剣閃
「あーしはアッキーたちのパーティーに入れてもらうから大丈夫」
眉ひとつ動かさない無表情のミオが抑揚も無く放ったその一言の中に、全く俺の預かり知らぬ言葉が入っていて思考が一瞬フリーズする。
よし落ち着け、落ち着こう。ミオは今「アッキーたちのパーティに入れてもらうから大丈夫」と言った。この場合のアッキーとはつまり俺のことで、要は俺たちのパーティに入るのだとミオは言っているのだ。
ん?
「確かにそれなら安心だわ」
アラりん!?
「なるほどー。それなら納得だ」
レンたん!?
なんか三人の中では答えが出てるみたいだけど、こっち四人ポカーンだよ。アカネもソニアも急なパーティ申請に固まってるし、あのシアンですら面食らってる始末だからね。
しかししかし、それでもミオは止まるとこ知らず。そんな間抜け面なんかお構い無しに無表情をこちらに向ける。
「と言うわけでよろしくお願いしたいのだけど……、ダメか?」
重ねてこんな断りにくい言葉を選んでくるなんて……。コイツ、できる……。とまあいつまでも思考がフリーズしたまま処理落ちしてるわけにはいかないし、いい加減本題に切り替えねば。
そう思っていたら真っ先に立ち直っていたシアンがミオに問いかける
「ダメじゃないです。けど、ミオさんはそれでいいんですか?」
シアンの言う「それでいいんですか?」とはつまり「仲の良い友達と離れていいんですか?」ということだろう。そりゃあ友達に迷惑をかけられないからパーティをやめると言っても、それはミオの一方的アーラとレンに対するな献身だ。言い換えればアーラとレンはミオとパーティを解消することによって別のパーティに入れることになる。それが後々引っ掛かりにならないとも限らない。お互いに『あの時のこと』としてしこりに思うかもしれない。
それに、仲の良い友達と離れてよく知らない連中と組むなんて、それ自体がかなり勇気のいることだ。シアンはそれを再確認している。もっともシアンのことだから俺の考えの及ばないところまで考えてるだろうが、大体そんな感じだろう。
そんな質問に対してミオは動じることもなく、というかやっぱり無表情で、
「いいのんさ。あーしはこう見えて図太い方だから」
と、言い切った。いやまあ、図太いのは知ってるけど。
それはそれとして。ミオがこれ程までにキッパリハッキリ言い切れるのならば、これ以上の心配は必要ないだろう。シアンも納得したようで「それなら問題ありません」と引き下がる。
アカネとソニアはもうミオによろしくって言ってるし、
「問題ナシってんなら、んじゃあ次は……」
俺はアカネたちとアーラたち、そしてミオと顔を見合わせて一息。
「歓迎会だな」
「おー!」
「送別会もー!」
ならと、アーラとレンが助けてくれたお礼も兼ねて何か飲み物を買ってくるとギルドの中にある店にスタスタ走っていった。
「なぁなぁ」
アーラとレンの背中を、見送ってからミオが俺たちに向き直って声をかける。
「アッキー」
「おう」
「アカネル」
「アカネル!?」
「シアシア」
「シアシア……」
「ソニャー」
「ソニャー……、ウチか」
それぞれ早速あだ名をもらったところで、ミオは頭を下げた。
「これからよろしく」
淡々と言われたその一言を、俺たちはすぐに理解した。
「ああ、よろしくな」
▽
「ぬぅ……」
そんでその次の日。目が覚めて体を起こすと周りの景色は緑色、見上げるとその隙間から青空が覗いていた。
昨日は歓迎会やってそれからギルドが慌ただしくなったから場所変えようつって、俺の家に来て。そんで暫く料理作ってからお開きになったのに「もう疲れたのでここで寝かせてもらいますね」って何故か家から俺が閉め出されて、ツリーハウスでごろ寝することになったんだっけか。
あれ?俺の家だよな?つーか宿で一緒の部屋で寝たことあったのになぁ。……いや、それに慣れたらダメだろ俺。
パシンと頬をひっぱたいて眠気と変な慣れを吹っ飛ばす。
「起きるかぁ」
久しぶりに硬い床で寝た気がするけど、自分でもビックリする程に寝起きの調子がいい。立ち上がってツリーハウスに立て掛けられたハシゴを降りる。
そして自分の家のドアとにらめっこ。
「我が家ってこんな入るのに気ィ使うもんだったかなぁ……」
なにせこの中にいるのは女子ばっか。というか女子だけ。もし俺が入ろうとして、万一に中で着替えとかしてたらそれはもう一発アウト。パーティ離反でソロぼっちになってしまうわけだ。
そんな事態を避けるために、さっきからノックをしているのだが返事が一向に返ってこない。まだ寝ているのだろうか。寝ているのならトークを寄越して起こしてしまうのも気が退ける。
仕方がないので軽く体を動かすことにする。
蒼鉄と紅鉄を手に持って、体を素早く回したりバク転を繰り返したり、アーツを撃ってみたり。それがひとしきり終わった辺りで後ろから拍手が聞こえた。
「よくこんな朝早くからそんなに動けるわね」
「アカネか」
眠そうな目のアカネが玄関前に座っていた。
「まだ4時なのによくやるわ」
「えっ!?……うわ、マジだ」
メニューを開いて時間を確認するとデジタルクロックは4:15を示していた。イベントのせいで太陽はずっと真上に位置しており、まだ早朝だということに全然気づかなかった。このイベントは長引いてしまうと本格的に時間の感覚がオカシくなってしまいそうだ。
そう思いながら剣を鞘に戻すと同時にアカネが大きな欠伸をするのが見えた。俺に早起きだだと言ったわりにはアカネだって早起きだ。眠そうだけど。ってことはまだ皆寝てるんだろうな。
「じゃあ今入ったら起こしちゃうか」
「優しいわね~」
「そうか?」
「アタシは家占拠されて、そこまで優しくできないわ」
「ハハハ……」
呆れたような目で見てくるアカネに、俺は渇いた笑いしかだせなかった。優しいっていうか実利もふくまれてるんだけどな。
「そういやアカネも早起きだな」
「寝相の悪いのに殴られて起こされたのよ。そしたらノックが聞こえてね。寝てるから怒るに怒れないわ」
アカネは後頭部をさすりながら眠そうに言う。なるほど、文字通り叩き起こされたわけだ。
それにしても寝ながら殴るって結構凄い話な気がする。一体どんな夢を見たらそうなるんだろうか。と、どうしようもないことを考えていたらアカネが両手剣を取り出しながらおもむろに立ち上がってこちらに顔を向ける。
「っさて、と。アタシも寝覚めに動きたいから、ちょっと相手してくれない?」
そう言いながらウィンドウを開くアカネの目は既に闘うことを楽しみにしている目で、俺が断ることを全く考えていない目だ。しかし、きっと俺もそんな目をしているんだろうな。
だってゲーマーだから。
強いプレイヤーと闘うってことは、これぞゲーマー冥利尽きるってものだ。それがどれ程強いのかをよく知っている相手なら尚更胸が踊る。
俺はアカネから送られてきたデュエルの申請をすぐに承諾する。そして水車小屋の前に戦闘範囲を示すサークルが現れ、俺とアカネはそのサークルの中で向かい合って互いに武器を構える。目の前には試合開始のタイミングを知らせる5カウントを表示するウィンドウが浮いている。
「考えてみれば、こういう風に向かい合うのは初めてだよな」
「不思議な感じよね。あ、お互い遠慮はナシよ」
「もちろん」
そしてウィンドウのカウントが1からFIGHTに変わり試合開始を告げるアラームが鳴る。俺はそのアラーム音と同時に狂人化を唱えてアカネに向かってに走りだす。
先手必勝。
アカネの武器は強力な一撃を繰り出せるが、動作が大振りになってしまう両手剣。対して俺は小回りが利き、手数で攻める小剣。相性を考えるとその大きさから懐に入り込んだ相手への取り回しが難しい両手剣に対して小剣は有効的な武器だ。しかし逆に言えば、「懐に入り込む」=「相手を殴れる距離まで近づかなければならい」ということに他ならず、駆け寄るまでに両手剣の長いリーチに潰されてしまう危険性も持ち合わせている。
一長一短。だが相性がどうにせよ、小剣を使っている以上俺は至近距離まで近づかねば攻撃が出来ないのだ。
結局な話、ウダウダ悩んで斬り込まれるよりも、こうして素早く動いて近づくのが得策なのだ。
そうして俺がアカネの攻撃範囲に踏み込んだ瞬間、アカネ容赦ない一閃が俺の脳天目掛けて降ってくる。
「おっとぉ!」
とても力強く、それでいて素早い一撃。だが、狂人化をかけた状態なら避けられないわけじゃない。つーか当たれば即死なんだけどね。
そんでもって俺はアカネの攻撃範囲の最奥、超至近距離まで近づいてようやく剣を振るう。連続の斬撃は確実にアカネの体力を削っていく。
「くぅ……」
攻撃を受けながらアカネ小さく息をもらす。予想通りこれだけ近づけばいくらアカネとて対処は相当難儀なようだ。俺はその事を確信してさらに剣撃の勢いを上げる。
仲間内の、しかも女の子とはいえ手加減は出来ない。何故ならここで手を抜いてしまうのはアカネに対して、ゲーマーに対して失礼になってしまうから。
そして、それ以上にアカネが卓越したプレイヤーだから。
この連撃の手を緩めてしまうということは、即ち俺の負けに繋がってしまうのだ。油断大敵。こうしている間にもアカネは何か対策を考えている。
ここは一気に決めるしかない。俺は連撃の中で体勢を整え、今持ちうる中で最大の攻撃を叩き込もうとアーツを唱え始める。
「[スティル]……」
「させる、もんですかぁ!!」
「うわぁ!?」
しかし、アカネはアーツの姿勢を取った俺の隙を突いて両手剣を横薙ぎに大きく振るう。首の高さで迫ってくる刃を、なんとか避ける事には成功したが、そのせいでアーツの発動キャンセルされてしまう。
しかも咄嗟の回避だったせいで体勢が悪い。目の前にはいつの間にか剣を正眼に振り下ろすアカネの姿。
「おっわりぃ♪」
最後にアカネが楽しそうに勝ち誇った顔が見えて、そっからは両手剣の刃しか見えなくなった。
剣振り回して笑う女の子。一応メインヒロインっす。




