第16話 それぞれの戦い
◆◆◆◆響と吟時◆◆◆◆
「散開だ!各自で倒せ!」
靭の言葉を聞きつつ、お互いに距離を取る。
「珍しく余裕がないですね、深海さん」
泥の鞭を避けながら、吟時は靭の様子を伺っていた。響はさすがにそんな余裕はないのか、泥の鞭に集中しつつ、口を出す。
「確かに、あんな彼は初めて見るかもね、おっと。
まあ、あんな化け物見たら、誰だって、あぶな! 余裕なくなるでしょ!
それに、彼一人ならまだしも、凛ちゃんは回復要員なわけだしね」
「背負いながら戦ってますよ」
「なんというか、一番しんどいのは彼かもね」
「そうかも、しれないです、ね!!」
余裕の会話をしつつ、吟時が泥の鞭を簡単に避けて、一撃を放つ。音を立てることなく、泥の鞭がドロリと地面に落ちていく。地面に落ちた泥はシューっと音を立てて、小さな黒い結晶に変化した。
「ふむ、これなら余裕そうですね」
「あんたって、本当にこういう時は頼りになるわね」
「どういう意味ですか!」
「きゃ!」
吟時が響を抱えて化け物の泥のような鞭の攻撃を避ける。とっさに抱えられた響は、思わず高い声が飛びだす。吟時の攻撃を危険だと判断したのか、計三体の化け物が吟時の前に姿を見せる。
「ねえ、助けてくれるのはいいけど、この持ち方はどうなのよ」
どうやら米俵を肩に担ぐような抱き方に不満があるらしい。
「俺が前を見て、紫苑さんが後ろを見る。完璧だと思いません?」
一応作戦があるようだが、響の表情は不満なまま。とはいえ、助けられたのも事実のため、非常に複雑そうだ。
「はあ、まあ、助けてくれてありがとう、とだけ言っておくわ」
「ええ、どういたしまして。おっと、危ない」
その時、前後から泥の鞭が飛んできた。吟時はそれを当然のように避け、伸びてきた泥の鞭を手刀で切断する。素手にはまったく傷をつけることなく。
「ねえ、お願いだから、私に当てないでよ?」
「暴れないようにしてくださいね」
吟時は敵から視線を逸らさず、響に淡々と伝えた。
「ギイイイイイ!!」
「ギイイイイイ!!」
響は呆れながらも、目の前にいる化け物の数を報告する。
「後ろに二体追加ね。後ろのやつらの誰かが死んだわね」
「それは残念です」
思ってもいないのだろう。なにせ、吟時の顔はにっこりと笑っていて、とても楽しそうだから。
「前に三体、後ろに二体。いいですね」
「どこがいいのよ、ったく。まあ、やるなら後ろからやりましょう。ひとまず動きを止める」
「なにか、策が?」
「まあ、聞いてなさいよ」
そういうと、響は大きく息を吸って狙いを定める。
「なんか、嫌な予感がするなー」
吟時がそう呟いてから、すぐ。
「ーーーーーーーー!」
声と表現すべきか分からない超音波のようなものが、響の口から放たれる。音がまっすぐに化け物の方へ放たれると、ウニョウニョと動いていた泥鞭のような触手も、ギョロギョロと動いていた目玉も、体の動きまでもが完全に硬直した。
動きを止めた二体と、響の能力に、さすがの吟時も愉快に声を上げた。
「へえ、便利ですね」
「んん、回数制限付きよ……とりあえず、あっちよろしく」
「わかりました。では、後ろの足止め、お願いします」
吟時は、自分のフォローが要らないと分かり、すぐさま響を下す。
「んっん、了解」
響は喉の調子を整えるように、何度も咳払いをする。喉にかなりの負担があるのか、喉を押さえながらも、迫りくる泥鞭を前に、もう一度覚悟を決めて咆哮した。
「ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
三体いるからか、先ほどよりも長い音で、相手の動きを硬直させる。
「はあ!!」
その声が合図だというように、吟時は軽く床を蹴ったとは思えない速度で化け物に接敵する。
「くくく、じゃあ、さようなら!!!」
いつもの愛想笑いの笑みではない。口角を大きく上げて、笑いながら敵の頭を手刀で跳ね飛ばした。
靭が何度も殴っても倒れなかった相手を、無傷のままに殺す。
「これなら、問題ないな」
吟時は、響の前に素早く戻る。
「ちょ! んっん、早くない?」
「まあ、そこまでの脅威はありませんね。
鞭の速度も、体の硬さも、俺の前では無意味でしたから」
なんとも、余裕そうな笑みだ。無駄にかっこつけているのが気になるところだが、響はぐりぐりと頭を撫でてやる。
「年下のペアの子が強くて、大助かりよ」
「お役に立ててよかったですよ」
トップモデルの響から頭を撫でられたというのに、吟時の表情は変わらず、むしろ心のこもってない言葉を吐き捨てられる。だが、そんなことで響が動じるわけがなく。
「んん、悪いけど、目の前のあれも終わらせてくれる?
そろそろ硬直が解けそうな気がするし」
「ええ、お任せください」
吟時は一歩、二歩、前に歩いたと思えば、瞬間移動したかのような速度で敵に接敵。
「ギギ」
「ギギギ」
気づけば吟時が目の前にいたことに反応し、気色の悪い声を出すも。
「残念、遅すぎます」
吟時がその場を通り過ぎた瞬間、敵の体は無残にバラバラに崩れ落ちた。黒い泥からあふれ出た黒い液体が吟時の全身にかかり、服も体も黒く染まってしまう。けれど吟時は汚れた服を気にするわけでもなく、ただただ口角をつり上げて笑っていた。
「あんた、それが本性?」
背後から響が近づいてきたことにも気づかなかったようだが、吟時は気にせずいつもの笑みを見せた。
「どうでしょうかね。自分でもよく分かりません」
「あっそ」
「あなたこそ、喉からではなく、腹から声を出せばいいのでは?」
吟時の何気ないアドバイスと疑問に、響は思わず一瞬だけ硬直してしまう。
「んっん、できたらそうしてるわよ」
「それもそうですね」
吟時は響の回答を適当に返す。彼の中で、響への興味が薄れたのか、吟時は周りの状況を見渡し始めた。
「かなり早いですね、俺たち」
「なら、なるべく他のフォローに回りましょう。
凛ちゃんたちはもう終わりそうだし、カルちゃんは黄土君がいれば問題なさそうよ」
「では、そうしましょう。
紫苑さんも、無理して足手まといにならないようにお願いしますね?」
「本当に、可愛くないガキね」
響はぽつりと愚痴を漏らしながらも、吟時についていくのであった。
◆◆◆◆カル&守大◆◆◆◆
「散開だ!各自で倒せ!」
靭の言葉が聞こえると、カルは守大の背中に張り付く。
「よし、いくぞ、守大!!」
「う、うん!」
守大は4体の敵を怯えた表情で見ていた。三体は靭と凛、三体は響と吟時へ。残りの四体が、守大たちに狙いを定めている。
「アタシたちが一番多いな!」
「そ、そうだね」
守大は覚悟を決めるように、大きく息を吸い込んだ。カルは得物を狙う猛獣のような目つきで、桃色の瞳を輝かせている。
「ギアアアアアアアア」
不気味な咆哮と共に、化け物たちの泥の鞭が迫ってくる。
「や、やるしかない!」
守大の足の速さは、靭と吟時に比べて、泥鞭の触手の攻撃を避けられるほど早くない。そもそも二人より体が縦にも横にも大きいため、狙うにはいい的になってしまう。
なら、どうするか。
「しっかり捕まって、か、カルちゃん!」
「おっけーーー!!」
守大は顔の前で腕をクロスして、ドンドンと力強く突っ込んでいく。
「うおおおおおおおおおおお!」
恐怖心を消し去る様に、腹から唸るような声を出す。ドンドンと力強く地面を蹴り上げ、体に当たる強烈な泥鞭の一撃を気にせずに、とにかく近づく。
バシン、バシン、バシン――守大の巨体に泥鞭の攻撃が当たるたび、鈍い音が周囲に響く。それでも守大は、痛みを感じていないように、お構いなしに速度を落とさず迫っていく。
「いいぞ、守大!
これは、アタシも負けてられないよ!!」
カルは守大からピョンと飛び降りる。彼から離れると、手足を獣のように使って最高速度で駆け抜けた。ほとんどの攻撃は守大に向かっているが、一体がカルの進行を阻むように細かい鞭となり足止めする。
「は、よ、ほあ!!」
カルは迫りくる無数の泥鞭の隙間を飛び込むようにかわし、空中で体を捻って避ける。アクロバティックかつ、最小限最効率の動きで、鞭を避け続けた。カルと泥鞭の隙間はほんのミリ単位。少しでも位置が悪ければ、もろに攻撃を受けるだろう。
しかし、カルの瞳に恐怖の色はなく、視界には化け物だけが映っていた。いかに効率よく、そしてカッコよく仕留めるかだけが、カルの頭を支配しているような動きだ。
「ふはははは!
アタシはさいきょおおおおおおおおお!!」
気高く八重歯を輝かせるように、大きく口を開けて笑う。化け物との距離を測り、直感で鋭く前に飛行するように跳んだ。
「いくよおおおおおおおお!」
泥鞭の攻撃が頬を掠めてもお構いなし。頬から血を流しながらも、ピンク色に染まった長い爪を構えていると、どこからか湧いてきた黒い液体が手全体にコーティングされていく。
「スラッシュ!!!」
スキル名を叫びながら、胴体を引き裂く一撃を喰らわせる。その一撃は、見た目からは想像もできないほどの威力で、化け物の体を6つに切り裂いた。ギギギと爪から火花を飛び散らせ、床にブレーキ痕のような跡ができる。
殺した相手を眺めながら、カルは腰に手を当てて高らかに笑う。
「わっはっはっは!
ちょうーきもてぃぃぃぃぃ!!わ、おっと、おいこら!もっと余韻を楽しませろや!!」
もちろん、そんな余韻を化け物が楽しませてくれるわけがない。残る三体の化け物の泥鞭がカルを襲う。カルは、怒りながらも笑みを浮かべて、すべてを避けている。
楽しいと、体で表現しているかのように。
「いて!」
けれど、あまりの鞭の多さに、さすがに泥鞭がカルの頬を掠める。思わず、声を上げて痛がるカル。
「カルちゃん!!」
カルが傷ついた姿を目にした守大の目の色が変化していく。
「カルちゃんを傷つけたな……クソヤロウガアアアア!!」
白目が漆黒に染まり、その中に浮かぶ黄色の瞳が満月のように輝いた。普段の守大からは想像もつかない暴言を吐き捨てると、彼はさらに勢いを増して化け物三体に向かって突撃する。
ググッ――筋肉が収縮する音が、全身から響いた。
「ウオオオオオオオオオオオオ!!!」
一体の化け物をそのまま吹き飛ばすと、化け物は守大の突進で木端微塵になりながら吹き飛ぶ。
「ウラアアアアアアアアアア!!!」
ガチっと化け物の体を持ち上げて、頭部と思われる箇所を両手で掴む。バシバシと守大を泥鞭で攻撃する化け物だが、守大には傷一つ付かない。
「ハアアアアアアアアアア!!!」
守大が気合の声を叫ぶと、頭部から敵が真っ二つに引き千切られた。
「いいぞ、守大!」
「ギヤアアアアアアア!!」
守大を危険視した化け物は、カルから攻撃の対象を移す。化け物は守大の頭を狙い泥鞭を使って叩きつけるも、まったくの無意味。ノーガードのまま、夜空に浮かぶ満月の瞳で化け物を睨む。化け物は怯えながらも攻撃の手を緩めず、何度も何度も泥鞭で叩く。
しかし、守大には攻撃は効かない。
「へへん、アタシも怖いぞっと!!」
守大がヘイトを請け負ったことで、カルの身が自由になる。両手両足を地面につけて、ぐっと力を溜める。そして、その力を開放するように跳び、低姿勢のまま黒い爪を構えた。
「スラッシュ!!」
先ほどと同じように、言いたいだけのスキル名を放ち敵を6つに引き裂いた。
「わっはっは!カルちゃん、さいきょおおおおおおおおお!!」
満足気に守大に向かってピースサインを送るカル。
「……」
けれど守大は反応せず、ゆっくりとカルに近づくだけ。明らかに様子のおかしい守大だったが、カルは彼に無視されたと思い、むっと口を尖らせた。
「ん、おい、守大!
無視すんなああああああ!」
べし――守大の腹にカルが引っ付く。
「は!」
息を吹き返すような声を出して、肩で息をする守大。夜空に浮かぶ満月の瞳は、気づけば元の煉瓦色の瞳に戻っていた。
「ご、ごめんね、カルちゃん」
「うん、いつもの守大だ!」
すりすりと犬のようにお腹に頬擦りするカルに、守大は優しい笑みを浮かべてカルの髪をぎこちなく撫でた。カルは気持ちよさそうに目を細めて、守大の大きな手を楽しんだ。
「いやああああ!」
「く、くるなああ!」
守大とカルで対峙していた化け物は殺したが、戦場はまだ続いている。守大はハッとして、ゴロゴロと喉を鳴らすカルをそっとお腹から引き剥がす。
「ん、どした守大?」
「か、カルちゃん、他のみんなもまだ戦ってるから」
「ん、そうだな!
よっしゃああああ、ドンドンやるぞおおおお!!」
カルはまだまだやる気のようで、敵に向かって走り出す。
「ま、待ってよ、カルちゃあああああん!」
守大も大きな巨体を揺らしながら、一生懸命カルについていくのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「お、終わったな……」
「疲れた」
ほとんどの化け物を殺して、自分たちの場所が安全と分かると、靭と凛は元の場所に戻り、どかりと壁に寄りかかって座った。凛はほとんど動いていないが、傷つく靭を回復させる役割があったためか、息は乱れていないものの、疲労が残った顔つきだ。
靭の方は、明らかに疲れていた。凛を背負っての戦闘に加えて、他の人が逃した敵の相手をしていたのだ。そうすれば、また体は傷つく。そんなことを言っている状況ではないため、戦いはしたが、やはり人一倍疲れている。
「靭、体は大丈夫?」
「まあ、な……さすがに死ぬかと思ったが」
「そうだよね……」
「言っておくが、凛のせいじゃないからな。
凛がいなかったら、俺は間違いなくあの世行きだったし」
「ふふ、ありがとう」
凛の言いたいことを察して、靭がすぐさまフォローを入れる。凛は靭の言葉に救われたように、暗かった顔つきに光が戻った。
「わたしね、気づいたことがある」
「なんだ」
「靭の傷が、途中から明らかに減った」
凛の言葉通り、靭は戦闘を重ねていくにつれて、体に傷を負いにくくなった。まるで戦闘中に耐性を得たように。靭も、それを理解しているようで、自分の拳を眺める。
「確かにな……痛みもほとんどなかったし、なんなんだろうな」
「耐性がついたとしか、言いようがない気もする」
「だよな……ゲームとか映画みたいだな」
「そうだね。わたしの回復速度も間違いなく上がっていったけど、それだけじゃなかった」
凛もまた、能力が向上しているようだ。化け物を倒していない凛と、化け物を倒した靭。
両者が等しく力を得ているらしい。
「やっぱりそうか。傷がどんどん治っていって、なんかすごかったぞ」
「ふふ、ひーらーですから」
ぶいぶいとピースサイン。カルの言葉と仕草が移ったらしい。靭は、思わず笑みをこぼして、凛の頭を撫でてやる。凛はさすがに疲れたのか、靭に甘えるように体重を預けた。能力酷使に加えて、靭にしがみついていたのだ。体力も力もない凛にとって、とてつもなく疲れる行為だったのだろう。
しばらく体力回復に努めていると、見覚えのある姿の大小コンビ。
「あー、お腹空いたー!」
「そ、そうだね……少し疲れたね」
「おう、お疲れ」
「お疲れさま」
戻ってきたカルと守大に挨拶をすると、本当に疲れているのかも怪しい返事が返ってきた。
「おつおつおっつー!
いやー、さすがに化け物退治は疲れるね!」
「ほ、本当にね」
カルとは違い、守大はぐったりとした声でカルの言葉に同調する。真反対の二人の返事に思わず靭は、笑みを浮かべた。
「まあ、少し座って休憩でも」
『はいはーい!
みなさん、食事のこと忘れないですかー!
さっさと食べてくだちいねー!』
休憩を促そうとして、管理人からの警告が入る。
「……あれ、食べるんだよな」
「えー……」
靭は顔を引きつらせて、凛は姿勢を崩してぐったりと倒れる。
「お腹空いたけど、さすがになー……あれでしょ?」
「あ、あれだね……」
腹ペコのカルですら嫌がる代物だ。誰も率先して食べようとは思わないだろう。
「まあ、仕方ない。
ひとまずそばまで寄ろう」
「うん」
嫌々立ち上がり、化け物が倒れている場所まで向かう。四人で化け物の死体を囲んで凝視した。ピクリとも動かない化け物の姿は、見れば見るほど悍ましい。動いていないからまだましだが、目玉がたくさんついた顔を見ると胃酸が込み上げてきそうになる。
「食べるんだよな……これ」
あからさまに食べられるものではないのだが、食べないと死ぬ。四の五の言ってはいられないため、靭は深く、ひたすらに深いため息を吐いて化け物に手を伸ばした。
「ねえ、本当に食べるの?」
「お、帰ってきたか」
手を出す直前、帰還した響が声をかけてきた。美しい顔が歪んでしまうほどに嫌なのだろう。まあ、誰だって嫌だろうが、響は人一倍嫌がってる。
「さすがに、嫌ですね。あははは」
服の至る所に化け物の泥を付けて帰ってきた吟時も、いつもの愛想笑いが消え去っていた。
「まあ、やるしかないだろ」
この理不尽を当たり前のように受け入れた靭は、そういって再び化け物に手を伸ばす。
「ん?」
掴もうとした瞬間、思わずそんな声が漏れる。
「ど、どうしたの?」
凛が青ざめた顔で、化け物の体に触れた靭の手と、顔を交互に見た。いや、凛だけではなく、他の全員も固唾を飲んで見つめている。
「いや、硬いんだよ。間違いなく泥っぽい感触だったはずなんだけど」
コツコツコツ
見た目は完全に泥だというのに、コンクリートのような音を立てる化け物の死体。
靭は拳に力を入れて、上から下に振り下ろす。 拳が死体に当たると、パリンと音を立てて一部が割れた。
「なーんだ! 硬いなら食べられるよ!」
そう言って、カルは長く伸びた爪で死体の腕と思われる部分を切断した。取れた腕をがっちりと掴み、大きく口を開いて躊躇なく噛み砕き、バリバリと死体を食べる。本人は気にせず喰らっているが、さすがに気の毒だと感じた靭も死体の一部を食らう。
「うーん、煎餅みたいな感触の肉って感じだね!!焼いたほうが美味しいし、守大が調理してくれたら、もっと美味しく食べれそう!」
そういって、また死体に手を伸ばして、今度は首と思われる一部を切断して頭を食らった。皆は思わず靭を見た。カルはぶっちゃけ、黒肉の骨まで食べるのだ。自分たちとは違い、少し食欲の対象が広すぎる。
ここでは一般的な靭の感想が聞きたかったのだろう。
「まあ、問題なく食えるな。美味いかまずいかと言われれば……この見た目のせいで、美味いとは認めたくないって感じだな」
「そう。靭がそういうなら」
「ああ、ほれ」
「ありがとう」
凛は靭が言うことがすべてなので、彼の言葉を信じて差し出された死体を食らう。特に感想はないが、一口食べてはもう一口と、普通に食べている。
「ああ、もう……食べるわよ」
「はあ、仕方ないですね」
合流した二人も泣く泣くというか、響は涙目で化け物を食らう。吟時も初めてポーカーフェイスの笑みを崩し、無表情で食べ進めていた。
(食べれば食べるほど、力が湧いてくる感じがする。もう、本当に考えたくないが……黒肉の時と同じで、体がこの肉を求めているような……)
規定量は食べたものの、まだまだ食べ足りないと感じてしまう靭は、思わず深いため息を吐いた。
「はあ、なんだかなー」
結局、全員が腹を満たす様に化け物を食い漁る。生きるためとはいえ、体が化け物を求めてしまうことで、靭は自分のほうが化け物だと感じてしまうのであった。
しばらくすると、靭たち一同が腹を満たして休憩をしている。
靭と響、吟時は目を瞑って体を休めている。凛は靭の太ももを枕にして静かに眠り、守大は大の字に寝転がり、カルは守大をベッドにするように爆睡。
思い思いのまま休息していると。
ジリリリリリリ――目覚まし時計の不快な音が鳴り響き、全員がパチリと目を覚ました。
『お休みのところ失礼!これからまた、敵が攻めてくるぞおおおおおお!』
管理人の言葉に、皆が嫌々ながらも意識を覚醒させていく。
「立てるか?」
「うん」
「まだ寝てたいよおおおお!!」
「か、カルちゃん、頑張ろう」
「はあ……ほとんど休憩なしじゃない」
「ですね。まあ、運動にはちょうどいいかな」
思い思いの言葉を吐いて、立ち上がり体を動かす。
ガンガンガン――気づけば、またしても奥の方で檻を叩きつける音がドームに鳴り響いている。
「来るわよ」
「構えろ、みんな」
響の合図で、靭がみなに警告する。
『さあ、もう一回戦がまもなくスタアアアアアアトです!!』
いつの間にか閉まっていた檻を見れば、さきほどよりも数が多い化け物が姿を現した。
「動物?」
凛の言葉に、靭が反応する。
「体は黒いし、見た目がどうもおかしいけどな」
靭は屈んで凛に背中に乗るように伝えると、凛は躊躇なく背中に抱き着いた。
『スタアアアアアアト!』
ガチンと解除音が鳴り、檻が下がっていく。下がりきる前に、動物の見た目をした四足歩行の化け物が向かってくる。
計15体。先ほどよりも五体も多く、機動力も凶暴性も、おそらく泥の化け物以上だ。
靭は覚悟を決めて、声を張った。
「やるぞ!」
「おう!!」
靭たちは、化け物相手に恐れなく飛び出した。
恐れている余裕などないのだ。やらなければ、やられるだけだから。
それが分かっているからこそ、立ち向かっていける。
自らが、生き延びるために。
勝利を手にするまで、止まれない。
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