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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【断罪編】  作者: 星七美月
第5部中篇 断罪の果て、悪役令嬢は運命の恋を掴み取る!?

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401/415

第401話 流行

 生きる意味を見出し、マーガレットは闇の淵から這い上がった。


 クレイグや家族の笑顔を思い浮かべるたび、枕に涙の跡が増えていく。今はクレイグや家族との再会に夢を描きながら、暗闇で手を彷徨わせるように脱出する糸口を探っている。


 だが糸口は掴めず……部屋にたったひとつの格子窓から、自由に羽ばたく鳥たちに想いを馳せる日々が続いた。


 魔力を封じられたマーガレットは、恨めしそうに魔封じの首輪に細い指先を這わせる。


 いろいろと試行錯誤を繰り返したけど、首輪を外す方法は見つからない。

 私はこのまま、死ぬまでこの部屋で過ごすのかしら……。


 意気消沈とするマーガレットの姿に心動かされたのか。ミモザとメアリーがある物を室内へと運び入れた。

 両手に抱えきれぬほどのそれは――恋愛小説だった。


 その一冊一冊が励ましを届けるかのように、灰色の日々に、少しずつ色を添えていく。ただし、小説の内容は王子と令嬢が結ばれる結末ばかりなのは、ゼファーの意向なのだろうか。




 ある日の午後。

 マーガレットは昼下がりのひとときを、紅茶とともに味わっていた。ダージリンの爽やかな香りが舌に触れ、微かな渋みとともに一時の幸福を与えてくれる。


 ダージリンの味わいを堪能しながら、マーガレットは片目を閉じ、控えているメアリーにそっと視線を忍ばせた。

 

メアリーの指はエプロンの裾を皴が寄るほど握り潰し、視線は落ち着かぬまま彷徨っている。それはまるで、何か重大な秘密を胸に隠しているようだった。


 その様子がどうにも気にかかり、マーガレットはカップを静かに置いた。そして決して警戒されぬように、春の陽だまりのような温かな声を響かせる。


「メアリー、どうかしたの?」

「ひゃ! ……べ、別にぃ。どうもしませんけどぉー」


 反抗期の少女のようなツンとした言葉を口にしながらも、メアリーの瞳は定まらず、そわそわと揺れている。

 マーガレットはそんなメアリーを探るかのようにじっと見据え、穏やかな口調で言葉を放った。


「嘘よ。ずっと落ち着きなくそわそわしちゃって……よかったら、私にその理由を教えてくれないかしら? あなたの話が聞きたいわ」


 マーガレットの微笑みに勇気づけられたのか、メアリーは胸に秘めた決意を確かめるように静かに、しかし力強く頷いた。

 すると一切の躊躇もなく、メイド服のスカートの裾を両手で摘まみ、ふんわりとたくし上げる。


 予想だにしなかった行動に、マーガレットは翡翠の瞳を限界まで見開き、口をぽっかりと開けたまま固まってしまった。


「えっ、え!?」


 動揺するマーガレットを気にも留めず、メアリーはスカートの裏地からある小さな包みを取り出した。


 え……、スカートの裏って、そんな物まで収納できるものなの。

 でも、そんなところに隠して持ってくるなんて、一体何を……?


 幾度かのまばたきで動揺を鎮めると、メアリーの手元に視線を滑らせる。その手に大切に握られていたのは、一冊の本。

 メアリーはその本をそっと差し出す。眉を吊り上げ、真剣な眼差しを湛え、何かから怯えるように声を落とした。


「最近、王都で流行っている小説です。その、よかったら……」

 本を受け取り、表紙のタイトルに目を通す。


 悪役令嬢と執着王太子の、逃れられないけ……結婚!? ひいぃぃぃ。


「あっ、そのタイトルは違います。気づかれないように違うカバーで包んできたんです。中を見てください」


 表紙を捲った先に書かれていたタイトルは、


『たとえ断罪されても、私はあなたを愛す』


 それは、王太子と婚約している令嬢と忠実な従者の、決して許されざる恋の物語だった。


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