……」


 靭はコクリと頷く。マシとは言え、喋れる余裕はない。血の気が引いているのに、全身から汗が出て、体が痙攣している。話すことはできないし、意識も飛ばせない。涙目で霞んだ瞳で、浅い呼吸のまま、前線の状況だけを把握するように眺め続けた。


「音が聞こえるようにしてあげる。声は出さなくていいわ」


 響が靭の涙を拭きながら、そう伝える。響の能力で声を届かせるだけではなく、拾うことも可能らしい。何とも便利な能力だなと、靭は小さく笑みを浮かべた。

 

 音が聞こえる。前線で、カルと吟時が話している声が聞こえた。


「意識はありますよ。死なないからこそ、任せたんです。ただ、腹に風穴が空いたというのに、意識があるとは、恐ろしい人だ」

「深海さんごめんね! アタシ、頑張るから見てて!」


 吟時とカルが、会話している。靭は安堵した。カルは主力だ。もし自分のせいだと彼女の心が折れてしまっていたら、前線が崩壊してしまうと心配していたのだ。強い子だなと思いながら、二人が耐え抜いてくれることを願う。


「木花さん、ありがとうございました」

「……うん」


 近くで守大の声がした。いつものオドオドした自信のない声ではない。力強い感謝の言葉だった。


「あなた、大丈夫なの?」

「はい……靭さん、カルちゃんを守ってくれて、ありがとうございました」

「……」


 靭は言葉を発せない。代わりに、守大を見て、小さく頷いた。


「もう、吹き飛ばされません。耐えてみせます」


 そういって、守大は駆けていく。凛によって、折れていた腕も完全に回復している。靭は、駆けだした守大の、頼もしい大きな背中を見送った。


「お待たせしました」

「守大、大丈夫か!」

「うん、大丈夫」

「いい顔だ! よっしゃ、やるぞ! 守大、黒曜君!」

「ええ」

「うん!」


 靭から表情は見えないが、カルが笑顔でそう言ったことは分かった。吟時と守大も、覚悟を決めたような声だ。


「俺もどうにか、影を出せるようにします。フォロー、頼めますか?」

「任してよ! 守大、行くぞ!」

「任せて!」


 カルが先んじて、瞬時に結晶頭の化け物の懐に入った。影の爪で攻撃しては離れて、攻撃しては離れてを繰り返す。結晶頭の化け物が、右手に拳を溜めるような仕草をする。


「守大さん」

「行きます!」


 守大が大声を放つと、彼の体から影が生み出される。それは全身を覆うように纏まっていく。ボロボロの白い服から、漆黒の戦闘服を身に纏ったような姿へと変わった。


「うおおおおおおおお!」

「……」


 守大は、化け物の右腕を全力で掴んだ。響の能力のおかげで、守大が化け物を掴んだ右腕が軋んでいるような音まで聞こえてくる。結晶頭の化け物は、守大を凝視するように頭部の結晶を傾けている。そして左手を真上にあげ、守大に向けて強烈な一撃を放った。


 ゴオオン、ゴオオン、ゴオオン――硬いもの同士がぶつかる衝撃音が響く。一発一発放つごとに、守大の空気が漏れる音まで届いた。聞いているだけでも苦しい音だ。


「守大をいじめるなあああああああああ!」

 

 涙声で叫ぶカルが、守大を攻撃している左腕に向かって何度も影の爪で切りつけるも、意味をなさない。ダメージは、確かに通っているが、守大にヘイトが向き続けている。


「ぐふ」


 影で自身のみを守っているとはいえ、守大にダメージが入っているような鈍い声が聞こえた。


「……」


(まずい)


 さすがに無視し続けることはできない攻撃だったのか、結晶頭の化け物は突然カルへとヘイトを向けた。


「へ?」

 

 カルは、すでに攻撃モーションに入っている。攻撃の仕方が良くなかった。その場で切り裂くのではなく、地面を蹴り上げてから体重を乗せた大振りな攻撃だ。右腕からの攻撃ではないとはいえ、カウンターが入ればひとたまりもない。


「させません!」

 

 吟時がカルの前に飛びだした。腕まで影を纏った吟時が、カルを攻撃しようとしていた左腕に向かって影の刀で斬撃を放つ。拮抗している太腕と刀。


「っち」


 吟時は、腕を振り抜いた力を利用して、後ろに飛んだ。


「硬すぎますね……少し深く切れた程度ですか」


 それでも、ダメージは通ったようだ。ただ、吟時は肩で息をしている音も聞こえる。前回もそうだったが、影を使う攻撃方法は、吟時の体力を奪うものらしい。


 そして、また、守大に左腕が攻撃を仕掛けようとする。


「ダメエエエエエエエ!!」


 カルがその場で大きく叫んだ。


「カル!!」

「まだ駄目!!!!!」


 靭から声が出た。同時に、凛が叫んだ。すでに外見上の治療が済んでいる。だが、体は動かなかった。治ったように見えても、まだ修復できていないようだ。


「っち」


 脆い体にイラつきながら、カルを見た。カルは大きな口を開けた。影だ。マスクのようにカルの顔半分を覆った影から大きなギザギザの歯が形成された。前回見せた、熊を食らった時の力だ。


「ガブ!!」


 カルが叫ぶ。すると、影がぐんぐんと伸びていき、僅かだが、結晶頭の化け物の肉を抉った。結晶と腕の一部を食らう。


「クエタ」


 カルが機嫌のよさそうな声で笑うと、マスクにも反映されて顔半分のすべてが、にっこりと笑みを浮かべた。不気味なのに、可愛らしい。カルのテンションが明らかに上がったのが分かる。


「……」


 結晶頭の化け物のヘイトが変わった。


「か、カルちゃん、逃げ……うわあ!」


 守大が結晶頭の化け物に投げ飛ばされた。痛めつけて、少しでもダメージを稼ぐ方法ではない。無理やり引きはがして、他の脅威を優先させるための行動だ。


「大丈夫、任せて」


 カルがその場から消える。あまりにも速く動くカルは、先ほどまでと別人のようだ。


「食ったからか」

 

 靭は、その場で答えを出す。相手の肉を食らうことで彼女の能力が上がったのだろうと。上位の相手を食えば食らうだけ強くなる。まるで主人公のような能力を前に、靭の口角が上がった。


「ハハハハハ! カルちゃん、最強!!!!」


 カルは中距離からではなく、近距離からの攻撃方法に変えた。がぶがぶと声を発すると、先ほどよりも大きく食いちぎられていく両腕。少しずつとはいえ、結晶頭の化け物にダメージを負わせていた。カルが主に狙っているのは、右腕だ。なるべく早く、その驚異的な力を抑えたいのだろう。


「アタシ、主人公じゃん、なろう系の主人公そのものじゃーん!!」 


 キャハハハと嬉しそうな声をあげて、ひたすら結晶頭の化け物を喰らっていく。敵を喰らいながら笑う様は、なろう系の主人公よりも、悪役が似合う。


「赤月さん!」


 吟時が突如として叫ぶ。それでも、カルの耳には届いていないのか、次々と結晶頭の化け物の腕に噛みついていく。吟時は、フォローに入ろうとしているのか、それともカルを止めようとしているのか。カルの猛攻に割って入るも、止められなかった。


「早すぎる」


 吟時の焦った声が響く。肉体が強化されたカルの突進は、この場にいる誰も止められるものではなかった。


「……」


 顔と思われる結晶が、細かく動いている。それはまるで、カルの動きが視えているかのような小さな挙動。


「黄土さん!」

「う、うん」


 カルのフォローに回るように守大に声を掛けた吟時が、タイミングを見計らう。


「あ、駄目だ」


 吟時の声が、靭には、やけに大きく届いた。


「ヒャハハハハ!」


 狂ったように笑うカル。


「……」


 静かに、カルを追う結晶頭の化け物。


 ドン――後ろに大きく跳ねたのは、結晶頭の化け物。


「ニガサナイ!」


 カルは最短距離で追いつこうと、一直線に駆け抜けた。


「避けてええええええええええええええ!」


 この場で最も遠くまで声を届けられる響が、絶叫した。吟時の呟きを拾い、いち早く最悪の事態を察知したのだ。


 でも、僅かに遅かった。


「あ」


 カルの顔に、大きな拳が直撃した。


 直後。


 ドーーーーン――壁に何かが衝突した大きな音が響く。そこへ視線をやると、ぐったりと倒れて地面に伏したカルの姿。


 彼女はピクリとも動かない。


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