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その日の夜、まさに平身低頭、謝り続けるメイドさんに辟易した私は、あっさりと許してあげましたとも。
可愛い女の子にこれ以上そんな顔をさせたくないのはもちろんだけど、何より王様やら騎士様やら、そんな立場の奴から頼まれてメイドさんが断れる訳ないじゃないの。
という訳で、悪いのはやっぱり奴らです。せっかく花を堪能してたっていうのに。
寝る間際、ベッドの上で一人脳内文句を繰り広げていたら、あの舞い散る花吹雪をふと思い出した。
自分でやったことだけど、あれは本当に圧巻だった。辺り一面が桜色に染まり甘い香りに包まれたあの瞬間。
日本人だからなのかは分からないけど、やっぱり桜は特別だ。特に散りかけの美しさったらない。花びらに包まれた世界、もうちょっと堪能したかったなぁ。
脳裏に蘇る風景に思わずほうっと息を吐いた時、またまた可愛らしい音と共に黒ウサギが現れた。
「るるるっ」
「……また来たの」
つい思ったままを口にすれば、可愛いウサギがその場に崩れ落ちる。
これ、まさか王様がやってるんじゃないよね? そうなら、腹抱えて笑ってやるけど。
「る!」
どうやらすぐに立ち直ったようで、むくりと起き上がったルルが手に持つ箱を差し出してくる。
サイズ的にはちょうど指輪でも入ってそうな大きさだ。これで本当に指輪だったら、帰るまで一言も話さんぞ。
心で脅しをかけながら受け取り箱を開くと、そこにあったのは淡いピンクの花、の形をした多分菓子。
見事過ぎて本物っぽいけど、漂ってくる香りが美味しそうなのだ。なぜか心躍る焼き芋の匂いがするよ。
「るーるる!」
菓子の花に見惚れていると、今度は本物の花束を差し出された。それ、どこから取り出したのさ。
さっき思い出していたばかりの桜色の可憐な花々と、箱に入れられた焼き芋の匂いがする菓子。
大分成長したじゃないの。言ってはやらないけど。
どうやらここの王様はバカではないらしい。正妃様も賢そうだし、国としては安泰なのかもしれない。まあ、平和だからこそ誕生日程度のイベントで他人の一生を左右するようなことをやらかすんだろう。
ああ、考えたらまた腹が立ってきた。
「ルル、これは勿体ないから貰うけど、今後一切贈り物は不要ですって言っといて。きっと高価なお菓子なんでしょう? 前にも言ったけど、あんたにとっちゃ微々たるものでもこれで何日も暮らせる国民だっているんだから、どうしてもって言うならそっちに回しなさい。と、伝えるように」
青い瞳が真剣にこちらを見つめている。
もう本当に可愛い、じゃなくて、一応私が言いたいことはルルを介して王様に伝わった気がした。
「ねえ、ルル。おまえは王様の遣いなの、それとも王様そのものなの?」
「る、るるーる」
困ったように首を傾げる姿も見事に私のツボだ。
「ま、あの王様が小首なんか傾げた日にゃ、太陽が一つ沈むかもだしね」
「る!?」
焦ったようにワタワタするウサギをしっかり目で楽しんだ後、私はルルをギュッと抱きしめる。
「ルルはふわふわで可愛いわ。ここは綺麗とか可愛いものしかない国なんじゃないの?」
すっかり大人しくなったルルに頬擦りすれば、さらにカチンコチンに固まった。その姿があんまり可愛かったので、吹き出すついでに長い耳にキスをしてやる。
「……!!」
「あー、黒くても何だか照れてるのは分かるかも」
これが白ウサギなら、この花よりピンクになっているのが分かったかもしれない。
笑いながら頭を撫でたら、ポンと音を立ててルルは私の腕の中から突然消えた。
「逃げられたか」
ルルなら一日中愛で続ける自信がある。いや、メイドさんでも自信がある。
「……寝よ」
くだらないこと考えている暇があるなら寝るに限る。
目の下に現るクマをまったくもって可愛くありませんからね。




