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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
22/40

海岸と予兆

「ぃやっと、海やー!!」


 砂浜にたどり着いて、ソニアが伸びと共に大きな声を上げる。

 やっぱりツクリモノでも広い海というのは心を開放的にさせるのだろう。気持ちはイタい程分かる。

 けど、


「うるさいです」

「うるさい」


 ピシャリとシアンとグラフトさんがソニアの頭を(はた)く。

 ああ、やっぱり。

 結構な声量だったからな。現実だったら両隣にいる2人は耳がキーンって、なるんだろうなって位の声だったからな。

 結構な強さで叩かれても。それは、いたしかたなし。なーむー。


「いったいやろがぁ!!」


 お、復活した。

 ソニアは相変わらず元気だなぁ。と、横のトリオコントを他人のフリをして眺める。

 ここはボス戦に勝利したプレイヤーたちが、新たに解放されたフィールドへの入り口として送られる地点。

 それなりに人もいるわけで。


「姐さん、アキー、2人がイジメテくるよー」

「ナンノコト?ボクシラナイ」

「アタシモシラナイ」

「裏切りやー!!」


 関わり合いになるだけ白い目で見られるのだ。只でさえ、神経使った後だというのに、それは御免こうむる所存だ。

 ピシャリ、ソニアを払いのける。

 つーか裏切りって。そもそも味方になった覚えはないんだけどな。

 ぴぃぴぃと鳴くソニアは放っておくとして、俺は先のフィッシュマンとの決着を思い出す。




 ▽


「ギョッ!!」

「ギョギョッ!!」

「ギョギョギョッ!!」


 3体のフィッシュマンが、戦う前と同じような戦隊ヒーローのようなポーズを決める。

 何が来るか。何が起きるのか。緊張の一時というヤツだ。

 俺は気を張って、何が起きようが素早く動けるように身構える。

 すると突然、爆発音と共にフィッシュマンの背後から赤、青、緑の煙が勢いよく爆発した。


「え、ええーっ!?」


 どういうこと?と頭が回らなくなってしまい、その一瞬、呆然としているうちに爆風が体にぶち当たる。

 そして、俺は地面に踏ん張っていられなくなって、思いっきり後ろに吹っ飛んだ。


「おがっ!?なぶっ!?ふごぉっ!?」


 情けない声が3回。不様に地面に叩きつけられると同時にもれ、そして体は静止する。

 と、言っても体力がゼロになって動けなくなったとかではなく、単に吹っ飛ばされたのが止まっただけで、俺は至って無事である。


「最後の最後に、なんだこれ……」


 納得がいかねぇ。

 頭をかきながら起き上がり、煙のもうもうと立つ場所を向く。

 が、そこには既にフィッシュマンたちの姿はなかった。


「アイツらは?」


 と、傍らに駆け寄ってきてくれたアカネに聞く。すると、アカネは無言で側を流れる川を指差す。

 そして、その先にはプカプカと川の流れに流されていくフィッシュマンたちが。


「アキが吹っ飛ばされたのと一緒に吹っ飛んで、それで川に」

「……」

「ギャグみたいな落ち方だったわ」


 なんだろうこれ。勝利の快感とか嬉しさとか。そういうのが全然感じられない。

 なんとも微妙な気持ちを抱えたまま、俺たちのフィールドボス戦は幕を閉じたのだった。




 ▽


「ホント。何だったんだか」


 今思い出しても、やっぱり納得がいかない。

 百歩譲って、あの爆発は「今後もこういうことがあるぞ」という警告、というならば、それは分かる。

 だけれども、川に流れてゆくフィッシュマンを見ていると、どうしようもないモヤモヤが胸の内に渦巻くわけだ。

 そもそもの話をするなら、フィッシュマンがボスだという事も、未だに俺は納得できてないわけだが。


「気にしてもしょうないよ」

「そうだけどさぁ……」

「それより新しいフィールドを楽しみましょう」


 オリヒメとアカネに慰められて、少し安らいだ気持ちで海を見る。

 ……そうだよな。引きずってても仕方ないよな。新しいフィールドだもんな。


「楽しまなきゃ損だよな!!」

「その調子その調子」

「元気でたわね」


 アカネとオリヒメのおかげで元気出てきた。

 そうだ。

 こんなどうしようもない現状だけど。

 それでも目一杯楽しもうと。

 現実じゃなくても、こんなに人との繋がりを確信できるなら。もう、それでいいやと割り切れる。


 そう思えるようになったのは、きっと……、


「……なに?」

「え!?いや……」

「なんか変ね」


 俺が横顔を見つめていたのに気づいたアカネに声をかけられて、何でか焦って否定してしまった。

 なんで焦ってしまったんだろう。

 頭をぐるぐる悩ませていると、オリヒメが隣でニヤニヤしているのに気づく。


「オリヒメ、なに?」

「ふふふ。べっつに~」


 なんだかイラッっとする笑い方だ。

 けれどオリヒメはニヤケるのを止めない。さらには、何でか知らないが肘で小突いてくる始末。


「何さ?」

「べっつにぃ~」


 本当に腹が立ってきた。オリヒメのくせに。ちみっこのくせに。

 チョップでもしてやろうか。

 そう思っていたら、急に大きな声で呼ばれる。


「姐さん、アキ、オリヒメさん。遊ぼうや~」


 いつの間にか波打ち際まで行っていたソニアが、手を振りながら呼んでいる。

 傍らではシアンが海老系のモンスターをバスバス撃ち抜いていて、グラフトさんは近くの岩場で採掘用のツルハシをガスガス振るっている。


「自由だなぁ」


 さっきのさっきまでコントしていたヤツらが、もうそれぞれ自由だ。

 変に悩んでるだけ、バカみたいじゃないか。


「私も遊ぶー」

「アタシもっ!!」


 さっさと駆け出していくオリヒメとアカネの背中を見て、出遅れたなと一息吐いて。それから俺も走り出す。

 ゲームに閉じ込められていようが、どうしようもなかろうが、頼れる仲間が確かにここにいる。

 俺たちの冒険はこれからだ!!




「あ、これフラグだ」




 ▽


 それから、空が赤くなるまで目一杯遊んだ。

 それぞれ水遊びしたり、エビカニ捕ったり、釣りしたり、採掘したり。

 フラグなんて何処へやら。俺たちはなんの問題も無しに海を満喫した。


「そろそろ帰るか」

「そうね。もう8時……。8時!?」

「……え!?」


 アカネがウィンドウを開いてゲーム内時間を確認すると、それはもう遅い時間になっていた。

 いや。ただ遅いだけなら俺たちもこんなに驚かなかっただろう。

 時刻は午後8時。空は()()()()()()()空だ。


「8時にしては明るいな……」

「ほんまや。なんでやろ?」

「知らなかったのか。最近日照時間が長くなってるって結構話題だぞ」

「私は知ってましたよ」


 えー。うわー。全然気づかなかった。

 でも、ということは、


「何かのイベントかな?」

「じゃないと考えにくいですね」


 うわー。知らない間にフラグ回収してた。

 新しい冒険の始まりじゃないか。

 でも昼が長くなるイベントか。どういうのだろう。ワクワクするな。


「なにニヤついとん」

「いや楽しみだなぁと」

「ゲーマーですねぇ」


 その通り。

 楽しめる事は全力で楽しむと決めたゲーマーは、こんな事じゃ動じない。


「アタシも楽しみよ」

「姐さんも」

「俺も楽しみだな。イベ素材とかワクワクする」

「あ、それ私も」

「兄貴、オリヒメさんまで」

「ゲーマーですね。ま、私もですが」

「えー、ウチだけ仲間外れやん。じゃーウチも楽しみや」

「ズブズブの素人が」

「そこをどうにか!!」


 グラフトさんにすがりつくソニア。

 仲いいな、この兄妹。平気でローキックとかしあえる仲なんだ。

 一通りのコントを終え落ち着いた所で、完全に暗くなる前に俺たちは掲示板に載っていた情報からポータルを探しだし、モノブラムに帰った。




 ▽


「どうしてこうなるのよ~……」

「ごめんなさい」

「スゴい引きですよね。もう3回目ですよ」

「ブラッシュクエスト、やったっけ?」


 またまた。俺が街でばったりイベントに遭遇してしまったせいで、またまたブラッシュクエストが発生してしまった。

 しかも、また森。


「でも今回は楽そうやん。リンゴとブドウを採るだけやろ、時間制限も無いし」


 楽そう、か。確かに条件だけ見ればそう思うかもしれない。だが、


「ふぅ……。甘いなソニア」

「甘々ですね」

「な、何が?」

「お前はブラッシュクエストというものを分かっていない」


 ブラッシュクエストをそんな楽観的に考えてはいけない。条件なんてのは、このクエストにとっては些末なことなのだ。

 そう。何が起こるか分からないのがブラッシュクエスト。

 進めていく度に条件がコロコロ変わるなんて当たり前。前回だって赤ずきんを探してたら狼退治になったのだし、今回もそのような想定をしてしかるべきだ。

 さらに言ってしまえば、クエスト難度も赤ずきんの時より高いし。


「まず前よりぬるいってのはナシだな」

「えー……。ごっつメンドイ予感」

「だろ」


 だが、ブラッシュクエストとはそんなもの。

 それはもう、面倒なものなのだ。


「しかも、なんでよりによってココなのよ」

「だから街に残っててもいいって言ったのに」

「それはイヤよ!!」


 背中にビッタリ張りついて離れないアカネが、苦手な森に文句を言う。

 それでも着いてくるのは、ひとえに意地というやつか。

 強がりというか不器用というか。


「それで、まずはリンゴでしたよね?」

「ああ、リンゴの方が近いんだとさ。まあ、入り口のすぐそこって訳じゃないけど」


 NPCがリンゴとブドウの採れる場所を教えてくれたから、どういう道筋で行けばいいのかもバッチリだ。


「けどなぁ」

「なにか?」

「いやさ、モンスターが多くなって森に入るのが危ないから採ってきてくれ、って話だったからさ。やっぱし戦闘はあるんだろうなって」

「そうですね」

「アカネはこれだし」

「な、何よ。ちゃんと、戦えるわよ……」


 強がって見せても尻すぼみになっていくと、あまり頼もしく聞こえないものだ。

 まあ、アカネが盾出来ないなら俺がすればいいだけだし、大丈夫だろう。

 ……本当は弓使いたいんだがな。


「ほ、本当に戦えるんだから!!」


 暗い森にアカネの精一杯の強がりがこだました。

 それで返ってきた自分の声にアカネはビックリした。

 ……大丈夫か?

何の前触れもなく場面転換するけど、大丈夫だろうか

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