日照りと避暑地
間を置いたからと言って「パワーアップして帰ってきました」とかそういうの無い。
俺は今、Fall Edgeのメンバーでギルドに来ている。
このFoXに閉じ込められてから早いもので、そろそろ2ヵ月が経とうとしているこの頃。今日も今日とて俺たちはレベル上げに励もうと、クエストを選びにクエストボードを眺めている。のだが、
「なんか西側のクエスト多いよな」
「ここ最近どっと増えましたよね。サソリとかサボテンとか」
「そんで西側のモンスターが強くなってるのよね」
「なんか露骨やなぁ。内容もあんまし割のいいモンでもなし」
どういうわけかモノブラム西側の荒野や砂漠エリアのモンスターが強化され活発になっているのだ。
原因探るために、結構実力のあるプレイヤーが名乗りを上げ調査に行ったりもしているが、未だに原因は掴めない。その上、西側に行くクエストの報酬は、モンスターが強くなったからといってその分良くなった訳でもない。
効率廚でなくとも西側は避けるようになってしまったのだ。
そんな状況で西側に行こうなんて物好きは中々おらず。余計に原因を探るのは困難になってしまっている。
「あれかね。最近1日のほとんどが昼間だし、その影響かね?」
「それもなんか関係あるって話よね」
日照時間が伸びるのに比例して、西側のモンスターが強化されている。
実際に検証されたわけではないが、そう考えるプレイヤーも少なくはなく。掲示板では日が完全に沈まなくなるとなにかイベントが発生するのでは、などと噂されている。
「ま、分からないこと考えたってどうしようもないし。今日は北側のクエにするか」
「昨日は海でしたからね」
「東は姐さんが行けへんもんな」
「ぐぬぬ……」
おお、リアルで「ぐぬぬ」って初めて聞いた。いや、これリアルじゃないけど。
モノブラムの周囲は東西南北それぞれに、別々のエリアが割り振られている。東はアカネが苦手な暗い森エリア。西はさっき説明した荒野や砂漠。南は海のエリア。そして北はゴツゴツした山のエリアだ。
それで、東はさっきソニアが言った通りアカネが苦手としているので選択肢から除外。西も効率が悪い、というか敵の強さの割にあまりうま味がないのでこれも除外。
残りは南と北になる。
そして昨日は南に行ったから、今日は北の山行こうという話だ。
3人とも反応はそれぞれだけど、特に異論はないみたいだし北で決まりだな。
「んじゃ、いくつかクエスト受けるか」
この日俺たちは、北側に対象モンスターがいるクエストや採取アイテムがあるクエストをこなすことになった。
▽
「難しい問題だよなぁ」
「なにが?」
北側のクエストを完了した俺たちは、日もまだ高いうちに今日のフィールドワークを終えることとなった。
日は高いと言ってももう午後の7時なのだが。
そして俺たちは今、人の少ないギルドホールの一角を陣取って一休みしている。
「なんか南も北もモンスターの数も減ってるから面倒かったし、かといって西はもっと面倒だしで、なんか割に合わないじゃん」
「確かにモンスター少なかったわね」
これもまた日照時間影響か。西側以外のモンスター数が減っているのだ。
これでは益々骨折り損の草臥れ儲けになってしまう。
「となると、あとは東に望みを賭けることになりますね」
まだ俺たちは東エリアには行っていないので、かの地がどのような状態なのかはまだ分からない。ので、シアンの言う通り望みはまだある。が、
「そうなんやけど……、それはな~」
「なぁ」
俺とソニアはちらっとアカネを見る。
「な、何よ!?アタシだって我慢くらいできるわよっ!」
「つってもなぁ?」
「ねぇ」
アカネは強がってみせるが、森では明るい所以外アカネの動きが悪くなるのは明白だ。それに無理強いさせるのも良くないし、なにかあった時にさば折りされるのは俺なのだ。
これで気が進むはずもなく。
「今日は解散して明日考えるか」
「そうですね」
なんとかなるだろうさと軽い気持ちで先送りにしてしまうことにした。
その、次の日。
「日照ダメージ!?」
「ええ。西、南、北のマップは外にいるだけでダメージを喰らうと、掲示板に」
「東は?」
「森の中が日除けになって平気みたいです」
なんとあからさまな“東へ行け”メッセージ。まさか、ここまで徹底して進路を呈示してくるとは。
これでは東に行くしかないわけだが、
「姐さん大丈夫か?」
「ダ、ダイジョブヨッ!!」
声がうわずってるね。
アカネの様子はどこをどう見ても、とても大丈夫な風には思えない。
「無理して着いてこなくても、町でだって出来るクエストあるだろ、生産とか。それをやるとかはないのか?」
ここまで苦手なものに、こんなに無理してまで着いてきてもらうとなると、申しわけない気持ちで一杯になってしまう。
無理しなくてもいいんだぞ、と。別の方法もあるぞ、と。提案してみると、
「1人で置いてかれる方が怖いのよ~」
「泣くなよ……」
涙目でこう言われたら、もう連れていくしかない。
そして俺たちは4人で東の森へと向かうことにした。
▽
「おお、これはまた……」
「スゴい景色ですね」
「ジャングル……、やなくて樹海やったな」
モノブラム東側の森のその先。第二エリア『樹海』。森の木々より緑が深く、暗さも増していて不気味さは森よか3割り増し、と言ったところか。俺たちは今、その樹海の入り口に立っている。
ジャイアントロックを倒して以来、アカネの苦手なこの森には近づかなかったため、第二エリアの樹海は未到の地になっていたのだ。それを、どうせなら探索しようや、ということになって今ここにいる。
「でもやっぱ人が多いな」
「ダメージがありませんからね」
「賑やかな樹海って変な感じやな」
日照ダメージがない樹海は自然とプレイヤーたちが集まってきて、不気味な雰囲気がぶち壊しな感じがある。それでも、
「やっぱダメ?」
「ダメ!!」
アカネは例の如く、俺の後ろに引っ付いて離れない。毎度毎度のことで段々慣れつつあるが、この前胸に刻んだ言葉は“慣れって怖い”なのだ。これが当たり前になってしまってはいけない気がする。この2ヵ月で培われた俺の勘がそう言っている。
それはそれとて別の問題も。なんだか周囲から生温かい視線を感じる。
なんというか、こう。周りにいるプレイヤー皆が、優しい目をしている気がする。「頑張れよ!」みたいな。
皆さん察しがいいですね。
「そういえば気になってたんやけどさ。姐さん、なんでアキの後ろに隠れるん?ウチとかシアンでなく」
確かに。それは気になってた。
こんなに引っ付くなら同性の方がいいだろうに、どういうわけかアカネは毎回俺の後ろに引っ付くのだ。どういうわけか。
すると俺の後ろでアカネはあっけらかんとして言った。
「だってアキが一番何しても大丈夫そうだから」
……なるほど、そして俺は犠牲になるんですね。
ベアハッグするにしても、盾にするにしても、(色んな意味で)一番大丈夫そうなのが俺ってわけだ。
これはある意味信用されてるってことなのかな。わーい、全然嬉しくない。
「そろそろ行きますか」
「チャキチャキ行こうや」
「ゆっくりね!」
そして歩き出すパーティ一同。こりゃあ絶対に何か起きるな。
▽
樹海の中は思った通り、というか見たまんま木、木、木。そこら辺は森と大差ないのだが、樹海の場合その木のうちにトレントが擬態して紛れているという厄介なことになっていて、
「うわぁ!!どっから沸いた!?」
「ちょっ、なによ!?」
「うわーーーー!!」
「ダンケッシェン!!」
なんて悲鳴があちこちから聞こえて、もう樹海っていうよりお化け屋敷みたいになってしまっている。
……誰かお礼言ってなかったか?
とまあ、こんな具合で樹海は阿鼻叫喚の混沌となってしまっている。
そして、そんな悲鳴たちが余計にアカネの恐怖心を煽るようで、
「もぉやだぁ!!おうち帰る!!」
「落ち着けアカネ。落ち着いて俺を折るのを止めよう」
真っ赤になって泣きじゃくるアカネと、真っ青になって背中が折れかけている俺。こっちもこっちで混沌になってしまっている。
ヤバいな。ゲームだけど魂出そう。
前にも喰らったことあるけど、その時よりレベルが上がりステータスも向上したアカネのベアハッグの威力がエグいことになってて。
どうしてだ。スキル補正もないはずなのに……、この威力……。
「ムリィイイ!!」
「ごほぉ……」
「姐さんアカン、アキが折れてまう!!」
ソニアが間に割って入って助けようとしてくれる。それ自体はありがたいのだが、いかんせんアカネの力が強すぎるせいで全くもって歯が立っていない。
もう背中っつうか全身痛い。
「みなさん。ブラストベアがこっちに来てますよ」
これまで静観を決め込んでいたと思っていたシアンだったが、実際には周囲の警戒をしてくれていたらしく、いち早く接近してくるモンスターに気づいて報せてくれる。
しかし、
「今はそれどころじゃ……」
俺は弓を構えてブラストベアに一矢放つ。ダメージは入るがそれでもブラストベアの勢いは止まらず、寧ろヘイトを俺に引き付けたせいで勢いよくこちらに向かってくる。
「ないのよぉ!!」
が、そんなブラストベアはアカネの振り上げる一閃で吹っ飛ばされる。
「ひゃー……、熊さんも運がなかったな」
「この状態でも息ぴったりなんですね」
シアンとソニアは熊の消えた方を見て感嘆の声をもらす。
「ムリムリムリ、もう帰る!!」
「分かったから……、分かったから放して……」
さっきブラストベアに斬撃をいれる一瞬に締め付けが緩んだのだが、既にこれこの通り、元通り。
結局この日は俺の腰が折れる前に、アカネのギブアップによってモノブラムへと引き返すことになった。




