第七話『猫宮鈴音の視点』
神社から徒歩15分の場所に行きつけの商店街がある。子どもの頃よりも活気は少ないが寂れきっている訳でも無かった。なにしろ狐と狸の二大巨塔が守護している町だ。ご利益の効果が商店街の方にも滲み出している。いち早くネットショッピングに手を出した事が功を奏したのか、地方では商店街が消えつつある現代においても一定の客入りが期待出来ていた。
そんな商店街の一角にある和菓子屋『言語道断』を訪れていた。目的はこの店の醤油団子。団子からは絶妙な焼き加減による香ばしさが感じられ、奥深い甘さの中には切れの良い醤油の味が確かに存在すると定評がある人気商品。
つまり紺への奉納物を求めてやってきたのであった。
「すみません、醤油団子を10本頂けますか‥‥‥あ、おまけ‥‥‥いつもありがとうございます」
「ああ、おまけの方はそのままで結構ですよ。うちの神様に奉納するので」
顔なじみの店主から購入した団子とおまけで貰った団子を携えながら店を出る。子どもの頃から通っているためか、味で劣ることは無いが僅かな加減で形が損なわれてしまった団子をおまけとして渡してくれていた。そのためおまけを貰った時はおまけを紺に。お店で購入した見栄えの良い団子は自分に。と配分していた。”何かぐっちゃりしてる‥‥“と若干しょんぼりする紺の表情がたまらなく好きであったからだ。団子に期待を込めながら家路につく途中、思わぬ場所で見知った顔を見つけた。
「あれ?雲雀君と貉様?」
「あ、鈴音。商店街で買い物か?」
「おお、鈴音。今朝ぶりじゃな‥‥‥団子か?」
「ご無沙汰しております貉様。はい『言語道断』で購入した醤油団子です‥‥‥あ、お1つどうですか?近くの公園にベンチがあるので、良ければそこで‥‥‥」
「わぁい、やったぁ、すずねだいすきー」
「‥‥‥美味しいとはいえ団子1つで懐柔出来ると思うなよ、この泥棒猫‥‥‥っ」
「雲雀君も、どう?」
「くっ‥‥‥たべるっ‥‥‥!」
醤油団子で懐柔された2人は鈴音に促されるまま少し離れた場所にある公園に移動し、雲雀、貉、鈴音の順でベンチに座る。
「いつも真ん中に座らされるのぉ‥‥‥」
「そうしないと雲雀くんが拗ねるので。それに私も貉様を身近に感じていたいので」
「そうですよ。ふふん」
「何で威張るの?」
それぞれ適当に喋りながら団子を頬張る。実に美味しそうに食べる2人を見ていると鈴音も何だか嬉しくなってしまう。少しの間、穏やかな時間を楽しんでいたが、ふと気になった事を尋ねてみる。
「まさか貉様が商店街にいらしていたとは思いませんでした」
「まあ、そうだろうなぁ、お主らが生まれる前は度々出掛ける事もあったがの。今は、ほれ。こやつが‥‥‥」
「俺の許可なく出掛けてはいけませんよ?」
手で隣にいる雲雀を指し示す。雲雀は迷いの無い言葉で返答していた。
「雲雀君、病んでる‥‥‥」
「じゃろ?」
「そんな事はないさ。ただ貉様を手元に置いておきたいだけなんだ。純粋な愛と言っても過言ではないんだよ」
「わぁ‥‥‥儂、愛されてる?」
「たぶん歪んでますよ、それ」
「だよなぁ‥‥‥」
曇り無き眼で愛を語る。自分の愛を疑いもしない雲雀に対し引き気味の貉。”いつも通りね“と嘆息しながら呟く鈴音。そんな2人の反応を心外だと受け止め、正しい理解を深めようと言葉を続ける。
「歪んでないぞ。俺の愛を包み隠さず晒しているだけだ」
「すずね、たすけてぇ‥‥‥」
「助けてあげたいのは山々なんですが‥‥‥雲雀君から貉様を取り上げると大変な事になりそうで‥‥‥」
「その時はありとあらゆる手段を使ってでも紺様を懐柔する。絶対にだ」
穏やかで優しい表情のまま確固たる意思を持って語りかけてくる。”まあ、雲雀君ならそうするわね“と思いつつ、それよりも心配な事に意識を向ける。
「紺様美味しいおやつに目が無いから、簡単に付いて行きそうで‥‥‥」
「難儀だのぉ、お主らも‥‥‥」
彼女の脳裏には雲雀の選んだ美味しいおやつに釣られ、疑いもなくとてとてと付いていく紺の姿が浮かぶ。
貉の方も、真面目な顔と言動で阿呆な事をする紺を思い浮かべながら、さも自分はまともだと言うかのように口を開く。
4人全員の頭がおかしいと指摘する者は、残念ながらそこにはいなかった。
「すずねぇ‥‥‥はらへったぁ‥‥‥はようかえってこぉい‥‥‥」
一方、紺の方は自室の床でとろけながら、おやつを買いに行ったきり帰ってこない鈴音を待ち続けていたのであった。




