First Dungeon
早朝なのに日は真上。手持ちぶさたなのでアカネとデュアルで何度となく対戦をした。勝率は五分五分と言ったところか。内容としては俺が一撃も受けないでアカネのHPを削りきるか、一撃で玉砕されるかのどっちかだった。
そして、そうこうしてる間に時間も経ち、シアンやソニアたちも起きて俺はようやく自分の家に入れるようになった。アーラとレンは起きてすぐにギルドに行くと言ってさっさと出ていった。なんでも昨日の内にミコっちとやらと連絡をつけていたようで、パーティがどうのとかの話をするのに待ち合わせているそうな。
「しっかし友達ハブって違うところ行くってのも調子のエエ話やな」
いや、少しは空気読めよ。
アーラとレンが出ていってすぐ、ソニアがミオの前で遠慮ナシに放ったその一言に対しミオは、
「それはあーしがミコっちを誤爆させたせいさね。前にパーティ組んでたんだけどそん時に爆発に巻き込んじゃって。なーんかそれからあーしの魔法トラウマになっちゃったみたいでさ」
と、抑揚のない声でそう言った。それを聞いて俺たちは未だ見ぬミコっちへの同情を禁じえないのだった。
「そうなんか。そらぁ、……反省せなな」
「うぃ」
高火力ソーサラーもとい爆弾娘が仲間になった。
▽
さて、俺たちのパーティに爆弾娘が加わったところでやることはそれほどかわるものではない。今日も今日とてギルドで日照ダメージのない樹海エリアのクエストを受けて、樹海でそのクエストをこなす。
だからまずはクエストを受けにギルドへやってきたのだが、やたら人が多い。
「にっぎやかー」
「そういや昨日から騒がしかったような」
「問題発生……、とかそういう慌ただしさではないですね」
ごった返しで隙間もないとまではいかない、それでも何時もより人口密度高めなのは見てすぐに分かる。それでいて喧しさとかそういうのも酷いわけではなく、寧ろ楽しそうな声が多いくらいだ。
「なんちゅうか、バーゲンセールのオカン達みたいな空気やわ」
「ああ、なんか分かる」
言い得て妙なソニアの言葉に納得して、俺たちは特に人だかりの凄いクエストボードへと向かい、何か良さげなクエストがないかを確認する。
ちなみに、FoXではクエストを受ける際にクエストボードのすぐ目の前に立たなくても一定範囲まで近づけば貼り出されているクエストを確認し受注できるシステムになっている。リアルでもないのにわざわざ掲示板の真ん前に行く必要性がないのと、混雑解消が理由らしい。素晴らしきかなゲームシステム。
そんで俺たちも人だかりの後ろからクエストボードにアクセスしてクエスト表をざっと見てみる。すると一番上に目を引くように他のクエストとバナーの色が違うクエストが貼り出されていた。
「イベントクエスト……」
イベントクエスト。読んで字の如く“イベントのクエスト”である。これでは何の説明にもなっていないが、要はイベント中に発生するクエストでイベントクリアのためにはまずコレをクリアしなければならないのだ。
そして内容は樹海エリアにあるダンジョンクリア。これをクリアすれば日照ダメージ解消され、砂漠エリアのモンスターの強化も解除されるらしい。
つまり、これでようやくこのイベント《夜のない街》も進み出すわけだが、
「今さら感すごいわぁ」
「だな」
「ですね」
これまで散々イベントのクリア条件が謎だったのに、ここに来てのこのイベントクエスト。間が悪いというかなんというか。もうちょっと早く提示して欲しいものだ。なんの目的もなく樹海をうろついていた時間を返してほしくなる。
「けど、これは受けるしかありませんよね」
「ってことは初ダンジョン」
「ココロおどるー」
まあ、俺もなんだかんだ言ってこういうイベントらしい出来事にワクワクしているわけだが。今までの前フリが長かったせいでウズウズしているわけだが。
と、いった感じでささっとクエストの受注を済ませてギルドを後にし、街の広場にあるポータルでぱぱーっと樹海へワープする。
ちなみに、樹海へとワープする前にアカネがランタンを点けた時、ミオが「昼行灯」と呟きシアンがクスッと笑っていた。
そんなやり取りもあったりして、俺たちは樹海の安全圏のポータルに到着した。辺りには俺たち以外にもプレイヤーぞろぞろいて、更に街から次々とやって来るプレイヤーおかげで不気味な森という雰囲気は何処へやら。そこかしこダンジョンの話で盛り上がっていて、観光地とか行楽地みたいな風情だ。
で、そんな中でも灯りを持っているのは俺たちのパーティだけなんだなと、ふと気づく。寧ろ皆さん突然現れた光源に眩しそうにしてらっしゃる。ウチの昼行灯がすいません。彼女こんだけ賑やかでもちょっと怖いみたいなんです。精一杯強がってても警戒態勢なんです。
顔が若干引きつってるアカネをソニアと一緒によしよしと宥めてやっていると、シアンがダンジョンの場所の情報を集めてくれていた。
「この樹海を北に進むと洞窟があって、そこがダンジョンになっているそうです」
と、いうことで俺たちは安全圏を出て北の洞窟に向かう。隊列は先頭から俺、アカネ、ソニア、ミオ、シアンの順番だ。こういう場合は盾役が前と後ろにいたりするものだが、アカネが樹海をちょっと怖がっているせいでこの順番になっている。
「昨日は平気そうだったのに」
「多分、昨日アキがいなくなってからレンが怖い話したからやな。なんやオカルト好き言うてて、姐さんエエリアクションで怖がるからそれが余計火に油になってもーて」
「ああ、そーゆー」
アカネがちょっとビクついてるのには、俺が水車小屋にいなかった時にしていたらしい怪談話が背景にあるようだ。そういうのって苦手な人にとっては恐怖心を煽る以外のなにものでもない。ましてや、とりわけ怖がりなアカネなのだから克服した恐怖心がぶり返すのだって無理もない。
「だいたい怖い話を面白がる神経が分からないわ」
ちょっとご機嫌斜めにアカネが呟く。この様子から察するに昨日は相当イジられたのだろう。
とは言え、この前みたいに俺を折ってこないことを考えると以前よりかは大分マシなようだ。灯りを持った文明人は強いなぁ。
そんでもってズカズカと道なき道を北へと進んでいく。道中、結構他のパーティとすれ違うこともあってこのクエストがいかに盛り上がっているのかがよく分かる。そんな状態だからモンスターもあまり湧いてこなくて、早いもので件の洞窟とやらに到着した。この洞窟がダンジョンだ。
洞窟の前には、やはりというべきか多くのプレイヤーが集まっていて、続々と洞窟の中に入っていく。
「アタシたちも行くわよ」
「おーけー昼行灯」
「それ止めて」
アカネの号令に従って、俺たちパーティも洞窟内に足を踏み入れる。するとマップ名が目の前に表示される。この洞窟の名前は『月神の祠』と言うらしい。太陽神に月神。いよいよもって、それらしくなってきたというところか。
洞窟の中は結構広くて複数パーティが横並びになってもちょっと余裕がある程だ。
アカネのランタンに照らされた洞窟を奥へ奥へと進んでいくと、道が三つに分かれているところにさしかかった。周りでは他のパーティがどちらへ進むかの相談をしていたり、ソロの侍っぽい格好した人が迷いなくズカズカと奥へ進んでいったりしている。
「さて、俺たちはどうしよっか?」
「骨折り損はイヤやなぁ」
「そもそも当たり外れがあるのかすら怪しいですけどね」
「奥で繋がってるってこと?」
「かもしれません」
「そうだとしたら意味ナシ分かれ道」
とまあ、こんな具合に憶測で話し合いを進めてはみたものの。憶測は憶測の域を出ないということで最終的に究極的な手段を取ろうということで、
「この剣が倒れた方向に進むわよ」
「うぃー」
アカネの片手剣を倒した結果、俺たちは左のルートを行くことになった。なんとも軽いノリだが、ゲームなんだから仕方がない。
「しかし姐さんのランタンも役に立つんやなぁ。や、この場合は怖がりか?」
「そうですね。どちらにせよ、お陰さまで暗くなくていいです」
「サンキュー昼行灯」
「だからそれ止めて」
確かに、アカネのランタンのおかげで暗さに難儀することはなくて済んでいる。どころか、周りのプレイヤーからも「ありがたやありがたや」と拝まれている始末。アカネは顔を真っ赤にして恥ずかしそうにと唸っている。
可愛い。
ちなみに、ランタンがないパーティの場合は魔法で作った光の球で辺りを照らしたり、暗視スキルを使ったりしているらしい。そういった魔法のライトや暗視スキルはスキルポイントを使うものだが、アカネのランタンのようなアイテムはスキルポイントを使う必要がない。その代わりに装備枠を一つ潰してしまうが。どちらにせよ、メリットデメリットはあるということか。
照らされた洞窟内を進んで行くと、途端にシアンが俺たちを呼び止める。
「敵です。それもかなり近く」
「ん~?なんも見えへんで」
シアンの言葉にソニアが一本道をマジマジと眺めて言う。確かにソニアの言葉通り敵らしい影は見当たらない。しかし、俺たちのパーティの中で一番の索敵スキルを持つシアンが敵がいると言うのだから、間違いなくこの付近にモンスターがいるはずだ。
呑気してるソニアをそっちのけに、俺とアカネ、シアン、ミオは素早く武器を構える。
「どういうこと。透明系?」
「こんな序盤にそんなヤラシイ配置するか?しちゃうのか?」
「目の前……?反応弱くてちょっと分かりづらいです」
普段は余裕たっぷりに敵の方向を教えてくれるシアンの索敵をここまで躱すとは、どうやらそのモンスター相当のステルス能力を持っているらしい。
周りのプレイヤーも俺たちが気を張っているのを見て警戒の色を強める。しかし全員が全員そうというわけではない。「何やってんだ」みたいな目をして俺たちの横を通過するプレイヤーもいる。
そして、異変が起こったのはシアンが敵の位置に気づいたのと同時だった。
「上です!」
「うぉぉぉ!?」
シアンが叫ぶと同時に、先程俺たちの横を通ってったプレイヤーが天井から落ちてきた影に襲われる。8つの赤く光る目を持った虫のモンスターだ。襲われたプレイヤーはどうやら寸でのところで攻撃を躱したらしいが、急な出来事だったせいか慌てた様子を取り繕うこともなくこちらに引き返してくる。
「すごいお約束通りだね」
「芸人みたいだな」
「でも40点やな」
「コラコラコラ!!点数付けてないで助けてくれよ!」
困り顔、怒り顔。どちらかと言えば困っている感じだろうか、その人は助けを求めて駆け寄ってくるのだが、
「いやですねぇ。見ず知らずの赤の他人を助ける義理なんてドコにもないですよぅ」
「すげぇドライだね!!」
人当たりの良さそうな笑顔でシアンはバッサリ切り捨てる。実際にシアンの言っていることは残酷な様で正論だし。
残念ながら俺たちにはアナタを助ける理由が無いんです。それに、敵が姿を現したにも関わらずシアンが未だに警戒を解かないということは、
「まだいるんだな」
「ええ、結構多いです」
「うぇ、ほんまかいな……」
そして、天井に目線を上げれば8つの赤い目を持つ甲殻虫が、数は10匹を優に超えて確認できる。天井に張り付いたソイツらはシャーと鳴き声を上げて、それから何かに弾かれたように落下し静かな着地をきめた後に、長い脚をカサカサ動かしながら俺たちに向かって来る。
「蹴散らす?」
「他の人に被害が出るから止めときなさい」
「あと俺たちにも」
杖を構えるミオをたしなめて、アカネと俺は前に出る。言わずもがな盾になるためだ。後ろから「ちぇー」とか聞こえるけど気にしない。こんな洞窟内であんな爆発を起こしてみろ。確実に二次被害が起きる。それで何か問題になるのは御免だ。
俺が狂人化を唱えてソニアからバフを貰い駆け出すと同時にシアンが発砲。それを合図に周りにいるプレイヤーたちも蜘蛛型モンスターとの戦闘に突入する。
こりゃ思った以上に早くカタがつくな。
なんせここにいるプレイヤーの数は蜘蛛の数を優に越えているのだから。そしてこの予想通り戦闘は5分と持たなかった。
「つまんなーい」
ミオは魔法が撃てないでいたせいでずっとごねていたらしい。
大変王蟲が怒ってる




