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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【断罪編】  作者: 星七美月
第5部中篇 断罪の果て、悪役令嬢は運命の恋を掴み取る!?

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404/411

第404話 繭の中のお茶会

 格子窓から差し込む陽光で、銀のティーポットがキラリと輝きを放つ。白磁のティーカップには、ローゼンブルク王家の紋章である薔薇とつたの紋様が施され、崇高な気品を漂わせている。


 そこが退出を許されない幽閉された牢獄でなければ、大変に完璧な茶会であっただろう。


 白磁の皿に乗ったオーロラの実をスプーンで掬い、マーガレットはそっと吸い込むように口にする。

 最も寒さの厳しい大寒だいかんにしか実らないオーロラの実らしく、シャクっとした音とともに果肉が舌の中でほどけるように溶けていく。すっきりとした甘さは、一度口にしたら忘れることはないだろう。


 この味、この触感。オーロラの実で間違いないわ。

 片手で足りるほどの日数で、稀少なオーロラの実を手に入れたゼファー殿下の手腕には、正直脱帽せざるを得ない。


 セイロンティーの爽やかな風味を味わいながら、ゼファーは朗らかに微笑む。


「マーガレットのために、実はオーロラの実のパイを用意したんだ」


 芳ばしい香り漂うオーロラのパイには、粉雪を思わせる粉砂糖が降り積もっている。大寒にしか実らないオーロラの実に、うってつけのデコレーションだ。


 へそを曲げた悪役令嬢を演じ、マーガレットは唇をつんと尖らせて無言を貫いていた。その不機嫌な姿を、ゼファーは上機嫌に眺めている。


 音がしないのが不思議なほどに長い睫毛で、僕の手に入れたオーロラの実のパイを眺めている。ああ……僕のことも、そんな風に穴が空くほど見つめてくれたのなら。


 躊躇うように、その愛らしい唇がパイに触れる……あのパイが僕ならば、どんなによかっただろうか。


 パイさえも妬ましく思ったゼファーは、劣情を振り払うように声を掛けた。


「何か不便はないかい?」

 その問いかけに、マーガレットはまばたきをひとつ落とす。しなやかに、流れるように首すじに手を添えた。

「……この首輪が苦しくって……外してはいただけませんか?」


 まあ、無理だとは思うけど。

 この魔封じの首輪は私の魔力を封印し、賜物(カリスマ)を封じている。同時に、私をこの部屋に閉じ込めるための鎖のようなものだ。


「なるほど。では、少し緩めてあげよう」


 思いのほか軽やかに放たれた言葉に、マーガレットは耳を疑った。ゼファーは椅子から腰を上げると、マーガレットの背後へと回る。


 首輪から伝わる震動が肌を通じ、ゼファーが首輪に触れたと感じ取った。しかしマーガレットの視界にその姿は映らず、何が行われているのかは霧に覆われたように掴めなかった。


 でもこれは…………もしかして、逃げる絶好の機会なのでは?

 魔封じの首輪が私の首から外れた瞬間に、身体強化の賜物(カリスマ)を放てば……!


 カチッ。金属音とともに、首輪が少しだけ緩んだ。刹那、マーガレットは精神を研ぎ澄まし、全身の力を胸元へと集めて賜物(カリスマ)を発動する――。


 しかし賜物(カリスマ)は発動することなく、すぐさま首輪はカチッと硬質な音を響かせた。首輪はマーガレットの首に巻きついたまま……。

 反旗を翻す隙などひと欠片もなく、その冷たい感触を受け入れるしかない。


 やっぱり、そう甘くはないわよね……。




 不意にマーガレットの両肩に、ゼファーの手が降り立った。マーガレットは驚き、身体はビクリと跳ね上がる。無言の圧を込めるかのようにゼファーの手はズシリと肩に沈んでいく。頭上からは、重く沈む低音が降り注いだ。


「この首輪とは、アデニ・アラビカ公国で出会ったんだ。本当は奴隷を従属させるための魔道具らしい。僕にしか外せないから、おかしなことは考えないでね、マーガレット?」


 その言葉のひとつひとつが静かな脅迫を孕んでいるようだった。


 おぞましい恐怖が、マーガレットの背すじを駆け上がる。眩暈めまいのするような恐怖に息を呑みながら、マーガレットは悪役令嬢の仮面を被り、ゆっくりと振り返る。

まるで、女王が蔑むようにてつく視線を携えて――


「……まあ、酷い。それでしたら、外してくださればよろしいのに。私をこんな奴隷の首輪で縛るだなんて。ゼファー……あなたこそ、私の恋の奴隷でしょう。あなたが付けたらいかが?」

「ああ、もちろん。僕は君の奴隷だ。君がいなければ、まともに呼吸もできないほどに君に溺れている。でも縛らなきゃ、きっと君は僕から逃げ出すのだろう。君も、母上と同じできっと……」


 心の乱れを映すように、ゼファーの身体は小刻みに震えている。わなわなと震える手がマーガレットの華奢な肩に鋭く食い込んだ。痛みが走り、マーガレットの表情が苦悶に歪む。


「いっ、痛いですわっ」

 耐え難い痛みに身をよじらせ、マーガレットは懸命にその手を振りほどいた。

「ああ、ごめんよマーガレット……実はね、今日は君に見せたい物があるんだ」


 炎が消えたように、ゼファーの震えがぴたりと止まった。

 ゼファーの口元には、不気味なほどに完璧な笑みが刻まれる。その昏い紫水晶の瞳には、底知れぬ深淵の闇が宿っていた……。


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