童話のラスト
「どけっ!!」
「グァウッ!!」
屑鉄を一匹のグリムウルフの腹に喰らわせる。が、波状攻撃の強みがあるグリムウルフは、攻撃直後の隙をつくように俺に腕を振り下ろす。
その腕をなんとか躱して、反撃をしようと体勢を整えようとしした瞬間、また次の攻撃飛んでくる。俺は、まるで弄んでるかのようなその攻撃を避けるのに精一杯だ。
「このっ……、犬っころめぇ」
グリムウルフの攻撃を避けながら、どうにかこの囲いを抜け出せないかと考える視界の端には、グリムワーウルフが長いストロークを走り抜け、赤ずきんに飛びかかる姿が映った。
「ガァウッ!!」
「やべっ!?」
赤ずきんに気をとられすぎて、目の前の狼の蹴りが避けられないところまで迫っていた。
……やっちまった。
そう思った瞬間、蹴りを繰り出した狼の脚が横からの衝撃でブレた。
なんの偶然かは分からないが、攻撃の軌道が少しズレたおかげで躱すことができた。
「アキくーん。無事ですかー?」
声のする方を見るとシアンとソニアがいた。さっき狼を襲った衝撃は、シアンの狙撃だったのか。
「助かった!」
狙撃に狼たちが若干怯んだ隙に、俺は体勢を立て直し、また7匹の狼と対峙する。
赤ずきんの方も、もう心配はいらないだろう。
赤ずきんに振り下ろされたグリムワーウルフの腕を、アカネが大剣で防いでいたのがチラッと見えたからだ。なら、俺はこっちの犬っころたちの相手をすればいい。
「ガウッ!!」
狙撃を受けた狼のヘイトがシアンに移ってしまい、狼はシアンの方に走りだそうとする。
「お前はこっちだ!![マイトスタブ]」
その狼の横っ腹に、鈍く光る屑鉄を突き刺す。狼は悲痛そうに唸るが、すぐに反撃にうってでる。それにあてられたように、他の狼たちも俺への攻撃を再開する。
やっぱこの程度じゃダメか。
屑鉄を素早く引いて、狼たちの攻撃を躱す。この連続攻撃は本当に厄介だ。こっちに攻撃するヒマを与えない。だから数が減らずに回避するしかない。なんとか隙をついて攻撃できたとしても、そのチャンスが巡ってくるのは何時になることやら。
「めんどいな……」
先頭のグリムウルフの正拳突きを躱しながら呟いた。さっきのようにシアンが横から撃てば、攻撃するチャンスができるかもしれない。が、それではシアンにヘイトが移ってしまう。それだと今度はシアンが危ない。
なにか上手い手はないものか、考えながら振るわれる爪を避ける。
「せめて、もう少し速く動ければ……」
せめて、もう一本ダガーがあれば……。
そう思った瞬間、俺の体が薄い緑色の光を纏う。
「アキ~!よう分からんけどバフっちゅうの、やったで~」
「サンキュー」
体を覆っていた光が消え、俺は狼たちの攻撃に突っ込む。
体が軽い。緑色の光はスピード系のバフだ。
眼前に迫ってくる蹴りを、スレスレで回避し、すれ違いざまに屑鉄を押しあてる。刃で敵を断つ感覚は十分にある。しかし、目の前の狼の体力はあまり減らない。
すると、また俺の体を光が覆う。今度は赤色、攻撃系のバフだ。
「そおりゃ!!」
「ガルゥッ!」
次々と襲いかかる攻撃を躱しながら、屑鉄を振るい狼たちを斬っていく。多少ではあるが、与えるダメージは確実に大きくなっている。
これなら何とかなりそうだ。
グリムウルフが鋭い爪を振るい、俺はそれを避けて横っ腹を斬りつける。その隙に他のグリムウルフが蹴りつけようと足を振るい、俺はそれを体を捻って躱す。
「[マイトスタブ]!!」
捻った反動を利用して、一気に屑鉄を狼の腹にぶっ刺して、隙を最小限に抑えるためにすぐに引き抜く。そして、また飛んでくる攻撃を躱す。
基本はこれの繰り返しだ。が、時間が経つと、俺が斬りつけて、ある程度HPが減ったヤツは、ソニアのバフで威力の上がったシアンの狙撃でトドメを差す。
この流れができ上がり、みるみるグリムウルフの数が減っていく。
「おらぁ!!ラストォ!!」
最後の1匹なったグリムウルフの左肩を、逆手に持ち変えた屑鉄で突き刺す。肩に刃が刺さって尚、逆の腕で俺を切り裂こうとするグリムウルフの脳天をシアンが撃ち抜き、グリムウルフは光の塊になり消えた。
次はあのデカブツだ。
アカネはまだ、グリムワーウルフと闘っている。
アカネの武器は大剣だ。いくらプレイスキルが高いアカネでも、素早いグリムワーウルフの攻撃を流しながら、重量のある大剣で斬りつけるのは難しい。
しかもこのグリムワーウルフ、ちょいちょいターゲットを赤ずきんに変える性質があるようだ。グリムウルフの数が減って、余裕が出た時にアカネの様子を確認した時、アカネは赤ずきんと距離をとっていたにも関わらず赤ずきんを襲おうとしたグリムワーウルフの姿が見えた。
そのせいで、アカネは赤ずきんを守りに走らされていた。
「けど、4人で囲めば余裕だろ」
俺はグリムワーウルフの背後をとって、屑鉄を順手に持ち変え、斬りつける。アカネにヘイトが向いてる今なら、隙だらけの背中に攻撃し放題だ。
何度も、何度も斬りつける。
そうして、グリムワーウルフの背中に十数の切り傷を刻む。すると、グリムワーウルフの俺へのヘイトがアカネを上回り、ターゲットが俺になる。
「グルゥ!!」
「おぉ!?回し蹴りとは、いよいよ狼じゃねえな」
まあ、正拳突きの時点で感じていたこだが。
グリムワーウルフの回し蹴りを、後ろに跳んで躱す。そうして出来た間合いをグリムワーウルフは一足でつめて、腕を俺に向かって降り下ろす。が、その腕にシアンの射撃が命中し、グリムワーウルフの攻撃の軌道はズレ、俺はその腕を難なく避けることに成功する。
その時、俺とアカネの体を赤い光が覆った。
そして、前後から俺とアカネがグリムワーウルフを斬る、斬る、斬る。
「ガウゥ……」
グリムワーウルフの体力も底が見えてきた。
腕をダランと下げ、俯くグリムワーウルフにトドメを差そうと俺とアカネは武器を振りかぶる。
「[ウォォオオーーーン!!]」
「!?」
しかし、直後グリムワーウルフは空に向かって吠える。
しかも、特殊行動とか……。
その遠吠えは、大音量による行動阻害技になっていて、すぐ近くにいた俺とアカネは思わず耳を塞いで立ち止まる。
「グッ……」
油断した。こんな序盤の敵に、こんな隠し玉が用意されてるなんて。
俺はその場で両手を耳にあてて、隙だらけになってしまう。が、グリムワーウルフは俺に攻撃せず、振り向く。
まさか……。
血走ったグリムワーウルフの視線の先には、赤ずきんの姿が。
何かの状態異常なのか、目眩に近い感覚がして、体が思うように動かせない。
グリムワーウルフは俺にもアカネにも目もくれず、赤ずきんに向かって走りだす。しかし、グリムワーウルフは弾丸と火の玉を続けざまに横っ腹に喰らい、狙いをシアンたちの方に変える。
「ガルゥッ!!」
そして、グリムワーウルフはシアンたちのいる方へ駆け出すために強く一歩を踏み出した。
「させるかよぉ!![フォワードピアス]」
動けなくなる状態異常が回復した俺は、アーツを唱える。その瞬間、右手に持った屑鉄の刃が光り、俺はグリムワーウルフの脚力上回り、一足でヤツとの距離をつめる。グリムワーウルフを射程に収めた一瞬を掴んで、屑鉄を力強く突きだす。
[フォワードピアス]は突進して剣で刺す、それだけの技だ。けど、この状況にはうってつけの技でもある。
突きだした刃は、グリムワーウルフの背中に刺さり、そのその一撃でヤツのヘイトを俺に向けることに成功する。
「アキ、しゃがんで!![ライナースラッシュ]」
後ろからアカネの声がして、その言葉通りしゃがんだ瞬間、俺の頭上を大剣が通り抜けていった。
アカネの攻撃はグリムワーウルフの胴をまっぷたつに裂き、その一撃で体力を奪いきった。
グリムワーウルフは光の塊になって弾ける。
「お、終わった……」
「お疲れ様……」
俺とアカネはその場にへたりこんで、力なくハイタッチを交わす。
俺たちの前にはクエストの進行を告げるウィンドウが現れる。後は少年に報告をすればいいという内容だ。
「ありがとうございます。助かりました。私は先に街に戻ってますね」
「……あっ!」
「では」
そういや赤ずきんを守っていたんだった。
赤ずきんはお礼を言うなり、この場からそそくさと立ち去っていった。
「森で襲われてたのを助けたのに、その森を1人で帰るって……」
「府に落ちねぇ……」
きっともう、あの赤ずきんは少年の所にいるのだろう。NPCのワープなんて、とてもゲーム的じゃないか。
「お疲れ様です」
「2人ともスゴかったなぁ。ごっつかったで」
シアンとソニアが近づいてくる。2人はへたってる俺たちと違い元気そうだ。
「いや~、シアンに教えてもらいながらで、いっぱいいっぱいやったわ」
「私としてはバフを知らずに、タクトを持っていることが驚きでしたけどね」
シアンは呆れたという目でソニアを見るが、ソニアはそれに気づかない。
「ハハハ……。でも回復とか、助かったわよ」
「俺も、素早さ上げてもらってなんとかなったよ」
それでも、今回はソニアがMVPだろう。継続的にバフをかけたり、グリムワーウルフと闘っているアカネの回復など大活躍だった。
それを横で指導していたシアンもだ。この2人にはとても助けられた。
「さてと、戻るか」
「そうね」
俺とアカネが立ち上がり、狼の落とした素材を回収して、4人でポータルのある安全圏へと向かうことにする。
「そういや川って、どう渡ったんだ?」
「それは見た方が早いで」
「?そうか」
暗い森を歩いてまずは川を目指す。
ちゃっかり俺の後ろにアカネがくっついているのは、もう何も言うまい。
「橋だ」
川に着くと、まず目に入ったのは丸太で作られた橋だった。
「姐さんがな、伐採スキルとって木ぃ切って、シアンが蹴りスキルで蹴り倒したんよ。あれはアキにも見せたかったな~」
なるほど、それは想像しただけでも……、大迫力だな。
俺たちはその橋を渡って、安全圏のポータル使いモノブラムへと無事帰還した。
▽
「ありがとう。兄ちゃんたちのおかげでメリーが助かったよ」
「本当にありがとうございました」
俺たちは、クエストの終了報告に少年の所に来ている。少年の横には赤ずきんがいる。
メリー、とはどうやらこの赤ずきんの名前のようだ。
「これはお礼だよ」
少年がそう言うと、俺たちの前にウィンドウが現れ、今回のクエストの報酬を表示する。
ちょっと良い回復アイテムや少量の鉱物、それとレッドカブールという装備品が報酬だった。
「あれ?お金ないな。こーゆーんはお金入るんちゃうの?」
「多分子供だからお金が無い設定なんだろ。前にもこんなんあったよ」
「変なとこ拘りよんな」
「まったくだ」
しかし、それよりも気になるのはレッドカブールだ。
まさか、あの頭巾じゃないよな?だとしたら恥ずかしくて装備できないぞ。
と、思っていたが実際には、バンダナにもスカーフにもできるちょっと大きめの布だった。
「じゃあね、兄ちゃんたち」
少年は赤ずきんの手を引いて遠ざかっていく。
「ま、ハッピーエンドってことだな」
俺は、笑顔で去っていく少年たちの背中を眺めながら呟いた。
《ブラッシュクエスト:迷い羊の赤衣-達成》




