初めての
さて、昼日中の樹海の中。イベントをクリアして夜を取り戻すと決意した俺たちだが、早くもとある問題に直面していた。それは何かと言うと、
「で、イベントクリアって一体何をどないしたらええん?」
「そうだよなぁ……」
これである。具体的な達成目標が分からないのだ。
夜を取り戻すには太陽神を倒さなければならない。しかし、その太陽神がいる西エリアは普通では攻略不可能な難易度に引き上げられていて、それをどうにかするためにまず何かをしなければならないのだが、その何かが分からない。
「恐らくこの樹海で何かしらあると思うのですが……」
「確実にあるわよ。てか、無いと困る」
「それもそうですね」
そして俺たちはモノブラム周辺マップで唯一、日照ダメージを受けないこの樹海で、その“何かしら”を探し歩いている。あからさまな誘導に乗っかっているわけだ。
もしも、これでこの樹海に何もなかったらキレるね。と、そうは思っていても確証はどこにもないわけで。正直言って足取りは若干重めだ。
「あーもー!!」
そんな空気に耐えかねたのか、前を歩くアカネが突然不機嫌な声を上げる。
「只でさえ暗い森にいるのに、これ以上暗くなってどうすんのよ!?」
「いやランタンですげー明るいんだけど……」
空気が暗いのは認めるが、森の中はアカネの持っているランタンのおかげで結構明るい。寧ろ眩しい位だ。
そんな揚げ足取るようなことを言ったら、アカネが振り返ってランタンを持つ左手で俺を指差してきた。
眩しい。
「とにかくっ!!ノーモアネガティブよ。今はクリア目指して一直線よ」
「目標までの道のりも分かっていないのに一直線ですか?」
「……ブルドーザー持ってきて」
「物理!!一直線ってそういうこと!?」
唐突な工事発言をするアカネの様子に、クスクスと笑うシアン。これ、多分シアンは分かっててからかってるんだろう。
なんだか話がズレてしまっている気がする。
そんな流れをアカネはコホンと咳払い一つして切り替え、そしてまた大きな声を張り上げる。
「と・に・か・くっ!!やること決めたなら前向き一直線よ。腹括ってキビキビ動くのみ!!」
うわぁ。「腹括って」って……。うら若き女の子の発言とはとてもじゃないが思えない。でも、これはこれでアカネっぽいとも思えてしまう自分もいる。
納得できてしまうのだ。
リーダーシップとでも言うのだろうか。発言の一つ一つに裏表がなくて、だから周りはアカネの言葉を信頼して付いていける。アカネを信じることが出来る。その言葉一つ一つに勇気を貰える。
やっぱりアカネはスゴい奴だ。
アカネが声を張り上げることで、重苦しかった空気も何処へやら。今は前に進むための確固たる意思がここに満ち満ちている。
「やる気元気、えいえいおー!!」
「「おー」」
若干恥ずかしい気もするが、それでもアカネの鼓舞に合わせて手を突き上げたその時だった。
ドオオオン
けたたましい爆発音がして、それから数秒遅れで体に衝撃がぶつかる。周りの草や木がざわめき立って異常を報せる。
音の発信源は結構近くに感じた。
「な、なんや今の?」
「恐らく近くにいるプレイヤーでしょうね。しかし、これ程の爆発は……」
シアンは狼狽えるソニアの肩に手を置いて宥めながらコトの原因を推理する。俺もその推理に同意だ。
こういう爆発音は何度となく聞いた覚えがあるのだ。
そして、それは俺の中でとてつもなくイヤな予感に変わっていく。
「早く移動した方がいいかもな」
「どうして?」
「こういう場合ってさ……」
首を傾げるアカネに応えようとしたその瞬間、
「たたた助けて~!!」
「ヒィィィィ」
「へるぷぷりーず」
女の子が三人、助けを求めながら草木を縫って走ってくる。その後方にはおびただしい数の蜂の大群が。
その蜂型モンスターは、一匹一匹の図体がA4紙と同じ位の大きさではなかろうかという程のサイズを有するマッシブホーネットだ。集団のため羽音がスゴい。
そんな光景を見ながら、俺は心の中で「やっぱりな」と呟いた。
「そ、そこな森行くプレイヤー様。どうかお助け~」
腰に細剣を提げた女の子が、必死の様子で助けを求めてくるわけだが、
「なんだか余裕がありそうですし、放っときますか?」
「関わらない方が良さげやな」
「言い方イラッときたしね」
と、まあコチラの三人娘は見捨てる方向に前向きな会話をしつつもその場から一歩も動き出さずに、武器を構え出す辺り助けることは決定なのだろう。
「ちょっとふざけただけじゃないですかぁ!助けてくださ~い」
そんな俺たちの素振りを知ってか知らずか叫ぶ斧を提げた女の子を先頭に、その子たちは俺たちの返答も聞かずに俺たちを盾にして隠れる。
図々しいのか、それともよっぽどキビシかったのか。
女の子たちははそれぞれ回復アイテムを使って体力を回復する。その間に俺たちはマッシブホーネットとの戦闘に突入する。
相手の数が多いので弓では攻撃が追い付かないので、俺は腰に提げた紅鉄と蒼鉄を抜いてアカネと前衛をすることに。これだけ敵の数が多いと狂人化は使わない方がいいだろう。いくら早く動けようともこの数を相手にするとすぐに囲まれて蹂躙されるのがオチだ。
「よくもまあこれだけの数を集めたもんだ」
俺はぼやきながらアカネと共に群がるマッシブホーネットに突っ込む。すると360度どこ見ても蜂蜂蜂。苦手な人には地獄絵図みたいな光景だろう。
そんなドームのような蜂の群れの中、アカネと互いの背中を護りながら近づいてくるマッシブホーネットを切り落としていく。マッシブホーネットは単体で見れば大したことのないモンスターと言っていいだろう。ズッパズッパと倒すことが出来る。
しかし、いかんせんこの数を相手では雑魚戦とは言いがたい。
「二刀流って初めてだわ」
「アカネのそれは二刀流じゃないだろ」
「えー?武器が二つなんだから二刀流でしょ」
アカネは飛び交うマッシブホーネットを右手では剣で斬り、そして左手では灯りの点いたランタンで叩き落とす。背中合わせに轟く羽音を縫って時折聞こえる打撃音に、俺は若干の恐怖を感じながらもマッシブホーネットを斬っていく。
それにしても羽の音が煩い。
「キリがねぇな……」
少なく見積もっても五、六十匹……、いや、もっといるであろうマッシブホーネット。
せめて範囲攻撃でも使えればすぐにでも終わるんだろうが、あいにく様俺はそんな攻撃使えない。アカネも今は片手剣にランタンなわけだから、そこまで広い範囲を巻き込める攻撃は無い。さらにシアンの銃は単発で、ソニアの魔法はまだ初期も初期。対多数に対しての攻撃の乏しさを実感してしまう。
「ぐっ……」
後ろでアカネが声をもらす。慣れない武器を持ってこんな数に晒されるなんてハードな状況も大概だ。
それでも、俺たちは後衛にターゲットを寄越してはならないし、蜂の群れのど真ん中にいるため退くことも叶わない。
どちらかが全滅するまでやりきるしかない。
次第に俺とアカネの体力ゲージが減っていくのを端に見ながら、それでも気力を振り絞って蜂を叩き落としているとパーティトークでシアンが声をかけてきた。
『アカネさん、アキくん。できるだけ努力はするそうですけど、一応気をつけてください』
「……?気をつけるって何に?」
「……イヤな予感がするっ!」
「きゃっ!?」
アカネはシアンの言葉の意味が分からず考えようとする。けれど、俺は今までの経験でなんとなく予想が付いてしまい、咄嗟にアカネを庇う体勢になる。
ドオオオオオン
すると俺たちの頭上で光る大きな爆発が起きる。その爆発で俺たちを囲んでいたマッシブホーネットの半分は吹き飛んで、俺たちを囲んでいた黄色と黒の波が今は樹海の深い緑に変わっている。
タゲが移った!
そう気付いた時には既に遅く、生き残ったマッシブホーネットたちはシアンたちのいる方目掛けて勢いよく飛んでいく。
「……っ!」
走ったって間に合わないのは頭の何処かで気づいていた。それでも動かずにはいられない。俺は自分でもびっくりな勢いで、弾かれた様にシアンたちの所へ駆け出す。
間に合え!間に合え!間に合え!
最短距離を突っ切るために、俺は構わず迷わずマッシブホーネットたちの群れに突っ込む。
「間に合っ……」
ドオオオオオン
頭の中で強く念じていた言葉が口を突いて飛び出した時、俺の視界は爆ぜる光で一杯になった。直後、轟音と衝撃が襲いかかって、俺は後ろに吹っ飛ばされる。
「がっ!?」
木の密集する樹海で勢いよく吹っ飛べば高確率で木にぶつかるのは自明で、俺もその高確率に引っ掛かったらしい。後頭部をゴチンだ。ともすればゴッという鈍い音かもしれないが、それはどうでもいい。
一体全体目の前で何が起こったのか分からず仕舞いのまま、景色が色を失って灰色になっていく。体が重くなって指先一つも動かせない。
これもまた何なのか、しかしその意味するところはすぐに分かった。
《行動不能:拠点に戻りますか?》
HPが0になっのだ。
デス




