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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
夜を取り戻せ
40/40

登りたい

「ミオぉ……」


 今はさっきまで逃げ回っていたミオを捕獲して、こめかみに拳を突き立てているところだ。お灸を据えてやらねばやらねばならないので。

 だが諦め悪くミオはジタバタ暴れて逃げようとする。が、ステ差により力ずくでは俺に勝てないと悟ったのか、少ししてから暴れるのをやめる。そして、今度は「だって」と言葉に訴える様子だ。

 一応言い訳は聞いてやるか。


「だってアッキーがあまりにトムジェリだったから」

「誰がおっちょこちょいの猫さんだ」


 はい、有罪。ミオのこめかみを拳でぐりぐりしてやる。


「あうぅ。ごめ、ごめんなさいー」


 すると、ミオは変な声を出し、変な動きして見悶えている。

 こんな軽い罰ゲームみたいなことまで再現してあるとは、流石最新技術。まあ、ちゃんと謝ったことだし許してやるか。

 わざとらしくふらふらしてるミオのこめかみから手を放す。するとミオは頭を抱えてしゃがみ込み、涙目でこちらを睨んでくる。


「アッキーの鬼ぃ……」

「バカ言ってねぇでさっさと登んぞ」


 俺はぺしっとミオの頭を叩いてからロープに手をかける。後ろからふくらはぎをスパンと蹴られた。けど気にしない。


「あ、そうだ。もし登るのが無理そうなら俺とヴェインさんが上から引っ張るってことで」

「もし俺も登れなかったら?」

「登れ。甘えは許さん」

「俺だけ厳しい」


 叫ぶヴェインさんを無視して、ロープを手繰りさっさと壁を登っていく。蒼鉄を回収することも忘れない。

 さっきみたいな失敗を繰り返さないために、今度はロープを腕に巻き付けておく。これなら腕の支えの代わりになってくれるだろう。そして、それは期待通りに蒼鉄を抜いた後、腕の支えを失くした俺の体を支えてくれた。宙ぶらりんになってちょっと怖かったけど。


「ちっ、つまらん」


 ミオが滅多にない鋭さで舌打ちをする。聞こえてるっつの。

 蒼鉄を回収したらぱぱーっと壁を登り、また天井の大穴の上に出る。蒼鉄を回収するのも含めて一分かからない程度だった。


「さ、来い」


 穴の下を見下ろして、三人に言う。すると、


「「いや、無理だから」」


 三人に口を揃えて否定された。




 ▽ロープを使って登り隊:ヴェインの場合


 人間の体重を支えているロープは、その重量に引っ張られることで繊維同士が擦れ合うことでギチギチと音を立てる。まぁ、それは麻縄の場合だが。

 そしてファンタジー然としたこのゲームでは、その麻紐がデフォなのだ。ファンタジーといえば麻縄と、開発陣の一人が妙な拘りを押し通した結果、らしい。

 つまり、何が言いたいかというと。鳴っているのだ、ギチギチと麻縄の繊維の擦れる音が。


「この音ってあんまりいい音じゃないよな~」


 開発インタビューの記事を、ふと思い出してアキが呟く。

 今はヴェインがロープをつたって壁を登ろうと躍起になっているところだ。


「ちくしょう。何だってアイツはあんなひょいひょいと簡単そうに出来るんだ」


 そうぼやくヴェインも、アキと比べれば遅いペースではあるが着実に壁を登っている。高さにしたら丁度半分くらいか。


「ヴェインさんだって凄いですよ。ただアキ君が凄すぎるだけで……」

「それを人はオカシイと言う~」


 アキは聞こえてきたミオの悪態を流して、せっせと手を動かす。アキは今、思いついたことがあってちょっとした細工を作っているのだ。ロープと何時ぞやに貰った建材の余りを使った、ちょっとしたモノを。


「おい、アキ。ちょっと、助けて……」


 そうこうしている内にヴェインの壁登りがいよいよ大詰めになっていた。登りきるまでもう少し、というところまで迫ってきている。

 でも、そのもう少しの難易度が高いようだ。


「んじゃあ、少しそのままで待ってて」


 アキは細工の手を止めて、ヴェインの掴まるロープを握る。そして、


「よいしょぉ!」

「へ?うおあぁ」


 一気に引っ張り上げる。すると、ヴェインの体はロープと一緒に引っ張られ、一瞬浮遊感があった後にすぐ天井裏に体が叩きつけられる。

 一瞬。一瞬の内にヴェインの痛みは引いていくが、まるで逆バンジーのような急上昇から急降下を体験したその恐怖が心に刻まれ、ヴェインの体を強張らせる。

 恐怖で動けないヴェインに、


「早かったでしょ?」


 けろっとした様子でアキが言う。そんなアキの姿にヴェインはうすら寒いモノを感じずにはいられなかった。


「お前、わざとだろ」

「俺だけ怖い思いをするのは、なんか悔しかったから。反省してまーす」


 あっさりと「わざと」であると自白したアキの反省の弁に、それこそヴェインはうすら寒いものを感じた。




 ▽ロープを使って登り隊:ベルクの場合


 ヴェインが登りきったのを見て、次はベルクが垂れ下がるロープに挑もうとする。


「僕にできるかなぁ……」


 ベルクの弱音に、「がんばー」とミオは熱意のねの字も籠っていない応援を送る。だが、人のいいベルクは、そんなミオの態度などつゆ程に気付く様子もなく、


「がんばるよー」


 と、同じようにのんびりとした口調で応援を受け取る。そんな二人のやり取りを眺めるアキは、


「噛み合ってねぇなぁ」


 と、ポツリ呟く。ヴェインも同様にそんな空気を下から感じ取って苦笑する。そんなヴェインも、今はアキの作業を手伝っている。


「お前の友達は変なのが多いな」

「そういうヴェインさんの友達は?」

「……やめようぜこの話」

「俺は全然構わないけど」

「じゃあやめてくれ」


 そう言ってさっさと細工に戻る。そんなことを話している間に、ベルクは全体重をロープに乗せて、壁を縦に歩き始めていた。


「こ、これは相当ツラいね……」


 そう言いながら少しずつロープを手繰り寄せ登らんとするベルクの高度は、大体1m20cm。要するに、ほとんど進めていないのが現状である。が、既に腕が生まれたての小鹿のようにふるふると震えている。


「ガンバー」


 相も変わることなくエネルギーの一欠片も感じ取れないミオの声援が、ただただ寒々しいばかりである。


「なぁ、これでいいのか?」


 そんな寒々しさをよそに、天井上のヴェインが作業の確認をアキに求める。


「ん~、大丈夫だと思うよ。俺もうろ覚えのほぼ勘だし」

「お前もお前で大概だな……」

「ソレよく言われるー」


 主にアカネとかソニアとかに。アカネたちは今頃どうしてるかな?崩落に巻き込まれてさえいないなら、3人でも大丈夫だろうと信じている。それでも心配が完全に拭いきれるわけではなく。やっぱり、少し焦ってんのかなぁ。

 アキがふわっとそんなことを考えている内に、縄の端を手にしていた。


「あ、終わってた」


 そう言うアキが持っているのは木の棒を結んだ縄の梯子。急繕えで見た目は不格好だが、それなりに丈夫な造り、のはずだ。


「こっちも終わったぞ」

「ん……。強度も多分恐らく問題ナシ!きっと」


 ヴェインが「適当だな」と言いたげな目を向けるが、アキは全くもって気にしない。


「ベルク。頑張ってるとこ悪いが梯子を降ろすぞ」

「え?ちょっと待って、梯子?」

「ああ、今作った」

「アキくん器用だったもんね。でも、僕もやっとコツがわかってきたところだから」


 そう言って諦める色を見せないベルクは、まだ自分の身長の高さをを越えていない。そんなベルクの姿にアキは、


「……ソウダネ」


 と、一言。他に掛けられる言葉を見つけられず、ゆっくりと梯子を降ろすことにした。




 ▽


「いや~、梯子でも手がプルプルするんだね~」


 結局、ベルクはロープから梯子に乗り移って登ってきた。難易度はロープより断然簡単なハズなのだが、慣れと言うべきか運動音痴と言うべきか、ベルクはそれでもヴェインさんよりたっぷり時間をかけて登り切った。途中、やたら梯子を揺らしてあたふたしているところなんて、見ているこっちが本当に肝を冷やすような有様だった。

 それでもベルクは自分が運動が苦手だとは思っていないような感じだから、本人になんと言っていいのやら言葉に困ってしまう。ので、


「じゃ、じゃあ最後はミオの番だな」


 思いっきり話を逸らすことにする。幸いにも逸らした先が本筋の話だったので、ベルクも「そうだね」とすぐに切り替わった。


「ミオ。さっさと登ってこい」

「アッキーのせっかちさん。か弱き女の子は速度制限があるのだよ」


 そう言いながら縄梯子をつたうミオは、さっきまでのベルクと同じでプルプル震えたりやたらと危なっかしい体重移動でバランスを崩したりで、遅々として進まない。

 これ以上、時間を持て余すこともないだろう。俺とヴェインさんは少しのアイコンタクトをかわしてから縄梯子の縄を掴む。


「ミオ、登るのはいいからちゃんと掴まってろよ」

「は?登らないでなんに……、ぎゃー⁉︎」


 滅多に大きな声なんて出しそうにないミオが叫んだのは、俺とヴェインさんがせーので縄梯子を引っ張って、途端に逆バンジーをするハメになったからだ。しかも固定ナシで。

 そうして勢いよく穴からひゅーっ、と飛んで出てきたミオはその勢いのまま緩く放物線を描く。


「オーライ」


 俺は急いでその落下地点に移動し、ミオの体をキャッチする。俺に抱えられたミオは、何が起きたのかわからないと言わんばかりに目を白黒させてから、ぞくりと身を震わせて俺の首に手を回して抱きついてきた。


「アアア、アッキーの鬼ぃ。こわっ、怖かったじゃんか……」

「ハハハ、ミオも立派にトムジェリだったぞ」

「むぅぅ……」


 むくれるミオの顔を見て、“してやったり”と思っていると、


「何?アイツってあんなナチュラルにお姫様抱っこできるコなの?」

「アキくんは天然なんです。自分が何してるか気づいてないんですよ」


 ボソボソと、後ろで二人が話しているけれど、その内容はあまり聞き取れなかった。

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