第三十話『犬飼貉と猫宮紺の対立』
古来より狸と狐にまつわる話は多く存在する。時として神や妖怪として扱われたり、絵物語にまでその姿を現すこともある。それだけ人間から身近なものとして愛され、恐れられている存在であることを示している。
有名なところで、狸と狐には人を化かすという共通点があることを良く知られているが、一方で人間にはそのように解釈されやすいものの実際にはどうなのか分からないものも存在する。
―――――狸と狐の対立である
種族が違うため、野生で出会うことがあればお互いに警戒はするだろう。時としては危害を加えることすら考えられる。しかしそれは自然のもの。縄張り争いや生きるためには必要なことであるため、絶対的な好敵手の関係とは言えない。
一方、とある地方の言い伝えによると、狸と狐が争う逸話も残されている。また『狐狸』や『狸と狐の化かし合い』『赤い某と緑の某』といった有名な言葉も残されている。
切っても切れない関係性であることにも説得力は確かに存在する。
何かと対比されやすい獣であるが、とある寺と神社に生息する獣神達もその例外では無かった。
◆ ◆ ◆
「‥‥‥ほぉ」
「‥‥‥ふっ」
犬飼寺の離れ。その縁側で将棋盤を挟んで、睨み合いを続ける二柱の神様がいた。
かれこれ数時間は経過している。長考の末に導き出された一手が繰り出される度に、盤上の駒へと注がれていた真剣な眼差しが相手の瞳の奥へと突き刺さる。
“受けきれるか”―――
“望む所よ”―――
相手へと手番が移る度に、苛烈で重厚な圧を掛ける。互いの視線が交差する一瞬一瞬に火花が散る。
まさに剣豪同士の鍔迫り合い。鋼と鋼がぎりぎりと不協和音を奏でながら、お互いの刃を削り合う。油断した瞬間、刃ごと相手を両断しかねない迫力。まさに死闘。
―――しかし決着は一瞬。石火の隙が勝敗を分けた。
「••••••ふぇっ••••••くしゅん」
―――――“ぱち”
「あ、音が鳴りましたよね、貉様」
「‥‥‥••••鳴ってない」
「鳴ったぞ」
「2対1です。諦めて紺様に順番を譲って下さい」
「よし。では貴様が崩した駒は我がまるごと頂くぞ」
「そんな‥‥‥!?‥‥‥裏切るつもりか、雲雀ぃ‥‥‥」
「いえ、そういうルールなので‥‥‥」
作務衣の袖で鼻下を拭いながら、しれっと駒を自陣に寄せる貉。しかし雲雀はその行動に待ったを掛ける。審判を任された以上、狡は看過出来ないのである。
雲雀の判断で手番を回された紺は、貉が崩した駒を次々と指で自陣へ落とす。崩してくれたおかげで高得点を稼ぐことが出来た紺はにやにや顔。
一方、愕然とした表情で盤上から失われていく駒を眺めていた貉は恨めしそうな瞳で雲雀を見つめる。正しい審判を下しただけである雲雀は苦笑いをするしかない。
「‥‥‥何故、将棋崩しでこんなにも白熱出来るんでしょう?」
『将棋崩し』とは積まれた駒の山から音を立てずに指一本で駒を自陣まで運ぶ遊び。地方によっては『ガッチャン将棋』『山崩し』などとも呼ばれている。貉と紺が行っているものは落とした枚数分だけ点数が増えるシンプルなルール。
鈴音の素朴な疑問に対し、貉は悔しそうに歯ぎしりしながらその理由を答える。
「おやつを賭けておるからのぉ‥‥‥っ!」
「ふふん‥‥‥このまま我の勝ちは揺るぎないな‥‥‥」
「抜かせ、勝負はまだこれから‥‥‥最後まで諦めない奴が勝つんじゃ!」
「良い気迫だ‥‥‥久々に本気を出してやろう‥‥‥かかってこい!」
賭けたものは15時のおやつ『黒船来航文明開化堂』の極上カステラ2切れである。このお店の看板商品であると同時に、創業当時から手作りされている定番商品でもあった。独自で契約している農家から仕入れた卵と牛乳、小麦粉などの材料に厳選した砂糖や蜂蜜などの甘味をふんだんに使用した逸品。なによりも特徴的なのは濃厚な生地の甘さとしっとり感のバランス。一口で幸せな気分になること間違いなしである。また生地の香ばしい部分(上下の茶色い所)が乾燥防止の紙に残ることなく、綺麗に取り分けられる所も嬉しいポイントである。
そんなカステラを賭けて将棋崩しに挑んでいた訳ではあるが、その理由については単純。将棋では決着が着かないからである。
娯楽の少ない数百年間、貉も紺もお互いに将棋を極め過ぎていた。更にお互いの手を知り尽くしているため、勝った負けたの次元ではなく本当に勝負が着かないのである。囲碁も同じ理由であまり指すことが無くなってしまっていた。それでは花札や麻雀といった運が絡む勝負で決着をつけるべきであると考えるかもしれないが、お互いに運が絡む勝負は好まない。実力のみで相手から勝利をもぎ取りたいのである。
その結果、将棋崩しとなった。運の要素は山を積み上げる最初だけ。先行後攻もその時の形で判断するため柔軟な思考が必須―――初手以前から勝負は始まっているのである。
後は己の肉体と精神で鎬を削るのみであった。
「‥‥‥‥‥‥暇なのかしら?」
「まあ、楽しそうでいいんじゃないか」
「それにしても身体が元に戻って良かったわね。もうあの姿にはならないのでしょう?」
「うん、貉様と紺様が頑張ってくれたからね。おかげで紺様にも避けられずに済んで本当に良かったよ」
筋肉隆々になってしまった雲雀を戻す際に、珍しく仲良く手を取り合ってくれていた二柱の神様達を思い浮かべる。貉は雲雀の命を救いたい、紺は一刻も早く元の雲雀に戻したいという一心で力を込めてくれていたため、5分もかからず元の肉体に戻ることが出来ていた。残念ながら紺の心に深刻な傷を残してしまったが、それは放っておいても良いらしい。貉と鈴音曰く”直ぐに克服する”とのことであった。紺は心も強い神様なのである。
「‥‥‥‥‥‥ひぃっ‥‥‥!」
「‥‥‥ほれ、よそ見をするでない‥‥‥まだ気になるのか?」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥うるさい」
「‥‥‥‥‥‥」
2人の会話に気が付いた紺が雲雀の姿を認識すると、反射的に小さな悲鳴を上げて身体を震わせてしまった。紺自身はなんとかトラウマを乗り越えた自覚はあるものの、心の片隅で筋肉達磨がちらついているのであった。
「‥‥‥もう少し、時間が必要みたいね」
「‥‥‥‥‥‥これも修行か‥‥‥」
「生きづらい性分ね」
全身に冷や汗をかきながら小刻みな呼吸をし始める雲雀。彼の手は服の上から心臓を抑えている。
結構ぎりぎりのところで生きているようだ。
「‥‥‥‥‥‥ところで、ふと疑問に思ったんだけどさ‥‥‥‥」
「何かしら?」
「‥‥‥貉様と紺様って、どっちが強いのかな?」
「あ」
―――――瞬間、空気が凍る。
「••••••あれ?不味いこと言ったか?」
「多分ね」
「‥‥‥貉よ、聞いたか今の言葉」
「ああ‥‥‥儂の衰えた耳でも、しかと聞き遂げたのぉ‥‥‥」
示し合わせたかのようにゆらりとその場を立ち上がる貉と紺。静かだが、尋常ならざる気迫が感じられる光景であった。
「‥‥‥‥‥‥良い機会だ‥‥‥久しぶりにやるか?」
「‥‥‥良いだろう‥‥‥おやつ前の運動には丁度良い‥‥‥」
一瞬後には激突する未来しか見えない―――そんな剣呑な雰囲気の中、切って落とされる直前の火蓋を見つめる2人が言葉を発する。
「カステラ食べようか」
「そうね、珈琲とお茶、どちらが良い?」
「何故止めんのじゃ!?」
「呑気すぎるにも程があるだろう!?」
貉と紺は同時に雲雀と鈴音の方へと振り向く。あまりにも平和な雰囲気を醸し出す2人に対し、神様達は驚きを隠せない。
「神同士の争いじゃぞ?‥‥‥普通は必死に止めようとするじゃろ!?」
「我らがじゃれ合う程度でも土地一つは消し飛ぶくらいわけないんだぞ!?」
「だって貉様も紺様も本気でやるとは考えられませんし‥‥‥」
「そうですよ。優劣を決めるくらいの事で争いを始める方々とは思ってもいませんから」
「‥‥‥むぅ」
「‥‥‥くっ」
どちらが強い、どちらが優れているなどの事に拘るほど、二柱の神様は愚かでは無い。既にそんな次元は越えていた。永い付き合いの間でお互いのことなど知り尽くしているからである。
貉も紺も、自身の見守る子達が絶対的な信頼を寄せてくれていることに対し、内心とても嬉しいのであった。
「‥‥‥まあ、その通りじゃが」
「今更そんな事で競う程、我らは未熟では無いからな」
「結局の所どうなんですか?」
「‥‥‥‥‥‥素手の一対一なら儂、被害を考慮しない術のやり合いでは紺が上といったところかの‥‥‥まあ、お互いの土俵で闘ったとて、まったくの不得手と言う訳ではないからそれなりに拮抗はするが‥‥‥」
「条件次第で左右されるが‥‥‥まあ、そんなところだ。我とて、こいつ相手では手は抜けん‥‥‥‥‥‥認めたくは無いが、実力はほぼ同じと言っても差し支えは無い‥‥‥」
お互いに言いづらそうにしながらも、純然たる事実を述べる。否定したところで覆らない実力差というものがあるからだ。単純に実力だけを見ると、素手での一対一なら貉に軍配が上がり、術による広範囲の制圧であれば紺に軍配が上がる。
正々堂々の勝負であれば貉が紺に勝つことが出来るように思えるが、それで勝ちを譲るほど紺は甘くは無い。逆もしかり、術の応酬であれば紺が貉に勝てるという訳でも無い。
ただ単純に得手・不得手の違いでしかなく、真剣勝負であればどう転ぶかは予測が着かない。
「ありがとうございます。おかげですっきりしました」
「素直な紺様偉い」
「事実を言っただけだ‥‥‥あ、飴ちゃんだぁ‥‥‥」
「紺様かわ‥‥‥貉様にも後であげますからね」
鈴音から飴玉を1個貰い、幼子のように目を輝かせる紺。こういった可愛らしさが紺という神の魅力の一つでもあった。
ほのぼのとしながらも自身の氏神である貉への配慮も忘れない。雲雀が飴玉はどんなものが良いか頭の中で考えていた所、貉が小さく溜息を付きながら話を先に進める。
「貰えるなら嬉しいが‥‥‥はぁ‥‥‥とりあえず菓子でも食べるとするかのぉ‥‥‥賭けは無し‥‥‥それで良いか?」
「‥‥‥今回は見逃してやろう‥‥‥カステラが我らを待っているからな‥‥‥」
雲雀と鈴音の前に並んでいるカステラを一瞥し、賭け勝負を白紙に戻す。いつの間にかカステラが載せられた4枚のお皿と湯呑が準備されていたからである。
◆ ◆ ◆
「このカステラは美味いのぉ‥‥‥」
「感謝して喰え。我が稼いだ金で買ったものだからな‥‥‥本当は我1人で食べても良かったんだが‥‥‥」
「紺様が私に買ってくれたものですよね?‥‥‥それに梅干しのお礼もしていませんし」
「ふん‥‥‥余計な事を言うな」
カステラは鈴音が紺から貰ったものであった。1人で食べるには多く、紺と食べる事も微妙に憚られる。それなら紺が食べた梅干しのお礼を兼ねて犬飼寺で食べようと決めていたものであった。
ちなみに梅干しのお礼は鈴音から別で貰っている。
「ご馳走さまでした。やはりここのカステラは美味いなぁ」
「じゃの。儂らも今度買いに行こうか」
“そうしましょうか”と肩を並べながら会話をする貉と雲雀を見ながら、なんとなく素直な感想を漏らす。
「相変わらず、とても仲良しですね」
「まあのぉ‥‥‥仲の良さなら鈴音達にも負けんよ‥‥‥‥‥‥いや、紺の奴がつんつんしとるから素直な儂に軍配が上がるかの?」
分かりきった事ではあるが何度言われても嬉しい言葉。特に可愛がっている鈴音から羨ましそうに言われてしまったら貉でも鼻高々となってしまう。そんな僅かな優越感が貉の口を軽くしてしまった。そしてその小さな挑発を紺は逃さない。
「‥‥‥なんだと?‥‥‥我と鈴音の仲が貴様達に劣るとでも?」
「ふっ‥‥‥勘違いするでない。儂も鈴音は大好きじゃからのぉ‥‥‥逆の立場であったらより良い関係を築けると思うただけじゃよ」
紺から剣呑な雰囲気を感じ取った貉は更に挑発を続ける。割と好戦的なきらいがある貉と紺は、特に争いを止める理由が無ければお互いに盛り上がる一方なのである。
「‥‥‥‥‥‥その言葉、見逃せんな」
「‥‥‥••••••丁度、腹も満たせた所だ‥‥‥やるか?」
再び睨み合いを始める二柱の神様達。実力の優劣ではなく、お互いが見守る人間との関係性を突かれては抑えが効かないのである。
「‥‥‥これ、不味くないか?」
「貉様も紺様も不完全燃焼だったからねぇ‥‥‥将棋崩し‥‥‥」
「くっ‥‥‥あの時、俺が傍にいながら‥‥‥」
定期的に仲良く喧嘩する事はあるが、あからさまに貉から挑発することは珍しい。ただ、将棋崩しで駒の山を崩してしまった不覚が後を引いていたのであろうと鈴音には分かっていた。雲雀も同じ結論に辿り着くが、なんとなく情けないので口には出来なかった。
「そもそもだ‥‥‥‥‥‥貴様は鈴音の事を本当に理解しているのか?」
「ふっ••••••当たり前じゃ。お前こそ雲雀の事を知り尽くしている訳ではなかろうに」
「‥‥‥‥‥‥うん?」
「風向きが変わったわね‥‥‥」
いつもであれば猫の喧嘩のように取っ組み合いを始めるはずが、今日はその気配が無い。舌戦で決着を着けるような神様達ではないと知っている2人は、嵐の到来を静かに感じ取っていた―――奇しくも、その予感は的中する。
「鈴音はな‥‥‥自分の身体に少しだけ自信が無いんだ。我よりもとある部分が小さいとな‥‥‥‥‥‥実にくだらん悩みだが、切実な思いであることも我は知っているぞ?」
機先を制して動いたのは紺であった。貉を真正面に見据えながら、鈴音の秘密を暴露し始める。
「‥‥‥っ!?」
「‥‥‥‥‥‥鈴音さん?」
紺の話を聞いた鈴音は、自身の身体を隠すように身を縮こまらせる。表情に大きな変化は無いが、頬は少しずつ赤みを増していた。
“相当恥ずかしいんだろうなぁ”と珍しく気まずさを覚えながら声を掛ける雲雀。思わず敬語になってしまった。
「儂が言うのもなんじゃが、鈴音の魅力は大小で語れるものでは無い‥‥‥今でも十分に肉付きの良い身体をしておるよ‥‥‥それとな、鈴音の可愛いところはそこだけでは無い‥‥‥ころころと変わる感情と表情がなんとも愛おしいんじゃ」
「‥‥‥‥‥‥」
「あー‥‥‥耳を閉じていた方が良いか?」
貉の返答が更に鈴音を追い込む。体つきの事はともかく、自分の表情や感情をしっかり理解した上で、真っ直ぐな愛情を向けてくれる貉に対し、嬉しさと恥ずかしさで胸が一杯になっていた。
「ふん‥‥‥その程度なら貴様も理解しているな?‥‥‥それなら雲雀が我を女として見ていることも知っておろう?‥‥‥それも中学に上がる頃からな‥‥‥」
「えっ‥‥‥何故それを‥‥‥」
「雲雀君?」
自身の宜しくない感情を、密かに向けていた相手から直々に暴露される雲雀。全身から血の気が引くとともに、隣から向けられる冷たい視線が彼の魂から熱を奪う。
「‥‥‥当然じゃ。雲雀は儂だけではなく、貴様にも宜しくない目を向けておる‥‥‥‥‥‥油断していると、万が一のことが起こりかねんぞ?‥‥‥まあ、儂は別に構わんが‥‥‥」
「はっ‥‥‥雲雀に覚悟があるのなら一夜の相手くらいはしてやろう••••••何人もの雄を極楽へと誘った我の技倆でな‥‥‥」
「かはぁっ‥‥‥こひゅぅ‥‥‥こひゅう‥‥‥」
「これは••••••ちょっと擁護出来ないわね‥‥‥」
貉にもしっかりと認識されていたという事実を叩きつけられ、一時的に心臓と肺が機能不全を起こしていた。
また紺の方も、甘味で幸せを感じる童女のような雰囲気から一転、百戦錬磨の吉原遊女のような微笑みを浮かべている。
“その気があれば受け入れてやる”という刺激的な言葉とともに、たおやかな指が奏でる意味深な動きが更に雲雀の心を追い詰める。ちなみに紺にも宜しくない目を向けていた事がバレていないと思っていたのは雲雀だけである。
「‥‥‥では、お前に怒られると儂に連絡を入れることも知っておるか?‥‥‥お前の機嫌を損ねてしまったと嘆いたり、嫌われないか心配したりと中々に可愛らしい文面を送って来るんじゃ‥‥‥」
「何だと?‥‥‥いや、ここ十数年は怒った事は無いが‥‥‥しかし、それを何故我に言わんのだ‥‥‥素直で率直な所も鈴音の美徳と言うのに‥‥‥‥‥‥その点だけは怒りとともに寂しさすら覚える‥‥‥」
「ふん‥‥‥鈴音はいつまでも子どもではない‥‥‥‥‥‥お前が何よりも大好きで大切だからこそ、最初に儂へ相談するんじゃ‥‥‥失礼なことは言いたくないとな‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥」
「あ、布団に潜り込んだ‥‥‥」
身体を縮こまらせた姿勢のまま、こてんと横に倒れてしまう鈴音。紺の悔しそうとも寂しそうとも捉えられる表情を見たところで四つん這いの姿勢に移行し、貉の返答を背に部屋の隅に置いていた布団に潜り込んでしまった。
「ゃぁぁぁ‥‥‥」
「わぁ‥‥‥鈴音のあんな姿、久しぶりに見たなぁ‥‥‥」
布団の中からくぐもった悲鳴が聞こえ始める。数年ぶりに鈴音の錯乱を目の当たりにした雲雀は、何処か遠い場所で起きていることのように乾いた感想を呟いていた。鈴音の事も気になるが、雲雀自身にも余裕が無いのである。
「まどろこっしい‥‥‥我は鈴音の全てを受け止める‥‥‥だからこそ猫宮に祀られる神というのに。それと今の言葉で思い出したが、雲雀は小学校の高学年まで寝小便をしていた事は知らぬだろ?‥‥‥何せ我が証拠隠滅を手伝ってやったからな‥‥‥」
「何ぃ!?‥‥‥小学校の低学年で寝小便とはさよならを告げた筈では‥‥‥くぅっ‥‥‥そんな大事な事をお前に握られていたとはのぉ‥‥‥」
「貴様に格好良い姿を見せたかったのさ‥‥‥それに余計な心配をかけたくないと‥‥‥‥‥‥中学に上がる前には自力で寝小便は卒業したがな‥‥‥」
「ァッ‥‥‥ァッ‥‥‥ッ‥‥‥」
「‥‥‥‥‥‥雲雀君‥‥‥」
布団から頭だけを出した鈴音は、畳の上で泡を吹いて痙攣している雲雀に憐れみの視線を向ける。
自分の恥部を詳らかにされた鈴音の顔は真っ赤であるが、対して雲雀の顔は少しずつ青紫色に染まる。
公開羞恥プレイに我慢できなくなった2人が、貉と紺の足元に縋りついて止めに入るまで、犬飼・猫宮両家の暴露大会は続くのであった。




