この夢幻の片隅で
エピローグです
『最後に、デュエルしてもらえませんか?』
ああ、これは夢か。あの日のことを夢に見るのは何度目だろう。
『いいよ。全力だね』
そう言ってレイナさんはウィンドウ開いて、俺のデュエル申請を受諾する。すると俺とレイナさんを中心にサークルが広がって、カウントダウンが始まる。
そして俺たちは2振りの短剣を鞘から引き抜き、構える。
カウントがゼロになって試合が始まると、そこで途端に景色が変わった。
「おお……」
目が覚めた。
あれだけハッキリ夢だと分かる夢を見るのは初日以来だ。
それにしても、あんな夢を見るとは。レイナさんはこのゲームにはいないというに。
寝ぼけ眼を擦りながら屋根の傾斜に注意して立ち上がろうとついた手足がイヤにふかふかに沈んで、そういや家を買ったんだったと思い出した。
この数週間ですっかり屋根で寝ることが当たり前になってしまっていたのだ。
……慣れって怖い。
「……変な感じだ」
新しい暮らしを始めたからか、それともあの夢を見たからか。どちらにせよ心が落ち着かない。
ゲームの中だと、寝起きでも身支度をする必要がないので適当にウィンドウを開く。
すると、もう昼の時刻になっていることに気づいて、慌ててベッドを飛び出した。
「うわぁ、やべぇ。絶対にネチネチ言われる」
そうだ。今日も今日とてFall Edgeのメンツでクエストをやる予定なのだ。
シアンやソニアに絶対嫌味を言われるし、みんなに迷惑をかけることになる。
……いや、もう間に合ってないが。
それでもダッシュで玄関まで行き、扉を勢いよく開ける。
「お、やっとお目覚めやな」
するとソニアの声が聞こえて、声のする方を見ると玄関出てすぐの庭のテーブルに3人がいた。
「珍しく寝坊ですね」
「今までが屋根だったから、その反動じゃない?」
「概ね予想通りですね」
予想されてた。
つうか俺、寝具が変わるだけでぐっすりって、すごい単純だな。
なんかハズイ。いや、そうじゃなくて、
「その通りです。寝坊しました、ごめんなさい!!」
ガバッっと頭を思いっきり、叩きつける勢いで下げる。
そしたら、
「「アハハハハハ」」
……笑われた。
「あのー……、一応真剣に謝ってるんですけど……」
「いやいや、分かってるわよ。……ふふっ」
「せやせや、くっ……」
分かってない。君たちまったくもって分かってない。
アカネとソニアは、何がそんなに可笑しいのか分からないけど、すっげえ笑う。
それで笑い声の聞こえないシアンはというと、
「……っ!!」
そっぽ向いて肩を揺らして笑いを堪えている。
……いや、堪えきれてないけど。
一体何が可笑しいのやら分からない。けど、笑う3人につられて、なんだか俺も笑えてしまう。
「なんだろう……。可笑しいな」
「でしょ?」
目尻の涙を拭って、アカネはそれでもまだ少し笑っている。
「ウチなんて寝坊どころじゃすまん迷惑かけとんのに、こんな謝られたらそら笑てまうわ」
「これだからアキくんは面白いんです。いつも空回る人だから」
「シアン。その言葉は余計だぞ」
そういやそうだったの論を唱えるソニアと、クスクスいつも通りに笑うシアン。
どちらも言葉の端にチョッピリ棘を感じるのは、これもまたいつものことだ。もう痛くもなんともない。
……やっぱ慣れって怖いね。
そうこうあって、集合した俺たちはクエストを受けるために町へと歩き出す。
「寝坊くらい気にしなくていいのに」
「いや気にするだろうさ、普通」
「真面目ですねぇ」
「気にしすぎはよくないで」
なんでもないようなことを話しながら。空を見上げたりしながら。
「つうかテーブルなんてあったっけ?」
「ああ、あれな。兄貴がくれたんや。“新築祝い”やて」
「それ俺に渡すもんじゃない?別にいいけど」
「いいんだ」
「アキくんはもっと自分の扱いに疑問を持った方がいいと思いますよ」
とりとめのないことを話しながら。充実しながら。
それでも、最近ふと思うことがある。
この世界は紛れもなくゲームで、ともすれば偽物かもしれないと。
これだけ長い間ゲームに居続けるのは初めてで、やはり現実との生活の違いに生じる違和感も飲み込まなくてはいけないわけで。
虚無感、とまでは言わないがやはりそういうモノを感じずにはいられないのだ。
偽物の中で希望を掴むと決めたのに、たまにどうしようもなく不安になってしまう。
けど、
「ねえアキ」
「ん?」
いつの間にか前を歩いていたアカネが、振り返って声をかけてくる。
「今日はどうする?」
この質問に、この仲間たちにしっかり応えられるようになりたい。
今はそれ以外に考えていられないと、迷うのはやめた。
この夢幻の片隅で、俺は確かに足掻いている。
前々回に“ちょっと間を開ける”と書きましたが、多分一ヶ月くらいになります。
ストックも溜めず、なんとなくで4日に1回更新にして苦を見るのはもう嫌なので。




