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ゴミの国の歌姫  作者: 熨斗目花色
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「歌姫様、申し訳ないですけど起きて下さい」



不意に体を揺すられて強制的に起こされる。開いた目に映るのはまだ暗い部屋の中だった。



「朝早くにごめんなさい」



寝起きの頭だから叫ばずに済んだんだと思う。

ぼんやりとした意識のまま声の方へ顔を向けると、ベッドの少し向こうにセクシーダイナマイツが立っていた。



「大丈夫ですか? 歌姫様。起きてます?」



おずおずと言った感じで言われて、ようやく状況が何となく飲み込めてくる。

まだみんな寝静まっている早朝に訪ねてきた元最高術師。他の人に聞かれたくない話があるってことだろう。


目を擦りながら上半身を起こせば、サッとコップを渡された。ありがたくいただいて水分を取ると、大分目が覚めてきた。



「……帰る方法が見つかりましたか?」



彼女がこそこそとここへ来る理由が他に思い当たらない。

飲み干したコップをさりげなく引き取る気配りもできる美女は、艶やかに微笑みながら頷いた。



「ええ、見つけましたわ」



さすが。デキる女は違いますね。



「最高術師は連れてこなかったんですか?」



私は一応ラプルくんに宿題を出したんですけど。

意地悪な質問かと思ったけど、セクシーさんは悪戯な笑顔で応えてくれる。何ですか、それ。セクシーに含まれる可愛らしさ成分って最高。でも、私は決して悩殺されませんからね。



「白状しますと、帰還の方法を先に見つけたのはラプルです。でも、あの子は何だかんだ言って陛下が大好きなんですの。歌姫様が戻ってしまうと陛下が悲しむ。でも、歌姫様へ償いはしたい。その板挟みで『ゲンコーヨーシ』が何なのかを調べてから、とか意味不明なことを呟いて悩んでいたもので」



ああ、原稿用紙。確かに言ったね。そうか、原稿用紙なんてここにある訳ないか。

怒りのあまりに言ったけど、帰還方法を遅らせる言い訳を与えるとか、私としたことが。



「でも、きっと。ラプルは最後は自分の務めを果たしますわ。だってあの子はこの国の最高術師ですから。だから、親バカな母親だと軽蔑下さって構いません。どうか、私の口から帰還方法をご説明させて下さい」



夜が明けてラプルがまた悩み苦しむ前に先に自分から説明したい。なんて優しい母親ですか。

セクシーなのに可愛くて優しい母親? 何なの、この国の女性は完璧が当たり前なの?



「誰から聞いても望む結果になるなら構いませんよ。それで、帰る方法は?」



2時間サスペンスとか見ていつも思っていた。なぜ今言わない、今聞かない、今殺しとかないの(物語の中の話です)。

後にするからこうなるのよ。大事なことはさっさと言っておく、聞いておく、ヤッておく。フラグだの、余韻だの、どうでもいいのよ。後悔しないように今できる最善の策を取る、それが大事です。



「歌姫様を召喚した時と同じ条件が揃う日に、召喚された場所で、思い切り自分の為に歌って下さい」



あっさりと告げられた帰る方法。思っていたよりもずっと簡単で、何だか少し拍子抜けしてしまった。



「……条件が揃う日はいつですか?」

「それが、何の因果でしょうか……その日は、」



それまでスラスラと話していたセクシーさんが初めて言葉に詰まる。

切なげに寄せられた眉がまたセクシー、じゃなくて、何の因果かって言うくらいだ、私だってその日がいつなのか予測できた。



「王様の誕生日はいつですか?」

「後、2日後、夜が明けたのでもう明日ですわね」



美人の苦笑と共に得た答え。明日の夜に私はゴミの国にいなければならない。



「ここからゴミの国へはどれくらいで行けますか?」

「馬で行けば2日はかかります。ですが、そこは私にお任せ下さい。言いましたでしょ? これでも腐っても術師だって」

「あなたが運んでくれるなら、どのくらいの時間が?」

「歌姫様の瞳が瞬く間に」



ばちり、と音がしそうな長い睫が上下して、非常に魅力的なウインクをいただきました。

王様かヨーダがしたなら殴ってやりたいところだけど、綺麗なお姉さんのウインクは捨てるには素敵過ぎた。



「あなたの身体は大丈夫なんですか?」



治らない病だって言っていた。こんなに元気でも何か問題があるかもしれない。

セクシーさんが良い人だからどうしても気になってしまう。



「移動の術はそこまで難しいものではありません。ただ、私の残りの能力を考えればギリギリかもしれない。歌姫様、もしこの術を使うことが私の命に関わると言ったらどうしますか?」



変わらぬ笑顔で聞かれたけど、きっと本当のことを話している気がした。この人はきっと私の知りたいことを隠したりしない。そう思わせる何かがあった。

だからこそ、私も本音で答えようと思う。



「誰かの命に代えてまで戻りたいとは思いません。なんて、言えない。私は誰を犠牲にしても日本へ帰りたいし、そうする権利があると思っています」



冷たい人間だと思われてもいい。だって、それが私の偽りない想いなんだ。

真正面からぶつかって答えたら、セクシーさんは今まで見た中で最高の笑顔を見せてくれた。



「当然ですわ。私が歌姫様の立場でもそう思う。だから、私はあなたに一片の憂いなく戻っていただきたいんです。任せて下さい、私の命を引き換えに、なんてラプルは絶対選びませんから」



それってつまり。ラプルくん、脅して術使わせるってことですかね?



「……あなたが味方でよかったと思います」



つられて私も笑ったら、これまた嬉しそうに微笑み返してくれる。



「歌姫様、その笑顔、決して陛下に見せてはいけませんよ。帰還に邪魔が入ります」

「何でそんな話になるのか分かりませんが、私が王様に笑いかけることなんてありえません」



王様の話になると、浮かんだ笑顔も消えるってもんだ。

無表情で心配ないと請負えば、セクシーさんはぷっと吹き出す。



「哀れな陛下。でも自業自得ですわね、どうにかしたいなら自分の力のみで頑張らなくては」



本当に哀れだって思ってます?

そう聞きたくなるくらい楽しげに笑って、その笑いが微笑みに変わる頃、セクシーさんは跪いて頭を垂れた。



「希求の歌姫様、私のことはピールとお呼び下さい。術師ピールはあなたに忠誠を誓います」

「よろしく、ピールさん」



帰還に向けて、私は最強の仲間と共に一歩前進しました。




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