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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
18/40

新装

『できたぞ。受け取りにこい』


 と、朝一番。屋根から降りる前にグラフトさんから連絡が来た。


 ので、俺たちはヒースパレードに来ている。


「注文の短剣、弓、タクト、長銃、そんで両手剣だ。なにかあっても文句は受け付けねぇから」

「客に対する態度ちゃうやろ」

「俺が丁寧になったら気持ち悪ィだろうが」


 ……否めない。

 そんなやり取りは置いといて。俺たちはそれぞれ、台に置かれた武器を手に取る。

 アカネは剣の重量を噛み締めるように、ゆっくりと剣を振り下ろす。シアンは銃を構えてバランスを見ている。ソニアはタクトを即買いしてすぐにインベントリにしまう。

 十人十色。

 俺は弓の弦を引いて、弾く。シンプルで飾りっけのない木製の弓が、ビンッと音を鳴らして跳ねるのを肩と腕の力で押さえ込む。

 さすがグラフトさん。細かく指定しなくても、どいうわけか調整を上手く合わせてくれる天才だ。


「え?ウチが変なん?皆何しとん?」

「武器の重さとか重心とか確認してんだよ。アイツらのはお前のタクトと違って結構デリケートだからな」

「ひゃー、大変やな。シアンに至っては殺し屋みたいや」


 ソニアは信じられない、と言うように声を上げる。

 けれど、大きい武器や射撃武器にとって重量と重心はとても重要なことなのだ。体に馴染むかどうか、違和感はないかどうかで挙動が遅れれば、それで命取りになることはよくあることだからだ。確認しておいて損はない。

 それにしてもシアンが殺し屋か。言いえて妙だ。

 確かに銃を構えて構えたり、バレルを撫でたりしている姿は殺し屋に見えなくもない。


「スナイパーですよ?」


 しかし、ソニアのその一言が気に入らなかったのか、シアンはソニアに冷たい笑顔と銃口を向ける。

 スナイパーはそんなゼロ距離射撃しませんよー……。

 そう思ったけど、我が身が可愛いので言わないでおく。ソニアは犠牲になったんだ。


「スゴい……。しっくりくるわ」


 白と赤を基調とした両手剣を掲げながら、アカネがポツリともらす。

 アカネさん。両手剣は片手で持つものとちゃう。


「本当に、すぐに馴染みますね」


 シアンもアカネの一言に、同意してまた長銃のバレルを一つ撫でる。

 だから、それが怖いんだよね。

 とは思いつつも、俺も馴染む感覚が面白くて、何度も弦を引いては弾いているんだけどね。

 2本の短剣も面白いように手に馴染む。屑鉄を強化したモノは、刀身が青くなっていて銘も《蒼鉄》に変わっていた。そしてもう1つの短剣は蒼鉄と似たようなシルエットで刀身は赤。銘は《紅鉄》。

 その2つを持って、押し出したり、引いたり。薙ぎ払ったり、振り下ろしたり。全身を使って短剣の使い勝手を試す。

 短剣に関しては、FoW(前作)で何度となく依頼していたので心配はしていなかったが、予想以上の出来にゲーマー魂が歓喜に舞い上がる。


「いいな……」

「何言ってんだ。それはお前らのだろ」

「そうだった。これお幾ら?」


 ちょっと呆けていたな。やっぱり新しい武器はテンション上がる。

 でも、まだ買っていないので俺たちの物ではない。幾らになるのか、グラフトさんに尋ねる。


「1つ2000トルテだ」

「ええ!?安っ。もっとふっかけられると思ってたのに」

「アタシも」

「私もです」

「ウチも」

「……お前ら」


 でも、だってそうなのだ。

 この武器たちは、初期で手に入れるにしては上質も上質、最上質だ。それが四桁は何がなんでも安すぎる。何かしらウラがあるとしか思えない。


「ハッ……!!まさか、また素材狩りに駆り出される?」

「こんな早いスパンで?」

「なるほど、それなら」

「本当にふっかけてやろうか」

『ごめんなさい』


 グラフトさんの話では、なんでも、あの時店で使う分の素材も大量に採っていたので、スキル上げも店売りの品揃えも良くなって万々歳なのだそうで、そのお礼も込みの価格設定らしい。

 つまり、これは待った甲斐があったというものだ。


「あと、次に素材狩りを手伝ってもらうときに交渉しやすくなるだろ?」

「あ、はい」


 何がお礼だよ。それは打算だよ。

 その一言で全員苦笑い。というか苦い顔。


「ふっかけられる方がいいか?」

「いやー、いい買い物だなぁ」

「素直なことはいいことだ」


 俺たちはササッとウィンドウで支払いをして、武器を購入する。

 多少のしてやられた感はあるけど、これで武器問題は解決だ。


「それとオマケがあるんだが」


 さあ、早速フィールドに出て試し切りだ、と武器を装備した俺たちに、グラフトさんの声がかかる。

 グラフトさんはインベントリから、鈍い銀色の籠手を取り出して台の上に乗せる。少しゴテゴテしてるな、位のなんでもない籠手だ。


「これは?」

「仕込み籠手」

「コワッ!!」


 暗器の類が今ここに。

 グラフトは仕込み籠手のことをなんでもないように扱って、次に一振りの直剣を取り出した。見た目は普通で、特徴らしいものは見当たらない。


「これは?」

「毒付与がついてる直剣だ」

「なに、アサシンでも目指してるの?」


 今度は暗殺道具みたいなののお出ましだ。


「これな、作ってみたはいいんだが、籠手の方はゼロ距離じゃないと使えねえだろ。それじゃあ手甲の方が使いやすいしってことで、売れねえなって気づいたんだよ」

「不良品の回収か」

「不良品じゃねぇ、性能は結構いいんだぞ。剣の方だってな、実験的に毒付与を付けてみたがな、毒って割合ダメだろ?初期じゃあんま有り難みねぇなって、売れねえなって気づいたんだよ」

「要らないモン押し付けたいだけやん」

「それは否定しない」


 ケロリと言い放つグラフトさんに、俺とソニアは何とも言えない感情を抱く。が、アカネとシアンは台の上の籠手と剣を真面目な顔で眺めている。


「アタシこれ欲しいかも」

「私もです」

「オマケだからタダでいいぞ。つーか在庫になるのは目に見えてるから貰ってくれると有難い」


 ウィンドウを出してアイテム譲渡を済ましたアカネとシアンは、それぞれ剣と籠手を装備する。

 アカネは左手で剣を振るい、シアンは右腕に着けた籠手の刃を出す動作を確認して、そして満足したのかその作業を止める。


「「なんだか楽しくなってきた」」


 暗殺道具の取り回しを習得した2人のその言葉に、俺とソニアは若干青ざめて、その横ではグラフトさんが、自分が作ったアイテムが上手に扱ってくれるプレイヤーのところに渡ったのが嬉しいのか薄く笑っていた。




 ▽


「ジャジャーン。これが皆の新しい装備だよー」

『おお!!』


 人の背丈ほどの大きさの何かに覆いかぶさった布を、オリヒメがバッと取っ払う。防具を着たマネキンが4つ、布の下から現れる。


 グラフトさんから武器を買ったあの日から3日後。今度はオリヒメから連絡があって俺たちは、コンプレックスで新しい防具の御披露目発表会をすることになった。


「これがアキくんの。女の子に間違われないようにって注文だったけど、どうかな?」

「まあ、オリヒメがそう思うならきっと大丈夫なんだろ」


 俺の装備は、黒い薄地のシャツに丈の短い赤のジャケット、カーキの裾が広い半パンと膝に黒いサポーター。そして腰にはジャケットと同じ色の、巻き布?と言うのだろうか、スカートアーマーと言うのだろうか。足りない知識であえて説明するならスカートの前半分を取っ払って後ろ部分だけを残し、切れ込みを入れて左右で長さが違うものが巻いてある。右の方が若干長めだ。


「黒いシャツは結構ピッチリしてるから、体のラインをだして男の子だって主張するようにしてみたんだ。それを邪魔しないようにジャケットは短めにして、あとハーフパンツも少年っぽさアピールで、でも子供っぽくなりすぎないように全体で見たらはちょっとクールになるように仕上げたんだよ」


 お、おう。後半から何言ってるのか全然分かんね。

 でも、女の子と間違われないように、ってこれを作ってくれたことは分かった。


「そ・れ・と」

「?」

「これが狂い兎(バーサクホッパー)と呼ばれなくなるアイテムだよ」


 そう言ってオリヒメがインベントリから取り出したのは、2つのモフモフした三角。


「なに耳?」

「狼だよ♪」

「却下だ」

「えー」

「これじゃあ狂い兎って呼ばれなくなっても、今度は狼関連のあだ名つけられるかもしれないだろ」


 まったく。採用するわけないじゃないか。

 そう同意を求めようとアカネたちを見やると、3人共がキラキラした目で俺を見ている。


「着けてみてよ」

「おもし……、似合うかもしれないですよ?」

「せやせや。モノは試しやで」

「えー……」


 建前というものを知らない人がいるな。

 3人の言葉に、俺はまたオリヒメの手にある狼耳を見る。


「ちなみに感覚強化の効果があるよ」

「マジか……」


 それは俺にとって結構有難い強化効果だ。が、何故耳に付けたし。

 しかも、数の差というのはいかな少人数でも圧倒的なものがある。これは俺が狼耳を着けないと先に進まないパターンのヤツだ。


「分かったよ」


 オリヒメの手から、少し乱暴に狼耳を取って、装備する。今、俺の頭には狼耳が付いていることだろう。

 言い知れぬ気恥ずかしさが込み上げてくる。が、更にこれからなんと言われるか分かったもんじゃない、と身構える。

 しかし、


「次、これはアカネちゃんのね」

「わーい」

「オイコラ」


 無視されました。

 あれだけネタ振りしてこれは流石にあんまりだ。俺は憤りを露にしたけれど、すぐに自分の愚かさを知ることになる。


「どうやらアキくんは耳を着けた感想を言って欲しいみたいですよ」

「そうかそうか、それならそうと素直に言えばええんやで」

「いや、違っ……」


 迂闊、俺。自分から蒸し返すなんて愚の骨頂なり。

 それからシアンとソニアに(なじ)られて詰られた。




 ▽


「というわけで、アキくんは奥の部屋で着替えてね」

「はいはい」


 アカネたちの防具の説明が終わり、俺への耳イジリも終わって、俺たちはオリヒメから防具を購入した。

 そして、いよいよ袖を通すことに。

 俺は大人しく奥の部屋へと入り、ウィンドウで装備を新しいものに付け替える。それから、軽く準備運動をして動きやすさを確認する。

 新しい装備は今まで着けていた初期装備のものより、軽く動きやすい。


「これでボス戦だな」


 随分と時間がかかったように思えるが、これで装備が整った。いよいよ南のフィールドボスに挑むことになるのだ。

 一体ボスはどんなヤツなのか。楽しみだ。


「もういいわよ」


 ボス戦に思いを()せていたら、扉の向こうからアカネの声がかかる。

 もういい、と言われたので扉を開けて店の方に出る。

 まず目に入ったのはカーテンを開けるオリヒメ。そして、赤を基調とした新装備に身を包んだアカネ、シアン、ソニアの3人だった。


「おお!!カッコいいな」

「女性に対しての褒め言葉がそれですか?」

「似合ってます!!可愛いです!!美しいです!!」


 シアンに笑顔で怒られて、慌てて褒め言葉を探したが、これではまるで「THE・お世辞」じゃないか。

 もっと他に考えないと、とオロオロワタワタしていたら、3人にクスクスと笑われた。


「大丈夫ですよ。ちゃんと褒めようとしてくれてるのは分かりますから」

「でも、女子に開口一番カッコいいとは流石やな」

「……ごめんなさい」


 それは自分でもどうかと思う。

 女性の扱いをもっとちゃんとしなければと、そう決意した瞬間だった。

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