顔見知りと探索と合流
「よかったぁ、プレイヤーさんだ」
嬉しそうな声が聞こえた。
カラカラと小石を蹴り飛ばしながらせかせかと、フードを目深に被ったローブ姿のプレイヤーがこちらに歩み寄ってくる。
それでもって俺はフードの男の声に聞き覚えを感じていたのだった。
「あれ?アキ君だ」
「やっぱりベルクか」
近づいてきたそいつがフードを取って、聞き覚えが見覚えになる。結構な知り合いであった。
「アキ君も巻き込まれてたんだね」
「いや、巻き込まれたっつうか、……巻き込んだっつうか」
「え?ごめん、後半よく聞き取れなかったんだけど」
「いやっ!何でもない何でもない」
「そう?ならいいけど」
途端に歯切れの悪くなる俺に対して怪訝そうな視線を向けるでもなく、ただ心配そうな目を向けてくる。お人好しな所は相変わらずだな、と少し笑ってしまう。
すると服の裾が引っ張られて、何故だかずっと俺の陰に隠れていたミオが不思議そうに俺の顔を見上げてくる。
「知り合い?」
「おう。つってもベルクだけだけどな」
「ベルク……、ってあのルーラーウィングのぉ?」
「そそ」
「有名人じゃん。『凶弾の介護人』って」
「ソレまだ言われてんのか」
ベルクはその面倒見の良さと、無鉄砲に突っ込んでいく凶弾=ラグのフォローのせいで、そんなあだ名がついていた。言われ始めてからもうじき2年位経つのだが、未だに言われ続けるということは、まだまだ介護から離れられないということなんだろう。
当の本人は何とも言えない微妙な声色で「うん、まぁ……」と苦そうにはにかむ。嫌がっていたからなぁ、そう言われるの。
「で、ベルク。ラグはどうした?一緒じゃないのか?」
介護人と呼ばれる程だ。基本はいつも一緒にいるのがイメージで定着している。昔よくつるんでいた俺のイメージでもそうだ。
「コウモリの大群に突っ込んでいってね。それでラグとはさっきの地震ではぐれちゃったんだ」
被害でけぇなオイ。ベルクのその言葉にミオは俺の陰にすっぽり隠れる。そりゃあ、当然居心地悪いわけだ。
「大丈夫か?」
「……だいじょぶ」
ははは、強がりやがって。素直じゃない奴。いつもより小さくなっているミオの頭を、犬くらいにワシャワシャと弄ってやる。
すんごい怖い目で睨んできたけど気にしない。なんでコイツ俺にはこんな当たり強いんだ?
「アキ君も、アカネさんやシアンさんは?一緒じゃないの?」
「俺たちもはぐれたんだ。一緒一緒」
「そっかぁ……。お互いに大変だねぇ」
ベルクには崩落の原因を言ったところで、気にしはしないと思うけどな。苦労性だからこんなんは慣れっこなのだ。お互い。
「話は終わったか?」
「ああ、ヴェインさん。いたねぇ、そんな人も」
「いたよ、いるよ‼」
何だか必死な人だなぁ。ガヤ芸人みたいだ。
「アキ君、そちらの方は?」
「さっきそこで知り合った人。ヴェインさん。悪運強いっぽい」
「さわがしい……」
訂正。ヴェインさんにも当たり強め。
「ちくしょう、失礼な若者どもめ」
「どうも、ヴェインさん。ベルクです。よろしくお願いします」
「おお、急に丁寧な。よ、よろしく……」
ベルクは折り目正しい奴だからな。どっかの爆弾娘と違って挨拶とかしっかりできる子なのだ。
とまあ、それぞれ自己紹介も終えたところで。
「これからどうするかだなぁ」
「それな」
多分もう、この場に他の生き残りはいないだろうな。俺自身、どうして助かったのか分からない位、岩が散乱して荒れているのだから。現場は非常に悲惨な有様です。
でもまあ、人数少ないのは難易度が上がる程度なので、どうあっても問題にはならない。ただ今一番の問題は、
「向こうの道は塞がってたよ」
「オレがいた方も同じだ」
「まじか……」
進むべき道が見当たらない、ということである。
「前後同時に道が塞がるって、一体どういう物理エンジンなんだか……」
「アッキー、それ禁則事項な」
「はいはい」
そもそも誰のせいでこんな(以下略)。
ベルクもヴェインさんも、ちゃんと現状を解決しようと考えてくれてるんだから、お前もちゃんと考えなさい。と、ミオに言ってやる程の余裕もなく、どうしたものかと頭を抱える。
前も後ろも道はなく、壁は壊せるか怪しい位にびくともしない。HP全損すればモノブラムに戻れるけど、それをするにはこの場の誰かが誰かを殺さないといけない。それは……、なんか嫌だ。
「ゲームでこういう風にマップが変わったりすると、他にも道が用意されてるはずなんだけどねぇ。スイッチとか」
「オレの知ってる古き良きゲームとはもう違うのか……」
「マップ変化で別ルート、みたいな?」
ああ、そんなゲームもあったね。ディスプレイ式のゲームでそんなギミックがあったわ。懐かしい。ブロック壊して横道見つけたり、画面の端すぎてキャラが見えなくなるところに道を見つけた時の感動とか、思い出すと久しぶりにやりたくなってくるな。
って待てよ。そういやあのゲームで……、
「上か……」
思い出したそのゲームには、序盤のコースで高い所に昇った先に隠れたゴールに通じる道があった。
それで思ついたのだが、この洞窟にもあるのではなかろうか。隠し通路みたいなものが。
と、皆に言うと、
「配管工の?」
皆ゲームの方に食いついてきた。やっぱ皆通るんだね、マ〇オ。
閑話休題。
「つまり、下がだめでも上なら道が繋がっているかもってことか」
「そそ」
ヴェインさんが俺の言いたかったこと言ってくれた。助かるね、こういうの。
それから皆で穴の開いた天井を見やる。そして、その穴に連なってそびえる落石の壁。
「でもなぁ……」
「ん?」
「これ登れるかぁ?」
カツカツと落石の壁を叩きながらヴェインさんが聞いてくる。その壁は石の積み重なったものなので、見た感じほぼ垂直ではあるが手や足の置き場は豊富に感じられ、登れなくはない。
しかし、なるほど確かにステが魔法よりなミオやベルクには中々難しいもになるだろう。それに、ボルダリングだって慣れない内は四苦八苦するものなのだから、ヴェインさんにも難しいのかもしれない。
「じゃあ、俺が先に登ってローブでも垂らそうか」
言って俺は壁の真正面に立ち、改めて天井の高さを見る。
目測およそ5、6メートル。なら、そこまで難しいもんじゃないな。
ゲーム内だから意味はないけど、なんとなく屈伸する。
「うしっ!」
気合を一ついれて膝を曲げる。パパっと終わらしてしまおう。
「うりゃ」
両足で地面を蹴ってジャンプする。大体2.5メートルくらい。その位置で素早く蒼鉄を抜き壁に刺す。
「ほっ」
そして、飛び上がった勢いのまま蒼鉄を軸に鉄棒のように回転。蒼鉄を足場にしてまたジャンプ。そうして4.5メートルくらい。今度は紅鉄を抜いて壁に刺し、さっきと同じように回転して紅鉄を足場に再度飛ぶ。
一瞬穴の上に視界が届くが、そこが限界だった。それを折り返しに体に浮遊感が走る。落ち始めたサインだ。
「たはっ、アブね」
慌てて腕を穴の淵にかける。それから力ずくで這い上がって到着。
ここから見下ろすとやっぱり結構な高さだ。ミオの持つ灯りが、ここからだとうっすら滲む程度に感じる。
「何だアイツ。ぴょんぴょんと、バッタみてー……」
「バッタじゃなくてウサギですよ」
「アッキーも大概おかしいかんね」
聞こえてんぞ。それとベルク、それは黒歴史だから……。じゃなくて、
「ロープロープ」
何か括り付けられるものは……、ナイフでいっか。ストックとしてNPCの店で買ったのが幾つかあるし。
そう思い立って、アイテムストレージからナイフを取り出す。FoXは物理エンジンが優秀だから、ちょっとやそっとじゃびくともしない位しっかり刺さないとプレイヤーの重量に耐えられないだろう。
「[マイトスタブ]」
アーツを使ってナイフを床に刺し込む。刃の部分丸々埋まる程刺したのだから、まあ支えにするは十分だろう。
アイテムストレージから取り出したロープを、何回か方結びして結び目を付けたモノを、ナイフの柄に括り付ける。そんでもって一応の確認にロープをグッグと引っ張って強度を確認。ぐらりとも動かないし、これなら人がぶら下がっても大丈夫だろう。
「ロープOK」
それから俺は蒼鉄と紅鉄を回収するためにロープを使って降りる。失くしたりしたらグラフトさんに怒られるからな。
そんで、壁に刺さった紅鉄に手をかけた時に気付いた。
「アーツ使ってないけど、結構固く刺したな……、俺」
さっきのナイフ程ではないが、紅鉄(多分蒼鉄)もそれなりの力で刺さっている。それに足場が足場なので上手く力が入りきらない。
「うぉおっ……」
それでも頑張って紅鉄を抜くために、ロープを脇で挟んで、壁に足付けて踏ん張って頑張って。
「何してんだアイツ?」
「馬鹿してんじゃなーい?」
「み、ミオさん!」
だから聞こえてるっつの。
下で俺を小バカにしてくるミオへの注意を心の中に留めておいて、今は紅鉄に集中する。
すると、紅鉄が少し動いたことが手の感覚から伝わってくる。こうなったら後は一気に引っ張るだけだ。
「ヨイショォ!!」
両手で持ち上げた紅鉄。その刃の全貌が見えて、紅鉄を抜くことが出来たのだとハッキリと分かる。
が、それと同時に……、
「あり?」
紅鉄は俺の手の中。そして俺はさっきまで壁に刺さっていた紅鉄を抜こうとするのと同時に、ソレを支えにもしていたわけで。あと、腕を上げちゃったからロープも手放しちゃったわけで、つまり……、
「のぁあああ!?」
落下。さっきまで壁に対して垂直の姿勢だったから、着地の姿勢を取ろうにも、壁に対して垂直になっている体を起こすのは、もう無理だ。
前に落ちた時はアカネに助けられたっけ。でも、今回はアカネいないし……。ああ、床が眼前に。
「ふごっ!!」
顔面から落ちた。ゲーム内だから痛みは一瞬で済むけど……、なんか引きずるわ、こういうの。
「大丈夫?アキ君」
「聞いてくれるな」
恥ずかしいやら怖かったやらの感情がもやもやしてて、今はちょっと動きたくない。ベルクの心配そうな言葉も今は胸に痛いです。
そうして動けずにいると、
パシャ
シャッター音が聞こえた。
「なぁ、ミオよ」
「なーにー?」
「今SSした?」
「したよ~。なんなら落ちるとこ動画撮ってた」
「テメェこのやろう!」
ガバっと起き上がってもう逃げているミオを追いかける。
ああ、きっと追いついても動画は消されないんだろうな。後で色んな人に笑われるのが今から想像できてしまう。




