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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
17/40

Fall Edge

『なあアキよ』

「なんだい?グラフトさん」


 武器と防具を待つ間、少しノンビリしようということになった俺たちは、オリヒメに防具を頼んだ次の日、それぞれ自由に過ごすことになった。

 俺は森へ釣りのリベンジに、女子組はまた街に買い物に。本当に女の子は買い物好きだよな。


 ……ボッチじゃないもん。


 薄暗く静かな森で釣竿を構えながら、のんびり胡座(あぐら)かいて過ごすのも、これはこれでいいものだ。

 そんな時、グラフトさんからトークラインがかかってきた。


『やっぱ短剣は軽い方がいいか?』

「そうだね。大体FoWの時と一緒でお願いするよ」

『わかった』


 武器の詳細な注文を聞くためにかけてきたようだ。あの時「おまかせで」って言ったのに、どうしてわざわざ聞くのか尋ねたら『あの時は疲れてるみたいだったからな』とのことだ。

 その気づかい、あの時に欲しかったな。


『弓はどんな感じがいいんだ?』

「そうだなぁ……、弓は軽くなくていいや。弦はちょっと強めで」

「分かった」

「お願いね、……お、かかった」


 沈んだウキを引っ張り上げると、鮎が釣れた。コイツの料理にリベンジするのもいいかもな。


『なあアキよ』

「なんだいグラフトさん」

『こっからが本題なんだがな』


 グラフトさんの声のトーンが真剣味を帯びて、低くなる。これは真面目な話なんだろうか。

 鮎をインベントリにしまいながら、どんな話かと身構える。


『お前、いつまで女子と四六時中一緒の集団行動続けるつもりだ?』





 ▽


「クランを立ち上げる?」


 宿の一室。先に帰っていた俺は、釣りあげた鮎を街で買ったトマトで煮付けにしていた。そして、見計らったように料理が完成するタイミングで帰ってきたアカネたちに、皿に取り分けて振る舞っている時に、グラフトさんとした話をアカネたちにした。


「グラフトさんに言われたんだよ。いくらパーティメンバーだからって女子と四六時中一緒にいるのはどうなのか、って。まあそうだよな」

「確かに……、よくよく考えるとスゴいことよね」

「今さらですけどね」

「慣れってコワイなぁ」


 目から鱗みたいな反応、何を今さらという反応、それぞれ違えど、思うところは同じだ。


「今すぐ、どうこうって訳じゃないけどさ。ほら、俺たちってなんとなくで集まっただろ?」

「そうね」

「で、俺としてはこのままこのメンバーでもっと色々とやっていきたいんだよ」

「そうですね」

「だから、もしパーティを解散したとしてもクランがあれば、それでトークとか出来るし、いいかなって」

「まあ、せやな」


 つらつらと、どうしてクラン設立に思い至ったのか説明する。

 ここまでで、誤解無く、ちゃんと伝わっているだろうかはさておいて、趣旨は理解してもらえただろう。


「要は、その……」

「つまりアキくんは」


 最後に、この話を纏めようと口を開こうとすると、それを遮ってシアンが口を開く。


「私たちのことを「パーティを解散したら関係が希薄になりそうな薄情クズヤロー」だから他の関係をもって繋ぎ止めておかないとこの薄情クズヤローどもは離れていっちゃうしクランを立ち上げる、ということですね?」

「なんでそうなるの!?」


 シアンの要約は斜め上だった。


「うわぁ……」

「そないなこと考えてたんか……」

「違うよ!?もっと俺を信じてよ!!」


 シアンの話を聞いて引いてるアカネとソニアに食い下がるけど、すすっと距離を取られる。

 ……なにこれ?俺が悪いの?

 するとシアンがクスクス笑いだす。


「冗談ですよ。そんないい反応されると、からかいたくなっちゃうじゃないですか」

「せやせや」

「いい的よね」

「……泣くぞ」


 人が真面目に話をしているのに。真面目に話をしているのに!!(大事なこと)

 女が3人で(かしま)しいと言うが、これは違う。イジワルだ。イタズラだ。


「さ、アキくんがイジメかこわるいとか言い始める前に、話を戻しましょうか」

「イジメかこわ……、心を読まれてる!?」


 また、シアンが笑う。つーか笑われる。

 俺は完全敗北の空気を洗い流すように、咳払いを一つして、それから口を開く。


「つまり、俺が言いたかったのは“これからもヨロシク”ってこと。だから、その、……よろしくお願いします」


 あれ?結構恥ずかしいかもしれない。

 考えナシに発言してしまったせいで、言葉にしてからこれが恥ずかしいことだと気づいてしまう。


「アハハ、またハズイこと言っとる」

「病気ね、これは」

「ハズカシ病……、フフッ」


 やっちまった。そう気づいた時にはもう笑われた。


「そんなに笑うならトマト煮食べさせないぞ!!」

「それとこれとは話がちゃうやん」


 ソニアから皿を取り上げようとしたら、全力で阻止された。

 まあ自分で自滅しただけだしな。それに、このメンバーに醜態を晒すことになんだか慣れつつある気がする。

 ……嫌な慣れだ。


「で、名前は?」

「名前?」

「クランの名前よ」


 アカネがニヤリと口の端に笑みを浮かべながら聞いてくる。普段はしないイタズラっぽい笑い方。


「そりゃアキが言い出しっぺなんだから、当然アキが考えるのよね?」


 ふむ、それもそうだ。

 クランを立ち上げるには、まずクランの長となるマスターがいる。そしてギルドでクランの設立申請をするときクランの名前を決めなければならないのだ。なれば、名前が必要だ。

 アカネはそれをネタに俺を弄るつもりなのだろう。が、


「そう言われるだろうと思って、もう考えてある」

「えー……」


 アカネはつまんないと言いたげな様子だ。

 正直なところ、こうなることはある程度予想できたことだ。シアンも俺がクランの名前を考えていたことを察してなのか、イタズラに乗ってこなかったし。


「じゃあ、なんて名前なのよ?」


 ちょっとだけ不機嫌なアカネ。少しでも変な名前だったらつついてやる、みたいなオーラがだだもれだ。

 別に勿体ぶることでもない。


「“Fall Edge”ってどうかな」


 なんの特別感もなしに言う。

 却下されても構うことはない。それなら、さぞ良い考えがあるのだろうとか言って代案を出させるまでだ。


「Fall Edge。……落ちる刃、ね」

「そないカッコいいっちゅう訳でもないし、アホみたいにダサないし。微妙やわぁ」


 悪かったな。

 アカネとソニアの反応は、悪くはないが、良くもない。しかし、


「私は良いと思いますよ。可愛いですし」

「可愛い?これの?どこが?」


 シアンの反応は上々だ。

 “可愛い”発言にソニアが疑問の声を上げるが、それを気にする様子もなくシアンは「これがいい」と言ってくれる。

 そしてニコリと微笑んでくる。


「可愛いです」

「だから何が可愛いねん?」


 シアンはどうやら分かっているようだ。

 “Fall Edge”。これの意味は実は“落ちる刃”ではない。いや、実際そうなんだが、本当の由縁は別にある。


 “アキの(えん)


 このメンバー、殆ど行き当たりばったりで集まったのだ。これを縁と呼ばずになんと呼ぶのか。

 まあ、(フチ)(えん)とする無理矢理感は否めないが。

 しかし、シアンの勘はどこまで鋭いのか……。


「まあいいんじゃない。アタシもこれでいいわよ」

「ウチもかまへんけど、……可愛いか?」

「決まりですね」


 賛成4つで“Fall Edge”可決されました。

 却下されてもいいと思っていたが、決まりになるとちょっと嬉しいものだな。


「じゃあ、改めて。これからもよろしく」

「こちらこそ、よろしくね」


「さっきハズイ言われたばっかなのにもう言っとる。姐さんもや」

「これは死んでも治りませんね」


 うっ……。この2人は喜びを共有してくれないのか。

 俺とアカネは顔を見合わせて、赤くなる。シアンとソニアはそれを見てニコニコニヤニヤ笑っている。


「さって!!話も纏まったし、トマト煮を食べましょうかね!!」

「そ、そうね!!あー、美味しそう」


 いたたまれない空気を打開するために、もうもうと湯気を立てる鮎のトマト煮に頼ることにした。アカネも全力でそれに乗っかってくる。

 そんな俺たちの様子が滑稽なのか、シアンとソニアはまたクスクス笑うが、今度は弄ってこなかった。


「そうですね。頂きましょう」

「冷めたらイヤやしな」


 そう言って、それぞれ「いただきます」と合掌。フォークを手に取り、鮎を食む。

 今回は鮎の身がホロホロで、味付けもトマトの酸味のカドが取れているし、自分の中では上手くいったと思う。


「ん、美味しい」

「美味しいですね」

「ウマイやん」


 3人の評価も上々。クランの話も料理も上手くいってよかった。




 ▽


 あれから数時間、俺は宿屋の屋根の上で仰向けになって寝転んでいる。


「ふう……」


 一息。

 見上げる星は名前のないゲームの中の星。


 これだけ長い時間ここにいると、これがゲームであることを時々忘れてしまいそうになる。この生活に慣れ始めてしまっている。それ程までに充実してしまっている。

 勿論このまま、ずっとこのゲームにいるつもりは無い。いずれは必ずクリアしてやる。


 けれどここにいる時は、ここにいる限りは、今みたいに仲間と一緒に笑っていたい。


「なんて、変な話かな……」


 ワガママだな、と自分を笑う。

 そして目を閉じ、真っ暗な視界に意識を落としていった。

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