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XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第一章 デスゲーム

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閑話 狂愛・都合のいい耳


ーー狂愛ーー


「……じん!」

 

 目を覚まし、弾かれたように身を起こす。


「はぁはぁ……ここ、は」


 柔らかい感触。ふとん……じゃあ、ベッドの上?


 う……頭がうまく働かない。どうして、寝てたんだっけ。


 アナウンスで呼ばれて、それから……。


「ぐぅ……」


 隣からいつものいびきが聞こえて、自然とそちらに目がいく。


「じん……そうだ、じんが死にかけて、それで」


 目頭が熱くて、身体が震える。思わず寝ている靭めがけて飛びついた。


「生きてる!」


 我慢できなかった。すぐにでも、靭の温もりを、吐息を感じたかったから。


 我ながらはしたない。でも、我慢が利かないの。ここに来てからというもの、理性の歯止めが壊れていくのを感じる。


 最初に、守られたからだろうか。


「違う」


 目と目が合って、感じたの。雷に打たれたような衝撃、なんて陳腐な言葉じゃ足りない。脳が焼かれてしまうほどの激しい痛みと、全身に針が刺されたような痛み、そんな感覚だった。


 その時、少し……何か思い出した気もするけど……あれは、なんだったんだろう。


「……ううん、今は、そんなこと、どうでもいい」


 私は、感じたの。


 この人は、私が生きてる限りは、私の前から消えることはないって。


 吊り橋効果なんかじゃ、決してない。



 今でも鮮明に、一言一句、香りまで覚えてる。



 わたしが話しかけた時の靭は、面倒事に巻き込まれた顔をしてたけど、嫌がってはなかった。


 靭の隣りにいるだけで、恐怖も不安も、吐き気も頭痛も、全てが消えていく。


 なし崩し的にだけど、守ってくれた。ただ拉致された者同士の集まりだけだっていうのに。


「あぁ、う、じん……」


 彼に触れているのに、やっぱり我慢が利かないの。靭の乱暴で優しいところを思い出すだけで、私の脳が、身体の奥が、熱く靭を求めてしまう。


「じん……じん……」

 

 好き、大好きなんて、在り来りの言葉で表したくない。


 足りない。そんな薄っぺらい言葉では足りないの。


 私の余すところなく全てを、靭に捧げたいと思ってしまうほどに。


 いえ……もう、全てを捧げてる。ネイル液のような注射器を打つのなんて、怖くて仕方がないから、靭に打ってもらおうとしたのに。


 結果的には、自分で選んで、自分で刺した。6本もの注射器を。


 最後には、自分の血を靭に捧げた。


 なぜ、そうしてしまったのかは、分からない。ただ、そうするのが正しいし、靭を救えると直感したから。体に貫通した骨が、私を傷つけながら戻っていく。私の血に加えて、私が覆い被さったことで、靭の体が治っていくのを肌で感じた。


 これがどんな力なのか、分からない。


 愛の力と言えば、聞こえはいいけど、それ以外の何かだとは思う。私はどんどん化物になっていく。それはとっても怖くて、おかしくなってしまいそうなほどに。


 でも、それ以上に、わたしは靭を救えたことが、この世に生まれた意義だと思えるくらいの喜びを感じた。


 生存ゲームの2回目と、今回。


 3回も靭を救えた。いつもの柔らかくて包んでくれる笑顔とは違う。本気の感謝と、心からの感謝の瞳で私を見てくれる。


 今回もそう。いいえ、今回はもっと激しいはず。


 だって、生存ゲーム後の行為は、とても激しくて素敵だったもの。


 そのことを思い出すだけで……。


「んっ……!!」


 寝ている靭の隣で、ひとりでシテ、果てて。体の力が抜け落ちてしまうくらいに気持ちがいい。


 今では彼となんでもしちゃう関係なのに、こうして隣でひとりで慰めてるなんて、おかしいね。


 ……でも。


「足りない……」


 きっと、靭が起きたら今回も野獣みたいに本能のままに、狂ったように愛してくれる。


 どれだけ激しくされても、どれだけ乱暴に扱われても、すべてが愛おしい。爪が食い込んで血が流れても、キツく抱きしめられて骨を折られても、その勢いで内臓が潰されても構わない。


 だって、靭の骨が私を貫通したときも、回復して戻っていくときも。


 とっても、とっても気持ちよかったもの。


「じん……じん……」


 私を欲してくれるなら、何でもいい。


 あなたがわたしを愛してなくてもいいの。


 必要としてくれてるなら、それだけでいい。


「じ、っん……はぁ、はぁ」


 やっぱり、1人でシテも足りないの……だから。


「はやく、起きて……じん」


 貴方がいないと、わたしはもう生きていけないの。


 じん、私を染めて。


「じん」


 わたしだけを……狂わして(あいして)


 


ーー都合のいい耳ーー


「あらあら……獣というより、化け物みたいね」


 隣から聞こえる音が、いつもより激しい。生死の境目を越えた時、あの2人はいつも互いを欲望のままに激しく絡み合う。聞き耳を立てて申し訳ないとは思うけど、これも情報収集のため。


「まぁ、深海さんが生きてたなら、問題ないわね」


 たった1本の注射器で、彼は死にかけた。それを救ったのが凛ちゃんな理由だけど、その救い方は不思議としか言いようがない。


 凛ちゃんの身体から、何かが動いたのを感じ取った。注射器の中身が凛ちゃんと急速に混ざり合い、凛ちゃんの想いに応えるように。


 筋肉が、骨が、内臓が、細胞が、奇妙な音を立てていた。


「まぁでも、それは全員一緒か」


 注射器を乗り越えた人間全員の肉体が、内側から改造されるような音。自分の体からその音が響いてきたときは、正直だいぶ引いたけど。


「それにしたって、彼は異常ね」


 彼が選んだ注射器。あれが最も禍々しい音を立てていた。中身が何かはあまり考えたくないけど、あれらの中身には意志があったと思う。私たちのなかに埋め込まれたか、造られたか分からない程の小さい心臓と、黒い液体。


 それが体内で、注射器の中身を喰らう音がした。


「完全に、人じゃなくなってるわよねぇ……【アウト】」


 声に出してスイッチを切るように呟くと、隣からの音がぷつりと途絶えた。今度は、シャワーを浴びている黒曜君に聞き耳を立てる。


 トン、トン、トン――硬いものを軽くぶつける音が、シャワー室に静かに響く。


「クソ……血が足りない。もっと、もっと血が見たい……」


 今までも求血衝動に駆られる彼だったけど、注射器を打ってから悪化してる。


 解決方法も分からない。今のところ、性行為をすれば落ち着いたけど、それも今後どうなるのか。注射器を打つ前までは、うまく化けの皮を被っていたけれど、限界かもね。


「私、殺されないといいけど」


 彼と同室なんて、私の運もここまでなのかしら。割と運は良い方だと思ってたけれど。


「まぁ、生きてる限り、どうにかなるでしょ」


 私は死んでない。死なない限りは、問題ないし。今までもそうやって生き抜いてきたのだから、これからもそうすればいいだけ。


「ふふ」


 ウィスキー片手に、こんなこと思っちゃうなんて、私も末期かしら。


 これじゃあ、悪の親玉ね。


 お酒もタバコも、控えてたんだけど、身体が求めるのだから仕方がない。未成年と同室だからと、前まで気にしてたけど、これだけ肉体が変わってしまったなら関係ないでしょ。


「まぁ、もう彼はいいか……【アウト】」


 途端に周囲の音が途絶える。起きたらこれだもんね。本当に都合のいい耳になっちゃうなんて。


 我ながら傑作ね。


「守大、これも、あれも、それも、ちょうーうまい!」

「よ、よかった。カルちゃん、いっぱい食べてね」

「うん! もう、本当に腹減っちゃってさ! ねぇ、食材足りるかな!?」

「いつも以上に食材が追加されてるから、大丈夫だよ……きっと」

「そだね!」


 バリバリと骨を食べてる音が聞こえる。こっちは、行為がないけど、食欲が異常ね。


 私たちでは食べきれない量の食材が、さらに増えてるなんて。


「【アウト】」


 カルちゃんたちの部屋の音を切り、響はウィスキーグラスを傾ける。


 カルちゃんたちは、ほとんどが食事のための時間に使ってる。なんというか、本当に凄いわね。求めてるものがバラバラ。


 全員が全員、何かを求め始めてる。わたしですら、他人の行動の聞き耳が止められない。


 綺麗にいうなら知識欲、情報欲とでも言うのかしら。


「凛ちゃんは愛欲、黄土君は恐らく庇護欲、カルちゃんは食欲、黒曜君は血欲。

それぞれが、何かを欲してるはずなんだけど……」


 集中して、深海さんに聞き耳を立てると、底しれぬ何かが蠢く音が脳に響いてくる。


 オノマトペでは表現しきれない、なんとも罪深い音。


 その音が、注射器を刺してから、さらに深くなってる。


「深海さんだけ、何を欲してるのか分からないのよね〜」


 深海さんは、凛ちゃんの狂気的な愛欲に付き合ってあげているだけだと感じる。


 決して、その狂気に呑まれてはいない。


「ふぅ、これは中々、骨が折れそう……【アウト】」


 この音を聞くと、忘れていた恐怖が蘇る。ただ、彼の体内の音を聞いてるだけだというのに。


「底しれないわね、本当に」


 だからこそ、信頼関係を築いておきたい。


 ここは狂ったものこそが、生き残れる場所なのだから。



お読みいただきありがとうございます。

本作は【毎日18時】に最新話を更新しています。

次回、第二章スタート。


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