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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
14/40

星を仰ぐ

「しっかしまぁ、よく女の子ばっか集まったもんだよなぁ」

「それで浮かないアキもアキだがな」

「おい」


 会が進むにつれて、アカネたちは元ルーラーウィングメンバーと打ち解けていく。

 俺を肴にして。

 共通の知り合いが俺なのだから、俺の話題が上がるのは仕方のないことだ。が、根掘り葉掘りだったり、あることないことだったりと、よくぞ尽きないものだと感心すると同時に、俺をからかうようなモノまで転がってくるのだから(たま)ったもんじゃない。


「成り行きですね」

「そうやな」

「成り行きでこんな美人揃いとは、アキも隅にはおけないな」

「そうだねぇ。まあボクの方がカワイイけど」


 まだ言うか。と、精神的に疲弊して、もう何も言い返す元気もない。

 思わず深いため息を吐いた。


「大丈夫?疲れた?」

「ああ、……疲れてる」


 アカネが心配するように俺の様子を窺う。つい、気丈に振る舞おうとしたが、振り絞る気力も無くなってしまったのか、強がれなかった。

 まぁ、こんなんでも盛り上がってくれてるなら、安い代償なのかな。


 しかし、やられっぱなしってのも性に合わない。なにか反撃してやろうと、卓を囲む楽しそうなメンバーを見やる。


「そういやガンさん」

「ん?」

「最後に会った時、彼女がどうこう言ってたけどどうなったの?」


 俺が問うと、ガンさんは石になったみたいに、ピシッと動かなくなった。

 反撃が強すぎたかもしれない。しかし、構うことはない。

 人をアテにして盛り上がってたんだ。俺だってそうさせてもらおうじゃないか。


「そういやガンさん、彼女いたって言ってたねー」

「へー、そうなんや」

「いやいや皆、これはウサギを囲む会だろ?俺の話はいいんじゃねえかな?」

「話してやれよ、ガンさん」

「アキィ!!」


 顔色の悪いガンさんは放っておくことにして、俺は静かに、してやったりと笑う。


「疲れてたんじゃないの?」

「疲れてますとも」

「呆れた」


 そうやってアカネと笑いあっていたら、ガンさんの「勘弁してくれ」という切実な叫びが聞こえた。




 ▽


「そんじゃま、フレ登録も済んだし解散だな」

「うぃー」

「うわ!?誰だ、メフィに酒渡したヤツ。面倒になるだろうが」

「あれ?メフィって未成年……。ゲームだから関係ないか」

「頭痛くなってくるな」


 結局、会は俺とガンさんがお互いに過去ネタをイジりあうという、不毛なやり取りを数度繰り返し、皆がそれを見て笑うモノになった。そして、そんなこんなで楽しい時間というのはあっという間。気づいたら日付が変わろうか、という時間になっていて、宴もたけなわ。解散することになった。


「メフィさん……、宿に帰りますよ。しっかりしてください」

「ん~……?」

「これだからカワイクな……イダダダダ」

「酔っててもこれはキッチリしてんだよなぁ」


 メフィを担ぐウッドウェルと、それに着いていくミルとガンさん。4人が泊まっている宿は同じ方向で、俺たちとは違う方向だ。


「それじゃあ、まったねー」


 キラキラと輝くような笑顔でミルがてを振りながら言う。夜遅いから静かにしろよ、と思いもしたがゲーム内ではそんなこと気にしなくてもいいのだろうかと思いいたり、結局答えは出ないまま4人の背中は遠ざかっていった。

 そして、俺たちも誰からともなしに歩き出す。


「いやー盛り上がった盛り上がった」

「まさかガンさんが2回もフラレてたなんてね」

「ネタ振っといてなんだけど、流石にヒドイことしたなと思ってる」


 コツコツと、石畳の上を数人で歩く音が夜の街に転がる。夜中だからか、それにしたって今日は人通りが少ない。静かな夜道だ。

 途中でエリカとベルクとラグランが別の道に宿があると言って別れる。

 人数が少なくなって、アカネたちが女子だけで目の前でキャッキャと話をしだすと、なんだか途端に寂しくなってくる。俺の隣にはグラフトさんがいるけど、グラフトさんは積極的に話しをするような人じゃないのを知ってしまっているから、なんだか声をかけづらい。

 そう思っていたらグラフトさんの方から声をかけてきた


「アキよ、よかったら俺のとこ来るか?女の子2人と関西弁の動物相手じゃツラいだろ?」

「おうコラバカ兄貴、その動物ってウチのことか?」

「別に役得だと思うならそれでもいいがな」

「おいコラ無視すんなや」


 ソニアが女子の輪から過敏に反応してくるがスルーする。グラフトさんの申し出は正直にありがたい。が、


「大丈夫。最近いい場所見つけたから」


 と、断る。それをアカネが横目で訝しげに見てくる。


「いい場所?」

「綺麗なんだ」


 俺の言葉にグラフトさんは疑問をさらに深めてしまったようだ。


「そこは……」




 ▽


「っかぁー、ただいまー」

「もはや実家のような安心感ですね」

「宿だけどね」

「しかもゲームのな」


 ソニアから、いつもの宿の一室に入る。

 俺も一応ツッコミに回ったものの、確かに、ここ数日でこの部屋に帰ってくると妙な安心感を感じるようになった。胸をなでおろすような、落ち着ける場所というか。

 ……慣れって怖い。


「しっかし兄貴がおったとは」

「それな、俺もビックリだわ」


 まさかパーティメンバーと昔馴染みが親族だったとは。世間は狭いな。


「それにしても、変な人が多かったですね」

「だろ」

「失礼よ」


 アカネが呆れた目で、こちらを見てくるが気にしない。

 実際変人の集まりだしな。

 そう思っていると、欠伸が出た。


「ねむ……」


 先に言葉が出て、自分は眠いんだと気づく。受験の時も徹夜なんて全然してなかったし、こんな遅くまで起きることはそうそうなかった。

 もう1つ欠伸が出て、活動限界だなと悟る。


「俺寝るわ」


 俺はそう言って、窓に近づく。


「またあそこで寝るの?」

「おう、結構気持ちいいぞ」

「危ないわよ」

「死なないから大丈夫だろ」

「……呆れた」


 また呆れられてしまった。けど、椅子で寝るよりずっと寝つきがいいし、女子と同室ということを気にしなくていいから気が楽なのだ。

 屋根の上は。


「じゃあ、おやすみ」


 そう言って、俺は跳躍スキルで窓枠に飛び乗り、そこからジャンプして屋根に飛び移る。

 この宿の屋根は全部が斜面だが、そこまで傾斜はキツくないのであまり気にせず寝ることができる。落ちても街の中なのでダメージはない。

 ……まぁ意識があったらトラウマものだろうが。


「落ちないでよね」


 声がかかって屋根の下を覗きみると、窓からアカネが顔を出してこちらを見上げていた。次いで部屋の中から「自業自得ですよ」だの「心配性やな」だのと聞こえてくる。


「落ちないよ」


 そう言うと、アカネは「ホントに落ちないでよ」と言って引っ込む。

 アカネは優しいなぁ。……それか俺が信頼ないのか。どちらにせよ、考えるのはまた明日だ。

 頭を屋根の頂点に向けて、ゴロンと屋根に仰向けに寝転がる。そうすると、街の明かりが少ないからか、ゲームだからなのか、夜空に輝く星がよく見える。

 都会では見れない満天の星空を仰ぎながら、そっと目を閉じる。

 街は適温、横にもなれる。椅子で座って寝るよりずっといい。


「くぁ……」


 また出たアクビを噛み殺したら、だんだん意識がボンヤリしてきた。





 ▽


「眩し……」


 朝日がダイレクトに体に注がれて、眩しさに目が覚める。すると、頭を上に体が斜めになっているという、気持ち悪い感覚を感じた。

 どうやら屋根から落ちずにぐっすり眠れたようだ。


「うっし」


 立ち上がって左右交互に腕を伸ばす。俺は寝覚めはいい方で、寝ぼけもナシ。屋根の斜面にバランス崩すこともなく、屋根の端に向かう。この下には俺たちが借りてる部屋がある。

 俺は屋根のへりにしっかり掴まって、体を宙にぶら下げる。それから反動をつけて、開け放しの窓から部屋に飛び込む。着地成功。


「泥棒みたいやな」

「……否定できない」


 朝イチでいきなり失礼なこと言われたけど、まったくもってその通り。窓から入るなんてまさしく不審者のそれだ。


「あ、アキおはよう」

「おはよう」

「おはようございます」


 既に起きていた3人と顔を合わせる。シアンはウィンドウを眺めていて、時折指を動かしてスワイプ操作をしている。


「南のフィールドボスが倒されたみたいですね」

「掲示板?」


 シアンに目配せで「見てください」と言われたので、シアンの手元にあるウィンドウを覗きこむ。すると、それには南のボス情報とか、南の新フィールド情報とかが載っていた。


「へー海なんだ」

「魚介類系モンスターがいっぱいらしいですよ」


 シアンの言葉に、俺は先日のフィッシュマンを思い出す。

 …あれは魚介類に数えていいんだろうか。

 シアンがスライドさせていく記事にはサハギンやら巨大ガニやらのスクショが貼られていて、フィッシュマンの姿は確認できない。

 しかし、カニか。食えるかな。料理できたらいいな。


「アキくん、今食べること考えてるでしょ?」

「え!?う、うん」


 シアンが愉しそうに笑った目で俺顔を覗いてくる。

 分かりやすかったかな?

 考えてることを見透かされてビックリした。そんな俺の反応も楽しいのか、シアンはニッコリ笑う。


「行きます?海」

「食べるために?」

「ええ、食べるために。私甲殻類好きなんですよ」


 ふむ、なるほど。新フィールドというのは中々ゲーマー心をくすぐるワードだ。そのうえ、好物があるのならば、なおのこと。

 これ、行かない手は無いんじゃないか?俺は料理スキルを上げれるし、シアンは好物が食べれる。


「よし、行こう!」

「決まりですね」


 シアンと手を取り合って、お互いの利害一致したことを確認しあう。

 どうやら心配はいらないようだ。シアンの目はまっすぐに目標を見据えている。


「となれば早速出発だー!」

「おー、です」



「アタシたちまだボスが倒せるような装備ないじゃない」


 背中に突き刺さる言葉に、俺たちはピタリと足を止めた。


「……おあずけですか?」

「そうなるわね」


 膝から崩れ落ちました。

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