第四話『猫宮鈴音の日常』
「貉様、お久しぶりでございます」
「いや、今朝も来ただろうに‥‥‥」
「今朝ぶりです。貉様」
「言い直す意味よ‥‥‥」
休みの日は朝昼夕とやってくる鈴音を呆れた表情で見る貉。いつからこんな習慣がついたのかと思い返すと、鈴音が1人で歩けるようになった頃からであると気が付く。
違う家の‥‥‥それも相容れない神社の娘であるが、どうにもこうにも縁が切れないものだと逆に感心してしまう。
「挨拶はそこそこに‥‥‥早速抱きついても良いですか?」
「それが神に対する態‥‥‥なんで言わせてくれんの?」
「貉様のふかふかぼでーに我慢ができませんでした」
「貶されてる、儂?」
少しでも威厳を出そうと努力はしたが、言い切る前に鈴音がくっついてきた。
”ふかふかー、いいにおーい“と貉の我儘ボディを堪能する鈴音を振り払うことはせず、そのまま好きなようにさせていた。
「‥‥‥はぁ、いつになったら子どものような事を卒業するのやら‥‥‥」
「一生現役です」
「えぇ‥‥‥?」
”ぼせいばくはーつ“と訳の分からない事をのたまっている鈴音に若干引いていたところ、母屋の方から付き合いの長い青年がやってくる。
「くっ、鈴音‥‥‥今俺は‥‥‥自分を止められないかもしれないっ‥‥‥!」
「止めろ、阿呆」
瞳の中に嫉妬の炎を宿しながら鈴音を恨めしそうに見つめる雲雀。貉には分かる。あれは本気であると。
「あ、ごめんね。つい‥‥‥ちゃんと雲雀君の分のふかふかは残しておくから」
「残さんでいいわい‥‥‥」
「貉様の言う通りだっ‥‥‥中途半端に残されたら‥‥‥俺は‥‥‥俺はっ‥‥‥!」
「じゃあ遠慮なく‥‥‥ふわぁ‥‥‥おんなはうみー‥‥‥」
「何されんの、儂?」
血涙を流さんばかりに歯を食いしばる雲雀を見て恐れ慄く貉。恍惚の表情を浮かべながら自分の世界へと旅立ってしまった鈴音を無意識のうちに庇ってしまう。
「えっ?‥‥‥具体的に言っても良いんですか?」
「いや、言わんでいい。お主の目が口ほどに物を言うておる‥‥‥やめれ」
「神様とはいえ、身体は人間と同じですから‥‥‥」
「今のご時世、そんな事を言うておったらすぐに警察の世話になるぞ?」
「貉様を好きに出来るのであれば‥‥‥本望です‥‥‥」
「勘弁してくりゃれ‥‥‥」
雲雀の目に親愛以上の何かを感じ取った貉は冷や汗をかきながら鈴音ごと後退る。剣呑な雰囲気を感じ取り、正気に戻った鈴音が助け舟を出す。
「私だけ堪能してごめんね。特別に紺様を抱っこしても良いから」
「くっ‥‥‥それは捨てがたい‥‥‥理性を取り戻せ‥‥‥俺っ‥‥‥!」
「‥‥‥‥‥‥なんか済まんな、紺」
一応は対立している相手の顔を思い浮かべながら、心底同情してしまう。
「まあ‥‥‥儂も吝かではないがの‥‥‥」
雲雀が異常とも言える程の愛情を貉に注ぐように、貉の方も雲雀に向ける矢印はとてつもなく大きい。女は海だ。
「合意ありですか!?」
「どうしてこうなったんだろうなあ‥‥‥」
「貉様にも人を狂わせる魅力があるんです‥‥‥特にこの身体から‥‥‥身体からっ‥‥‥!」
「儂の魅力、そこしか無いの‥‥‥?」
正気が揺らぐ2人をなんとか宥めようと努力する。鈴音の保護者が来るまでの間、貉と2人の激しい攻防が続いていた。




