楽できるって素晴らしい
「いや~助かった助かった」
俺たちは森のポータルを使って、モノブラムのポータルがあるギルド近くの広場に帰ってきた。ぐったりの俺たちと違い、グラフトさんはウィンドウを眺めて満足げだ。
「これだけありゃ充分だ。お前らの武器も作れる。ただ数が多いからすぐにはできない。2日は時間を貰いたいな。できたらコッチから連絡する。期待して待ってろよ」
「……そう」
あれだけ探索してまわって、よくもまあ饒舌なことだ。
つらつらと話すグラフトさん。その姿は疲れを微塵も感じさせない。待ちぼうけをくったこっちは相づちだけで精一杯だというのに。
まさに待ち草臥れるとはこのことだ。
「そうだ。屑鉄も強化するからくれ。注文があるなら今のうちだぞ」
「「……おまかせで」」
皆の心が一つになった瞬間だった。
俺はグラフトさんに屑鉄を手渡す。
「今日は本当に助かった。じゃあな」
そう言って、グラフトさんは足早に去っていった。残された俺たちは、無言のまま顔を見合わせて、
「帰ろっか」
誰からともなしに、宿への帰路につくのだった。
▽
そして翌日。オリヒメのとこに防具の相談にいく日。
オリヒメも、グラフトさん同様自分の店を持っていて、俺たちはその店に向かっている。店の名前は《コンプレックス》。ネガティブな名前に聞こえるが、意味はオリヒメ曰く“集合体”らしい。防具とはそういうものだ、と力説してきたのがウサギを囲む会での出来事だ。
場所はモノブラムの中央から少し南に行ったところ、大きな通りの小路に入ってすぐ。
「ここか」
コンプレックスのある小路の向こうは薄暗くて、隠れ家的というか、なんとなく雰囲気がある場所だ。
「失礼しまーす」
ドア開けて店のなかに入る。
「い、い、い、いらっしゃいませ」
俺たちが入ってきたことに驚いたのか、それとも客が来て早く対応しないとと思ったのか、バタバタと店の奥の扉から音がして、オリヒメが出てくる。
「あ、アキくんたちだ。そうだね、約束してたね、座って座って」
オリヒメは店の一角にあるテーブルに、俺たちを座るよう促す。
そして本人はお茶の準備にとりかかるが、その手つきはプルプルと震えていて、危なっかしくて見てられない。
「慌てなくても、ゆっくりでもいいのに」
「慌ててないよ、私が一番のお姉さんだもの。……ピャッ!?」
「ソウデスネー」
跳ねたお湯が手にでも飛んだんだろうか。短い悲鳴をあげて、それから慌ててこちらを窺ってくる。その目は「バレてないよね?大丈夫だよね?」という風な具合だろう。だから俺たちが目を逸らせば、またすぐにご機嫌な様子でお茶の準備に戻る。
「ねえ」
「ん?」
アカネが小さな声で話しかけてくる。
「なに、あのカワイイ生き物」
「テンパり屋でドジで強がり。それがオリヒメクオリティ」
「なんですかソレ。すごく楽しそうじゃないですか」
「なんや、初めてのお○かい観てる気分になるわ」
「それな」
まったくソニアの言う通り。
オリヒメの危なっかしさは、なんというか、保護欲というのだろうか。それをかき立てるのだ。
今もお盆に乗せたカップを、カチャカチャと音を立てて運んできている。その姿は見ているコッチを不安にさせる。
「お、お、お、お待たせ」
オリヒメはお盆をテーブルに置いて、一息吐いてからそれぞれにカップを配る。湯気を立てるカップには琥珀色のゆらゆら揺れる水面が。
紅茶だろうか。多分紅茶の食品アイテムなんだろうな。いいな、こういうの。帰りに買お。
そう思ってカップを手に取ろうとすると、
「ところで、さっき私のことを子供扱いしなかった?」
オリヒメが冷たい声色で問う。大きな丸眼鏡の奥の目が鋭くなっている。
そういやそうだった。オリヒメは子供扱いをされるのを嫌っているんだ。昔、地雷を踏んだガンさんが面倒なことになっていたのを、今ハッキリと思い出した。
オリヒメの静かな怒りを感じて、アカネとソニアは若干顔色が悪くなる。そして俺に助けを求めるような視線をくれる。アンタが一番付き合い長いんだから何とかしろ、と。
ちなみに、シアンは何事もないように、優雅に紅茶を飲んでいる。余裕だな。羨ましいぜ。
何とかしろったって、オリヒメは機嫌損ねると拗ねるから面倒なんだよな。それでもお菓子あげながら謝ったら許してくれるけど。いまお菓子持ってないし。
……どうしたもんかなぁ。そういやこういうときの対処法をメフィ言ってたような。確か……、
「オリヒメ。背伸びた?」
「え!?ホントに?」
さっきまで怒ってたのがウソのよう。
ちなみにオリヒメの身長は昔と比べて変わったような印象はない。というか変わっていない。むしろ、俺の背が伸びたせいか、FoWのときより小さく感じる。
それでも笑顔で「どのくらい?どのくらい?」と無邪気に聞いてくる姿を見て、恐らくアカネたちも思っただろう。
なにこのチョロ可愛い生き物、と。
▽
「で、防具のことだったね」
話を逸らすことに成功した俺たちは、ようやっと本題に入ることができた。
オリヒメも席について、5人でテーブルを囲む。
「素材は、こんな感じなんだけどどうかな?」
俺はアイテムウィンドウを開いて、オリヒメに見せる。
「これは、ふむ……。大丈夫、これなら結構いいのが作れそうだよ」
「マジでっ!?」
「マジです。色々充実してるし、特にこの狼の素材がいいね。もしも余るなら私が買い取りたいくらいだよ」
ウィンドウを眺めるオリヒメは、なんだか嬉しそうだ。やはりこういうところは彼女もゲーマーなんだろうな。
オリヒメはインベントリから紙とペンを取りだす。
「じゃあ、どういう性能とか見た目いいか、聞かせてくれる?まずはアキくん」
オリヒメはズビシと、ペンで俺を指名する。テンション高いのは分かるが、尖ったモノをひとに向けてはいけません。
それより性能か。
「俺……は、そうだなぁ、動きやすくて……、なんだろう?」
俺の場合、どれだけ防御を上げても狂人化を使ってしまえば意味をなさなくなってしまう。そのせいで、攻撃を受ける=即ゲームオーバー、という可能性が高いから、それなら軽くて機動力がある方がいい。部分鎧とか、そういうのも重くなるからいらない。
それは確定なんだが、見た目と言われるとよく分からない。リアルでも、服になにかこだわりがあるとかなかったしな。
うぬぅ、と天を仰いで唸る俺に、女子たちは白けた目線をくれる。
「仕方ないだろ!!見た目とか分かんないし」
慌てて弁明すれば、
「これだから男の子はね~」
の大合唱。ちなみに、この場合の「男の子」は俺個人のことを指している。
「オシャレに無頓着な男の子はね~」
「それでいて女の子には可愛い格好でいてほしい、とか言い出すんですよねぇ」
「自分いっつも同じ服やん」
「ずっと同じスポーツブランドだったりね」
『ねー』
思い当たる節はある。
確かにいっつも同じブランドの服着てるな、俺。安くて機能性高いメーカーのやつ。
しかし、だからといって急にそんなことを言われて、一体全体何をどうしろどうしろと言うのだろうか。
世界のオシャレ男子、俺に力を分けてくれ……。
……男子?ああ、そういや切実なのが1つあったな。大事な条件が1つ。
「……女の子に見間違われないようなのをお願いします」
『……』
全員に目を逸らされました。全員心当たりがあるということだ。
「お、お次はアカネちゃーん」
「そ、そうねぇ……、アタシは……」
はい、話も逸らされました。
……泣いていいかな?
▽
「ご注文は確かに承りました、っと」
メモの最後を跳ねるように書いて、オリヒメはオリヒメはニコリと笑う。
「デザイン作って、貰った素材を加工して、……5日ってとこかな。そのくらいに連絡するから楽しみに待っててね」
「わかった。ありがとうな」
「お礼言いたいのはこっちだよ。スキル上げ素材ありがとう、ってね」
「わあ正直」
こういうとこグラフトさんと似てるな。生産やってる人は皆こんな感じなんだろうか。逞しいというかなんというか、……ふてぶてしいというか。
結構いい感じの店をこんな早くに構えるし。
「そういや店ってどうやって買ったんだ?」
気にしてなかったが、この店は多分グラフトさんのとこより値段が高い。あっちは町外れのログハウスで、こっちは町中の一軒家だ。無理ではないが、1人で、この期間で資金を集めるのは相当にキビシイはずなのだ。
「それはね、メフィとガンケンさんが手伝ってくれたの。ほら、あの2人って防具重要じゃない」
「なるほど納得。あの2人なら余裕だな」
「どういうことです?」
俺はすぐに理解できたが、質問してきたシアンはじめアカネとソニアもどうして余裕なのかに、首を傾げていた。
「あの2人はさ、……なんていうか、よく訓練されたゲーマーでな。3日位の徹夜なら余裕でこなすんだよ」
「ガンケンさんは「社畜にとっては24時間すべてが活動時間だぜ」って言ってたなぁ。メフィも学生のはずなのにね」
「なにそれごっつ怖い」
「言ってやるな」
引くようなトーンのソニアを宥める。
確かにあの2人は、そこはかとなく恐ろしい、狂気じみたものを感じる時もあるが、基本はイイヤツらなのだ。ただ徹夜のとき怖いだけで。
と、頭の中でフォローにもならないことを考えながら、カップに残った紅茶を飲みきる。そして一息ついてから、
「んじゃあ、帰るか」
と、立ち上がる。
「そうね」
と次いでアカネたちも立ち上がり、店の出入口にスタスタと歩いていく。
「あ、そうだアキくん」
「はい?」
さて扉を開けようか、と扉に手をかけたら後ろから、オリヒメに声をかけられる。
「狂い兎って呼ばれるの嫌がってたよね?」
「まあ、そうだな」
恥ずかしいというかイタイというか、あまり気持ちのいいものではないからな。
「呼ばれなくなるような装備もしかしたら作れるかもだけど、どうする?」
「マジすか!?」
「かもしれない、だけどね」
「是非」
「それじゃ作っとくね」
オリヒメは紙になにやら書き込む。俺の狂い兎と呼ばればくなる装備のことだろうな。これで本当に呼ばれなくなるなら有りがたい。
そして、オリヒメが紙から顔を上げる。
「期待してね。あと、またいつでも歓迎するよー」
「わかった。じゃあな」
扉を開けて外にでる。道に出ながら後ろでアカネたちがオリヒメに挨拶を言っているのを聞きながら、俺は新しい装備品に密かに胸を踊らせていた。
ルビは自分基準で振ってます




