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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
夜を取り戻せ
31/40

ランタン

「ごめんなさい……」


 泣きじゃくるアカネを引き連れてモノブラムに帰ってきた俺たちは、今は俺の水車小屋で休息を取っている。しかし、アカネは床に直で正座だ。誰に言われるでもなく。

 先日、自分から「我慢できる」と言ってあの有り様だったことを、本人は相当気にしているようで帰ってからずっと下を向いている。

 俺たちとしては、樹海の入り口とか町中とかでわんわん泣いてる所を周りのプレイヤーたちに見られて注目を集めてしまったところを気にして欲しいのだが。

 それは兎も角として、あまり抱えこんでしまうのも良くはないだろう。苦手なモノは仕方がないと、ソニアと頷きあってアカネを励ますことにする。


「そりゃあ、人間誰しも怖いもんはあるもんだよな」

「せやせや。あんくらいカワイイもんやで。なぁ?」


 そして俺たちはアイコンタクトでシアンにも何か言うように求める。しかし、


「異常なまでの怖がり屋さんですね」

「「おいこら」」


 シアンは俺たちの想いを無視して、やんわりとアカネに針を刺した。

 ……いや、まあ事実ではあるけど。

 それでもここは励ます流れだっただろうに。何もそんなこと言う必要ないじゃないか。


「そんな気にする程……」

「姐さん今のはな……」


 慌てて俺たちはアカネにフォローを入れようとするが、


「……アタシ頑張る」


 そんなフォローこそ必要ないものだった。


「アタシ今度こそ、ちゃんと頑張る。頑張るから……、大丈夫!!」


 すくっと立ち上がり固く拳を握って宣言するアカネが、なんだか輝いて見える。ちゃんと自分から勇気を奮い立たせることが出来る人の姿って、なんだかカッコいい。

 まあ、拳ものスゴい震えてるんだけどね。

 覚悟を決めたとやる気十分のアカネだが、そうは問屋が降ろさない。


「大丈夫と言っても、暗い所が苦手ということは変わりませんよね?それってつまり大丈夫じゃないんじゃないですか?またアキくんを折ってしまいません?」

「うっ……」


 シアンの全くもってごもっともな発言に、ピシリとアカネが固まる。

 暗い所が苦手ということをどうにかしなくては、アカネは我慢しなければいけないということだ。

 そして我慢には限界がある。

 それはつまり、何時何時(いつなんどき)アカネの我慢が限界に達して俺が折られるかのチキンレースに変わることに他ならない。我慢が解かれたらそれまで受けたダメージの倍返し、というのはとあるゲームの技である。

 もしそうなると今度こそ俺の背中はポッキリ折れてしまう。それだけは勘弁願いたい。


「何かいい解決方法あらへんか……」


 むむむ、と唸って考えるパーティ一同。

 森の外はあれだけ明るい、というかダメージ喰らう位眩しいというのに、樹海は不気味な程暗い。それはもう、じめじめとした暗さがある。

 こうやって比較してみると、なんというか極端である。明るさも、暗さも。

 ここまで来てしまうと、明るい方も不気味に思えてしまうのだから不思議だ。もっと落ち着いた光はないものだろうか。例えば蝋燭(ろうそく)の火みたい、な……。


「あっ……」


 ぽつりと、不意に言葉をこぼしてしまい、視線が俺に集まる。


「なにか思いつきましたか?」

「多分一応。大したことないんだけどね」


 そう言って俺は、メニューを開いてグラフトさんに連絡を入れる。俺の思いついた案には生産の手が必要だ。


「もしもし、グラフトさん。作って欲しい物があるんだけどさ」

『急だな。で、なんだ?剣か、弓か?』


 急だなと言いながらも、グラフトさんは二つ返事でさらっと引き受けてくれる。だけど、俺が頼みたいのは、


「武器じゃないんだけどさ……」




 ▽


 グラフトさんに頼み事をした翌日、俺はアカネとヒースパレードに来ている。俺がグラフトさんに依頼した物は、俺が使う物ではなくアカネに使ってもらう物だからだ。

 それは何かというと、


「これが頼まれてたマジックランタンだ」


 ダンと、机の上に丸っこいシルエットのランタンが置かれる。

 暗いのがダメなら明るくしてしまえばいいじゃない、という発想の転換によって製作を依頼した物だ。


「可愛いわね、これ……」

「それはもう、ウッドやらラグランやらでしっかりリサーチしたからな」


 アカネはランタンを手に取ってクルクルと眺める。

 俺からして見れば普通のランタンだが、アカネやウッド、ラグランからして見れば可愛いランタンのようで。


「気に入った?」

「うん!」


 尋ねると良い笑顔で返事が返ってきた。

 可愛さは良く分からないけど、こんなに喜んで貰えたならまあ良しとしよう。


「ありがとうグラフトさん。これ幾ら?」

「材料が材料だからな、12000トルテだ」

「分かった」


 ウィンドウを出してグラフトさんにランタンの料金を払う。するとアカネが驚いたように声かけてきた。


「ちょっと。アタシが使う物なんだからアタシが払うわよ」


 と、腕を掴まれた。それに俺はびっくりだ。


「いや、俺が勝手にグラフトさんに作って、って頼んだんだから、俺が払うよ」

「でも使うのはアタシだし、アタシのためにしてくれたことでしょ?アタシが払う」

「でも、もう俺払ったし」

「ならお金渡すから」

「いいって。あげる」

「そんなの悪いわよ」

「悪くないよ」

「アタシが良くないの」

「俺も良くない」

「アタシ」

「俺」

「アタシ!」

「俺!」


 と、まあ売り言葉に買い言葉。みたいな感じで俺もアカネも譲らない。

 俺としては、俺が思いついてアカネの確認も取らずに勝手に先走って勝手に依頼した物だから、アカネが払う必要性は無いと思っている。

 だから、例えアカネのための買い物でも、俺が払った方がいいと思うのだ。


「流石にそれだと迷惑かけっぱなしじゃない。だから値段、払わせなさいよ」


 アカネだって俺の言い分も分かっているだろう。分かっている上で自分が払うと言っているのだ。

 樹海で泣いて引き返して、それでお金を出させるのは申し訳が立たないと、そういう事なのだろう。けど、


「そんなの気にしてないよ、俺もシアンもソニアも。そもそも無理強いしたのはこっちみたいなモンだろ」

「でも、アタシは大丈夫って言ったから!無理じゃないのよ」

「ぬー……」

「むー……」


 硬着状態。なんというか埒があかない。

 自分でも段々小さい子の言い争いの気分になってくる。

 しかし、ここには第三者がいる。子供の喧嘩になってしまうなら、誰か第三者に決めてもらうのもアリだろう。

 俺とアカネは頷き合って同時にグラフトさんに問いかける。


「「どっちが払った方がいいと思う?」」

「俺としては金さえきっちり払ってくれればそれでいい。つまりどーでもいいってこった」


 ……そんなアッサリと。

 なんというか、その言葉に興を削がれた俺たちは結局、折衷案で割り勘にすることにした。

 やっぱり、喧嘩しないのが一番だね。


「んじゃ、カップルの痴話喧嘩も終わったとこでそのランタンの説明だな」


 グラフトさんの茶化すようなその言葉の意味を、俺は一拍置いてようやく理解した。


「「カップルじゃない(わよ)!!」」

「おお、息ぴったり」


 理解して否定したら、ハモって余計恥ずかしいことになった。というか照れくさいと言うのだろうか。

 チラッとアカネの方を見ると、同じようにこちらを向いたアカネと目が合って、すぐに顔を逸らす。

 なんだこれ。スゲー恥ずかしい。

 顔が熱くなっていくのを感じながら、こんなとこまで再現しなくてもいいのにな、と開発にちょっと八つ当たりをする。

 そんでグラフトさんはからかいが成功したと薄く笑っている。ほぼ無表情みたいな笑い方なのに、それが余計に腹立つというか、敗北感というか。

 すっげえモヤモヤして、あまり働かない思考をようやく動かして絞り出した言葉は、


「……ランタンの説明、続けて」


 だった。その言葉をきっかけに、グラフトさんは今までのことが何でもないように説明を始める。


「そのランタンはMPを消費して光るもんでな、下のボタンを押してON/OFFを切り替える。消費MPは多いわけじゃねえから自然回復分で結構持つが、戦闘で魔法を使う場合はそこら辺の兼ね合いに注意しろ。それと光量の強弱は調節不可だ。だからあらかじめこっちで調節しといた。俺としてはその機能も付けたかったんだが、どうにも必要な素材が手元に無くてな……」


 それから、グラフトさんはランタンの説明そっちのけで、あの素材が高いだのあの素材が手に入らないだのの愚痴を始める。が、俺はそんな愚痴を聞き流して、頭の中で説明を纏める。

 つまり、あのランタンは電池要らずの電化製品、みたいなところか。そう考えると結構便利かもしれない。マジックユーザーにとってはちょっとばかし使い勝手は悪いかもしれないかもしれないが。

 そして、そんなランタンを抱えるアカネが一言、


「アタシ脳筋でよかったわ」


 と。ちょっとそれはコメントしづらいかな。

 確かにアカネが魔法を使うのは一度も見たことないけれど、アカネは決して脳筋というわけではないと思う。

 大剣という隙の大きな武器は、見た目に反してその隙の大きさから正確な判断力と精密な動作が求められるのだ。それを使いこなすことの出来るアカネはつまり、その両方を兼ね備えているということ。

 だから、ただの脳筋とは言い難い。でも、


「まっすぐ行ってぶった斬るのに邪魔にならないからいいわね」


 こんなことを言うから脳筋でないとも言い難い。


「ああ、でもこれじゃあ片手ふさがっちゃうかな」


 アカネはランタンをゆらゆら揺らしながら言う。

 直径がDVD位の丸っこいガラスの本体に鉄の笠を乗せたランタンは、体のどこかに固定するには大きいし複雑な形をしている。これで小さくてポット型とかなら腰まわりにでも付けられたかもしれないが。

 しかし、そんなことは折り込み済みと言わんばかりに、愚痴からグラフトさんが説明に帰ってくる。


「持ち運びは不便だが、その分ソイツは明るいし、なんならソイツが武器になるぞ。打撃武器、灯りを点ければ火属性。大きい分殴りやすい」

「ランプに怖い機能つけるなよ」

「これで殴って戦えるのね」

「アカネさん!?」


 さっきまでランタン可愛いって言ってたのに、グラフトさんの言葉を聞いた途端に仄い笑みを浮かべるアカネ。その笑い方に背筋が寒くなる。


「あ、これで目眩ましとかして殴るとか出来ちゃうんじゃない?」

「対人なら可能だな。面白い。今度そういうコンセプトで武器作ってみるか」


 この店主にしてこの客有りというか。

 危険な会話で盛り上がる2人の話をなるべく気にしない様にしながら、早く終わればいいのにと思うことに終始していた。

ランタン買うだけにここまで長くする予定じゃなかったのに

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