第17話 それぞれの第2ラウンド
靭たちが立ち向かう化け物たちは、全て動物のような姿をしていた。犬、猫、馬、イノシシが、黒く光る結晶に浸食され、姿形を変えられてしまったかのよう。顔が2つある犬の化け物、牙と爪が伸び縮みしている猫のような化け物、体全体が筋肉隆々の馬の化け物、胴体や顔から巨大な象牙の生えたイノシシの化け物。
「グウウウ」
後ろにいるのは熊だろうか。ヒグマをさらに巨大化させ、そこに黒い結晶を差し込んだような化け物だ。一匹と言っていいのかは分からないが、そいつは異様な空気を醸し出し、生き残った人間たちを眺めていた。
「シャアアアア!」
「グラアアア!」
「ガアアアア!!」
雄たけびを上げながら一斉に近づいてくる化け物。14体の化け物たちは、それぞれ狙いがあるのか、統率の取れた動きで靭たちに向かってくる。
「っち!」
「わ!」
統率の取れた動きで、靭たちを牽制させ、ペア同士で離れさせた。靭と凛には三体のみ。犬、猫、馬の化け物だ。結晶を身に纏う化け物に、靭の背中から汗が流れる。
「掴まれ!」
「うん!」
靭は、大声で凛に背へ掴まるように叫ぶ。凛も即座に指示に従い、靭の背中にしがみついた。靭は凛を背負ったまま、三体の化け物に立ち向かっていく。素早く動いて牽制するも、三体もいれば牽制に意味はない。体力を無駄に消費すると考えた靭は、隙を見つけて一気に化け物の懐に入り込む。
「うおおおお!」
「ギャン!」
速さと腰の入った一撃は、犬の化け物の顔に的中する。しかし、顔が三つある犬の化け物は、もう一つの頭を切り離して、もう一つの頭で靭の腕に噛みつく。
「ぐう!」
「じん!」
動きが止まった靭に対して、猫の化け物が襲い掛かる。靭は奥歯が砕ける勢いで噛みしめて、腕に噛みついた犬を持ち上げてぶん回した。猫と犬の体がぶつかり合う。猫の爪による斬撃が犬を捕らえ、犬は痛みで靭の腕から口を離す。
「ブルアアアア!」
「がっ!」
「きゃ!」
犬と猫の対処が終わった隙に、すぐさま馬が駆け寄り、その強靭な筋肉による後ろ蹴りをもろに喰らってしまう。靭は後ろに吹き飛ばされながらも、背負う凛を咄嗟に守りながら転がっていく。スーパーボールのように弾け飛ぶ靭の体。腕からの出血と、今しがた受けた蹴りに腹の肉が抉れて、血が噴き出す。
どうにか体勢を整えて、化け物たちを視界に入れる。
「ぐ」
口から血を吐き出しながらも、靭は立ち上がり、相手の動きをぼやけた視界に映し出した。気絶しないだけましではあるが、靭はすでに満身創痍だ。右腕は肘から下がほとんど機能していないほどに壊れている。右腕は馬の攻撃を咄嗟に防いだせいで肉が消し飛び、骨が丸見えだ。右手首も皮膚が削られ、無残な状態になっている。
腹も抉られ肉と内臓がだらりと姿を見せて、血を垂れ流している。
「はは、片腹痛いとは……このことだ」
この状態で立ち上がり、まだ喋る気力はあるようだが、絶体絶命であることには変わりない。
どの化け物も、一撃食らっただけでこのありさまだ。犬の噛む力も絶大ではあるが、馬の蹴りによる一撃は、靭の腹を言葉の通り吹き飛ばす威力。あれだけは避けるほか対処できないだろうと考える。
(馬は体がデカいせいで走るのが遅いことだけが、救いだな……高火力のアタッカーってわけだ。こっちの攻撃が届く前に、素早い犬と猫もいる。化け物のパーティーだな、ありゃ)
体の一部が消えかけているというのに、冷静に分析している自分に、思わず呆れた笑みが零れる。
(俺の一撃は、無為に終わったし、なんだかな)
靭の攻撃はたったの一度しか届いておらず、その攻撃も意味をなしているようには見えない。
「ガアアアア!」
「グラアアア!」
犬は猫の一撃で黒い血を垂れ流しながら靭に向かってきた。猫もそのフォローに回るように、犬と一緒に靭の元へ向かってくる。馬は様子見しているようで、じっと靭の姿を睨んでいる。
「絶体絶命だな」
靭が一言呟いたとき。
「じん、まだ動ける?」
凛が靭に声をかけた。
「ああ、避けるくらいはどうにか」
「なら、頑張って避けて……回復させる」
「へえ……いいね、その案に賛成だあああああ!」
靭は、力の入らない右肘から下の腕を容赦なく骨ごともぎ取った。馬の一撃ですでに骨までやられていたからか、思いのほか簡単に腕が千切れる。自らもぎ取った腕から飛び出す尖った骨を見て、靭は凶悪な笑みを浮かべた。壊れた部分の痛みなど忘れてしまったかのような、あくどい笑みだ。
「ほらあ……」
脳内のアドレナリンが、靭の脳をバグらせている。すでに人間の限界を超えている痛みと欠損だが、そんなもんはお構いなし。目が血走り、自然と笑みが零れて、自らの右腕を左手で思いっきり投げ飛ばす。
「お前らの好きな、肉と骨だ馬鹿野郎がああああああ!」
罵声と共に、凄まじい速度で尖った骨を見せる腕が投げ込まれる。その一投は、傷ついた犬の頭部に直撃して、はじけ飛んだ。
「一匹!」
靭は、そのまま猫の化け物へと駆け込んでいく。素早く柔軟な動きに対応しながら、次々と攻撃を避けていった。避けるだけなら問題はないようだ。痛みのことも忘れて、靭はただひたすらに避け続ける。
「まずは、お腹」
凛は激しい動きの中、靭に抱き着いたまま目を瞑っている。一瞬、靭が振り返ると、凛の体から影のような黒い液体がじんわりと滲み出ていた。その影は、凛の体をゆっくりと這うように動き、靭の腹の傷口へと向かっていく。影が腹にたどり着くと、凛は靭の体をぎゅっと抱きしめる。靭は目の前の攻撃を避けるので精一杯なのか、凛の行動に気付かない。
「治せ」
凛がそう命令すると、靭の腹から夥しく流れていた血がゆっくりと流れ、最終的には止まった。そして、影が黒い光を放つとともに、靭の腹が逆再生していくように、元の姿を取り戻していく。
「なるほど……これは、イカしてるな!」
腹の傷が塞がったことで、靭の体が劇的に軽くなる。まるで重い鉄鎧を脱ぎ捨てたかのような軽さだ。
「おら!」
「ギャアア!」
靭の動きは、さらに激しくなり、猫に腰の入った蹴りを喰らわす。猫の爪と相打ちになる覚悟で放った一撃は、猫の化け物の爪をへし折ることに成功した。
「なるほど、蹴りならコロセソウダナ!」
靭は、これ見よがしに蹴りを連発していく。凛が背中にしがみついていることなど忘れたかのように空中で連撃を放ち、猫の顔面を捕らえて吹き飛ばした。
「ふうう、残り一体」
「靭、わたしもいるんですけど」
「ああ、悪い。忘れてた」
とんだ言いようだが、今は戦闘中だ。凛ばかりに構ってもいられない。むしろ、背中の重さを忘れてしまうほど、急激に体が楽になったというべきか。そのことに気付いて、靭は自分の腹を見た。完全に塞がれた横っ腹には、キラキラと化け物と同じ結晶がついていた。
「なんか、オシャレになったな」
もっと別の感想があるのだろうが、靭は脊髄反射で出した単語を口ずさむ。凛は今、靭の回復に集中しているからか、靭の言葉に耳を貸さない。ふう、と呼吸を整えている凛から、影が出ていることに、靭は今になって気付く。
「次、腕だから」
「欠損もいけんのか」
凛が集中しているため、その驚きは口に出さず、靭は前を向く。馬はすでに臨戦態勢に入っており、今にも駆け出さんばかりに力を溜めている。
「いけると思ったから、取ったんでしょ」
凛の拗ねたような声に、靭は思わず苦笑いする。響から聞いた話で、靭は凛の回復能力が異様なまでに向上していると察していた。なら、欠損くらいも治せるのではないかと踏んだのだ。とはいえ、確証もないままいきなり腕を骨ごともぎ取った靭に、凛はお冠なのだろう。
「説教はあとでな」
「説教はしないけど、いっぱいするの」
「ふ、はいはい」
ようやく本来の靭に戻ったことで、凛は目を瞑りながらも僅かに頬を緩ませた。
「ブラアアアアア!」
ズガアアン――爆弾が爆発したような音が聞こえると、馬が肉達磨の力をフルに使った突進を仕掛けてくる。先ほどの蹴りとは比べ物にならないような速度だが、靭はにやり笑う。左の手を思い切り握りしめ、体を一歩前に出す。
「うらあああああ!」
「ブラアアア!!」
二つの力が激しい音を立ててぶつかり合う。馬の蹄と靭の左拳が拮抗するも、やはり靭の体が吹き飛ばされる。だが、先ほどは馬のただの後ろ蹴りで腹の肉が壊滅した。だというのに、今度は馬の全体重と速度が乗った突進をカウンターで受け止めたにも関わらず、左手がはじけ飛んだだけで済んだのだ。
「ねえ、何してるの?」
背中から冷たい声が響くも、靭はあっけらかんと答えた。
「いや、いけると思ったんだよな。ほら、見ろよ。手がはじけ飛んだだけで済んだ」
「誰が、回復させると、思ってるの」
「凛、頼りにしてる」
「はあ、ちょ、調子が良すぎる」
凛はそのまま、急速に伸ばした影で、靭の両腕を包み込む。
「なんか、くすぐったいな!」
馬の単調な攻撃を避けながら、影の動きを観察する。グニグニと動く影が徐々に引き延ばされていく。元の腕の形を作り出すような、そんな動き。
「うん、分かってきた」
凛はそう呟くと、さらに靭を強く抱きしめる。
「おお」
みるみるうちに、姿を取り戻す靭の腕。回復しきると、靭の欠損した腕は、腹と同じようにキラキラと小さな黒い結晶がいくつも付けられていた。ほんのりと僅かに腕が発光しているようにも見える。
「ビーズ付きのラメ入りネイルみたい」
「あー、ネイルな、たしかに」
「おじさん」
「うるせぇ」
「ふふ」
完全に自分たちのペースを取り戻した二人は、戦闘中だというのにいつもの甘い雰囲気を醸し出す。
「グラアアア!!」
余裕綽々と攻撃を靭に避けられ、すでにお前は相手じゃないと思わせる二人にキレた馬は、怒りを露わにして叫ぶ。
「凛、ありがとな」
「うん」
「悪いが、一度下りてくれるか……やっぱいけそうなんだ」
「わかった」
凛はゆっくりと地面に下りる。靭は、辺りに危険がないかどうか確認してから、馬を見る。
「来いよ、馬畜生」
「グラアアア!!!!!」
馬はぐっと力をため込み、弾丸のようにはじけ飛んだ。結晶が体の前に集まり、巨大なバリスタの矢のような姿へと変化する。猛スピードで突っ込んで来るその『馬矢』に対して、靭もぐっと力をため込み、先ほどと同様に腰の入ったカウンターの一撃を放つ。
パリン――結晶が連続で砕ける音が響いた時には、靭の拳が馬の顔面を捕えて、肉塊ごと吹き飛ばした。
「なるほどな」
靭は、拳を放った後の手を眺める。少し傷ついた程度で、ほとんど無傷と言っていい状態だった。
「なんともまあ、面倒な力だな」
靭は、自分の力がなにか分からなかったが、なんとなく閃く。
(適応したと言えば聞こえはいいけど……強い化け物相手には、毎回大怪我が必要かもな……)
強いのか、弱いのか分からない能力に、靭は思わず肩を落とすのであった。
「って、もうやってるし……」
靭が呆れたように視線を向けると、カルと守大、吟時がすでに残りの化け物を相手に戦闘を始めていた。吟時たちは6体、カルと守大は5体の化け物を相手にしていたはずなのに、靭たちよりも早く雑魚を倒し終えたようだ。
「格段に早くなってるな」
「成長してる」
「だな……ったく、これだから主人公タイプは」
「主人公タイプ。靭は脇役?」
「そうだな、その位置が妥当だろうな」
「ふふ、じゃあ、脇役なりに頑張ろ」
背中の凛がそう声をかけると、靭はため息を吐いたあと、僅かに口角を上げた。
「だな……うし、行くか」
「うん」
二人は横並びに、皆がいる場所へと向かった。
◆◆◆◆吟時&響◆◆◆◆
靭たちが、3体の化け物と対峙しているとき、響と吟時はというと。
6体の化け物を前に、吟時は笑い、響は嫌そうな顔で敵を眺めていた。
「なんか、数多くない?」
ため息を吐いて、目の前の敵を眺める響。
「どうやら、俺たちがもっとも厄介な相手と認定されたようです。ほら、深海さんのところは三体、黄土さんのところは五体です」
「ねえ、アンタが引き寄せたんじゃないでしょうね」
響がじっと顔を見ると、吟時は口角を上げた。
「さあ、どうでしょうね」
「はーあー、楽しんでるし……っーーーーーーー!」
近寄ってきた犬の化け物に、響は大声で足止めする。吟時の耳が響の大声でビリビリと痛むも、彼はただ楽しそうに笑うだけだ。
「まあ、良いじゃないですか、これで残り五体ですよ!」
吟時は瞬時に移動して、硬直した犬の首を手刀で切り飛ばした。血が噴き出す様を嬉々として眺めながら、吟時は響の方を振り返る。
「余裕ですね」
「んん、私はどこまで持つか……」
「大丈夫ですよ、すぐに終わらせますから……デカいのが待ってますしね」
奥の方で王のように鎮座する熊の化け物を見て、吟時は目を輝かせるも、響は呆れた顔でため息を吐くだけだった。
「んん、戦闘狂め。だったらすぐに終わらせてもらえる?」
「ええ、喜んで」
響と吟時、互いに深くかかわらない関係でありながら、連係プレーによって、周囲を蹴散らしていく。
「ーーーーーーーー!!」
響が大声で三体の化け物を硬直させ、吟時がとどめを刺す。
「余裕過ぎて、あくびが出てしまいますね」
「んん、っぺ」
余裕の表情を見せる吟時の前で、響は血を吐き出した。
「おや、もう限界ですか?」
「んん、連戦なんだから仕方ないでしょ……ああ、もう、最悪」
喉が掠れているのか、声がうまく出せないことに苛立ちを見せる響。
「まあ、そこでおとなしく待っていてください」
「そうさせてもらうわ。あれの前に、喉を温存しておきたいし」
「では、しばらくお待ちを」
吟時は駆け抜け、化け物を圧倒的な力で完封していく。吟時のその戦いっぷりを見ていた響は、思わず言葉を漏らした。
「どっちが化け物か、分からないわね」
化け物の攻撃を一度たりとも受けず、自身の一撃だけを当てていく。人間では出せない速度と、威力のある手刀。ナイフでも隠し持っているのではないかと疑ってしまうほどの切断面。たしかに、どちらが化け物か分かったものではない。
数分後、吟時が余裕の笑みを浮かべて戻ってきた。
「さあ、行きましょうか」
「はあ……休憩にもならなかったわ」
「では、俺一人で相手しても?」
吟時の見せる本物の笑みに、響はもう溜息しか出ない。
「フォローに回るわ。
まあ、アンタが本気でやるなら、アタシの出番はなさそうだけど」
「そうなると嬉しいですね」
吟時はそれだけ言うと、歩いてボスの元へ向かう。
「……」
熊の化け物は、吟時たちを標的と決めた様に睨んでいる。
「はあ、待ちなさいよ」
嫌な予感しかしない響は、吟時の後ろについていくしかなかった。
◆◆◆◆カル&守大◆◆◆◆
吟時と響が熊の化け物に向かう前。
カルと守大も、5体の化け物を前に臨戦態勢を取っていた。
「五体かー、響ちゃんたちに負けてるね!」
「す、少ない方が、ありがたいかも」
「弱気は駄目だぞ! こんなやつら、すぐに切り裂いて、ボスを狩らないと!」
「が、頑張るよ」
カルはニッと歯を出して笑い、視線を化け物の方に移すと、全速力で化け物めがけて飛び出した。守大は、すぐさま行動に移すカルについていくのが精一杯だが、それでも必死に彼女の後を追う。
「スラーーーッシュ!」
お気に入りのスキル名を叫びながら、牙となった八重歯を輝かせる。爪から腕にかけて、カルの手が影に覆われていく。威力と鋭さを増した影爪は、容赦なく敵を切り裂く。
「まだまだやっちゃおうよおおおん!」
戦場に舞う一匹の獣は、次の化け物を切り裂き、見るも無残な肉塊へと変えていった。
「カルちゃん!」
「うお、さんきゅ、守大!」
危ない場面があれば、即座に守大がカバーに入り、化け物の攻撃からカルを守る盾となる。馬の化け物は、隙があれば即座に靭の腹を抉ったような強烈な蹴りを放つ。だが、守大の防御の前では無力であった。
「捕まえた!」
「ブルアアアア!」
強化されている肉体すら破壊するその蹴りを、守大は片手で受け止めるほどの怪力を持っていたからだ。
「うおおおおおおおお!」
ぐっと体に力を入れて叫ぶ守大の体は、凛と同じく影に覆われていた。影に覆われた守大は、ばんえい競馬の農耕馬よりも遥かにデカく重たい馬の化け物を、ゆっくりと確実に片手で持ち上げていく。守大の力は、馬の化け物のそれを遥かに凌駕していた。
「うらああああああ!」
ドオオオオン!!
巨体が宙を舞い地面に叩きつけられた音は、重機が地面に落とされたように響く。
「ふうう! 守大最強!!」
体で喜びを表現するカルは、ぴょんぴょんとその場を跳ねていた。カルの足元には、犬と猫の切り裂かれた死体が転がっている。カルをよく見れば、口元は黒い血で汚れている。どうやら、化け物をすでに食らったようだ。むしゃむしゃと動く口が、それを物語っている。
「ブモオオオオオ!」
「んあ?」
そんなカルの前に、最後のイノシシの化け物が姿を見せた。
「ぶた」
「ぶも?」
「ぶたにくじゃああああん!」
目を輝かせて叫んだカルは、イノシシの化け物めがけて飛んでいく。間違いなく先ほどまで視界に入っていたはずにも関わらず、今になって気付いたようなリアクションだ。
「ブモオオオ!」
自分が「豚肉」扱いされたことを悟ったのか、イノシシの化け物は焦りと怒りの入り混じった咆哮と共に、象牙のような牙を突き立ててカルへ突撃する。
「いただきまああす!」
爪を前に突き出して30cmほどの太い牙を簡単に切断すると、イノシシの化け物を頭から食らいに行く。小さな口をめいいっぱい開けると、影がカルの口を模したような巨大な顎へと変化した。
「がぶ!」
その一言で、イノシシの化け物の頭が消失した。頭が消失し、首から夥しい程の血が噴き出すも、カルは空中で前転し華麗に避けて着地する。カルの口の中でゴリゴリと音が鳴り、しばらくすると、ごっくんと飲み込んだ。
「うーん、焼いた方がうまいし、守大が作った料理のほうがいい!」
ニッと笑う口元には、黒い血が一滴もついていない。
「カルちゃん」
「守大! さっきのは凄かったね!」
「あ、うん、カルちゃんも、凄い、えっと、食べっぷりだったね」
「でしょ! 口開けたら影が飛び出してきて、頭丸ごと食べれた!
凄い能力! まるでゲーム! 主人公みたいじゃない!?」
「う、うん、そうだね」
カルのひまわりのような笑顔に、守大もつられて笑う。
「ガアアアア!!」
呑気に笑う二人を他所に、吟時が一人で熊の化け物と対峙していた。熊の咆哮に気付いたカルが、ハッとした表情を見せて、守大の顔を見ながら熊の化け物を指さす。
「守大、早くいかないと取られちゃう!」
「う、うん、じゃあ行こうか」
「うん! あ、でも、その前に!」
カルは、死骸となった化け物たちを見た。カルの視界には、4つの死骸が転がっている。口を大きく開けたと思いきや、バッと守大の方を見た。
「あ、でも、一人で食べるのは駄目か!
守大には、馬の化け物あげる! アタシは、自分で倒した4つね!」
「え、うん」
「じゃあ、いただきまああああす!」
カルが口を大きく開けると、またしても影が現れる。口から大きく広がる影が、カルが殺した化け物たちを捉えた。
「がぶ!」
カルが声をあげると、4体の死骸が消失した。ゴリゴリ、ゴリゴリと、カルが口を動かすたびに骨が砕ける音が響く。そうしてまた、ごっくんと飲み込むと、カルは笑顔で手を合わせる。
「ごちそうさまでした!守大も、ちゃんと食べないとだよ! 殺されちゃうかもだからね!」
「え、いま、ちょっと」
守大が慌てていると、カルはビシッと聞こえる音で敬礼をする。
「アタシ、先行ってるね!」
「カルちゃん!?」
カルは守大を置いて、吟時が対峙している熊の化け物へと向かう。守大は、残された馬の化け物の死骸とカルを交互に見てから、慌ててカルの方へ全速力で駆け出していった。
自由奔放なカルに振り回されているはずの守大だが、その顔にはとても嬉しそうな笑みが浮かんでいるのであった。




