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レプリカトーン  作者: 三堂いつち
キツネの檻
10/40

ウサギとオオカミ

 行けども行けども少年の友達は見つからず、ついに残り時間が一時間を切ってしまった。


「あーもー、どこにいるんや、これ!?」


 痺れを切らしたようにソニアが声を上げる。代わり映えのしない森の中を歩くだけ、というのは精神的にシンドイものがある。

 そんなソニアの声にビックリしたのか、アカネが後ろで固まる。あれからずっと俺の背中にくっついていたのだが、


「いい加減慣れない?」

「ムリ」


 この調子で、離れる気配は全くない。もし戦闘になったらどうなるんだろう、これ?


「もう3時間以上いるんだし……、ん?」


 アカネを背中から離そうと言い訳を考えていたら、遠くになにかが見えた。


「なんだろ、あれ?」

「な、なによ?」

「向こうにさ、明るい……、光?みたいな」

「ヒッ……」

「……行ってみよっか」

「ヤダヤダムリムリ。怖いのよぉ~」

「グェ……」


 今にも泣きそうな声でアカネが俺の背中に抱きついてくる。そして、そのままギリギリと俺の背中をギリギリと締め上げていく。


「こ、怖いのは分かるけどクエストに関係あるかもしれないだろ?」

「う~……」


 あ、ヤバい。泣きそう。アカネも、俺も。

 ダメージ入ってんじゃないかって(くらい)強烈な締め上げをしながら、アカネが呻く。シアンとソニアはそれ見て「がんばれー」と心無い声援をくれる。

 正直見てないで助けて欲しい。もしくはあの光を確認してきて欲しい。

 そう考えていると、背中の締めつけが緩む。


「わかったわよ。行けばいいんでしょ、行けば!」

「お、おう」


 目尻に涙を蓄えて、スゴく嫌そうに、アカネが言い放つ。

 別に俺だけで確認してきてもいいんだけど。でも、本当は怖いハズなのに、ここまで頑張っているのだからその気持ちを酌んで、黙っておこう。それに、ちょっと面白そうだし。

 そして、俺たちは明るい方へと進む。


 近づくとその正体がスグに分かった。


「安全圏か」


 森が開けていて、少し広い空き地になっていた。明るいのは、日差しを遮る木が無いからだ。空き地の中心には、立派な石像が建っている。


「安全圏?って、ここは安全ってことなんか?」

「そうですよ。ここはモンスターが出ないし入ってこれないんです。それにプレイヤー同士の戦闘も禁止されていて、安心して休めるんです。デュエルは別ですけどね」

「ほ~」


 後ろでソニアの問いにシアンが答える。

 俺はそれを聞き流しながら、石像に近づく。


「で、アキは何しとるん?」

「あれはポータルといって、あれに一度触れると街からここにワープできるようになるんです」

「え!?メッチャスゴいやん。ほなウチらも触っといたらエエのか?」

「そうですよ」

「なら、ゴーや」


 流れるような説明ありがとう。

 俺は背中にアカネを伴って、石像の前に立ち、石像手を当てる。すると石像に触れた手が幻想的に光る。そして、その光はだんだんと弱くなっていき消える。これで登録完了だ。


「アカネもやっといたら?」

「そ、そうね」


 アカネは、俺の後ろから手を伸ばして石像に触れる。


「ここでも怖いの?」

「悪い?」

「……悪くないっす」


 そして、シアンとソニアもポータルの登録を完了させたので、また暗い森の中を進む。

 安全圏を見つけたからと寄り道をしたが、制限時間の差し迫っているなかで、それほど長く立ち寄ることはできない。もう50分もないのだ。


「なあ、目印とかないんか?」

「分かんない。近づくとクエストが進行するらしいけど」


 ソニアの質問に、ウィンドウを操作しながら答える。

 ウィンドウにはクエストのタイトルと概要くらいしか書いていない。ブラッシュクエストは分からないことが多いのだ。その場その場で対応するしかない。


「確かに目印でもあれば分かりやすいのになぁ。お、川だ」


 暗い森の中で少ない光を浴びキラキラ光る川を見つけた。川幅は、そう広くないが魚影がちらほらと見える。


「釣りスキルか」

「取るの?」

「取ろうかな」


 後ろのアカネも、俺越しに川を覗きこむ。アカネは「綺麗ね」と耳元で呟いた。

 くすぐったいな。


「アキってスキルいっぱい取ってるわね。弓に短剣、狂人化(バーサク)に跳躍だっけ?」

「あと釣り」


 ウィンドウをいじって釣りスキルを取得する。


「釣竿も持ってないのに」

「ホビースキルだからいいんだよ」


 FoXのスキルは大きく2種類に分けられる。バトルスキルとホビースキルだ。

 バトルスキルはそのまんま、取得した武器種にボーナスを得たり、武器毎のアーツや魔法スキルだったり、狂人化のようなスキルだったりと戦闘に使うスキル。

 一方ホビースキルは、いわゆる趣味っぽいスキルだ。釣りや料理、生産系もこれにあたる。しかもありがたいことに、バトルスキルとホビースキルのスキルポイントは別口なため、ホビースキルを取ったからといってバトルスキルを取る妨げにはならないのだ。

 さらに、ホビースキルは修練度を上げていくと、ステータスが上昇したり戦闘にも役立つスキルを取得出来たりなどと、中々放っておけない機能を持っている。つまり、取っておいて損は無いのだ。


「アカネもなんか取ったら?剣だけでしょ」

「そうね。なにがいいかしら」


 そして俺たちは川沿いを歩く。

 なにはともあれ、まずはクエストをクリアしてからだ。しかし、見渡す限り木と草しかない森のどこに少年の友達がいるのやら、全く検討はつかない。


「川の向こう、とか」


 そのシアンの呟きが聞こえて、俺はピタリと足を止める。背中にアカネがぶつかったけど、気にせず振り返る。


「俺ちょっと行ってくる」

「どこへ?」

「川向こう」


 そう言って俺は川から助走分離れる。


「アカネをよろしく」

「えー、アキの仕事やん」

「ガンバ」


 一気にに走り出して、川の一歩手前を右足で強く踏みジャンプ。一足飛びで渡るには中々の距離だが、跳躍のスキルがあれば渡れない距離ではない。

 着地して、体操選手のように腕を上げる。


「おちゃらけてないで、はよ行けや」

「手厳しいな……」


 向こう岸を見ると、手を振るシアン、シッシと手を振るソニア、そしてソニアの背中にアカネがいる。今度はソニアがアカネの盾になったようだ。


「なんかあったら連絡するな」

『キャァァアア!!』

「……なんかあった」


 森の中を探索しようと足を一歩動かした瞬間、暗い森の向こうから悲鳴が聞こえた。


「先に行ってる」

「ええ、後から追いつきます」


 視界の端の時計が止まったのを見るに、クエストが進んだということだろう。しかしブラッシュクエストは、時計が止まったからといって、必ずしも悠長にしていいクエストではない。制限時間以外の縛りがあったりなんてザラだ。

 俺は悲鳴のした方へと走る。




 ▽


「おお、なんと童話的な」


 駆けつけた先は、先ほどの安全圏のように少し開けた場所で、そこには赤い頭巾を被った女の子が数匹の二足歩行をしている狼型モンスターに今にも襲われそうだ。

 狼の名前は〔グリムウルフ〕か。グリムウルフはグルグルと唸り、血走った目で赤ずきんを睨む。


「何匹いんだこれ。……5、6、7匹か。キツイな」


 と、ウルフの数を確認したところで、ウィンドウが現れクエスト内容の変更を告げる。


 〈赤ずきんを守れ。赤ずきんが死亡するとクエスト失敗〉


 なんとキツイ条件じゃないか。つまり赤ずきんに狼のヘイト向かないように、しかも7匹の狼相手をしなければならないということだ。

 いくら狂人化使ったとしても、現在の素のステータス考えると、これが無理難題であることは明白だ。


「ウォーーーン」


 一匹の狼が空を見上げるように吠える。それにつられて他の狼どもも次々と吠える。


「やるしかないか、狂人化(バーサク)!!」


 狼どもが赤ずきんを襲うより先に、狂人化を唱え、一番手近の狼に屑鉄で斬りかかる。斬ったソイツとソイツの隣いた一匹ヘイトは俺に向いたが、他の狼は変わらず赤ずきんを睨みつけたままだ。


「こっちを、向け!!」


 一撃で2匹の狼を斬る。しかし、攻撃に気を回しすぎると回避がおろそかになってしまう。危うく、さっきヘイトを取った奴の一撃をもらいそうになったが、体を捻って躱す。


「あと3匹」


 不安定な体勢になってしまったが、構わず踏み込んで残りのグリムウルフにも斬りかかる。これで7匹は俺を囲むようになった。

 そして、次々とウルフの攻撃が俺目掛けて飛んでくる。見るからに強靭そうな腕を振るい引っかいてきたり、狼の脚力を使った体当たりをしてきたりと、雨あられのような連撃で狼は俺を襲う。


「うぉっ!?蹴りはナシだろ!!」


 1匹の狼が巧みにローキックを繰り出しやがった。間一髪で避けれたが、これは想像以上にキツイ。しかもこのグリムウルフ、狼だから元々怖いのに、その上さらに目が血走ってるせいで余計に怖い。

 避けるだけでも大変だ。


「ヤベっ……」


 グリムウルフの正拳突きを顔面に喰らいそうになって、なんとか腕で顔を庇ったが狂人化の影響で防御力が下がっているため、ダメージは結構な量入った。これが顔面にモロに入っていたなら、俺はやられていただろう。そう思うと内心ヒヤヒヤだ。


「それにしても、パンチとは本当に狼かよ」


 グルグルと唸る狼たちを睨みながら、屑鉄を構える。でも、これで赤ずきんにはヘイト向いてないし、油断しなければアカネたちが来るまで耐えきれるかもしれない。

 これならイケる。


「ウォーーーン!!」


 そう思った矢先、さっきのグリムウルフのものより低くて大きな遠吠えが聞こえた。遠吠えのした方を向くと、グリムウルフよりも一回り大きい、二足歩行の狼、〔グリムワーウルフ〕が立っていた。


「嘘だと言ってよバーニィ……」


 グリムワーウルフはその鋭い眼光を赤ずきんに向けていて、状況は確実にマズイ方向へと向かっている。

 早くあのデカブツのヘイト取らなければ、赤ずきんがやられる。しかし、グリムウルフたちの攻撃が止むことはなく、駆け出そうにも動けない。


「ヤバイッ!!本当にヤバイッ!!」


 グリムウルフの攻撃を避けながら横目で見るグリムワーウルフは、にじりにじりと、ゆっくりだが確実に赤ずきんに近づいていく。その間が逆に怖かった。


「グァウ!!」

「あぶねっ!?」


 唸り声とともに飛んできた腕を躱す。

 その時、グリムワーウルフが赤ずきんに飛びかかったのがハッキリと視界の端の赤に色づいて見えた。



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