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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第二章 XNFA--ゼノファ--

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第18話 吟時、感謝と叫び

「早いな」

「あら、お疲れ様」


 後ろで吟時、カルと守大の戦いを様子見している響に話しかける。響は、視線を逸らすことはないが、完全にサポートに徹しているような立ち位置だ。


「いつからここに?」

「吟時は10分くらい前、5分前にカルちゃんと黄土君が入ってきた感じね」

「そうか。だいぶ遅れてしまったな」

「まあ、うちのは戦闘馬鹿だからね。

カルちゃんと、守大君も前線ってタイプだし」


 圧倒こそしていないものの、三人は熊の化け物相手に善戦している。守大は常にカルを守る動きで、敵とカルの動きを視界に入れながら動いていた。カルもそれが分かってるのか、守大が守ってくれる範囲内で熊相手に爪で攻撃している。


 吟時は、大振りになった熊の動きに合わせて動いているようだ。チームワークという連携プレイもないが、邪魔にもなっていないという表現があっているだろう。


 だからこそ、響はここで様子を伺っていた。大声での硬直は範囲が広いため、今のままではカル達にも当たってしまうから。いつでも声が届く範囲を維持しているようだ。


「そうだけどな」


 靭も分かっているが、年下ばかりに命を張らせるのは気が引けるのだろう。とはいえ、今から自分が入れそうなスペースはない。ひとまずは、情報を見ることに専念する。じっと、戦いを見ていると、あることに気づく。


「カルと守大は、影が出てきたのか」


 カルは両手から両肘までと、口元にマスクのように覆われた影が発現している。守大もカルと同じ状態だが、カルとは違い顔以外の全身に影が覆われていた。全身タイツのような見た目ではなく、鎧のような形をしている。


「影って、あの黒い液体ね」


 響はまだ影のことを知らないようで、カルと守大を覆ってる影を黒い液体と言う。


「よく液体だと分かったな」


 靭は体に触れるまで、影だと思っていた。凛の体に影が出ていたとき、当初は目が霞んでいたから、本物の影が揺らいでるだけだと思ったのだろう。


 ただ、靭は凛に回復してもらう時、影に触れられて分かった。あれは影ではなく黒い液体であると。見る限り影だが、その実態は黒い液体。黒い液体と口ずさむのが面倒で、影と称しているだけだ。


「まあ、音がね。あからさまに液体の音だし」


 響がそういうと、靭はじっとカルと守大に纏っている液体を見る。


「まあ、確かに液体だったな」

 

 靭が怪我を負った時、凛が作り出した影によって体を回復することができた。影が靭の体の一部になったというのが正しい解釈なのか、それとも魔法の力が働いているのかは謎だ。


「どういう原理なのかしらね」


 響が不思議そうに眺める影の原理は、靭にとっても未知だ。まあ、人体改造された時点で、原理や倫理なんてものを気にするだけ無駄な気もするが。


「凛は、分かるか?」


 凛は、靭の体を修復するために、影を出していた。操ってる本人なら分かるのではないかと、凛に直接聞く。


「影は、私の意のままに操れる。でも、意識しないと出てこないの。それに、靭の体を回復させるために使った影は、もう操れない。あれはもう、靭の体の一部に変わったから」

「液体だしな。移植と思えば、聞こえはよさそうだな」

「そうするべき。わたしの一部を移植したと思えばいい」

「それなら、問題ないか。医療でもよくあることだし」


 得体の知れないものが体に入り込んでいるならまだしも、凛の一部と言えば聞こえはいいらしい。医療と同じにするところは、間違いなく間違ってると思うが。なにせ、隣で二人の会話を聞いていた響の顔が引きつってるから。


「いや、問題あると思うけれど……まあ、二人がそれでいいならいいわ」


 もはや、何でもいいらしい。


「それより」


 と言って、次の会話に移る。


「心臓が二つあるって言ったの覚えてるかしら」

「ああ、とはいえかなり小さい音だったんだろ?」


 心臓が二つあるという言葉は、なかなかにショッキングなものだ。それは、何事もすんなり受け入れる力を持つ靭であっても、しっかりと記憶には残っているくらい。


「カルちゃん、黄土君、そして凛ちゃん。

心音と重なるように聞こえてたけど、今は正反対のリズムで鼓動してる」

「……凄く嫌な予感しかしないな」

「ええ、その予感は当たってるわ。あなたたちが『影』と呼んでるあれ……体内に寄生した『生き物』よ。それが何らかの影響で育ち、あの姿になって外へ出てきた。謎の力の源は、間違いなくあれね」


 つまり、なにかしらの影響で、外に出てくるまで育ったということだ。影のような姿をして体から出てきているというのが、響の見解らしい。


「アメーバみたいよね」


 なんとも想像したくないものである。自由に姿を変えるアメーバが、体の中に存在している事実に、凛が思わず身震いした。


「あれが体に入ってる……ちょっときもい」


 影と言われれば聞こえはいいが、「アメーバのような生物」と言われるとどうしても気味が悪い想像をしてしまう。


「はは、寄生虫みたいだな」


 靭のノンデリカシーな発言に、女性二人が厳しい目を向けた。それ、本当に口に出す必要があったのかという目だ。まったくもってその通りである。


「いや、すまない」


 すぐに謝罪する靭ではあるが、時すでに遅しというやつだ。


「まあ、私も想像しちゃったからいいけどね」

「……虫じゃないって信じる」


 気まずい空気が流れたのであった。靭は自分の発言を撤回しようとして、咳ばらいをしてから影を見て言う。

 

「まあ、でも、響の言った通りだよな。

あれが体の中にいたおかげで、ゲームのような力が身についたと言われれば納得はする」

「……できれば、したくない」


 靭の言葉に、凛はただただ表情を暗くして呟くしかなかった。


「まあ、そうね。

影を発現したほうが、明らかに強くなってるものね」


 響の言葉に同意しつつ、靭は熊と戦うカルたちの様子を伺う。吟時が攻撃した時よりも、明らかに影を纏ったカルが攻撃したほうが、熊の動きが鈍っているし、ダメージも通っているようだ。

 

「ということは、黄土君とカル主体で倒すほかないか」

「凛ちゃんもね」

「わたしは、たぶん無理」


 凛も、すでに影を自由に出し入れできるのか、影を手のひらに集めていた。


「回復力は間違いなく上がってるけど、攻撃に転用できる自信がない」

「欠損もちょちょいのちょいだったぞ」

「それは、本当にすごい能力ね」


 動けるヒーラーならまだしも、凛は医者に近いのだろう。戦闘後には大活躍の力であるが、戦闘中に戦いながら怪我を治せるものではない。


「……悔しいけど、後方支援。一撃でもあの熊の攻撃が当たれば、死ぬ自信ある」

「守ってやりたいが……どうにも難しそうだ」


 靭は、さきほどまで背中に凛を背負って戦っていた。ただ、今回は凛に攻撃が当たらないように立ちまわることができるかと言われれば、そうではないようだ。


「私も残念だけど、あまり使い物にならなさそうなの。

周りも雑魚を終えて熊と戦っているし、凛ちゃんを守りながらサポートに回る」


 喉を押さえている辺り、消耗が激しいのだろう。先ほどからちょくちょく声が掠れていたのも、能力を使い過ぎたせいだ。


「なら、俺はあいつらのフォローに回るか」


 カルと守大は余裕そうだが、吟時がすでに体中から血を流している。さすがに、このままでは吟時が危ないと感じて、覚悟を決めた顔で、靭は体をゆっくりと動かす。そんな靭を前にして、凛はぴたりと靭の体に抱きついて、ぎゅっと力を入れる。


「靭、いつでも回復させる」

「頼むぞ」


 自分の能力は、受けた力を自分のものにできることだと、靭は思っている。ただし、凛のようなヒーラーがいなければ、かなり使い勝手の悪いものだとも感じていた。地味ではあるが、生き残りさえすれば、無限の可能性を秘めているとも思う。


 とはいえ、二度と経験したくないような痛みに耐え続けなければならない。普通の人間であれば、一度経験しただけでも簡単に心が折れるだろう。皮膚が裂けて、筋肉が断裂し、骨がむき出しになる。誰が好き好んで、そんなことをしたいと思うのか。


 ただ、靭は何事もないような顔つきだ。痛みすら当たり前に受け入れることができるのは、靭の強みであり、狂気でもある。だからといって、それでも凛は止めることはしない。 


 止めても無駄だと、分かっているのだろう。


「だから、絶対死なないで。死ななければ、どんな怪我でも治せる」

「それは、頼りがいのあるパートナーだ」

 

 凛の頭を撫でてから、熊の方へ足を進める。


「頑張って」

「ああ」


 靭は、戦場へと駆けていく。






「よお、大丈夫か、黒曜君」


 至る所から血を流し、呼吸が乱れている吟時に声をかける靭。吟時はいつもの愛想笑いとは違い、本当に楽しそうな顔で笑う。


「ええ、とっても。すごく、すごく調子がいいです」

「それは、なんというか、凄いな」


 血を垂れ流して調子がいいというのは、なんとも不気味である。大怪我を負って、回復すれば強くなるために、死地に向かう靭も大概だが。


 当人は、自分よりも他の人間が狂ってると思うらしい。全員が全員、どんぐりの背比べだ。


 

「深海さんも戦いに?」

「まあ、フォローくらいはな。

ちなみにだけど、カルと守大のフォローをするつもりは?」

「まったくありません」

「あ、そう」


 清々しいまでの拒否。本当なら、自分一人でこいつを殺したいという目をしている。ただ、それが厳しいことも分かっているから、ここで戦っているのだろう。


 フォローしろって強く言っても、無駄だろうな。

 本人のやる気を削いでは、連携もクソもない。ならば、本人のやりたいようにやらせることがいいだろうと、靭は他の提案をすることを決めた。


「なら、俺にフォローされるつもりはあるか?」


 その言葉に、吟時は少し驚いたようだ。自分でも、それなりに我儘を言った自覚があるのだろうか。本人は嫌がっているようだが、やっぱりちゃんと真面目だなと思う。


「それはありがたいです。さすがに、一人では限界があると感じてました」

「そうか」


 現状を把握して感謝できるなら、許容範囲。ここで強がる馬鹿なら、靭は恐らく吟時を見捨てていた。戦場で我儘な子供のお守りをするつもりはないようだ。


「調子は良いようだが、諸刃の剣ってやつだろ。それ以上、血を流せば、他の原因で死ぬことになると思うぞ」

「確かに、これ以上、傷は負いたくないですね。出血多量で死ぬことはなさそうですが、気は失いそうです」

「今の戦場なら、一発でお陀仏だな」

「それは、もったいないですね」


 血走っている吟時の視線は、一度も靭を見ておらず、熊ばかりを追っている。それはきっと、本心なのだろう。戦闘狂というより、戦闘廚といったところか。


「言っておくが、今の俺じゃあ、あいつの攻撃防ぐのに、一発しか持たないぞ」

「十分ですよ」

「なら、まずは一回やるか。あと、言っておくが、この一回だけしか付き合わない。

これ以上手伝えというなら、影を発現させたら、手伝ってやる」

「なるほど……赤月さんや、黄土さんのあれですね」


 二人が会話をしている間も、カルと守大は二人で熊の化け物と戦っている。まるで、吟時なんか必要ないと、行動で示されているように。それくらい、今の二人はうまく戦えていた。


「そういうこった」

「では、そうできるように頑張りますよ」

「おう、頑張れ若人」

「五つしか歳は離れてないでしょうに」

「六つな」


 靭がそう言うと、吟時は嬉しそうに笑う。本来の笑顔というべきか。子供らしい笑顔を見せた吟時に対して、靭は思わず目を見開いた。


「まあ、頑張らさせていただきますよ」


 吟時は、ただ、そう呟いて、先ほどの狂気的な笑みでもなく、真剣な表情で熊を見る。


「カル、黄土君!」

「ん、深海さん! どったのー!」


 戦闘中のカルと守大に声をかける。カルはこちらを見ていないが、返事はする。守大は声を出す余裕はないようだが、一瞬こちらを見たので恐らく声は届いているはずだ。


「少しでいいから、そいつの動きを止めてくれ!」

「りょうーかい! 守大、先によろしく!!」

「うん!」


 守大が影を纏いながら、熊から少し距離を取る。


「うおおおおおおお!」


 大声を上げての捨て身のタックルといったところか。全速力で手を前にクロスして、熊の化け物に突っ込んでいく。


「グオオオオオ!」


 守大の攻撃に対して無視はできないようだ。熊の化け物は、守大の突進を正面から迎え撃とうと構える。


「うおらああああ!」

「グウウウ!!」

 

 ドーン――トラックとトラックがぶつかり合うような、激しい衝突音が響く。


「グアアア!!」

「うわあああ!!」


 熊の化け物は、吹き飛ぶことなく守大を弾き返した。力と力のぶつかり合いでは、熊の化け物の方に軍配があがる。


「スラーーーッシュ!!」

「グアアア!」


 それでも、隙はできる。


 無防備の状態からカルが足元に攻撃を入れると、熊は声を出して叫びカルの方を注視する。威力は申し分ないが、痛みで熊が怯むことはなく、むしろ好機だと感じたのか、カルへと攻撃を仕掛けようと、カルに向かって巨大な爪を大きく振り上げた。


「させるかあああああああ!!」


 そこへ靭が割り込む。守大が吹き飛ばされた今、カルを守れるのは靭しかいない。


「グアアアアアア!!」


 真正面からの熊の爪での攻撃。靭はそれを真正面から受け止める。


「ぐう!」


 しかし、熊の爪が振り下ろされる異常な速度と、その巨体の体重が乗った一撃を、今の靭が防ぎきれるはずもなかった。防御に出た両腕は無惨にも切断されて吹き飛ぶ。さらにその凶刃は腕だけに留まらず、靭の肋骨を容易く砕き、内臓まで深く抉り取った。


 熊の一撃で体から血を噴き出し、血反吐を吐きだし、すでに瀕死の状態。


 そんな中でも、靭は叫ぶ。


「き゛ん゛し゛い゛い゛い゛い゛い゛!!」

「感謝します、靭さん」


 それだけ呟くと、吟時はその場から消えた。


「!!」


 気付けば吟時は、熊の顔の目の前、空中で身を屈めている。突如として、目の前に現れた吟時に、熊の化け物は声も出さずに、目を見開くだけ。


「影!!」


 いつも飄々としており、声を荒げず、ただ薄ら笑みを浮かべる男が、ただ一言叫んだ。すると、急速に影が生成され、吟時の身長ほどの刀の形をした影が生まれる。


「っ!!」


 吟時が力を溜めるように、さらに身を屈める。吟時の思いに答えるように、影が筋肉を圧縮するようにギチギチと音を立てながら、吟時の体に纏っていく。


「う゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛!!」


 吟時は、気合の入った声で叫ぶ。


 そして、黒く光り輝く太刀を振りぬいた。


 キイイィィィン――美しい音色が響く。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 床に着地した吟時は全身で息を荒げている。影が消えると、吟時は熊に背中を見せて、その場を後にした。


「……」


 吟時が去ってから少しして、熊の首がズレ始める。そして、ドンと頭部が落ちると、そこから黒い血液が雨のように熊の周囲を濡らしていく。


「なるほど……これは、なかなか……疲れます、ね」


 限界が来たのか、吟時はその場で倒れ込む。

 

 気絶した吟時は、全てをやり切った清々しい表情を見せて、青年らしい顔で眠っていた。



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