↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
XNFA--ゼノファ--「ようこそ……地獄の最前線へ」  作者: アトラモア
第一章 デスゲーム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/52

第10話 喫煙仲間からの情報共有

 「……ん」


 靭は目を覚まして、隣を見る。ベッドの横にはいつもの安心そうに眠る凛の姿。


 いつもと違う点といえば。


(裸……あー、やっちまったって……思うのは失礼だよな)


 後悔はない。とはいえ、欲望に流されるままやってしまったことも事実だ。避妊道具などあるわけもなく、本能のままに凛と一つになり、果てた。


 それでも足りなくて、深く求めてしまった。靭だけではなく、凛までも。嬉し泣きする彼女に興奮し、何度も、何度も求めた。


 天使に心を奪われた悪魔のように。


「……」


 隣で眠る天使は、目を覚ましそうにない。もうひと眠りしようにも、靭はどうにも目が冴えてしまっている。


 仕方ない。起こさないようにゆっくりとベッドから降りて、服を着る。タバコを取り出し、吸おうとしたが、さすがに眠る凛のそばで吸いたくないのか、靭はタバコとマッチを持って、ドームへと向かう。


(禁煙じゃないのが救いだな)


 ドームに出て、壁に腰かけて一服。燃え尽きたマッチも、煙草の灰も、すべて床に捨てる。すでに似たような痕跡がそこかしこに散らばっているから、問題ないと判断したのだ。ドームには誰もおらず、周りを気にせずに吸えた。たまには、こういうのもありだなと思いつつ、靭はタバコを吸う。


 ガチャリ――隣の扉が開く音が聞こえた。響と吟時の部屋だ。靭は横目で確認すると、見えたのは背の高い人影。


「はあい、深海さん」

「紫苑さんか」

「隣、いい?」


 布で作ったお手製のタバコ入れを手に持ち、にっこりと笑う響。


「お好きに」


 靭は特に気にする様子もなく、真正面を見て答えた。隣に腰かける響との距離は、そこそこ開いている。靭は、それを見てホッと落ち着いた。パーソナルスペースは、彼女にはあるようだと。慣れた手つきでタバコを咥えて火を点ける。どうやら、愛煙家のようだ。

 

 一口目を吸わずに、二口目で肺に入れる姿は様になる。ドラマや映画の撮影と言われても、信じるくらいには。


「それで、用があるんだろ?」

「あら、偶然だと思わないの?」

「白々しいね。あの女子会で、凛に何かけしかけたのも紫苑さんだろ」

「バレたか」


 靭に響の表情は見えない。ただ、声で分かる。策略が成功して上機嫌だから、きっと笑っているのだろうと。実際、その通りだと言わんばかりの笑みを響は浮かべていた。

 

「楽しいひと時を過ごせたようで」

「お陰様でな。つうか、盗み聞きとは趣味が悪いな」

「あら、ごめんなさい。でも、いい思いができてよかったでしょ?」

「勘弁してくれよ」


 男を手のひらで操るのがうまいのか、それとも弱みだと思われてるのか、靭は防戦一方だ。なるべく顔を見ないようにしていた靭だが、響は面白がって靭の顔を覗いてくる。


「あら、後悔してるとでも?」

「ないよ。凛に失礼だ」

「よかったわ。頼りがいのある男で」

「そら、ようござんした」


 これで会話が終了かと思えば、響のワントーン下がった声が聞こえてくる。


「凛ちゃん、あなたのこと大好きみたいよ。私とカルちゃんに警告して、殺意を出すくらいには」


 とんでもないことを口にして。


「殺意って。凛は、こんな異質な場所で恐怖を覚えるような普通の……」


 普通の子――と言いかけて、口が止まった。


(この環境で、普通の人間が果たして生きていけるだろうか。肉体だけが変化して終わりだろうか)


 自分のように性格まで極端に変わっているのであれば、凛が変わっていてもおかしくはない。


 響は靭に歩み寄り、彼の耳元で囁くように告げる。


「気を付けてね。あなたが彼女を見捨てたらどうなるか分からないわよ。

後ろからざっくり刺されるだけで済めばいいけど、もっと悲惨なことになるかもしれないから」


 脅しのような言葉を告げると、靭から離れて距離を取り、壁に寄りかかって笑顔を見せた。


「はっ」

 

 靭は響の言葉を聞き、馬鹿馬鹿しい話を聞いたような呆れた笑みを見せた。その反応が予想外だったのか、響は2、3度瞬きをして呆けた顔を見せる。


「あんないい女、見捨てるわけねぇだろ」


 そう告げて、靭は正面を眺めてタバコを吸う。


「凛ちゃんが惚れるわけね」

「そうかよ」


 靭はすでにその話題に興味がないのか、特に何も話さずドームを眺めている。

 

「ふふ」


 ようやく満足したのか、「ふふ」という笑みをこぼしてから、響は正面を向いた。


「本題は、今のでいいのか?」

「いいえ。もちろんあるわ」

「だろうな。やった声が聞こえてるなら、俺が出てくる音も聞いてたんだろ?」

「ええ、そうよ。都合のいい耳をしてるからね」

「みたいだな」


 互いに煙を吐く。靭はタバコが切れると、地面に残り火を押し付けて消す。そして流れるように、もう一本の煙草を取り出して、吸い始めた。


「ねえ、深海さん」

「なんだ」

「あなた、どれくらい眠ってたと思う? 予測ではなく、体感で教えてほしいの」

「また、唐突だな」

「重要なことよ」


 声色が変わる。どうやらかなり真面目な話らしく、揶揄う声がしない。靭は少し真面目に考えて、間を置いてから伝える。


「3時間くらいじゃないか。俺はいつも、そのくらいで目が覚める」

「なら、いつもは?」

「いつもは……三度寝くらいで目が覚めるから、7時間くらいか?

社会人時代ってか、これに巻き込まれる前の休みはそれくらい寝れば十分だったし」


 ついこの前のことだが、だいぶ昔に経験したことのように伝える。それくらい、靭にとっては、ここでの経験が濃いということだろう。


「なるほどね」


 靭の回答を聞いて、響は紫煙を吐いた。すぐに答えを出すかと思いきや、そのあともまたタバコを吸い始める。靭は焦らずに、彼女が口を開くまで待ち続けた。


「30分よ」

「?」


 突然の告白に、靭は吸おうとしてたタバコを離して、響のほうを見る。聞き間違いかと思い、念のため、響に向かって、響が伝えてきた時間を言う。


「30分?」

「ええ、間違いないわ。どれだけ深く眠ったと思っても、最大でも30分程度しか寝てないの。

ちなみに言うけど、二人が行為を終えて、深海さんが眠りについて目を覚ますまでに、5分程度しか経ってないわ」


 互いに目を見て、沈黙する。靭は少し気まずくなったのか、正面を向いてタバコを吸って煙を吐いた。


「冗談だろって言いたくなるけど、本当っぽいな」

「信じてくれると思ってたわ」

 

 その言葉に、靭は思わず目を見開いた。


「そこまで信用されてたのか」

「ええ、まあね。ほかの子たちには、危なっかしくて言えなかったけど」

「黒曜君にも?」

「当たり前でしょ。あの子は嘘の塊みたいで、信用できないの。深海さんも、感じてたんじゃない?」


 靭はどう答えるべきか悩んで、煙を吐く。


「まあ、それは確かに。にしても、まだ大人ぶった子供って感じだったけど」

「まあ、そうでしょ。どれだけ大人ぶっても、子供は子供なの。何をきっかけに壊れるか分かったものじゃないから、怖いのよ」

「それが普通なんじゃないか?」


 靭がそう言うと、響は少しだけ呆れたように息を吐き、膝を抱えた。


「ねぇ、冗談でしょ。本気で言ってるの、それ?」

「……」


(ここは普通とはかけ離れた狂った空間。普通の子が普通に生き延びられるわけがない。普通という概念が壊れた場所だ)


 凛でさえ、心のどこかしらが破綻していると響は言った。

 

 だとしたら、響のペアである吟時もまた爆弾を持っているのかもしれない。


「どう壊れると?」

「彼、血を見ると心が落ち着くのよ。血を吸うわけでもないけど、吸血鬼みたいに血を求めてる。今はそれなりに我慢してるようだけど、どこで壊れるか分からないから怖いの」

「なるほどね。女性なら、怖くて当然……なのか?」


 女性相手に疑問口調が出てしまう自分に呆れながらも、靭は本心からそう思ってしまった。隣を見れば、言葉とは裏腹に恐怖の色など微塵も感じさせない、意地悪な笑みが靭を見つめている。


「さあ、どうでしょう」


 からかわれたな、と靭は思った。響は吟時に恐怖など感じていない。『壊れるのが怖い』と言いながらも、その異常性を冷静に観察しているだけだ。いや、吟時どころか、この状況にすら恐怖を感じていない様子。


(この人も、俺と同じってことか……にしても、からかわれるだけなのは、気に食わないんだよな)


「本当に、吸血鬼らしいな」

「あら、どうして?」

 

 トントンと、靭は自分の首に触れる。響は、靭の仕草を見て自分の首に触れる。


「……おっと、ここにもあったのね」

「随分、激しいみたいだな」

「そうね、お互いにね」


 響もまた、トントンと自分の首の付け根の位置を示す。そこは、靭の首筋の、凛に噛まれた痕がある場所と同じ位置だ。靭は完全に完敗だなと思いながら、溜息を吐いた。


「悪かった。話を戻そう。他に何か言いたいことがあったんじゃないか?」

「私に喧嘩を売るなんて、100年早いわよ。というか、揶揄ってきて続きを強請るなんて、我儘な人ね」

「言いたくないなら、言わなくても結構だが」

「もう、拗ねないで。冗談よ」

「……面倒くさいな」

「ふふ、そうね」


 同い年で、お互いに気を遣うのも面倒なタイプ。靭にしてみれば気軽に話せる存在だ。響の精神年齢は高いのだろう。女性は男性より精神年齢が高いというし、ここでもそれは変わらないようだ。


 ぐっと伸びをしてコリをほぐす響に対して、靭は相変わらずタバコを吸い続けている。


「この場所、やっぱりデスゲームだけが目的ではないと思うわ」


 またしても唐突に、響は靭にそう告げる。


「なるほどね。肉体と精神以外にも、何か分かったのか。その耳で」

「ご名答。最初のゲームが終わって、休息に入ってからすぐ、部屋から出てこなかった人がいるの覚えてる?」

「ああ。いつ始まるか分からないゲームだからな。

アナウンスのとき、運悪く30分の深い眠りのせいで気付けなかったんだろう」


 靭がそういうと、響は壁にもたれかかる。


「アナウンスに気付かなかった人は、全員が全員、30分以上寝ていたからだと言っても?」

「まじか」

「マジよ。それに、それだけじゃない」


 響は億劫そうに、それぞれの部屋の扉を見渡す。


「毒で死んだペアもいたわ」

「毒で? 部屋の中に毒でもあったのか?」


 靭の質問に、響は首を横に振った。


「いいえ。彼らは普通に食事をしている最中だった。ただね、料理を口にしてすぐに、吐いて暴れ、もがき声を上げて死んでいったけどね」

「……食材の中に毒が入っていたわけじゃないのか」

「そうじゃないと思う。だとしたら、他に考えられる要因は?」

「あの黒い食材が……何かが変化していない人間にとっては毒だったってことか?」


 にっこりと笑う響。どうやら正解のようだ。


「命令厳守、精神の異常、生存ゲームで分かった身体の異常。

30分以内の睡眠、毒を求める体。これだけおかしな出来事が詰まってるのに、デスゲームって言われてもね」

「肉体改造を施した人間だけを生かしてる?」

「私はそう考えてる」


 推測。どうやら確定した事実ではないらしい。


「さすがに、それは分からないか。都合のいい耳なら分かると思ったが」

「それって」


 響のつぶやきに、靭は期待していないような顔で笑みをこぼす。


「管理人たちの話し声とかさ」

「ふふ、さすがにそこまで都合のいい耳はしてないかしら」

「だよな」


 他人の部屋の事情は聞こえるが、答えまではたどり着けない。だとしたら都合のいい耳だが、そこまでではないようだ。


「最後にもう一つ」

「まだあるのか?」


 トントンと、響の細い指が靭の左胸を叩く。


「心臓?」

「ええ」


 響は靭の心臓を見つめて、答える。


「生存者全員の心音に、わずかにズレが生じてるの」

「それって」

「通常の心臓ともう一つ、小さな小さな心臓のようなものの音がする気がするの」

「……」

「まあ、それが心臓かどうかも怪しいけどね」

「はあ、なにがなんだか分からん」


 響の答えに靭は頭をぐしゃぐしゃとかき回し、ぎりぎりまで火のついたタバコを吸い込んだ。響の言葉を鵜吞みにするとしたら、徐々に真実が明らかになってはいる。


 ただ、目的だけが分からない。小骨がのどに刺さって取れないような気持ち悪さが、靭の胸に残る。


「おっと」


 情報を整理しつつ、次に何を聞こうかと迷ったとき、響が不意に声を上げた。


「どうした?」

「時間切れね。凛ちゃんがもうすぐ起きるわ」


 突然のことに、靭は眉を顰める。


「だから?」

「言ったでしょ。警告されたって。私、彼女に殺されたくないの」

「ああ、そういえば言ってたな」


 それに、と、響は言葉を続ける。


「簡単には殺されるつもりはないけど、単純に嫌われたくないのよ」

「そうか」


 すでに顔見知りだ。いつだれがどうなるか分からない状況下ではあるが、ペア以外の人と親睦を深めることは悪いことじゃない。まあ、最悪があるとすれば、互いに殺し合いを強要されることだろう。


(そのときは、そのときだな)


 靭は最悪の可能性を頭の片隅に置きつつ、吸い終わったタバコを地面に押し付けた。凛が起きるというので、靭は部屋に戻ろうとする。


「ねえ」

「ん、なんだ?」


 だが、それを響に止められた。


「ここでの話は、凛ちゃんにも共有してね。嘘偽りなくよ」

「話さないほうがいいんじゃないか?」


 警告されたなら、話さないほうがいいだろうと靭は提案するも、響は呆れた顔でため息を吐いた。


「こそこそ隠れて嘘をついたほうが駄目よ。正直に、素直になったほうがいい場合もあるの」

「まあ、それはそうか。だがな、これを共有するってのは危ないんじゃないか?」


 響はさきほど、吟時には伝えていないと言った。どんな理由でどこが壊れるか分からないから。こんな異常な場所だ。すでに壊れてしまっていても、それ以上壊すようなことはしたくないと。


 しかし、靭の疑問に、響は無言で首を横に振った。


「凛ちゃんは、あなたがいれば大丈夫よ。

あなたが私を信用したと言えば、あの子も私を信用する。

異常なまでの依存だけど、あなたが凛ちゃんを見捨てたり置いていかなければ、彼女がそれ以上壊れることはない。断言してもいいわ」

「そうか」


 普通の生活を送っている人間がいれば、それのどこがいいのだと吐き捨てるだろう。だが、ここは地獄の最中。縋るものが合って何が悪いというのか。


「だから、大切にしてあげてね。凛ちゃんのことも、あなた自身のこともね」

「まあ、できる限りのことはするさ」

「そうしてちょうだい」


 そういって、響は自室へ向かって歩き出す。



「それじゃあね、深海さん。頼んだわよ」

「ああ」


 靭もまた、素直に自分の部屋に戻った。凛は自分がいないと駄目だということが、響のことではっきりとわかった。靭は一人、決意を固めるように、拳を見つめる。


(言われたことをやればいい。何もない俺の、唯一の得意分野だ)


 元が何もない男、深海靭。


 凛にとって、靭に惚れ、依存することは、この狂った世界を生き抜くための最適解だったのかもしれない。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。