押し掛け御免
「ほんっとーにゴメンなさい!」
モノブラムの街。ギルド建物内の一角の大きな机で、俺に向かって手を合わせて拝むようなかっこうで謝っているのは樹海で出会った斧使いの子だ。
樹海で盛大に死亡喰らった俺は街に戻るしかなく、そしてアカネたちもそれに伴いモノブラムに帰ってきたのだ。
樹海でバッタリ出くわした三人を連れて。ちょっと仲良くなってるのを見た時は、人が死に戻りする内にも色々起こるんだなぁと思ったもんだ。
「アナタたちも謝りなさい」
斧使いの子が両隣にいる女の子に俺への謝罪を促す。
「いやぁ、そのぉ、ゴメンねぇ。たはは」
「マジそーりー」
「レン、ミオ、真面目に!」
「「ゴメンなさい」」
軽い口調で謝る二人を斧使いの子が叱ると二人は声を揃えて謝罪し直す。三人頭を下げて。
なんだかお母さんと子供みたいなやり取りだな。
「いいよ。あんまり気にしてないし、俺も不注意だったし」
「でも……」
「いいのいいの」
ゲームやってるんだからゲームオーバーなんてよくあることだ。そんなこと一々気にしてたってしょうがない。それに俺としては、わざと曖昧に連絡寄越したシアンを問い詰めたい気分なのだ。何か考えがあったなら先に言って欲しい。
そう思ってシアンをジトッと見やればニコッと微笑まれた。全く堂々としたものだ。
シアンには何を言っても敵わないと悟り、俺は三人に向き直る。
「それで、ええと……。先に名前聞いていい?」
三人に聞きたいことがあるのだが、その前に俺はこの三人の名前も知らない。ので、まずは名前を尋ねることにする。
「もっちグッ」
すると俺から向かって右側に座っているいかにも魔法使いみたいな格好の子が無表情と抑揚のない声でサムズアップをくれる。けど、その無感情と抑揚のない声のせいで一瞬OKをもらったのかどうか分からなかった。
「俺はアキ」
「あーしはミオ」
「私はアーラ」
「私はレン」
抑揚のない魔法使いがミオ。お母さんみたいな斧使いがアーラ。ノリが軽い細剣使いがレン、か。軽い自己紹介も終わったところで早速本題を切り出す。
「俺としてはあの火力が気になるんだが」
樹海で見た人を簡単に吹っ飛ばせる程の威力を持つ魔法攻撃。あんなのをバカスカと連発できるようなマジックユーザーがこの中にいる。
誰か、何てのは聞かなくても分かるが。でも、俺にはそれが気になって仕方がない。
「ハイハーイ」
するとミオが抑揚のない声で手を挙げる。顔は相も変わらず無表情だが、その目は若干キラキラしてるように見える。
「それ、あたしの魔法さね。威力すげかったっしょ?」
「ああ、それはもうすげかったよ」
「でしょでしょ」
何てったって俺の体力の殆どを持っていったのはあの魔法なのだから。そんで木に頭打って削れた体力がゼロになったわけだ。ラストアタックが木というのは、運が無かったというかなんというか。
ミオの魔法の凄さを肯定すれば、無表情な顔でさらに目をキラキラさせる。
「ごめんねこの子火力バカなんだ」
「その威力のせいであんなことになったのに……」
「せめてね、もちょっと自重して欲しい」
ところが、喜ぶミオとは反対にアーラとレンは頭を痛そうに抱えて唸っている。
「強い魔法撃ってばっかでMP管理ちゃんとしないからガス欠になっちゃうし」
「ムダに範囲広い魔法撃って辺りの敵も引き付けちゃってピンチになっちゃうし」
「爆発で視界が悪くなるってパーティ組んでくれた人に怒られたことも一度や二度じゃ……」
言いながら何か思いだしたのかずーんと沈むアーラとレン。しかし、当のミオはケロリとしているところを見ると、ミオの魔法の起こすの弊害が全てこの二人に降りかかっているのだと分かる。
そしてその弊害に今のコレも含まれるってことだ。苦労してんだなぁ。
なんだろう。シンパシーを禁じえない。
「クセのある仲間って退屈しないけど大変だよなぁ」
「そうなんだよねー」
「分かってくれますか!?」
やっぱり、この二人には親いものを感じる。パーティメンバーで苦労するという共通点を。
アーラとレンと今までの苦労を噛み締めるように頷き合って、仲間意識みたいなのが出来上がる。俺たちの目には今までの苦労が写っていたのだ。
「アッキーはどんなクローしたの?」
「うぇっ!?」
苦労を噛み締めていたら急に距離を詰めたようなミオの呼び方と質問を聞いて気づいた自分の迂闊さにちょっとビックリする。思わぬ意気投合で我を忘れていたが、そういやこの場にはアカネもシアンもソニアもいるわけで……、
「どういう苦労なのか」
「それは私たちも」
「気になるところやな~」
「……ごめんなさい」
睨まれたり、笑顔で圧かけられたり、ニヤニヤと笑われたりの三重苦が襲いかかってくる。
「アタシたち別に謝ってほしいわけじゃないのよ。アタシたちで、アキがど~んな苦労したのかを、聞きたいだけなのよ」
「は、はい……」
アカネが目力を強めて詰め寄ってくる。そしてたまらず目を逸らしてアーラとレンとミオと目が合うと、まるで「ああ、そういうことね」と言っているような眼差しが返ってきた。皆さん察しがいいようで。
アーラたちにも苦労が伝わったみたいなのでいい加減にこの話題も穏便に終わらせたいところだが、尚もアカネの詰め寄りが圧を増してくる。それに便乗してソニアまでニヤニヤしながら詰め寄ってくる始末だ。これは何か言わないと終わってくれないヤツだろう。
「ほらほら、何か言いや~」
「はあ……。分かったよ」
楽しそうに笑うソニアの一言をきっかけに俺は腹括って話すことにした。
「じゃあ、まずアカネには背骨を折られかけた。それも一度だけじゃない」
「あっ、あれは謝ったじゃない。ていうかゲームなんだから背骨ないでしょ」
「次にソニアには初対面でもめ事に巻き込まれたし」
「あ、あれは謝ったやん」
「シアンには落とし穴にモンスターと一緒に落とされて潰されそうになった」
「あれはアキくんが勝手に落ちたんですよ~」
「といった具合だ」
慌てたり、そっぽ向いたり、笑いながら冷たい空気を纏ったり。正に三者三様の装いだ。こういう愚痴っぽいこと言ってしまったら、きっとこの後に手痛いしっぺ返しとかあるんだろうなー、とか思いながら。
もちろんこういう愚痴っぽい話だけでなく、むしろ一緒にいて楽しいことの方が多かったりするわけだが。言えって言われたんだから仕方ない。
「アッキーもクローしてんのな」
「どうも」
同情か憐れみか、どちらにせよ初めてミオの声に感情がついて聞こえた気がする。あくまで気がするだけで表情はお面のようにピクリとも動かないが。
「でもでも、アキ君だってこんな可愛い子たちに囲まれてるんだから差し引きしたらプラスなんじゃないの?」
「そ、そうですよ。あれです、爆発しろ的な?」
「ん、同意」
冷たい空気を感じ取ったらしいレンを始めに、アーラもミオもアカネたちのフォローしだす。が、
「まあ、確かに可愛いとは思うけど、俺としては女の子っていうよりゲーム仲間ってのがどうしても先にくるんだよなぁ」
そりゃまあ、アカネもシアンもソニアもちゃんと見るまでもなく可愛いとは思う。けれど一緒にゲームをしていて色々あった内にそういう女の子っていう見方が薄れてきているのだ。三人を異性として認識していないわけではなく、それ以上にゲーム仲間という感覚の割合の方が多いという話だ。
と、言ってから気づく。俺これフォロー台無しにする発言じゃね?と。
折角フォローくれたアーラたちを見やると二人(ミオを除いた)はポカンとした表情で俺を見ていて、それでアカネたちの方を見ると冷たい空気が消えていた。
そして何故か、しんと静かになった卓でアーラがポツリと、
「アキさんが苦労するのは自業自得かもしれませんね」
と呟いた。何故だ。
▽
あれから静まった空気を入れ換えるべくソニアが別の話題を切り出したのだが、
「ほんでそん時アキがな~」
「あったわねー、そんなこと」
「アキくんは本当に見てて飽きませんよね」
それは俺の話題だった。俺の失敗談とかちょっとおかしいと思ったとおろとかを、それも結構面白おかしく語られていく。それをソニアが一つ話せばアカネもシアンも二つ三つと乗せていくもんだから、恥ずかしいやらこそばゆいやらが止まらず、まるで針のむしろに寝そべって上からさらに針でチクチクされてるような気分だ。
「それはそれは」
「そーなんだー」
そしてソニアたちの話を聞いているアーラとレンの目がやたら優しいのも心を折りにくる。やめて。俺を転んで泣いてる子見るみたいな目で見ないで。
そんなこんなで30分位だろうか、俯き続けたその時だった。
「よし、決めた」
これまでだんまりだったミオが話を遮って声を上げる。そして、それがあんまりにも急だったもんで、全員がミオに視線を向ける。
「あーしパーティ抜ける」
イマナンテ?
無表情と抑揚の無い声のせいで言ってる内容が頭に入りにくいのだが、聞き間違いでなければミオは今パーティを抜けると言った。つまりそれはアーラやレンとのパーティを解消するということで、
「なっ、なんで急にそんなこと!?」
アーラとレンがガタッと立ち上がりミオに問う。しかし、当の本人はなんの変化も見せない顔でアーラとレンを見返す。
「あーし知ってるんだよ。アラりんとレンたんがあーし抜きでミコっちたちのパーティに誘われてるの」
「それは……」
……アラりん?レンたん?ミコっち?新しい単語の登場にちょっと頭が追いつかない。えーと、アラりんは多分アーラのこと。レンたんはまあレンのことで間違いないだろう。ミコっちは知らねえな。
「前々から考えてたんだ。あーしがいるとアラりんにもレンたんにも迷惑かけちゃうし、それならあーしが抜ければいいやって」
「そんな……」
真面目な空気だしてるトコ悪いが、これ「じゃあ魔法自重しろよ」とか「分かってんなら控えろよ」とかすげぇ言いてえ。けど、そんなこと言える感じじゃねえ。
ミオの話を聞いてアーラとレンは諦めきれないような、申し訳なさそうな顔をする。今までやってきた仲間なのだから、そりゃあいくら本人の希望とあっても簡単には切り離せないだろう。
しかしミオはそんなアーラとレンに向かってビシッとサムズアップを決める。
「それにあーしはアッキーたちのパーティに入れてもらうから大丈夫」
……はい?




