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悪役令嬢マーガレットはままならない~執着王太子様。幽閉も監禁も嫌なので、私は従者と運命の恋を!~【断罪編】  作者: 星七美月
第5部中篇 断罪の果て、悪役令嬢は運命の恋を掴み取る!?

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第400話 悪役令嬢、反省会を行う

 ゼファーが部屋を去り――マーガレットは張り詰めていた緊張の糸が切れ、力なく寝台へと倒れ込んだ。すると、驚いたミモザがスカートの裾を翻しながら、マーガレットのもとへと駆け寄った。


「大丈夫ですかっ、マーガレット様!?」

「ええ、大丈夫よ。疲れたは疲れたけど、今までゼファー殿下と過ごした後に感じた精神の疲弊は少ないかも。慣れないことをして身体が疲れただけみたい」


 寝台に身を沈めたマーガレットは、試すように右手をゆっくりと開閉し、身体の調子を確認した。

 それでもなお、ミモザの心配の念は消えず、そっと顔を寄せる。


「暫くお休みになられますか?」

 寝台に埋もれたまま、マーガレットは首を小さく横に振った。疲労で身体の力は抜けているのに、心の底から湧き上がるような充足感があふれている。

「いいえ、身体を休めるよりもまず、私の演技に対してのあなたの意見を聞かせて頂戴」


 翡翠の瞳を煌めかせ、熱心に意見を求めるマーガレットに、ミモザは目を見開いた。だが、すぐに穏やかな微笑みを湛える。


「この作戦を提案したのは私でしたが、マーガレット様の素晴らしい演技には舌を巻きました」

 くるりと踵を返したミモザは、水差しから水を汲む。

 寝台の脇に控えるナイトテーブルにコップをそっと置くと、感動した熱が溶けるように言葉を次々と紡いでいく。

「それに、ゼファー殿下があんなにも翻弄されるなんて思いも寄りませんでした。特に、最初の頬を引っ(ぱた)いたところ! まるでお預けをくらった子犬のようで、大変貴重なものを拝見しましたわっ」

 薄手のブランケットを腕に抱えたまま、マーガレットはくすくすと喉を鳴らす。

「ふふ……私も人の顔を叩いたなんて初めてで、緊張しちゃった」


 ふと、閉ざされた扉の向こうに目を向ける。

 廊下側の扉の前には、ゼファー直属の護衛騎士が待機している。でも彼らは護衛するためではなく、私の監視が目的なのだろう。


 魔封じの首輪に縛られた私は、この部屋という檻から逃れる術を持たない。

 でも、万が一の逃亡を防ぐため、彼らは今日も扉の前に佇み、私を見張っているのだ。


 不意に、ゼファーの放ったある言葉が頭をよぎった。マーガレットは胸を突かれたように声を上げた。


「あ、そうだわ。ねぇ、ミモザ。さっきゼファー殿下が話した一か月後の結婚式って何かしら? 式は延期になったはずなのに……」

 気まずげに眉を下げたミモザは、静かに頭を垂れる。

「申し訳ありません。私は何も伺っておりません。しかし、先ほどの殿下の口ぶりから、予定されていた式が延期になり、マーガレット様に飢えた殿下が裏で画策しているのではと推察します」

 すると、ミモザは思いつめたように目を細め、頭によぎったおぞましい光景に重々しい溜め息を落とした。

「ここ数日のお二人のやり取りを拝見して、私の殿下に対する考えは天と地がひっくり返ったように変わりました。正直、あなた様を手に入れるためならば、殿下はどんな手段もいとわないでしょう」

「……えぇ、そうね」


 消え入りそうな声を発し、マーガレットはゆっくりと身を起こした。

 ナイトテーブルに置かれた水にそっと手を伸ばし、静かに口に含む。喉を通り過ぎる水の冷たさが心の乱れをそっと鎮め、平静を呼び戻していく。


 ――あなた様を手に入れるためならば、殿下はどんな手段も厭わないでしょう。


 ミモザの言葉が、マーガレットの胸の奥で鐘の音が反響するように反芻されていく。


 どんな手段……その手段とは、家族をも処刑したということ?

 それとも――私に嘘を吐いたということ?

 もし問い質したのなら、ミモザは正直に答えてくれるのだろうか。


 しかしミモザは、ベノワ宰相に忠誠を誓っていると告げていた。

 私が彼女に話したことは、すべてベノワに筒抜けとなるだろう。


 何か探っていることを勘付かれると、逃走経路が絶たれてしまうかもしれない。

 ここは余計なことは言わずに、静観するべきかしら。




 微かな疑心の気配を感じ取ったミモザは、静かに息を吸い込んだ。パンッと軽快に手を叩き、場の空気を鮮やかに塗り替える。そして、心からの敬意を乗せて微笑んだ。


「僭越ながら、殿下に目標をお与えになるというマーガレット様の作戦は、名案だと感服しました。ふふ……オーロラの実はやりすぎかとも思いましたが」

「大寒まで、半年くらいは時間を稼げたでしょ」


 マーガレットは悪戯っぽく口元を吊り上げ、ニヤリと笑った。燃えるように鮮やかな赤毛を軽く払う――柔らかな赤毛がさらりと流れる様は、どこか挑発的だ。


「まあ、マーガレット様ったら。まだ演技をしているみたいに意地悪ですこと……ふふっ」

 品のある口元にそっと指先を添え、柔らかく微笑むミモザに、マーガレットはどこか既視感を覚えた。

「…………ミモザって、どこかで私と会ったことがあるのかしら。何だかとてもよく知っているような……どうも他人とは思えなくって」


 ミモザとメアリーは王城で働くメイドなのだから、それなりの身分なのではないかしら。尋ねても、二人は笑うばかりで教えてくれないのよね。


 予期せぬ言葉にミモザは驚き、思わず目を丸くした。が、すぐに麗しい笑みを唇に刻み、胸元に手を添え、華やかに礼を示す。


「ありがたき幸せに存じます。マーガレット様から親しみを賜り、身に余る光栄にございますわ」

「そんなに改まらないで。ふふ、まるで物語に登場する王子様みたい…………あっ、女性に王子様だなんて、ごめんなさいっ」

 申し訳なさそうに謝罪の言葉を紡ぐマーガレットに、ミモザはそっと朗らかな笑みを浮かべる。

「いいえ、嬉しいかぎりですわ。私、自分が王子様になりたい性分ですので。本当の王子様に言い寄られている方にそう言っていただけて、これ以上のほまれはございません」


 その発言に、マーガレットは翡翠の瞳をぱちくりと大きく瞬かせた。宝石のような瞳に、驚きが波紋の輝きを揺らめかせる。


「ミモザって、普段はしっとりとした大人の女性って感じなのに、意外と男勝り?」

「それは……ご想像にお任せしますわ。ふふふ」


 上品なミモザの笑みは、どこか言い知れぬ含みを孕んでいた。マーガレットは小さく首を傾げるばかり。その間に、話題はいつの間にか別の色へと転じていく。


 二人の会話は尽きることなく続き、時間を溶かすように語り合った。

 ふと気づけば、陽はとっぷりと暮れていた。





お読みいただきありがとうございます。

今話で400話到達でした。1年以上毎日投稿しているということで、早いものですね。


本作を読んでくださっている皆様方、ブクマや評価、リアクション、感想をくださる方々、本当にありがとうございます。現在、マーガレットは大変な状況ではありますが、改めて謝意を伝えさせてください。


作者からのお知らせとしては、完結まで書き終わりました!

確実に最後までありますので、楽しんでいただけたら嬉しいです。



次の物語は――

幽閉部屋からの脱出手段を画策するマーガレット。

しかし魔封じの首輪を解く方法が見つからず、落ち込む日々が続きます。

そんな時、メイドのメアリーが何やらそわそわとしていて……。


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