ハプニング
あれから何度となく遭遇する蜘蛛やらコウモリをちぎっては投げちぎっては投げている内に、この洞窟内のモンスターは全体的にステルス能力が高いヤツばかりということが分かった。急な不意打ちを仕掛けてくるモンスターにおっかなびっくりしながら、どうにか反応して進んでいくしかないようだ。
そうして進んでいると、またも分かれ道に差し掛かる。今度も三つの分かれ道だ。
俺たちはその手前で立ち止まり、またどこに進むか悩む。ぐるりと三つの分かれ道を見てみるものの、三つそれぞれにコレと言った違いも無く、選ぶ基準になるようなものは何もない。
「どないする?」
「また剣でも倒して決める?」
「どこに行っても同じならそれでいいと思いますよ」
大分投げやりな道の選び方の末、俺たちは向かって右のルートに進むことに。
この時、俺たちはみんなシアンの言うようにどの道を選んでも何も大差ないと思っていた。俺がその道に足を踏み入れるまでは。
『キィィィィィィ』
「うぉ!?」
コウモリの群れがなんの予兆もナシに突然上から飛びかかって来た。パッと上を見ればコウモリ赤くて小さな目がビッシリと、縦横無尽に動き回っている。
「ちぃっ」
まったく気の休まる所がない。仕方なしに短剣を抜いて上から落下する様に襲いかかってくるコウモリと対峙する。常に上に注意を払っての戦闘は難易度が高い。ので、ダメージを喰らいながらのコウモリとの立ち回り。幸いなことは一撃一撃のダメージが小さいことか。しかし、
「だぁっ!多い!!」
「撃っても撃っても、キリがありませんね」
周りにも他に沢山プレイヤーはいて、それぞれ対処しコウモリをビシバシ叩いているのだが、いかんせんコウモリの数の方が多い。しかも、的が小さい上に動き続けているコウモリを裁き切るのは普通に難しい。その上、視界すら塞ぎかねない程に大量ときたものだ。それが洞窟内という逃げ道の限られた閉鎖的空間で襲いかかってくるという、至極面倒な状況。
「このダンジョンを設計した人は性格が悪いですねぇ」
「それジブンが言うか?」
「大剣でぶん殴れれば早いのに~」
ぼやきが出るのも仕方がないというもの。若干一名暴力的だが。だからと言って今から引き返すのも面倒な話だ。ここはもう時間が幾らかかろうが突っ切るしかない。そう腹を決めて短剣でコウモリを切りつけようとしたその時、
「[ギガスマリゼーション]」
ドォォォン
ミオが唱えた魔法により、目が霞むような閃光と凄まじい爆発音とが洞窟内に響き渡る。コウモリの有象無象は爆発に飲まれ散っていき、後には爆発の煙と巻き上げられた砂埃が舞う。これでおびただしい数いたコウモリは半分、いや四分の三もいなくなっただろうか。
しかし、
「うわぁ、地響き!?」
「きゃあああ!?」
「なんの爆発だ!?」
「どこだ?新手か?」
事情を知らない人からすれば、ただの脅威に他ならない。未だ止まぬ地響きと煙に塞がれた視界は更にその不安感を煽るばかりで、状況は軽くパニックだ。アカネたちも爆風に吹き飛ばされて地面に転びキョトンとしてから、何が起こったのか理解したようにミオの方へ視線を向ける。俺も責めるようにミオに視線を向けるが、
「てへぺろ」
まるで感情のこもっていない、誤魔化そうという気すら感じられない茶目っ気にため息しか出ない。状況としては悲惨そのものだが、戦況が落ち着いたのも確かだ。そう考えると悪いことばかりでもないのかもしれない。
しかし、そうしたら、はてさて。どうやってこの悲惨な状況を鎮めたものか。これが全くの事故であれば放っておくのだが、原因が自分達にあるとなるとそうもいかない。とはいっても、この爆発娘の悪癖を説明しようにも現在プレイヤーの皆さんは爆煙やら地響きやらで警戒心が昂っていてとてもそれどころじゃない。
どうしたものか。頭を悩ませていると、ふと気づいた。
「それにしても、長い揺れだな」
強力な攻撃や魔法を使えば地面にヒビがはいるとか、地面が揺れるとかの余波はあってもおかしくはない。ただ、今のこの揺れは一人のプレイヤーの攻撃の余波にしては長すぎる。ただの杞憂であればいいのだが、どうにも気になってしまう。
こういう場合は一人で考えてもしょうがない。
「なあ、この揺れ……」
シアンに聞いてみるのが無難だろうと話しかけようとしたその時、ミオのすぐ近くに小さな石がパラパラと落ちてくるのが見えて何事かと上を見た瞬間、俺は考えるより先に走り出していた。
「ミオッ!!」
「おぶっ!?」
全速力でミオの元へ駆け寄り、勢いそのままにミオを抱えてその場から飛び退く。そして、そのすぐ後に俺たちのいた場所でガラガラと凄まじい音と衝撃を肌に感じながら俺は起こったことをやっと言葉で理解する。
天井が落ちてきた。俺はミオの頭上に岩が落ちてくるのが見えて咄嗟に体を動かしたわけだ。他のメンバーは、まぁ心配しなくても勝手に助かってくれているだろう。これまで一緒に過ごしてきて、その実力も悪運の強さも近くで見てきたから。だから今はミオだけでも助かるようにと祈るような気持ちで、ミオを庇うように覆い被さりながら轟音が止むのを待つ。
激しく攻め立てるような音と衝撃は次第に小さくなっていき、やがてすっかりいなくなった。
「……終わったか?」
どれ位の時間が経ったかは分からない。出来事が事だけに長い様にも感じたし、実際は短い間だったのかもしれない。ただまあ、それがいずれにせよ。どうやら死に戻りは回避出来たようだ。それが分かったら張り詰めていた緊張がほぐれて途端に体の力が抜けていく。
ふに
その時、初めて自分の手が何か柔らかいもの触れていることに気づく。でも、こんな洞窟で地面に手を着いていて柔らかいものに触れるなんてあり得るのだろうか。しかし掌に当たる感触は確かに柔らかい。柔らかい何かなだらかな山なりの形をした……。
「アッキィ……」
「あ……」
下からミオの弱々しい声が聞こえて、血の気がサッと引いてゆく。それからすぐに、俺はさっきとは比べ物にならない速度でその場から飛び退いて、頭を地面に擦りつける。
「ご、ごめん!!いや、ごめんなさい、すいません」
「ラッキースケベ……」
「本当にごめんなさい!!暗くてよくわかんなくて。……暗い?」
色々テンパっていたせいか普通ならもっと早くに気づけることに、言ってから違和感を覚える。アカネのランタンの灯りがない。あの無駄に明るい光がどこにも見当たらないのだ。今の視界はただ真っ暗で目を開けているのかすら分からない程だ。
「[ポーンライト]」
暗闇にミオの声が聞こえて、それからバレーボール位の光の玉が宙に現れ辺りを照らし出す。光源魔法というやつか。これで視界が確保出来た。ミオの姿もしっかり確認して、これでようやく本当に一安心。と、思いきやミオに思いっきり顔を逸らされてしまう。
「……ちょっと、こっち見ないで」
目だけこっちに向けたミオの顔はいつもの無表情と少し違って、若干赤くなっていた。その顔を見て改めて思う。
ああ……、とんでもない事をしてしまったな、と。
「……」
「……」
気まずい空気が重く乗しかかってくる。ミオはそっぽ向いてしまっているし、俺はあんなこと仕出かしてしまって何て声かければいいのか分かんないしで、もう状況はこの上なく最悪だ。……取り敢えず、正座しておくかな。
足を折って佇まいを正し反省の意を示して少し経った辺りで、石がカツンと転がる音がした。
「お、やっぱ人いた。おーい、大丈夫かー?」
そして姿を現したのは軽装のプレイヤーだ。その人はこちらを認めるなり手を振って駆け寄ってくる。
「いやー、あんな落盤で生き残れるとはお互いラッキーだったな。あ、オレはヴェイン。1人でこの状況は心細いから一緒に進まないか?パーティ申請送っから」
すいません。その落盤はこちらの責任なんです。
正座している俺に手を差し出してくるヴェイン。なんというか、第一印象は軽いなー、グイグイくるなーという感じ。でも確かに、この状況下で少人数は心許ない。ミオに意見を求めようと視線を向けると、ミオはいつの間にやら俺の背後に隠れるようにしゃがんでいた。そんで俺の腕をめっちゃ握ってくる。
「なに?」
「グイグイ系苦手」
「自分だって結構押し強いだろ」
「あーしはいいの」
「ひでぇ」
とにかく無茶苦茶な理屈を言ってくるミオだけど、顔色がさっきまでとは違う風に悪い。申し訳ないが、ここは断るべきだな。
そして申し出を断ろうと口を開いた時に、気づいた。
「あれ、ヴェインさんってさっきの芸人さん?」
「あぁ、お前らさっきのドライで失礼なパーティか!?」
なんと先ほど見事なハマリ芸を披露してくれた御方である。なるほど、これは確かに悪運が強いわけだ。何てったて死んでしまったらリアクション芸ができなくなってしまうのだから。
そんな俺の感嘆を察して知らずか、相も変わらずヴェインさんはグイグイくる。
「そおかぁ、お前らか。ん?お前らもっと人数いなかったか?」
そう言いながら俺の肩をバシバシ叩いてくるほどに、このヴェインさん押しが強い。俺はミオと苦い顔を見合わせて「これはもう逃げられないな」と確認しあった。
「実は……」
▽
「……なるほど。お前らのパーティは落盤ではぐれちまったわけか。そうなりゃ、パーティ組むのは難しいか。んじゃあ、とりあえずその片割れに合流するまで一緒に進もうぜ。こんな訳の分からない状況じゃ、人数は多い方がいいだろう?」
「あはは……」
すみません、訳は分かってるんです。ウチの爆弾娘のせいなんです。重ね重ね申し訳ない。まぁ、言っても仕方のないことなので笑って誤魔化すことにする。なんとバツの悪い話か。
「つっても、こうなっちまったらどこに行けばいいのやらわからねぇけどな」
「あはは……」
重ね重ね(以下略)。パーティが分断ということも一大事なのだが、マップが急に切り替わるというのも中々に困ったものだ。普通MMOゲームなんかはプレイヤー間に不平等が生まれないようするため、1プレイヤーがフィールドに干渉できることはたかが知れている程度のことだった。しかし、このFoXではこの有り様。つまり、これは全くもって予想もしていない前例のないケースなのだ。名案もないし、打開策もない。前例もないので対処法すら持ち合わせてもいないのだから、どうしたもんかすら分からない。
それでも何か無いかとミオの魔法で照らされた空間を見回してみる。それでもって、ようやく気づいた。
「これ、……道ふさがってない?」
「まぁじぃー?……」
空間自体は狭いのではなく│狭まったという感じで、まぁまだ空間に余裕はあるのだが。あんなに広かった空間が、今はもはや前もなければ後ろもない。半信半疑で軽口叩くミオだったがどうやら本当だと分かってくれたようで、すぐに言葉を失ったようだ。
「転移……、はポータルないしできないか」
「変なところで不親切だなー」
そうミオが言ってからシーンと途方に暮れるしかない俺たちの耳に、カラカラと石の転がる音が入って、それから聞こえた、
「わあ、人がいる!」
の言葉に、「デジャヴかな?」という感想を禁じ得ないのだった。




