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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【断罪編】  作者: 星七美月
第5部中篇 断罪の果て、悪役令嬢は運命の恋を掴み取る!?

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第407話 裏切り者の懺悔

 ギィと軋む音を響かせ、扉が静かに開いた。


 そこに佇んでいたのは、第一王子フェルディナンドだった。

 マーガレットの姿が視界に入った瞬間、フェルディナンドの頬が朗らかに緩んだ。心の底から湧き上がる安堵とともに、微笑みが広がっていく。


「やぁ、マーガレット嬢。よかった元気そうで」

 驚きに目をぱちくりと瞬かせたマーガレットは、こぼすように声を漏らした。

「どうしてフェルディナンド様がこんなところに? 騎士は……」


 ふと足元に目を落とすと、鋼の鎧の騎士が崩れるように倒れ込んでいる。耳を澄ませば、心地良さそうな寝息がそっと届いた。


 寝ているの?

 まさか、フェルディナンド様の仕業?


 すると、フェルディナンドの豪華な衣装の胸元がもぞもぞとうごめき、可憐な鳴き声がせっつくように響いた。


「にゃー」

 フェルディナンドは目元を和らげ、くすりと笑みを浮かべる。

「ああ、そうだった。マーガレット嬢に会いたいという方がいたんだった。はーい、ママですよー」


 フェルディナンドが胸元のボタンを外すと――白雪を思わせる純白に輝く毛皮を持つ、小さな仔猫が顔を出した。

 それは見紛うことなく、


「えぇっ、にゃんコフ!?」


 名を呼ばれるや否や、にゃんコフはエメラルドグリーンの丸い瞳をクリクリと瞬かせ、白い尻尾をくねくねと踊らせた。小さく助走をつけると、マーガレットの胸へと高らかに飛び込んだ。


 約ニ週間ぶりのはずなのに、まるで数十年ぶりの再会のように涙を滲ませ、マーガレットはにゃんコフを強く抱きしめた。


「にゃんコフっ! 無事だったのね、よかった」

「うーにゃー、ごろごろごろ……」


 再会を喜ぶように喉を鳴らし、にゃんコフは頬をすり寄せる。

 一人と一匹の再会を傍らで見守っていたフェルディナンドは、感動を込めて温かな拍手を送った。


「わあー、よかった。頑張ってここまで来た甲斐があったというものだよ」

 ふと我に返ったマーガレットは、にゃんコフを胸元に抱き寄せ、フェルディナンドへと声を掛ける。

「フェルディナンド様、一体どうやってここに?」

 言い淀むように頬を掻きながら、フェルディナンドは視線を泳がせた。

「あー、えっとね……僕はその方に頼まれて、マーガレット嬢のもとへと連れてきただけなんだよね」


 フェルディナンドの視線は、紛れもなく仔猫のにゃんコフへ注がれている。当のにゃんコフは、ご機嫌な様子で愛らしい欠伸をし、舌をちょこんと覗かせた。


 え……にゃんコフに頼まれてってこと?

 一体どういうことかしら。

 その言い方だと、まるでお話しできるみたいな…………あ!


「もしかして、フェルディナンド様の賜物(カリスマ)って、動物とお話しできるのですか!? わあぁぁっ、まるでお伽話みたいな賜物(カリスマ)ですね!」


 翡翠の瞳を星のように瞬かせ、マーガレットは両手を合わせて羨望の眼差しでフェルディナンドを仰ぎ見た。一方のフェルディナンドは複雑な表情を滲ませ、再び頬をぽりぽりと掻く。


「いや、僕のはそんな綺麗な賜物(カリスマ)じゃないよ、もっと……ってそうだ、シャルロッテ! いつまでそこでウジウジしているつもりなんだ。マーガレット嬢に謝りたいことがあるのだろう?」


 フェルディナンドの視線を辿ると、廊下の端にシャルロッテが小さく縮こまっていた。気の置けない友人の登場に自然と安堵が込み上げ、マーガレットは表情を綻ばせる。


「シャルロッテも来てくれたのっ!」


 しかし、シャルロッテは色褪いろあせた灰色の瞳を伏せたまま、唇を固く結んで沈黙を守っていた。冷たい床に視線を這わせたまま、震えた足取りで恐る恐る近づいてくる。


 露骨なほどにおかしな挙動を見せる幼馴染みに、マーガレットは眉をひそめ、その理由を探るように見つめた。


「……シャルロッテ?」


 その呼びかけに、シャルロッテはビクリと肩を震わせる。瞳はじんわりと涙を溜め、ドレスの裾を強く握ったまま、深々と頭を下げた。


「マーガレット……ごめんなさい。ワタクシはあなたに責められる覚えはあっても、感謝される価値なんてないのですっ」

 声の震えが、尋常ではない張り詰めた必死さを語っている。

「だって、ワタクシのせいで、ワタクシのせいでっ……あなたはこんな鳥籠に閉じ込められてしまったのですから!」


 シャルロッテの長い白亜の髪が、床に触れそうなほどに低く下げられている。その姿に、マーガレットは目を見張った。


 それは、王族が目下の貴族に施す謝罪を遥かに凌駕する、圧倒的な重みと効力を秘めたものだった。


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