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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【断罪編】  作者: 星七美月
第5部中篇 断罪の果て、悪役令嬢は運命の恋を掴み取る!?

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406/409

第406話 思いがけない人物

 翡翠宮、シャルロッテの私室にて。


 午後の強い陽射しの当たる窓辺。

 シャルロッテはそっとレースのカーテンを開け、向かいの建造物を見上げた。

 三階のあの部屋は、もともとはお母様の部屋――そして今は、マーガレットが幽閉されている。


 眩むような陽光に眩暈めまいを感じ、シャルロッテはそっと目を伏せた。瞼を下げるたびに浮かぶのは、あの日、王城の城門橋の上で逃げ惑うマーガレットとクレイグの姿。


 騒ぎを聞きつけたシャルロッテは、離れた塔から二人の姿を捉えていた。

 マーガレットを背に庇い、矢に倒れ伏すクレイグ。地面に横たわるクレイグの身体を抱きしめ、喉を裂くような叫びを天に上げるマーガレット。


 まるで、半年前のワタクシとミゲルを見ているようだった。

 二人があんな悲劇に見舞われたのは、ワタクシのせい。

 ワタクシが、ゼファーお兄様の甘言に耳を貸してしまったから……。


 あの日から、ワタクシはお兄様と一度も顔を合わせていない。


 国王代理として忙しいのもあるでしょう。でも耳に挟んだ話だと、僅かな暇を拾ってはマーガレットの部屋へ吸い寄せられるように通っているらしい。


 マーガレットの秘密を漏らし、ミゲルとの将来の幸せを取った――ワタクシは大事にするべきものと、手にするべきものを間違えたのだろう。

 今はそれが、ワタクシの胸の奥に疼きを与え、後悔の淵へとさいなんでいく。


 マーガレットの笑顔が恋しい……ワタクシにとって、気の置けない友人はマーガレットだけだったのに。自分から手放してしまうなんて……きっとミゲルにも怒られてしまいますね。


 もし、あの時に戻れるのならば、お兄様を突っぱねて雑誌を渡したりなどしないのに……いくら後悔したところで、あとの祭り……。


 近くて遠い――閉ざされたマーガレットの部屋の格子窓を、シャルロッテは長い間、ぼんやりと眺めていた。だが、ふと視線を外し、背後に控える侍女を捉える。気取られぬように、胸の奥で決して言葉にできぬ決心を、静かに刻み込んだ。


 どうにかして……どうにかしてマーガレットを助けたい。

 あちらの建物は、入口にも あらゆる箇所にも騎士が配置され、王女のワタクシでも通ることは許されなかった。一体、どうすればよいのでしょう。


 レースのカーテンを握り締め、シャルロッテは重々しい溜め息を落とした。


 その時だった。


 ――コンコンコン。


 シャルロッテの苦悩を払うような、軽やかなノックの音が室内に響く。

 扉を叩いたのは、シャルロッテも目を疑うような思いがけない人物だった。



 ★☆★☆★



 同じく翡翠宮。マーガレットの幽閉されている部屋にて。


 午後の陽射しが淡く変わり、茜色を帯びていく頃。

 格子窓から差し込む夕陽の気配を感じながら、マーガレットは静かに溜め息を吐いた。その溜め息は、疲労と苦悩が編み込まれたように複雑に絡みつく。


 現在、ゼファーが告げた結婚式の準備のため、ウエディングドレスの試着を行っている。

 約一年前に決めた純白のドレスに袖を通す。腰回りが痩せていたようで、仕立てを急ぎで進めないととミモザが漏らしていた。


 試着の間も、私の心は脱出の糸口を探し続けていた。しかし、どんなに思案を巡らせようと、この首輪という私を縛る鎖が解けないかぎり、自由のある未来はやってこない。


 明後日には、私はゼファー殿下と結婚することになる。クレイグを探し出すどころか、このままだと……。



 試着の喧騒が過ぎ、誰もいなくなった部屋。

 一人になった部屋でマーガレットはぐったりと項垂れた。肩が僅かに震え、長い赤毛の束が肩を滑り落ちていく。


 どれほどの時がこぼれたのだろう。


 じんわりと滲む視界に、目尻に光る涙をそっと拭う。小さな嗚咽を漏らしながらはなすするうち、異様な違和感が忍び寄った。


 虫の囁きも木々のさざめきも、まるで時が止まったような静寂が辺りを包んでいる。


 何かおかしいわ…………もしかして!


 マーガレットは足音を立てぬように、扉へと近づいた。指先を伸ばし、扉へとそっと触れる。だが、そこには相変わらず透明な壁が立ち塞がり、マーガレットの退室を拒絶するかの如くはじき返した。


 ……出られない。


 意気消沈と肩を落とし、諦めの溜め息を吐く。


 するとその溜め息を跳ね返すように、扉がゆっくりと開いた。

 キィ。軋む音とともに眼前に現れたのは、

 幻の王子と呼ばれる第一王子――フェルディナンドだった。


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